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パナソニック「プラズマを超える有機ELテレビ」国内投入へ。2020年に「究極の有機EL」

 パナソニックは、米ラスベガスで開催された「CES 2017」にあわせて、有機ELテレビ「TX-65EZ1000」を発表した。パナソニックのテレビ事業において、フラッグシップに位置づけられる製品であり、「プラズマテレビを超える画質を実現し、音質、デザインにも妥協をしない完成度を目指したのがTX-65EZ1000」だと、パナソニック アプライアンス社テレビ事業部・品田正弘事業部長は語る。TX-65EZ1000の製品化に向けた基本的なコンセプトに加えて、2017年のテレビ事業の取り組みについて聞いた。

TX-65EZ1000

“プラズマを超えた”有機EL高画質。音はTuned by Technics

――パナソニックは、CES 2017にあわせて、有機ELテレビ「TX-65EZ1000」を発表しました。この製品はどんな狙いで商品化したものですか。

品田事業部長(以下敬称略):TX-65EZ1000で目指したのは、「画質」と「音質」と「デザイン」というテレビに求められる3つの要素を、高い次元で実現することにこだわるということでした。

パナソニック アプライアンス社テレビ事業部 品田正弘 事業部長

 最初の「画質」という点では、HDR対応に加え、従来の有機テレビに比べて、輝度を約2倍に向上。さらに、映像処理エンジン「Studio Color HCX2 プロセッサ」を搭載することで、色を忠実に再現しています。パナソニックの強みは「究極のすり合わせ技術」を有している部分にあります。テレビにおけるすり合わせ技術とはなにか。ひとことでいえば、ディスプレイパネルの素性をとことん解析できるということです。解析した結果をもとにどんな信号処理をすればいいのか、どんなアルゴリズムを開発すればいいのかということをパナソニックは理解しています。このノウハウはパナソニックならではのもので、全世界のテレビメーカーと比べても高い技術力を持っていると自負しています。

新映像プロセッサのHCX2

 たとえば、欧州では、様々な専門媒体において、パナソニックのテレビが最高評価(Reference)を得ています。2013年にはプラズマテレビの最終モデルとなる「ZT60」で最高評価を獲得し、2015年には有機ELテレビ「CZ950」で最高評価を獲得し、そして、2016年には液晶テレビ「DX900」で同様に最高評価を獲得しました。プラズマテレビと液晶テレビ、有機ELテレビの3つのデバイスで最高評価を取ったことがあるのは、世界中でパナソニックだけです。つまり、パナソニックはどんなデバイスでも、しっかりと評価される画質を作ることができる企業なのです。これが、パナソニックのすり合わせ技術の高さを証明しているのではないでしょうか。今回のTX-65EZ1000では、プラズマテレビを超える画質を実現する有機ELテレビを発表できたと自信を持っていえます。

'15年発表の65型有機ELテレビ「TX-65CZ950」
'16年発表の65型4K液晶テレビ「TX-65DX900」

――音質およびデザインに関してはどんなこだわりがありますか。

品田:TX-65EZ1000では、テクニクスの技術を活用することで音質を追求し、初めて「Tuned by Technics」というメッセージを使うことになりました。当初は、テレビ事業部のエンジニアががんばってやっていたのですが、テクニクスの小川さん(小川理子役員)にお願いして、途中からは、テクニクスのエンジニアとテレビのエンジニアが協業して、有機ELテレビの画質に相応しい音質を完成させたのです。

 14個のスピーカーを搭載するなどの基本設計は、テレビ事業部のエンジニアが行ない、それを約半年間にわたって、テクニクスのエンジニアにチューニングをしてもらいました。設計変更もずいぶん繰り返し、ようやく「Tuned by Technics」といえる領域にまで到達できたというわけです。

 実は、テレビの音づくりにおいて、テクニクスとの協業は、これが初めてではありません。日本の市場向けに販売している液晶テレビ「DX850」シリーズ('16年発売)は、「ハイレゾ100W」を実現していますが、ここには、テクニクスと同じJENOエンジンを採用しています。DX850の場合には、「Tuned by Technics」とは言ってはいませんが、事実上、「Tuned by Technics」ともいえるものを実現しています。

 DX850の商品化時期には、テクニクスブランドに対するマーケティングについて議論をしていた時期でもあり、すぐに、「Technics」のロゴをつけるわけにはいかなかったのですが、その後、「Technics」ロゴの活用について方向性が定められ、今回のTX-65EZ1000は、DX850のクオリティに近づいた「音質」を実現し、有機ELテレビの画質にふさわしいスピーカーを搭載し、音質にも徹底的にこだわったことで、改めて「Tuned by Technics」という訴求ができるようになりました。

