藤本健のDigital Audio Laboratory

第829回

赤いUSBオーディオがType-Cになって音質もUP。Focusrite「Scarlett Gen3」の実力

イギリスの老舗レコーディング機器メーカー・Focusrite。同社は放送局やレコーディングスタジオ向けの業務用機器から、DTM用のオーディオインターフェイスまで幅広く手掛けているが、そのFocusriteの人気USBオーディオインターフェイス「Scarlett」シリーズが先日大きくリニューアルされ、第3世代製品「Scarlett Gen3」として発売された。

上からScarlett Solo、Scarlett 2i2、Scarlett 4i4

従来と同様のワインレッドカラーながら、AD/DAコンバータを刷新するなど中身は完全に置き換わり、接続もUSB Type-C端子になった。そのScarlettシリーズのエントリー機であるScarlett Solo、Scarlett 2i2、Scarlett 4i4の3機種を入手できたので、それぞれを試すとともに音質やレイテンシーも測定してみた。

Scarlett Solo
Scarlett 2i2
Scarlett 4i4

入出力数だけではない各モデルの違い

Steinberg、MOTU、PreSonus、M-Audio……と数多くのオーディオインターフェイスメーカーが、最近、新製品をリリースするとともに、USB端子をUSB Type-Cへと切り替えてきている。その背景には、小型化や電力供給の安定、また伝送速度の向上など、各社ごとにさまざまな理由があるようだが、FocusriteもUSB Type-Cに切り替えたメーカーの一つだ。

従来の第2世代製品「Scarlett G2」については3年前に記事で取り上げていた。そのときの写真と2i2同士で比較してみると、同じ赤いボディーのように思うかもしれないが、よく見るとフロントパネルのデザインも質感もスイッチ類も大きく変わっているのが確認できる。価格はオープンプライスで、実売価格はScarlett Soloが12,000円前後、Scarlett 2i2が17,400円前後、Scarlett 4i4が25,200円前後。

第2世代のScarlett 2i2 G2
新しい第3世代のScarlett 2i2 Gen3

取り上げた機種は以前も今回も、下位3モデルではあるが、そのラインナップはちょっぴり変わっている。第2世代においてはScarlett Solo、Scarlett 2i2、Scarlett 2i4だったが、今回Scarlett 2i4は無くなりScarlett 4i4となっている。Scarlett Soloは2in/2outだが、マイクプリアンプが1つのモデル、Scarlett 2i2は2in/2outでマイクプリアンプを2つ搭載したモデル、そして従来のScarlett 2i4は2in/4outでマイクプリアンプが2つだったが、今回の第3世代のScarlett 4i4は4in/4outでマイクプリアンプが2つというスペック。

ただし、いずれも最高のサンプリング周波数が192kHzで、量子化ビット数は24bitまでというのは第2世代、第3世代共通。一方、第3世代ではマイクプリアンプに「AIR」というモードが追加されたのが大きな特徴。これは業務用プロオーディオ機器の世界で定評のあるFocusrite ProのISAマイクプリアンプをモデリングするというもの。これをONにすることで、「よりオープンでクリスタルクリアなサウンドで録音が可能」になるとのことだ。

では、各モデルを簡単に紹介していこう。まず一番小さいScarlett Soloは前述の通り2in/2outのオーディオインターフェイス。フロントパネルを見ると、左側の1chはマイク接続のためのXLR端子、右の2chはラインもしくはギターを接続するTRSフォン端子となっており、モノラル素材をレコーディングすることをターゲットとしたシンプルなオーディオインターフェイスだ。

Scarlett Soloの前面

マイク入力のほうには48Vというボタンがあることからも分かるとおり、ファンタム電源供給が可能でコンデンサマイクも利用可能。マイクプリアンプはGAINノブを回していくことでより大きく増幅できるようになっている。この際、入力レベルをGAINノブの周りのLEDで緑・黄・赤と確認できるという点は、第2世代と同様だ。

入力レベルをGAINノブの周りのLEDで確認できる

AIRボタンをONにすると、AIRモードへと切り替わる。OFFの状態とONの状態で比較してみると、ONにすると若干音量がUPするとともに、よりきらびやかな音というか、輪郭のハッキリしたサウンドになる印象だ。どちらが好きかは好みの問題だとは思うが、おそらくはONのほうが、より多くの人が好みサウンドになりそうだ。

右のTRSフォンへの入力のほうは、INSTボタンというものがあり、これをONにするとハイインピーダンスモードとなり、ギターと接続した際、適切なサウンドになるようになっている。また一番右にはDIRECT MONITORというボタンがあるが、これをONにすると、マイクやギターなど、入力された音をそのままヘッドホンおよびメイン出力へとダイレクトモニタリングできるようになる。

リアを見るといたってシンプル。USB Type-Cの端子とメイン出力であるTRSフォン出力が2つ並んでいるという形だ。

Scarlett Soloの背面

続いてScarlett 2i2。これもScarlett Soloと同様に2in/2outのオーディオインターフェイスであるが、1ch/2chともにXLR/TRS兼用のコンボジャックとなっている。コンボジャックの隣にはそれぞれINSTボタン、AIRボタンがあり、個別にハイインピーダンスやAIRモードONの状態に設定できる。

