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[BD]「涼宮ハルヒの消失 Blu-ray」

アニメシリーズの集大成的な劇場版
やっぱりハルヒは凄かった!?


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ ハルヒのおさらい



『涼宮ハルヒの消失』
Blu-ray 【限定版】

(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団
価格:9,450円
発売日:2010年12月18日
品番:KAXA-2101
収録時間:約164分(本編)+特典約170分
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:本編(片面2層)ディスク+特典ディスク
画面サイズ:16:9 1080p
音声:(1)日本語(リニアPCM5.1ch)
発売元:角川書店
販売元:角川映画・京都アニメーション

 “近年のアニメ”の話をする時に代表格として名前が挙がる「ハルヒ」。ヤマトやガンダム、エヴァなどと並べて語られる事も多いが、個人的にはアニメファン以外の人にも浸透すると言うより、局地的に激しい人気が出る、ちょっと違ったタイプの作品だと捉えている。「名前は良く聞くけど、実は観たことない」、「ちょっと観た事あるけど、詳しく知らない」という人も、多いのではないだろうか。

 今回取り上げるのは「涼宮ハルヒの消失」BD版。ファンなら躊躇なく発売日にゲットしていると思われるので、ここではファン以外の人に向けて紹介していきたい。

 この作品は……と概要を説明したいところだか、ハルヒのアニメは色々とややこしい。もともとは、谷川流氏のライトノベルを原作としたテレビアニメとして、2006年4月から放送された。これが凄い。なんと原作のエピソードを時系列でアニメ化するのではなく、ゴチャゴチャに組み替えて放送したのだ。

 しかも第1話はエピソードですらない。基本は学園ドラマで、主人公達が学園祭で上映するための自主制作映画を作るエピソードがあるのだが、その“完成映画”(つまり劇中劇)を何の説明もなく、アニメの第1話として放送したのだ。登場キャラの説明をする前に、キャラが違うキャラを演じて登場するわけだ。原作を知らない人は「なんじゃこりゃ」と驚き、知っている人は「なんで第1話でこれを流すんだ!!」とぶったまげた。なんとも思い切った試みだが、視聴者に“何か凄いものが始まった”という感覚を与えるには十分だった。

 その後も京都アニメーションによるクオリティの高い映像と、エンディングの“ハルヒダンス”も手伝い、アニメファンの話題をさらう作品になったのはご存知の通り。「AIR」などでクオリティ面で注目されていた“京アニ”の評価を決定付ける作品であると共に、ヒロイン・涼宮ハルヒを演じた声優・平野綾がブレイクするキッカケにもなった作品だ。

 放送は14話で終了。第2期シリーズが心待ちにされ、2009年に遂にスタート。この第2期は、既に放送した第1期を時系列順に整えつつ、新作の14話も交え、全28話という形で放送された。そして、2010年2月に、TV第2期に続く物語として「涼宮ハルヒの消失」という作品が、映画として上映された……というのが全体の流れになる。

 それゆえ、「消失」を楽しむ前には、テレビシリーズ、できれば第2期の鑑賞をお勧めしたい。TV版の話も多く絡むので、作品をまったく知らずに「消失」単体で楽しむのは難しいだろう。第1期だけ観たという人も、第2期でおさらいした方が良い。良いタイミングの11月26日に、テレビシリーズをまとめたBD-BOX(KAXA-2000/39,900円)が発売されている。ネット通販では27,000円台(12月21日現在)のショップもある。ライヴ映像なども入り、ボリューム感のあるBOXだが、中に「エンドレスエイト」という前代未聞のストーリー群も入っている。まあ、“それを含めてのハルヒ”であろう。


■ 自覚しながらお約束に参加する話

SOS団のメンバー。左から古泉一樹、長門有希、キョン、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる
(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団
 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、わたしのところに来なさい。以上」。高校入学早々、ぶっ飛んだ挨拶をかました少女・涼宮ハルヒ。彼女はその可愛らしい外見とは裏腹に、中学時代から謎の言動を繰り返す“あまり関わり合いになりたくない子”として知られていたらしい。現実主義者のクラスメイト・キョンは、ちょっとした好奇心が仇となり、何故か彼女に気に入られ、傍若無人なハルヒが巻き起こす騒動に巻き込まれることに……。