テクニクスのエンジニアと協業したTX-65EZ1000の「Dynamic Blade Speaker」
音質にこだわり「Tuned by Technics」を訴求

 そして、デザインについても、画面の浮遊感を持たせることにこだわり、前からみると、一本の棒で画面とつながり、その棒をスピーカーが支えるというデザインにしています。究極の画質を実現する薄型の有機ELと、テクニクスの技術を投入したDynamic Bladeスピーカーによって、リアルな画と音を楽しむことができる性能を実現する一方、そこに、薄さやシンプルさを追求した優れたデザインを、どうマッチさせるのかという二律背反を実現したのが、TX-65EZ1000ということになります。

「曲面ディスプレイは終わった」。TX-65EZ1000の日本投入も明言

――ちなみに、2015年に欧州市場向けに投入した最初の有機ELテレビ「CZ950」は曲面ディスプレイを採用していましたが、今回はフラットになりましたね(笑)。

品田:CZ950のときには、調達するパネルの制限や、ターゲット市場となる欧州において、曲面ディスプレイの需要が高かったという背景がありました。しかし、実際に商品投入をしてみたところ、曲面ディスプレイの需要はあまり続きませんでした。曲がっていることに価値を感じたユーザーが少なかったというわけです。ですから、今回の「TX-65EZ1000」では、最初から曲面ディスプレイは想定していませんでした。むしろ、なぜ曲面ディスプレイではないのかという質問はありませんでしたよ(笑)。先進国では2015年で曲面ディスプレイの需要は終わりましたし、いまでは、一部新興国で需要がある程度です。パナソニックは、これからも曲面ディスプレイを採用したテレビを販売することはありません。

フラットな有機ELディスプレイを採用
背面。浮遊感を持たせたデザインとした

――TX-65EZ1000は、2017年6月に、欧州市場で販売を開始するとアナウンスしましたが、日本での市場投入はいつになりますか。

品田:欧州での発売から、それほど差がないタイミングで、日本市場にも投入したいと考えています。

プレミアム戦略を各国で最適化。有機ELで“プラズマ買替“を狙う

――テレビ事業全体を俯瞰したときに、2016年はどんな1年でしたか?

品田:2016年は外部環境が大きく変化し、テレビ事業にとってはその影響を強く受けた1年でした。2016年の前半と後半では、為替が大きく変動しましたし、ビジネス環境にも変化がありました。言い換えれば、テレビ事業は、まだ外部環境を受けやすい事業であることを改めて感じました。こうした変化を先読みして対応できる組織体へと、もう一段、体質を高めて行かなくてはならないということを実感しています。事業体質の強化に向けた取り組みは永遠の課題だといえます。ただ、そうしたなかでも、計画に対しては、予定通りに進捗し、通期黒字化は達成できると考えています。地域にあわせたプレミアム戦略は、一定のマイルストーンを築けたと考えていますし、その点では、我々が向かっていく方向には進んでいるといえます。

――販売台数の成長、販売金額の成長という点ではどうですか。

品田:販売台数はそれほど増えてはいませんが、販売金額は増加しています。それだけ付加価値化が進んでいることの証です。これは、重点的に進めている「地域プレミアム戦略」によるものなのですが、日本で販売しているDX850シリーズでは、先にも触れたように、ハイレゾ音域を再生できるツイーターを採用し、合計最大出力100Wを実現した「ハイレゾ100W」を実現しています。いままでの液晶テレビユーザーが、音に対して持っていたフラストレーションを解決できる提案であり、音質にこだわる日本のユーザーに向けたフラッグシップ製品として成功しています。

 ただ、日本では、DX850は受け入れられても、同製品のようにスピーカーが張り出したデザインは、欧州の人たちはあまり好みません。そこで欧州市場向けにはデザインを変えた製品を投入しています。

60型「TH-60DX850」

 また、インド市場向けには、「Shinobi Pro」というフルHDのスマートテレビが人気を博しています。このネーミングは、日本のクオリティを伝えるという狙いとともに、忍者が持つ、俊敏であり、機を見て敏を捉えるというイメージを表現したもので、現地の人たちの意見を聞いて命名しました。インドの人たちの嗜好にあうように、画面を明るくして、低音が出やすい仕様として発売し、好評を博しています。これまでインド市場向けのテレビは、ODMを活用した品揃えが中心だったのですが、やはり自分たちでしっかりと作った製品もラインアップすることが必要であり、同時に、インドの社員が、愛着を持って、販売、マーケティングを行なうことも目指したわけです。また、プロモーションにおいても、忍者や刀のようなイメージを打ち出し、さらにボリウッドスターを使った忍者のイメージキャラクターを採用したプロモーションも行なっています。

