藤本健のDigital Audio Laboratory
第685回 Focusriteの赤いUSBオーディオ「Scarlett G2」を、競合「UR」とガチ比較
Focusriteの赤いUSBオーディオ「Scarlett G2」を、競合「UR」とガチ比較
2016年7月4日 14:24
英FocusriteがUSBオーディオインターフェイスのScarlettシリーズをリニューアルし、第2世代となる「Scarlett G2」シリーズとして製品発表し、そのうちエントリーモデル3機種の発売を開始した。
先に発売された3機種は、各ショップの売れ筋ランキングのトップにあるSteinberg URシリーズに完全にぶつけた製品となっていて、スペックも価格も近い。実際にどこが違って、音質的な差があるのかなどをチェックした。
“赤いUSBオーディオ”が192kHz対応で登場
Focusriteはイギリスの名門ともいえるプロオーディオのメーカーであり、世界に名だたるスタジオのミキシングコンソールなどを納入してきた実績がある。またFocusriteのマイクプリアンプといえば、誰もが一目を置くプロ仕様の製品として知られているメーカー。そのFocusrite、最近プロオーディオの世界ではRedNetというEthernetケーブルを用いて「Dante」規格を使った伝送システムなどを展開する一方、DTMユーザー向けの製品も数多くだしており、中でも人気があるのが、赤いUSBオーディオインターフェイスとして知られるScarlettシリーズだ。
見た目もカッコよく、USBクラスコンプライアントのデバイスであるために扱いやすかったのだが、扱える最高サンプリングレートが最高96kHzであったのが一つのネックにはなっていた。192kHzで使うシーンがどれだけあるかは別にしても、他社が同価格帯で192kHzの製品を出している中、96kHz対応となると、やはり見劣りしてしまったというのが実態。そのため、名門Focusriteの製品ではあったけれど、あまり人気製品にならなかった。
そうした中、192kHzに対応させると同時に内部回路を見直して、より高音質化した2nd Generation(第2世代製品)としてScarlett G2シリーズを打ち出した。しかも、SteinbergのURシリーズと真っ向勝負させる値付けとなっている。Focusrite Scarlett G2シリーズも、Steinberg URシリーズもオープンプライスではあるが、ヨドバシカメラでのネット価格を見ると以下のようになっている。
【ラインナップと実売価格比較】(ヨドバシカメラ/7月4日時点)
「Scarlett Solo G2」(2入力2出力、マイクプリ×1) 10,800円
「Scarlett 2i2 G2」(2入力2出力、マイクプリ×2) 15,660円
「Scarlett 2i4 G2」(2入力4出力、マイクプリ×2) 19,760円
「UR12」(2入力2出力、マイクプリ×1) 10,640円
「UR22mkII」(2入力2出力、マイクプリ×2) 15,000円
「UR242」(2入力4出力、マイクプリ×2) 21,960円
URシリーズの各製品については、以前にも記事で取り上げているので、ここで詳細は割愛し、ここではScarlett G2シリーズに絞って1つずつ順にみていこう。
「Scarlett Solo G2」は2in/2outのオーディオインターフェイスで、フロントに2つの入力を装備している。左の1chがマイク入力で、右の2chがライン/ギター入力に固定されている。リアを見るととってもシンプルで、RCAのステレオ・ピンジャックがあるのみ、という構成だ。そのため、ステレオ素材の入力はできないのだが、逆にハイレゾリスニングなど、オーディオ再生を中心に用い、アンバランスのRCA出力でいいのであれば必要十分な機能を備えているといえるだろう。この入出力構成においても、UR12と同様だ。
次に主力商品となるであろう「Scarlett 2i2 G2」も2in/2outのオーディオインターフェイスである。Scarlett Solo G2とは異なり、フロントの入力の2chとも同じコンボジャックを使用しており、ラインでのステレオ信号の入力や、2chともにマイクを接続することが可能。ともに+48Vのスイッチをオンにすることでファンタム電源を供給できるためコンデンサマイクとの接続も可能だ。1ch、2chそれぞれに用意されているLINE/INSTのスイッチをINSTに切り替えることにより、双方ともにギターやベースなどハイインピーダンス機器にも接続できるようになっている。スペック的にいうと、この双方チャンネルともにハイインピーダンス接続できるという点が、UR22mkIIとの違い。UR22mkIIの場合は2chにのみハイインピーダンス対応させることができるようになっている。
リアパネルを見ると、こちらはTRSフォンのバランス・ステレオ出力となっている。そのためオーディオ系のユーザーの場合は、UR12のRCA出力のほうが扱いやすいかもしれない。なお、UR22mkIIのほうも同じくTRS出力ではあるが、それに加えてMIDI入出力も備えている。そのMIDI入出力装備という面ではUR22mkIIのほうが上になる。
さらに、Scarlett 2i4 G2を見てみよう。こちらも入力においてはScarlett 2i2 G2とほぼ同様であり、1ch、2chともに、コンボジャックを備えている。ひとつ違いとして挙げられるのは1ch、2chのLINE/INSTスイッチの隣にPADというボタンが用意されていること。これらを押すと入力レベルを下げることができるボタンで、一時的に入力音量を抑えたい場合などに便利に利用できる。
Scarlett 2i4 G2のリアパネルには、バランス出力のTRS出力が2つあるのとともに、RCAのステレオピンジャックの出力が4つ用意されている。4つのうちの2つはTRS出力と同じもので、3chと4chの出力はRCAのみという構成だ。また、こちらにはMIDIの入出力も用意されているので、その点ではUR242と同様だ。
