大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニック、3Dリンク対応製品を拡大へ

~3Dテレビに手応え。将来的にIPSαの3Dテレビを投入~


パナソニック デジタルAVCマーケティング本部の西口史郎本部長

 パナソニックが、フルハイビジョン3Dプラズマテレビ「VIERA VT2シリーズ」を、4月21日に発売してから約2か月半を経過した。当初は、50型、54型のみだったものを、5月には65型、58型の大画面モデルを追加。7月30日には、42型、46型を新たに投入し、3Dテレビのラインアップを6機種にまで拡大する。

 パナソニックのデジタルAVCマーケティング本部の西口史郎本部長は、「これまでは、まず3Dテレビを見て、体験していただくことに力を注いできたが、今後、普及に向けた施策を拡大していくことになる」と語る。7月以降は、新たに投入する42型が3Dテレビ全体の4割を占めると見るなど、普及モデルの追加によって、一気に市場拡大に乗り出すほか、3Dリンクに対応した製品群の投入により、3Dの利用シーンの拡大も提案していく。パナソニックの3D戦略を聞いた。


■ 3Dテレビは当初の予想を上回る売れ行き

量販店店頭に展示された3Dテレビ「VIERA VT2シリーズ」(ビックカメラ有楽町店本館)

 パナソニックが、4月21日から出荷した3Dテレビの売れ行きは、当初予想を上回るものになっていると、西口本部長は語る。

 「店頭で3Dテレビの臨場感が想像以上のものだったという声をたくさんいただくなど、3Dテレビの良さを感じてもらっている。発表時点では、国内の3Dテレビの年間出荷規模は50万台と見て、そのなかでパナソニックは、50%のシェア獲得を目指すとしていたが、この勢いでは年間100万台の市場規模も想定される」とコメント。「3Dテレビの効果もあり、50型以上のプラズマテレビ全体では、第1四半期実績で、前年同期比2倍の販売台数になっている。3Dテレビが価格下落を吸収し、平均単価は前年並みで推移している」と語る。

 懸念していた3Dコンテンツの少なさについても、それほど影響は出ていないと分析する。「3Dコンテンツに対する不安感がもう少し前面に出てくると思ったが、3D映像を視聴した際の感動や、今後のコンテンツ普及に対する期待感が高い。カラーテレビ登場時に匹敵するほどの大きな進化を遂げた製品であることを感じていただいているようだ。さらに、2Dの映像表現に関しても、3Dテレビは優れており、2D映像の高画質ぶりと、3Dへの期待という両面から選択してもらっている例も多い」とする。

 2Dテレビとの価格差が想定していたものよりも小さいことで、2Dテレビを購入しにきた来店客が、3Dテレビを購入するという例も目立っているという。さらに、3D対応のBDレコーダの販売も好調だ。

 「3Dテレビ購入者の約8割が、BDレコーダとセット購入しているのではないかと見ている。一方で、将来の3D化を見越して、テレビは2Dだが、BDレコーダは3D対応にしておきたい、という購入の仕方が多く、3D対応BDレコーダの販売台数は、3Dテレビの販売台数の2倍規模に達している」という。


■ パナソニックの3Dテレビ戦略は、セカンドフェーズに

3Dテレビが各社から出揃うことで、いよいよ普及段階に入り始めるか(ビックカメラ有楽町店本館)

 3Dテレビの販売が、とくに好調なのがスーパーパナソニックショップ(SPS)をはじめとする系列店での販売だ。「50型以上の3Dテレビの構成比は、量販店では30%強であるのに対して、系列店では約50%が3Dテレビ。全体で40%近くが3Dテレビになっている」という。

 通常、薄型テレビの販売台数構成比は、量販店が7割であるのに対して、系列店が3割というのがひとつの目安。だが、3Dテレビに関しては、系列店の販売比率が4割程度にまで増加しているという。

 「付加価値製品は、発売当初には系列店での販売が先行することが多いが、3Dテレビに関しても同様の傾向となっている。今後は、40型台の製品も投入することから、量販店での販売比率が増加していくるだろう」と見ている。

 3Dテレビの好調ぶりは、同社の第1四半期の薄型テレビ事業の成長にもつながっている。「2Dテレビでは一部製品で品薄が起こり、販売機会を逸したものもあるが、業界全体の成長と同じ、前年同期比1.5倍程度の成長率を維持している。国内薄型テレビの出荷計画である450万台に向けては計画通りの実績で推移している」と、2010年度第1四半期(2010年4~6月)の実績を説明する。

 では、第2四半期以降の取り組みはどうなるのだろうか? まずは、7月30日に発売を予定している42型、46型の3Dテレビの展開が鍵になる。

 「40型台の3Dテレビを投入することで、より幅広い購入層に3Dを楽しんでいただけるようになる。3Dの主力は40型台になるだろう。とくに、42型は3Dテレビ全体の約4割を占める可能性もある」と語る。西口本部長が、「直接見て、体験していただくことが中心だった段階から、実際に購入していただく普及段階に入りはじめた」というのも、40型台の普及モデルの投入が開始されることが背景にある。