 このように、ここ数年展開してきた地域ごとのプレミアム製品が、それぞれの市場において、存在感を示してきたといえます。

 いい画と、いい音、いいデザインというパナソニックのテレビが追求する基本的なコンセプトは、全世界一緒です。しかし、それに対する価値観が国によって違います。基本コンセプトを、それぞれの国に刺さる形で実現するのが、地域プレミアム戦略の姿勢です。

 今は、パナソニックのテレビ事業全体の販売台数の約2割が、地域プレミアム戦略に則った製品ですが、利益という点では約4割を稼ぎ出しています。パナソニックならではの付加価値により、存在感を高めながら、利益を出していくという手法が成功した1年だったといえるでしょう。

――2015年から、欧州市場向けには、有機ELテレビを先行して発売しましたが、その手応えはどうですか。

品田:価格としては約1万ユーロの製品ですから、なかなか売れるものではありません。しかし、画質という点では、その流れを汲んだ「DX950」などの付加価値を持った液晶テレビが好評で、それらの製品が利益に貢献しています。

――パナソニックは、プラズマテレビから撤退して以降、パナソニックの画づくりを表現するフラッグシップが作れなかったという経緯がありました。2015年に、有機ELテレビのCZ950シリーズを発売し、新たなフラッグシップを創出することができたともいえます。それ以来、パナソニックに画づくりに対する評価はどうですか。

品田:プラズマテレビから撤退した影響が一番大きかったのが、欧州市場です。その市場に対して、まずは、有機ELテレビを投入し、その後、DX950をはじめとする液晶テレビの付加価値製品を投入しました。そして、今年再び、有機ELテレビの新製品を出すことになります。ユーザーの間では、プラズマテレビの終了によって途切れかけたパナソニックが目指す画づくりや、テクノロジーカンパニーという観点からみたパナソニックの立ち位置はどうなるのか、といった不安があったと思いますが、この2年間の取り組みで、信頼感は取り戻せたといえます。欧州はプラズマテレビをやめたことによるブランドの毀損がもっとも激しかった市場ですから、それを欧州市場において取り戻すことができたのは、パナソニックのテレビ事業にとって大きな意味があります。

4K VIERA「DX950」シリーズ

 日本の市場においては、もともとテレビでは約25%という高いシェアがありますし、パソナニックショップという有力な販売網もありますから、プラズマテレビが無くなっても、「パナソニックのテレビ」という安心感でご購入をしていただく顧客層が一定数ありました。また、日本においては、プラズマテレビを購入していただいたユーザーが、テレビの買い換え時期に入ってきます。そうしたユーザーにとっては、プラズマテレビと同じ自発光デバイスである有機ELテレビに対する期待が高いともいえます。当時、世界で一番画質が高いテレビとして、プラズマテレビを使っていただいたユーザーに対して、待ち望んでいた次の世界最高画質のテレビを、有機ELテレビで提供できるわけです。有機ELテレビの価格は高いというようなこともいわれますが、7、8年前に、プラズマテレビを購入した人たちにとっては、手が届くところにあります。

 プラズマテレビから撤退後、パナソニックならではの画質を実現するための「一の矢」が2015年に投入した有機ELテレビであり、次に、「二の矢」としてハイエンドの液晶テレビを投入した。そして、第三の矢として、今年、新たな有機ELテレビを投入することになります。有機ELテレビの進化系として、明るさ、コントラストも比べものにならないほど進化しています。3年間をかけて投入した3本の矢によって、一時期崩れかけていたパナソニックの画に対する評価を取り戻すことができると考えています。

有機ELは「未来の本命」。自発光へのパナソニックのこだわり

――2017年は、パナソニックのテレビ事業にとってどんな1年になりますか。

品田:2016年にやってきた地域プレミアム戦略を、さらに発展させたいと考えています。地域プレミアム戦略の展開においては、まだまだ伸びしろがあると思っています。販売台数比率や利益への貢献比率を高めたいですね。こうした製品を売ることが、パナソニックの価値を高めることにつながります。具体的には、台数では25%ぐらいまで引き上げ、利益では半数を超えるところにまで引き上げたいと考えています。6月に欧州で発売する有機ELテレビは、重要な戦略商品になりますが、地域プレミアム戦略の核は、液晶テレビのトップエンドモデルになります。これも欧州市場を対象にしてデザインした製品であり、積極的に販売していきます。