 持ち前の行動力を発揮し、「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」(通称SOS団)を結成するハルヒ。彼女に強引に加入させられたのは、無口無表情の読書家少女・長門有希(ながと ゆき)、ドジっ子で巨乳な萌えキャラ美少女・朝比奈みくる、どこか胡散臭いイケメン転校生・古泉一樹(こいずみ いつき)、そしてキョン。かくしてハルヒの思いつきで、面白い物を探して街を彷徨ったり、PC部からパソコンを強奪してコンテンツ皆無な公式Webサイトを作ったりと、勢いはあるが、地味な活動が続く。

 そんなある時、ハルヒを除く団員達が、それぞれキョンに驚愕の事実を告げる。長門は自分が宇宙人(情報統合思念体が生み出したインターフェイス)だと語り、みくるは未来から来た未来人、古泉はある機関に所属する超能力者だと明かす。異なる勢力に所属する彼らは、それぞれがハルヒの監視任務についているのだという。そしてハルヒには、本人は自覚していないが、“思った事を実現できる”神のごとき力があるという……。


BD通常版のジャケット
(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団
 改めて書き起こすとわけのわからない話だが、簡単に言うと「毎日が普通でつまんない」、「アニメや漫画のような刺激が欲しい」とボヤくハルヒの願望が、実は彼女の後ろで全て実現されていくという話だ。例えば「この猫が喋ったら面白いわよね」と彼女が言えば、猫が「吾輩は猫である」と喋り出すという塩梅。だが、その気になれば世界そのものを改変できてしまうハルヒに対し、現状世界の維持を望む団員達は、彼女自身の能力の隠匿に奔走する。彼女の思いつきに付き合い、願望を適度に発散させつつ、猫が喋り出したら抱えて隠れる。ぶっちゃけ“電波系邪気眼美少女を、とりまきがなだめすかしてご機嫌をとる”話だ。

 面白いのは、そうしたゴタゴタが、傍観者的な立ち位置にいる主人公・キョンの目線を通じて、一人称で描かれる事だ。キョンは「こんな非現実的な事があってたまるか」、「宇宙規模に迷惑なやつだ」とぼやき、斜に構えてハルヒ達に接しつつも、最終的には騒動に片足を突っ込む事になる。非現実的なキャラ達が繰り広げる学園ドラマに、ツッコミを入れつつ傍観するキョンは、読者(視聴者)自身であり、作品の魅力は、この登場人物達のメタフィクション的な構図にある。

 無口無表情のショートカット美少女に、ドジッ子巨乳娘、BLの匂いもする謎めいたイケメン……と、登場するキャラがアニメやラノベによく出てくるスタイルなのも意図的だろう。キョンが生きる普通の世界を、ハルヒをとりまく何でもアリな世界が侵食する話と見る事もできる。

 この構図に惹かれると、魅力的な作品となる。キャラのドタバタそのものの楽しさと、空想の世界が膨らんで現実を侵食するような感覚の面白さ、視点を変えれば、ハルヒという美少女の機嫌ひとつが、世界の崩壊に直結しているセカイ系作品のカタルシスも味わえるという具合だ。筒井康隆の小説とか、ビューティフル・ドリーマーとか、藤子不二雄のSF(すこしふしぎ)が好きな人なんかはハマるだろう。

 逆にこの構図が合わないと、テンプレートなキャラが何人か出てきて、ワイワイやって、あとは理屈っぽい男子高校生の一人ツッコミナレーションをひたすら聞くだけの作品に思えてしまう。アニメやラノベを適度に楽しみ、テンプレートを幾つか体験した上で鑑賞すると、入り込みやすくなるはずだ。個人的には知名度とは逆に、若干人を選ぶ作品という印象を持っている。


■ 映画に適した「ハルヒの消失」

消失でのメインヒロインと言っていい長門
(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS
 「消失」は、クリスマスが間近に迫った時期の物語。ある日登校したキョンは、異変に気付く。ハルヒの姿が見当たらず、彼女がクラスに“最初から存在しなかった”事になっていたのだ。SOS団のみくるは、キョンに対して初めて会った人のような態度をとり、長門の様子もおかしい。そして、ハルヒの席には、かつてキョンを殺そうとし、長門に消滅させられたはずの朝倉が座っていた……。