 7月30日には、シャープからも3Dテレビ「AQUOS LV3シリーズ」が発売され、6月から発売しているソニーとあわせて、3Dテレビが主要3社から出揃う。40型台の製品も、3社がラインアップすることになり、その点でも3Dテレビの普及フェーズが加速することになりそうだ。

 「日本の家屋の状況を考えると、スペースの関係で50型台は大きすぎて導入しにくいという場合もある。そこに40型台の3Dテレビが提案できる。また、薄型テレビの主流となっている32型、37型といったテレビの購入者を40型台にインチアップする仕掛けのひとつにもなる」とし、「40型台の投入によって、3Dテレビの販売を加速できる体制が整う。パナソニックの3Dテレビ戦略が、セカンドフェーズに入る」と位置づける。


■ IPSαの液晶3Dテレビの投入を将来的に考えている

量販店店頭では実際に視聴して、その臨場感に驚く人が多い(ビックカメラ有楽町店本館)

 パナソニックは、今後、3Dテレビ戦略で、どんな手を打つのだろうか? 気になる点をいくつか聞いてみた。

 一つめは、液晶テレビにおける3D化である。同社では、2Dテレビでは、42型までで液晶テレビを投入する姿勢を示しているが、西口本部長は、「32型、37型といった領域でのラインアップ強化において、IPSαパネルの高速応答性を活用した3Dテレビの投入を将来的に考えている。ターゲットは、リビングよりもパーソナルユースを意識したものなるだろう。ただ投入のタイミングについては、市場の動向を見極めながら考えていきたい」とする。

 パナソニックでは、3Dテレビをテレビ事業における重点展開のひとつとしており、下方向へとラインアップを拡大する上では、液晶テレビは重要なアイテムとなる。姫路で稼働した液晶パネルの新工場によるパネル確保も3D液晶テレビの投入を後押しすることになる。

 二つめは、ソニーが展開している「3Dレディ」と呼ばれる、あとから3D機能を追加する製品ラインアップの展開だ。これに対して西口本部長は、「他社の反応を見る必要もあるだろう」と前置きしながらも、「現時点では具体的に検討しているわけではない。基本は標準搭載の形態で考えている」と否定する。

 西口本部長がそう語る背景には、プラズマテレビを3D化する際のコストアップが液晶テレビに比べて小さいという点が挙げられる。

 「液晶テレビを3D化する場合には、4倍速にするなどの高速応答性に優れたパネルを搭載する必要がある。その分、どうしてもコストがあがってしまう。しかし、プラズマパネルは当初から動画応答性に優れていることから、コスト構造の大半を占めるパネル自体のコストアップがなく、コスト面からみて、3Dレディの必要性がない」。


■ 年内には「3Dワールド」といえる状況を確立したい

 三つめは、3D対応製品群の投入だ。パナソニックは、すでに3D対応のBDレコーダを発売しているが、ビデオカメラやデジタルカメラの3D化については、現時点では具体的な言及はしていない。

 西口本部長は、「3D化は、パナソニックが先行して切り開いていくという姿勢を貫いていく。その点でも、3D対応の各種製品も、いち早く市場に投入していきたいと考えている」と語る。続けて、「パナソニックは、エンド・トゥ・エンドで3Dビジネスを展開している。映画製作のためのカメラや各種映像機器の展開、3Dの標準化に向けた活動などにも深く関与しており、こうしたノウハウが、3Dワールドの実現、3Dリンクの実現に貢献する。自ら作ったコンテンツを活用するといった提案は、第2四半期以降の重要な課題。3Dテレビを中心とした3Dリンクの展開は早急のテーマになる」と位置づけた。

 西口本部長は、少なくとも年内には「3Dワールド」といえる状況を確立したい、という姿勢を明らかにする。今後、ビデオカメラやデジタルカメラの3D化への取り組みが顕在化していくことになりそうだ。

 パナソニックの国内の薄型テレビの出荷計画は、年間450万台。3Dテレビは、今後、40型台にもラインアップが拡大するなど、品揃えが強化されることによって、全体の約1割を占める可能性もありそうだ。西口本部長は、「年内にはエコポイント制度が終了することになり、地デジへの完全移行を前に、どこまで薄型テレビの需要が拡大するのかが、まったく想定できない。年間市場規模は、2009年度の1,600万台に対して、2010年度は1,800万台とも、2,000万台ともいわれる。そのなかで、安定した薄型テレビの供給とともに、そのなかでいかに3Dワールドをテイクオフさせていくかが、当社のテーマとなる。これからは3Dの時代であるということを、もっと訴求していきたい」と語る。

 30型台、20型台においては、パナソニックが得意とする付加価値商品だけでなく、価格戦略を優先した製品の投入も今後の課題だとする一方、LEDテレビの事業拡大にも意欲を見せる。旺盛な国内テレビ需要の拡大に向けて、需要拡大に向けたパナソニックは、3Dによる新たな提案を軸に、幅広く展開していくことになりそうだ。


(2010年 7月 8日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など