Scarlett 2i2の前面

48Vのファンタム電源については1ch/2ch共通で、右側の48VのボタンをONにすると両チャンネル同時にファンタム電源供給されるようになっている。一方、この48Vボタンの下にDIRECT MONITORボタンがあるが、これはScarlett Soloのものと異なり、単にON/OFFだけでなく、ONの場合ステレオか、モノラルかの選択が可能。

DIRECT MONITORボタン部

これをモノラルにするとたとえば1chにギターを接続していても、左右両チャンネルでモニターできるようになり、ステレオに切り替えると左チャンネルからのみモニターできる形となる。リアに関してはScarlett Soloとほぼ同様のシンプルなものだ。

Scarlett 2i2の背面

Scarlett 4i4は4in/4outのオーディオインターフェイスで、フロントには2i2と同様に2つのコンボジャックを搭載しており、この2つにマイクプリアンプが装備されている。もう2つの入力はリアにあるTRSフォン端子で、こちらにはマイクプリは非搭載。その隣には4つのTRSフォンの出力、さらにMIDIの入出力も搭載されている。

Scarlett 4i4の前面
MIDI入出力なども装備

改めてフロントを見てみると、こちらは2i2とは異なり、ボタンが少ない。INSTボタンもなければAIRモードに切り替えるボタンもないのだ。これらはFocusrite Controlというコントローラソフト側で操作する。しかも入力音量を10dB抑えるためのPADスイッチも搭載されており、これらを設定すると、4i4のパネルにLEDで表示される。

コントローラソフトのFocusrite Control

一方、DIRECT MONITORについても、Focusrite ControlのOutput Routingでより細かく設定できる。しかも4i4は、PC側から見ると4in/4outではなく6in/4outのように見える。それは4つの入力端子から入ってくる信号のほかにループバックによる「Loop」も2つあるからだ。

Focusrite ControlのOutput Routing
4i4は、PC側から見ると6in/4outのように表示

それぞれにどんな信号を出力するか、Focusrite Controlで細かく設定できる。たとえばメイン出力の1ch/2chには、PCからの出力の1ch/2chをそのまま出すこともできれば、3ch/4chに加えて、入力端子の1ch/2chをミックスした状態で出力することもでき、ループバック側にPCからの出力の1ch/2chおよび3ch/4chをミックスするとともに入力端子からの1ch/2chもミックスする……といった自由な設定ができる。

第2世代より音質面も着実に進化

そんな機能を持ったFocusriteのScarlett 3Genだが、音質のほうはどうなのだろうか? ここでは2in/2outのScarlett 2i2を用いて、SNやTHDなど音質の測定を行なってみた。測定に用いたのはいつものように、RMAA Proというツール。最新版であるRMAA Pro 6.4.5を使って出力と入力を直結したループ状態でテストしている。44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの各サンプリングレートで測定した。

44.1kHz
48kHz
96kHz
192kHz

これを見ても非常に高成績になっていることが分かる。以前の第2世代も音質は定評があったが、3年前の記事における測定結果と比較してもさらによくなっているのが分かる。

一方、レイテンシーのほうはどうだろうか? こちらも44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの各サンプリングレートにおいて、最小のバッファサイズで入出力往復でのレイテンシーを測定するとともに、44.1kHzだけは128サンプルのバッファサイズでもテストしてみた。その結果、やはり第2世代よりわずかながらレイテンシーが小さくなり、192kHzにおいては2.56msecという値を出している。

120 samples/44.1kHz
8 samples/44.1kHz
8 samples/48kHz
8 samples/96kHz
8 samples/192kHz

ただ、なぜか44.1kHzにおいてバッファサイズ128Sampleが設定できず120Sampleでのテストとなった。この辺はCEntrance Latency Testというツールとの相性の問題なのかもしれない。

なお、これら3機種はWindows、Macで利用できるのはもちろんのこと、Lightning-USB3カメラアダプタを利用して外部から電源供給すればiPhoneやiPadで使用することもできる。この際、Scarlett 4i4であれば、しっかり4in/4outのオーディオインターフェイスとして機能するようになっている。

以上、Focusriteのオーディオインターフェイス、Scarlettの第3世代となるScarlett Gen3のSolo、2i2、4i4の3機種をチェックしてみた。赤い色の好き嫌いは分かれるところだとは思うが、小さいけれど、性能的にも優れたオーディオインターフェイスだと思う。

4in/4outでは物足りない、マイクプリが2つでは少ないという人には、さらに上のスペックのScarlettシリーズもある。具体的には8in/6outのScarlett 8i6、18in/8outのScarlett 18i8、そして最高峰となる18in/20outのScarlett 18i20のそれぞれだ。用途に合った規模の製品を選んでみてはいかがだろうか?

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto