第373回:RolandのDAW「SONAR V-STUDIO 100」を試す【後編】

~ スタンドアロンでミキサー/レコーダとして使用可能~


SONAR V-STUDIO 100

 前回に続いて、CakewalkのSONAR V-STUDIO 100の後半。

 前回は主にPCとV-STUDIO 100をUSBで接続した状態での使い方を紹介した。USB接続した場合は、8IN/6OUTで24bit/96kHz対応のオーディオインターフェイスとして機能するとともに、ACTに対応するフィジカルコントローラとして機能するのだが、今回はこれをスタンドアロンで動作させる場合の使い方を中心に見ていく。



■ デジタルミキサーとしても使用可能

 最近のオーディオインターフェイスは多機能化が進んでおり、PCとのUSBやFireWire接続を切り離しスタンドアロンで動作するというものも珍しくはない。

 その多くはマイクプリアンプとして機能するとかA/Dとして、またD/Aとして機能するというものだが、このV-STUDIO 100は、そこに留まらず、さらにいろいろな使い方が可能になっている。

 第一に挙げられるのがデジタルミキサーとしての機能だ。前述のとおり、V-STUDIO 100は8IN/6OUTのオーディオインターフェイスであるが、スタンドアロンの場合、8INで2MIXにするデジタルミキサーとなるのだ。

 この場合も、オーディオインターフェイスとしての動作時と同様に、サンプリングレートを設定できるようになっている。具体的にはサンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzの3通りだ。

がデジタルミキサーの機能を装備サンプリングレートの設定が可能

 

ミキサー時の入力ゲインの調整はトップパネル左下に並ぶツマミを使う

 ミキサーとして使っている場合は、一番右にあるフェーダーは、まったく機能せず、入力ゲインはトップパネル左下に並ぶツマミを使って調整する。1ch、2chは独立、3/4ch、5/6ch、7/8ch(同軸デジタル)はそれぞれステレオペアとして動作する形になる。

 また1chと2chにおいてはプリアンプ搭載で、SENSツマミが別途用意されており、必要に応じて調整することが可能で、また1ch、2chにはそれぞれ左右のバランスを調整するためのPANも用意されている。

 これらでバランス調整した結果がメインミックスのL、R、つまりラインアウトの1ch、2chに出力されるとともに、ヘッドフォンにも出力される。一方、スタンドアロンでの動作時には出力の3/4ch、5/6chは機能しない。


■ EQ/コンプなどエフェクトも装備

 このV-STUDIO 100、デジタルミキサー機能を打ち出しているだけに、単に8ch分をミックスするというだけに留まらない。各チャンネルにはEQおよびコンプレッサが搭載されているとともに、システムエフェクトとしてリバーブなども搭載されているのだ。

 EQとコンプレッサは、ゲインコントロールと同様、1ch、2chが単独で、3/4ch、5/6ch、7/8chがステレオペアとして、それぞれ独立したものが搭載されている。ゲインコントロールツマミの上のCOMP/EQボタンを押すことで、機能がオン/オフされるようになっている。また、EQとコンプレッサそれぞれのパラメータ設定は液晶とその周りにあるツマミを使ってコントロールする。

 まずEQは3バンドのパラメトリックEQで、デフォルトではHiが2.0kHz、Midが1.0kHz、Lowが400Hzに設定されており、バンド幅Qの設定もできる。とくにプリセットがあるわけではなく、自分で設定する必要があるため、パラメトリックEQの使い方は知っておく必要はあるが、グラフィカルに表示されるため、初心者ユーザーでも直感的に理解できるだろう。

 ちなみにHiとLowはハイシェルフ、ローシェルフとなっており、Qの設定はMidにのみ適用されるようになっている。このEQ、以前に紹介したEDIROLのデジタルミキサー「M-16DX」に搭載されているものとソックリだ。

 一方、コンプレッサのほうは、スレッショルド、レシオ、ゲイン、アタック、リリースの5つのパラメータを持っており、液晶下のツマミを使ってアナログ感覚で設定できるようになっている。

 こちらもプリセットはないので、初心者にとってはEQよりも扱いが難しいかもしれないが、結構効き目がハッキリしているコンプレッサであり、ギターやボーカル用としてうまく機能してくれる。

パラメトリックEQを備えるコンプレッサも使用可能

 実は、前回のオーディオインターフェイス機能の説明の際、このEQとコンプレッサには触れなかったが、USB接続してオーディオインターフェイスとして使用している際にもこのEQとコンプレッサは機能する。

 またこの際、ユーティリティのパラメータ設定で「To USB」の項目を「Post EQ」と「Pre EQ」のいずれかを選ぶことができるようになっている。デフォルトのPost EQを選択した場合は、コンプレッサとEQがかかった音がPC側に録音され、Pre EQを選択した場合は、モニターのみコンプレッサとEQがかかった音が出て、PC側には素の音が録音される仕様になる。ただし、これらが使えるのはあくまでもV-STUDIO 100へ入力される音に対してであって、PCから再生する音にはかけることができない。

 V-STUDIO 100にはこのEQとコンプレッサのほかに、システムエフェクトとしてのリバーブも搭載されている。タイプはECHO、ROOM、SMALL HALL、LARGE HALLの4種類が用意されており、各チャンネルからのセンド量を0~63の範囲で決めることができる。