このように見ても、SteibergのURシリーズであるUR12、UR22mkII、UR242が、非常にソックリなシステム構成になっていることが分かると思うが、パッと見では分かりにくいが、結構大きく異なる点もあるので、そこを見ていこう。まずSteinbergのUR12およびUR22mkIIにはmicroUSBの端子が搭載されているのが一つの特徴。実はこれはACアダプタからの電源供給するためのものであり、これを利用することで、iPhoneやiPadなどとLightning-USBカメラアダプタ経由で接続することが可能だ。
Scarlett G2シリーズも同じUSBクラスコンプライアントなデバイスではあるが、これをiPhoneやiPadと直接接続しても電源供給ができないために使用することができない。Scarlett G2シリーズでも電源供給機能付きのUSBハブを介すことでiOSデバイスとの接続が不可能ではないが、扱いにくいのは事実。
さらに、Scarlett 2i4 G2はUSBバスパワーだけで動作するが、対するUR242はACアダプタが必須となる。そのため、UR242は前述したように簡単にiOSデバイスと接続可能なだけでなく、もっと大きな違いがある。それはUR242はDSP搭載で、内部にミキサーを装備するとともに、チャンネルストリップやギターアンプシミュレータ、リバーブなどを搭載しているということ。これらについても以前解説しているので、そちらを参照いただきたいが、UR242のこのアドバンテージは大きい。ただ、単に入出力があればいい、という割り切りがあるのであれば、Scarlett 2i4 G2で十分といえるが、ここはよくチェックしておきたいポイントだ。
DAWソフトに違いも
もうひとつ、FocusriteのScarlett G2シリーズとSteinbergのURシリーズの間に、大きな違いがある。それはバンドルされるソフトの違いだ。URシリーズの場合、同じSteinbergのDAWである「Cubase AI 8」が付属しているのに対し、Scarlett G2シリーズでは「Ableton Live 9 Lite」とAvid Technologyの「Pro Tools|First」の2種類が付属する。
Live 9 Liteは従来のFocusrite製品にもバンドルされていたが、Pro Tools|Firstのほうは今回が初の試み。ご存知の方も多いと思うがPro Tools|FirstはいわゆるフリーミアムのDAWであり、それ自体は誰でも無料で入手可能なもの。ただ、Pro Tools|Firstのみだと、エフェクト数が10種類しかなく、しかもそのうち2つはディザで、1つはタイミング合わせのものなので、実質的にいえばEQとコンプ、ディレイとリバーブしかなく、まともに使えないというのが実態。ほかのエフェクトを使うとなると、基本的に従来のAAXプラグインが利用できないため、別途ダウンロード購入する必要があり、フリーソフトとしてはまともに使えないという印象だった。
今回バンドルされるPro Tools|FirstはFocusriteの特別バージョンであり、ベースはPro Tools|Firstと同じではあるのだが、すぐに使えるエフェクトが別途12種類バンドルされている。まあ、これはAvidがダウンロード販売しているもの12種類だが、これでグっと使えるものになっているのは事実。Pro Tools入門用としては、そこそこのことができそうだ。
そのほかにも、このPro Tools|Firstで利用可能なAAXプラグイン、さらにVST/AUプラグインとして使える「Red Plugin Suite」、「Softube Time and Tone bundle」がダウンロード可能となっている。
また、AU/VSTプラグインとして利用可能な「Novation Bass Station」、さらには、素材集として、「Scarlett 2nd Gen Loopmaster Content(1.7GB)」、「Focusrite Drum Tracks(76.3MB)」といったものもダウンロードできるようになっている。
音質とレイテンシーは好成績
最後に、ターゲットが重なる2メーカーの製品、オーディオインターフェイスとしての性能がどうなっているのか、Focusriteの「Scarlett 2i2 G2」とSteinbergの「UR22mkII」で、それぞれテストしてみよう。使うツールはいつもと同様、RMAA ProとCentranceのASIO Latency Test Utilityだ。
いずれもバランスケーブルを用いてTRSの出力とフロントの入力をループ接続して行ってみた。またレベル調整のため、いずれもメイン出力は目いっぱいの最大出力に設定するとともに、入力はマイクプリアンプのゲイン調整で適度な音量へブーストしている。結果は以下の通りだ。それぞれに極端な違いはないものの、Scarlett 2i2 G2のほうが若干いい成績が出ているようだ。
レイテンシーについても、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで試してみた結果が以下のもの。
これらを見ても分かる通り、レイテンシーにおいてはScarlett 2i2 G2の圧勝。44.1kHzでバッファサイズ128サンプルとした際でも、Scarlett 2i2 G2とほうが小さいレイテンシーとなっているが、詰められるバッファサイズがScarlett G2シリーズのほうがずっと小さいのだ。たとえば192kHzにおいてUR22mkIIでは256サンプルが最小なのに対し、Scarlett 2i2 G2では16サンプルまで詰めることができる。その結果、結構大きな差になってきているわけだ。
以上、Scarlett G2シリーズとURシリーズを比較しながら、見てきたがいかがだっただろうか? 国内ではまだまだ知名度の低いFocusriteだが、この性能と価格戦略で王者Steinbergに近づくことができるのか、今後の動向にも注目したい。
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