――パナソニックにおいて、有機ELテレビの構成比はどれぐらいになると考えていますか。

品田:2017年は、将来を考えて、有機ELテレビに対する販売投資およびマーケティング投資をしていくことになりますが、パネルを供給できる企業は実質的には1社ですから、調達量にも限界があります。ですから、構成比を一気に引き上げることができないのが実態です。価格帯も高い製品ですし、それを、むやみに値崩れさせたくないとも考えています。初年度としては、表看板として、「パナソニックの有機ELテレビ」を、しっかりとブランディングしていきたいですね。

 有機ELテレビは、「未来のテレビの本命」になりますから、マーケティング投資としては思いっきりアクセルを踏むことになります。日本での露出も、有機ELテレビを前面に打ち出していくつもりです。ただ、そこでのメッセージは、有機ELテレビそのものの画質というよりも、「パナソニックは、こういう商品づくりをするんだ」というメッセージになります。それを具現化した頂点が有機ELテレビであり、それと同じ姿勢で、液晶テレビのモノづくりも行なっていくという言い方になります。「画質」、「音質」、「デザイン」という3つの要素を追求していくことは、有機ELテレビも液晶テレビも同じです。とくに、日本では、ジャパンプレミアムの商品を開発しており、このメッセージをしっかりと出しながら、有機ELを頂点にした訴求を行なっていきます。

――ソニーは、BRAVIAシリーズにおいて、液晶テレビを頂点に位置づけ、有機ELテレビは、BRAVIAのひとつのラインアップとしています。パナソニックでは、有機ELテレビをフラッグシップに位置づけることになりますか。

品田:パナソニックは、有機ELテレビをフラッグシップに位置づけることになります。それには理由があります。パナソニックは、過去に自発光型のプラズマテレビをやっていた経緯があります。自発光デバイスに対するこだわりは、他社とはまったく異なります。技術やノウハウの蓄積という側面もありますが、それだけではなく、マーケティングという観点からも、自発光デバイスに注力するメリットがあります。かつて、液晶テレビに事業を集中させたときに、明らかに自己矛盾が起きていました。それが極端な形で市場が反応してしまったのが欧州でした。この数年は、それを巻き返すのに大変だったというのが正直なところです。しかし、有機ELテレビになると、プラズマテレビのときからパナソニックが強調してきた「テレビは自発光方式が優れている」というメッセージを改めて打ち出すことができるようになります。

――ただ、プラズマテレビの時代と同じ、液晶テレビを否定するということにつながりませんか。

品田:それは否定しません。ただ、液晶テレビについても、パナソニックは技術を蓄積してきましたし、欧州でも高い評価を得ています。そうしたパナソニックならではの画づくりを提供できるという点では自己矛盾は起こさないで済むと考えています。しかし、パナソニックのテレビのトップエンドはなにかというと、それは有機ELテレビになるというわけです。

――どうやって棲み分けをするのですか。

品田:有機ELテレビと液晶テレビは、価格帯が違い、客層が違うと考えています。基本のモノづくりのフィロソフィーは同じですが、有機ELテレビと液晶テレビという異なるデバイスのテレビをラインアップすることで、お客様に対しては、選択肢を広げることができます。

――2017年はテレビ事業としてどんなゴールを目指しますか。

品田:パナソニックは技術力があるメーカーであるということを、日本、欧州だけでなく、様々な地域で感じてもらえるといいですね。多くの市場から、そうしたフィードバックを得られることが一番です。その代表格が有機ELテレビということになります。

――有機ELテレビをこれだけ売ればいいという目標はありますか。

品田:今の時期は、販売台数を追求するよりも、プレゼンス重視だと考えています。いかにプレゼンスをどう高めるのかといった点に今年は力を注ぎたい。むしろ、有機ELテレビにおける販売およびマーケティングに投資をしていく時期が、2017年だといえます。有機ELテレビのティアワンブランドとして、全世界で認められるようになりたいと考えています。そして、2018年から2020年までの3年計画で、有機ELテレビの進化と、成長に向けたロードマップを描いていくことになるでしょう。2020年の東京オリンピックのときには、究極の臨場感を実現する有機ELテレビを提供したいと考えています。

――2018年の創業100周年にあわせて、100周年記念モデルというのは用意していますか。

品田:詳細はお話できませんが、検討はしています。ぜひそれも楽しみにしていてください。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など