 映画版の大筋は、タイトル通りハルヒが消えてしまい、ガラリと変化した世界を舞台に、キョンが元の世界に戻ろうと(もしくは戻そうと)奔走する物語だ。困難があるたびに彼をサポートしてきた長門とキョンの物語でもあり、いつもは巻き込まれ役だったキョンが、自らの意思で行動する事が特徴とも言える。

 特筆すべきはキョンの描写。普段は温厚な彼が、状況が深刻化して徐々に追い詰められている様が、ちょっとした仕草や走り方など、細かな動きで表現され、サスペンス的な緊張感が漂う。終盤にかけてはSF的な要素も混ざり、頭を使いながら先が読めないストーリーを楽しむ事になる。個人的には原作で筋を知っているが、それでもラストにかけての畳み掛けるような展開に手に汗握った。

 ハルヒのアニメ全般に言える特徴は、原作を踏襲し、アニメでも“キョンの一人称”を貫いている所だ。全ては彼の視点から描かれるため、アニメでよくある「一方その頃、キョンのいない部室では……」という視点変更が基本的に存在しない。そのため、映画を鑑賞すると言うよりも、映画の世界に自分が入り込んで「この先どうすりゃいんだ」と、キョンと一緒に不安にかられるような没入感が味わえる。約164分もある長編だが、この感覚が強いため、それほど長くは感じない。

 満足感の高さは、「消失」の物語が、一気に視聴するに向いた疾走感のあるストーリーになっている事も寄与しているだろう。その点で、映像化に映画というフォーマットを選んだ英断には拍手を贈りたい。

 建前的な見所は、傍観者的な立ち位置にいたキョンが、ハルヒ側へと足を踏み出す構図の変化だろう。シリーズの中の転換点的な作品になるのかもしれない。個人的な本音の見所は、感情表現が少し豊かになり、キョンに会うたびに顔を真っ赤にする長門を愛でるための作品と考えている。コマ送りできるBlu-rayって素敵ですよね。


■ 聖地巡礼気分が味わえる特典

 映像はMPEG-4 AVC。164分もある映画だが、ビットレートは高く、30Mbps程度を中心に推移する。目立ったノイズや破綻は無く、グレインも控えめでクリアな絵作りだ。TV版からの“繋がり”を重視しているようで、映画になったら顔がいきなり変わったなんて事はない。かといって手を抜いているわけではなく、部室の小物や衣服のシワの動きなど、細部にまでこだわり抜いている事が画面を通して伝わってくる。クラスメイトなど、動くまくる“モブ”の細かさにも唖然とさせられる。情報量の多さは“流石は映画版”と思わせてくれるものだ。

 惜しむらくは、動きが派手なハルヒではなく、リアクションが控えめなキョンと長門を中心に物語が展開する事だろう。だが、前述のように、抑えこんでいた不安や歓喜が少しずつ漏れ出すように、表情や体の動きに現れる2人の細かな感情表現が見事で、“静かなアクション”に引き込まれる。眉間や口元、指先などに注意して鑑賞したいアニメだ。特に変化した世界での“デレ状態の長門”の赤面モジモジ動作はTNT火薬に換算すると42キロトン程度の破壊力がある。

 大きな不満の無い画質だが、家の壁や天井、夜間のライトの周囲などに時折バンディングが見える。プロジェクタと液晶テレビで比べると、プロジェクタの方が気にならない。アニメを観るとバンディングチェックをするのが癖になっているが、あまり気にし過ぎると内容が頭に入らなくなるので、最近はあまり気にしない事にしている。お気に入りは長門とキョンの下校シーン。車のヘッドライトを大胆に活用した光の演出が美麗だ。

 音声はリニアPCM 5.1chオンリーという潔い仕様。サブウーファが揺れるような派手な低音は少なく、音場を広くとり、細かな環境音を入れ込み、臨場感をアップさせるサウンドデザインだ。レンジが広いため、テレビシリーズの気持ちで再生すると音が小さく感じるだろう。ある程度の音量で再生する事を前提としたバランスで、キョンの声の聴きとりやすさを目安にボリュームを決めたい。

 キョンの声と比べて周囲の音が張り気味なので、音量が出せない環境や夜間などは、センタースピーカーのボリュームを気持ち上げたり、付いていればAVアンプのダイナミックレンジコントロール機能(夜間再生用機能など)を活用したい。しっかりとした音量が出せる環境で視聴すると、「あー、学校のクラスってこんな感じだった」という騒がしい臨場感が味わえる。


 BD版は、特典ディスクを加えた2枚組の限定版(KAXA-2101/9,450円)と、本編のみの通常版(KAXA-2102 /8,400円)が用意されている。本編ディスクに特典は収録されていない。特典BDの収録時間は約170分。内容は「ロケハン映像(「甲南病院」編)」、「BGMレコーディング風景(ビクタースタジオ、オーストラリアにて)」、「舞台挨拶1(東京/池袋シネマサンシャイン&新宿バルト9にて)」、「舞台挨拶2(京都/京都シネマにて)」、「ダビング、ビデオ編集作業風景」、「テーマ曲『優しい忘却』PVメイキング映像」だ。

 ここ数年、旅行の主動機となっているアニメの舞台地訪問(通称:聖地巡礼)だが、ハルヒも例にもれず、モデルとなった兵庫県の高校に巡礼者が集まっている。今回の「消失」では甲南病院という場所もモデルになっており、特典にはそのロケハンの様子が収録されている。さながら公式の聖地巡礼映像のようだ。流石に病院内部に用もないアニメファンが押しかけるのは迷惑になるので、この映像で我慢したい。石原立也総監督が、デジカメを構えながら砲台のように体を回転させ、360度撮影を行なっているのが面白い。

 テーマ曲のPVメイキングでは、舞台となった高校の内部も見る事ができ、なんだか巡礼旅行をしたような気分になる特典ディスクだ。舞台挨拶では、声優陣やスタッフが作品にかける想いが聴けて感動的だ。京都シネマでの挨拶には、作画監督らも登場しており、映像的な細かい見所の話も聞ける。

 BDの限定版に付属する脚本集は、志茂文彦氏による決定稿を、ハードカバー仕立ての本にしたもので、「映画本編では泣く泣くカットされたシーンも収録された、“消失”のすべてを読み解くファン必携のアイテム」とのこと。ページをめくると、改めてキョンのセリフの多さに驚く。これを、キョンらしくトーンを抑えた中で感情を出しつつ、言葉の明瞭さも保ったまま演じ続けるのかと思っただけで喉が渇く。声優ってのは大変な仕事である。

 なお、BD限定版のスライドケースは凝っていて面白いが、頻繁に出し入れしづらいので、Amazon限定版を買ったら付いてきたスチールケースに入れている。とにかく頑丈そうなのが良い。また、共通特典として、謎のURLが書かれた栞が入っているそうだが、何故か私のBDには入っていなかった。部屋のどこかに落としたのだろうか……。


■ 第3期シリーズにも期待

DVD通常版のジャケット。SOS団が部室に集合
(C)2009 Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団
 「消失」は基本的に原作に忠実な映像化で、アニメ化した事でさらに魅力が引き出された感がある。原作ファンも、アニメオンリーの人にも、満足度の高い作品と言えそうだ。最大の変更ポイントと言えるラストシーンも、原作より良い意味で印象深い演出になっており、多くの人に観て欲しいシーンだ。

 シリーズ全体を俯瞰しても、「消失」は、シリーズが持つ魅力が良く発揮されている作品で、アニメシリーズの流れで考えても、1つの集大成的な作品になっている。イマイチ「ハルヒ」の波に乗れなかった人にも、「消失」を機に、もう一度シリーズに触れてみる価値はあるだろう。

 原作も続いているので、今後はアニメの第3期にも期待したいところ。実現してもらうために、「消失」をキッカケとしたブームの再燃で後押ししたいところだ。今にして思えば、空想と現実の境界をあやふやにするこの作品が、アニメと現実をごっちゃにしたような騒ぎと共に人気を集めたのは偶然ではないだろう。ハルヒがSOS団の目的として口にする“世界を大いに盛り上げるため”の“世界”には、アニメや小説の外の世界も含まれているのかもしれない。




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(2010年12月21日)

[ AV Watch編集部 山崎健太郎 ]