大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニックの3D事業推進の横串組織の成果とは

~3Dイノベーションセンターの取り組みを藤井所長に聞く~


パナソニック3Dイノベーションセンターの藤井正義所長

 パナソニックが、2010年6月に、「パナソニック3Dイノベーションセンター」を開設してから半年が経過した。同センターは、3Dの事業の拡大と3D環境の普及を目的に、パナソニックグループの3D関連部門を有機的に連携。顧客に対する最適なソリューションの提供とともに、3D事業に取り組む企業などに対するコンタクト窓口としての役割を果たす。

 3Dの世界を、グローバルリーダーとして牽引していくことを宣言したパナソニックにとって、同センターの戦略的役割は極めて大きい。この半年間に渡って稼働してきたパナソニック3Dイノベーションセンターは、どんな成果をあげてきたのか。パナソニック3Dイノベーションセンターの藤井正義所長に、同センターの取り組み、そして、パナソニックの3D事業の現状について聞いた。



■ ホームAV/コンテンツ/大型ディスプレイの3事業を連携

 パナソニック3Dイノベーションセンターは、パナソニックのデジタルAVC事業を担当するAVCネットワーク社傘下に、同カンパニー社長直轄の組織として、2010年6月3日に設置された。

パナソニック3Dイノベーションセンターは、大阪府門真市のAVCネットワーク社のなかにある

 企画、設計、開発などを行なうAVCネットワーク社は、製品ごとにいくつかの事業グループに分かれている。パナソニック3Dイノベーションセンターは、薄型テレビなどを担当する映像・ディスプレイデバイス事業グループ、BDレコーダーやビデオカメラ、デジタルカメラなどを担当するネットワーク事業グループ、放送局向け機器などを担当するシステム事業グループの3つの事業グループを連携させる横断的な役割を担う。

 それと同時に、3D技術の先行開発や標準化に向けた取り組みを行なっている技術統括センターや、コンテンツを持つパナソニックシステムネットワークス社、パナソニック映像といった、AVCネットワーク社以外の組織において3D事業に取り組む他のドメインとも横連携を図る窓口となっている。

 「家庭用AV機器事業、コンテンツソリューション事業、大型映像ディスプレイ事業という、3つの事業領域にまたがり3D事業を推進するパナソニックが、国内外を含めて、横断的に連携する役割を果たすのが3Dイノベーションセンター。さらに、お客様の事業機会創出とその最大化を支援するため、コンテンツ制作から機器ソリューションまでの3Dビジネスに対するトータル・コーディネーションも行なう。3D事業の立ち上げと事業を最大化するための支援組織」と、3Dイノベーションセンターの藤井正義所長は語る。

 藤井氏は、テレビビジネスユニットのマーケティング統括センター所長も兼務。マーケティングの視点を強く持ちながら、活動しているのも特徴のひとつといえる。

 また、米ハリウッドに設置しているパナソニック ハリウッド研究所との連携、東京・六本木のパナソニックオーサリングセンター六本木との連携のほか、今後は、欧米にも3Dイノベーションセンターセンターを開設して、世界規模での3Dビジネスの創出、パートナー支援体制を構築する。

 「センターの名称に、イノベーションを付けたのは、新しい映像文化と産業を創出する3D事業の拡大および発展を加速することによって、市場そのものをイノベーションし、成長戦略を牽引していくこと、そして、3Dによって、ビジネスの仕組みそのものをイノベーションしていくという意味がある」と、藤井所長は語る。

 3Dという観点から、「ソフト、ハード」のイノベーション、「システム」のイノベーションを、さらには、徹底した顧客視点で「マーケティング」のイノベーションにも取り組むという。