 リバーブタイムなど、こまかなパラメータはなく、先ほどのEQやコンプレッサのようにPC側へエフェクトのかかった音を送ることはできないが、本体だけで簡単にリバーブがかけられるのが便利なところ。とくにマイクでボーカルを歌う際などには重宝するはずだ。

オーディオI/F使用時もEQ/コンプレッサは機能。ユーティリティの設定画面で選択できるリバーブも搭載

■ リニアPCMレコーダ機能

レコーディングの際のビット分解能も16bit、24bit、32biitの3通りから選べる

 このようにデジタルミキサーとしても、なかなかよくできたV-STUDIO 100だが、スタンドアロンでの機能は、これに留まらない。そう、V-STUDIO 100は最高24bit/96kHzで動作するリニアPCMレコーダとしても機能するのだ。

 サンプリングレートはデジタルミキサーと同様、44.1kHz、48kHz、96kHzの3つから選択するほか、レコーディングの際のビット分解能も16bit、24bit、32biitの3通りから選べる。

 現在、リニアPCMレコーダというと、EDIROLのR-09HRをはじめとするバッテリ駆動でマイクを内蔵したコンパクトな持ち運び可能なタイプが主流だが、それらとはちょっと性格や使い方も異なるものだ。

 マイクは内蔵されていないし、バッテリ駆動せず、あくまでもACアダプタを使って動作するものであり、前述のミキサー機能によって入力し、ミックスした信号をレコーディングしていくという機能なのだ。

SD/SDHCカードスロットを装備

 記録するメディアはSD/SDHCカード。V-STUDIO 100のフロントにはSD/SDHCカードスロットがあり、ここに刺したメディアにレコーディングしていくのだ。操作方法は簡単。コントロールサーフェイスとして利用したトランスポーズの各ボタンを利用して操作する。

 録音はRECボタンを押すと即スタートし、WAVファイルとして保存され、録音するごとにREC_0001.WAV、REC_0002.WAV、REC_0003.WAV……と自動的にファイルが生成されていく。


録音はRECボタンを押すと即スタート録音するごとに、自動的にファイル名が生成されていく

■ SDカード内楽曲を再生しながらの同時録音機能も搭載

 まあこれだけなら、「面白い機能を搭載したね」で終わりだが、V-STUDIO 100のレコーディング機能は、単純ながら、かなり応用が利くユニークな仕組みになっている。それは、SD/SDHCカードにあらかじめ入っているWAVファイルを再生しながら、別のWAVファイルにレコーディングすることが可能になっているのだ。

 すでに気づいた人も多いと思うが、あらかじめSONAR VSなどのDAWで曲を作っておき、これをラフでいいのでミックスした結果をSD/SDHCカードにWAVファイルでコピーしておく。それをV-STUDIO 100に入れた上で、スタジオへ持ち込めば、ラフミックスをBGMにしてボーカルをレコーディングしたり、ギターやドラムなどスタジオでないとレコーディングできないパートをレコーディングすることができるのだ。

 まずBGMとしたファイルを選択した上で、BGMモードにすると、レコーディング用のディスプレイにはBGと表記が現れBGMモードになったことが確認できる。この状態でRECボタンを押せばいいのだ。

BGMのファイルを選択BGMモードの状態でRECボタンを押す

 この際、BGMとして流したオリジナルのWAVファイルは破壊されないので、納得がいくまで何度でもレコーディングすることが可能。場合によってはまずボーカルをレコーディングし、次にギターをレコーディングし……というように、パート別にレコーディングするというのも有効な手段だろう。

レコーディングファイルをラフミックス前のデータが入ったDAWへ貼り付けて同期

 こうしてレコーディングしたSD/SDHCカードを持ち帰り、レコーディングしたWAVファイルをラフミックス前のデータが入ったDAWへ貼り付けてやることで、それらとピッタリ同期してくれる。

 同期といっても何も難しいことはない。単純にWAVファイルを曲の一番頭のところに貼り付ければいいだけだ。パート別にレコーディングしていれば、それぞれ別のトラックに貼り付けていけば、後で自由にバランスをとることも可能である。

 これならば、わざわざPCやオーディオインターフェイスなど一式をそろえてスタジオに行く必要もなく、とても手軽で便利。またスタジオなどに限定すれば、とくにバッテリ駆動である必要もないだろう。

 なお、このレコーディング機能に関連して、もうひとつ付加機能がある。それがメトロノームだ。レコーディング状態であるか否かにかかわらず、メトロノームを鳴らすことができるというもので、テンポ、拍、音量の設定が可能になっている。

 前述のようにWAVファイルを再生しながらの録音でなく、新規に録音する場合などには、そこそこ便利に使うことができる。ただ、RECボタンなどとは連動していないため、あくまでもメトロノームを鳴らすだけであって、あまり多くは期待できない。とくにWAVファイルを再生しながらでの録音では役に立たないと考えたほうがいいだろう。

ブロックダイアグラム

 以上、2回にわたってSONAR V-STUDIO 100について見てきたがいかがだっただろうか?

 あまりにも多機能で、何がどのようにつながっているのかわかりにくいと思う方もいるだろうが、ブロックダイアグラムを見れば、大方理解できるだろう。

 7万円程度の価格でこれだけ多機能なハードウェアと、プラグインも満載されたSONAR VSというDAWがついてくるコストパフォーマンスはなかなかだと思う。特にスタンドアロンでレコーディングできるこの機能は、DAWの使い方に一石を投じる有効な利用方法だといえるだろう。


(2009年 6月 1日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]