■ 4つの観点から3Dイノベーションセンターが活動

 では、これまでに3Dイノベーションセンターはどんな成果をあげてきたのだろうか。

 3Dイノベーションセンター総括担当参事の西岡稔氏は、「イベントを通じた販促支援、コンテンツの2次活用促進」、「市販・システムのマーケティング連携によるソリューション提案」、「3Dコンテンツ拡充支援、コンテンツ制作環境整備支援」、「3Dイノベーションセンターのウェブを通じたグローバル情報発信」の4点から説明する。

 「イベントを通じた販促支援、コンテンツの2次活用促進」では、2010年7月8日に阪神甲子園球場で行なわれた「阪神-ヤクルト戦」における世界初のプロ野球3D生中継があげられる。

 業務用3Dカメラの提供および3D技術の総括プロデュースをパナソニックが担当。これを「ひかりTV」で配信するだけに留まらず、量販店店頭において3D VIERAにライブ中継。この実績をもとに、日本テレビと協力し、東京ドームでの巨人-阪神戦、巨人-広島戦でも3D中継を実施。さらにダイジェスト版を制作し、東京・有明および大阪・OBPのパナソニックセンターでも上映するなどのコンテンツの幅広い2次利用も行なった。

3Dは視聴体験が大切だとして、様々な形でコンテンツを2次利用する考えだ

 「従来の仕組みでは、一度、3D中継をしてプロジェクトが終了するということが多かったが、3Dイノベーションセンターを通じて、コンテンツを2次利用することで、より訴求効果を高めることができた。こうした取り組みは、7月10日に米シアトルのセーフコフィールドで行なったヤンキース-マリナーズによるメジャーリーグ初の3D放映をDirecTVと地元テレビ局で放映した実績や、8月の全米オープンテニスでの3D放送などにもつながっている」という。

 5月の全仏オープンテニスでは、フランス国内の615店舗で3Dライブ放送を楽しめる仕掛けを展開したほか、3D衛星放送により、フランス以外の欧州3,000店舗で3D放送を体験できるようにした。

 「3Dは視聴体験者ほど、購入意欲が高いという調査結果が出ている。こうしたコンテンツを利用して、パナソニックならではの3D視聴体験ができる場を増やし、購入に結びつけたい」(藤井所長)とする。

 今後、店頭連動による販促、スペースイベントへの展開、コンテンツのグローバル2次利用といった横連携において、3Dイノベーションセンターが中核的な役割を果たすことになりそうだ。



■ ホテルの宿泊客向けに3Dテレビを体験

 「市販・システムのマーケティング連携によるソリューション提案」としては、パナソニックが著名ホテルと連携して展開している3Dルームがユニークな試みだといえる。

 現在、58型の3D VIERAが、東京・梅田の阪急インターナショナルホテルに設置されているほか、ウェスティン大阪、ウェスティン仙台、浦和ロイヤルパインズ、守口ロイヤルパインズ、ANA富山、プリンスホテルパークタワーに3D VIERAを設置。フランスのThe Plaza Atheneeにも3D VIERAが配備されている。

 これも従来ならばホテルとの個別の協業といったレベルに留まっていたものを、地域本部との連携により、世界規模での3Dルームの提案を加速。さらに3Dイノベーションセンターのウェブサイトで紹介をしながら、各ホテルのサイトとリンクして、直接予約が行なえる仕組みも作り上げた。パナソニックのサイトから、スムーズにホテルの予約を行なえるという試みは、それもまた異例といえる。

 また、ホテルとの連携では、ブライダルビジネスでも協業。結婚式における3D撮影提案といった横展開も行なっている。この取り組みは、日本だけに留まらず、中国では結婚式関連展示会にも出展するなど、3D VIERAと、3Dカメラのデモンストレーションに高い関心が集まっているという。



■ 3D番組の放送にも支援体制を強化

 「3Dコンテンツ拡充支援、コンテンツ制作環境整備支援」では、11月1日からBS朝日で始まった日本初の3Dレギュラー音楽番組「Panasonic 3D MUSIC STUDIO」がある。同番組は、企画当初から3Dで放送されることを前提にしており、収録からすべてフルHDの3Dで撮影。同社の有明スタジオにおいて、5台の3Dカメラを利用するなど、パナソニックの最先端業務用3D機器を活用するとともに、アーティストのパフォーマンス、美術、セット、照明などを3D用に演出している。

 「機材選定段階から後処理における視差調整や放送環境を考慮した最適な撮影設計を実施。安全性を重視するために、撮影直後に細かいチェックを行なっている。一部には物差しや巻き尺を利用して、視差を確認するといったアナログ的なチェックも行なっている。通常の撮影に比べると、撮影に費やす時間は長いが、こうした撮影ノウハウの蓄積が、3Dの広がりにつながると考えている」と藤井所長は語る。

 3D番組に関する取り組みは世界規模で展開している。米国では、DirecTVの3Dチャンネルの設置に協力し、「n3D Powered by Panasonic」をスタート。ロシアでもNTV-Plusでチャンネルを設立し、「NTV-Plus 3D by Panasonic」をスタートした。また、英国では、BskyBのSky 3Dのスポンサー契約を行なっているほか、EURO SPORTの3D放送にも協力している。

 こうした音楽番組への協力を通じて蓄積した3Dの撮影ノウハウは、より魅力的な3Dコンテンツを制作するために重要な意味を持つという。また、音楽番組での3D撮影ノウハウの蓄積だけに留まらず、野球、テニス、ファッションショーといった点でも、3Dに適した撮影方法を模索しているという。

同社が3D撮影で得たノウハウが、世界の3D番組に活かされているという

 例えば、野球の場合、現在の野球放送の主流となっているバックスクリーンから打者方向に向けた、高い位置からのカメラアングルよりも、キャッチャー方向から投手方向に向けた低いカメラアングルの方が3D放送には効果的だという。

 「外野方向からの撮影ではプロの剛速球投手の球を、素人でも打てそうに感じるが、キャッチャー方向からだと、そのスピード感に、とても打てないと実感するほどの差がある」というのも、3D体験者ならば納得できよう。

 また、ファッションショーの撮影も、2Dだと目障りに感じる客席の人影も、3D映像ではむしろ立体感を際立たせる演出効果になりうる。そして、低めの位置からの映像だと、まるで自分が客席にいるような錯覚に陥る効果がでる。

 パナソニックでは、このように実際の撮影体験から蓄積したノウハウを教育プログラムとして公開していく考えを示しており、映画やテレビ、家庭用3Dコンテンツの専門家などを対象にした同社独自の教育プログラムを用意。すでに、映像制作者を対象に、3D映像制作の基礎から応用までを網羅した「Panasonic 3Dカメラ(AG-3DA1)セミナー2010」を開催している。また、3Dの広がりを支援するNPOであるInternational 3D Societyとの協業により、3D Universityにおいて19カテゴリーでの教育プログラムを展開する予定だ。

パナソニックは、International 3D Societyによる第1回Charles Wheatstone賞を受賞。3Dに関する規格化から商品化に至るまでの業界のリーダーシップが評価された

 一方、「3Dイノベーションセンターのウェブを通じたグローバル情報発信」では、同センターのサイトを「グローバルな3Dビジネス情報のポータルサイト」と位置づけ、BtoB向け各ドメインへの誘導、民生3D製品の紹介、パナソニック協賛の3D番組の紹介、事例紹介などを通じて訴求していくという。

 さらに、パナソニック3Dイノベーションセンターは、コンシューマ利用だけでなく、医療、教育、芸術などの多様な産業分野へと展開される3D技術の広がりを支援する組織となる。

 規格化や標準化への取り組み、3Dコンテンツから機器ソリューションの提供、撮影ノウハウの蓄積や教育プログラムまで、End to Endでの提案が可能なパナソニックの3Dビジネスを後方支援する役割はますます重要になってくるだろう。

(2010年 12月 10日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など