藤本健のDigital Audio Laboratory

第633回:ヘッドフォンで立体的な定位感。ハイレゾ配信も始まった「HPL」はなぜ生まれた?

第633回:ヘッドフォンで立体的な定位感。ハイレゾ配信も始まった「HPL」はなぜ生まれた?

 本来、前方にあるスピーカーから聴くようにミックスされた音をヘッドフォンで聴くと、どうしても意図されたサウンドとは違う聴こえ方になってしまう。ヘッドフォンで音楽を聴く人が多くなった現在、スピーカー用のミックス作品と、ヘッドフォン用のミックス作品が別々に作られるとベストなのだが、なかなかそうしたものは存在しない。そこで、スピーカー用に作られた音をヘッドフォン用に作り替えてしまうというユニークな技術がある。立体音響システムなどを手掛ける会社のアコースティックフィールドによる「HPL」というエンコード技術だ。

アコースティックフィールドの「HPL」
アコースティックフィールドの久保二朗代表取締役

 e-onkyo musicでは昨年末より、HPL音源としていくつかの作品が発売されており、これをヘッドフォンで聴いてみると、ちょっと驚くような体験ができる。でも、HPLとはいったいどんな技術で何をしているのだろうか? とても気になるので、アコースティックフィールドの代表取締役、久保二朗氏にいろいろと話をうかがった。

 筆者がHPLの存在を知ったのは、3月5日に、軽井沢大賀ホールで行なわれていたハイレゾ作品のレコーディング現場を見学に行った際のことだ。これは、レコーディングエンジニアの沢口真生氏が企画した、バッハの「フーガの技法」をサラウンドでレコーディングするというもので、沢口氏のレーベル、「UNAMAS」からリリースされ、今夏にe-onkyo musicから配信される予定の作品のレコーディングだ。興味深かったのは、平面での5chに加え、高い位置からも4chのマイクを立てて録る、「ハイトサラウンド」にも挑戦していたことだった。

軽井沢大賀ホールで行なわれていたハイレゾ作品のレコーディング
左から沢口氏、筆者、入交氏

 これは毎日放送のエンジニアである入交英雄氏の協力を得て行なっていたもの。ハイトサラウンドは、以前、入交氏によるデモを聴いたことがあったが、5chに比べて、非常にリアルにその場の雰囲気を再現してくれるという印象を持ったので興味のあるところ。ただし、ハイトサラウンドを再生するためには、ただでも設置が大変な5chのスピーカー配置に加え、高いところに4つのスピーカーを設置する必要があるため、日本の家庭でこれを再生するというのは、あまり現実的ではない。

 そんな思いでいたら、沢口氏から「確かにこれをスピーカーで再生させるというのは、なかなか難しいけれど、これをヘッドフォンで再生させるHPLという技術があるんだよ。昨年12月には、HPLを使った5chの作品として、この軽井沢大賀ホールでレコーディングしたビバルディの『四季』があった。このHPLを利用すれば5chに限らず、9chでも11chでも自由自在にできるんだ」と教えてもらったのだ。

 その話を聞いて、「あぁ、ドルビーヘッドフォンみたいな技術なんだろうな。でも、そうだとしたら音質的にはあまり期待できないかも……」なんてことを思い浮かべていた。沢口氏は、それを見透かすように「実際のスピーカーで聴くのと比較すると、劣る面はあるけれど、ハイレゾ作品として十分楽しむことができますよ。一度、HPLをやっている久保さんのところに話を聞きに行ってみるといい」といわれたのだ。なるほど、そんなことをしている日本人がいるのかと興味を持ったので、沢口氏にお願いしたところ、すぐに紹介してくれた。さっそく都内にある久保氏のスタジオに行ってきたので、ここからは久保氏へのインタビューという形でHPLとはどんなものなのかを見ていくことにしよう。

ヘッドフォンリスニング向け音源が生まれるまで

――沢口さんから、HPLがスゴイとうかがってきたのですが、これはサラウンドをヘッドフォンで聴くという技術なんですよね?

HPLのロゴ。左は元音源がステレオのもの、中央は標準のHPL、右は元音源が5chサラウンドのもの

久保:HPLによる作品は昨年12月12日にe-onkyo musicから5タイトル、さらにその後5タイトルを出したので、計10タイトルが発売されています。いずれもハイレゾのジャズやクラシックによる作品なのですが、この10タイトルの中にはサラウンドのものとステレオのものがあります。サラウンドのものはHPL5、ステレオのものはHPL2としていますが、そもそもHPLとは「Headphone Listening」の略なんです。その名の通り、ヘッドフォンで聴くのに最適化した音源ということなんですよ。

――これは、どこか海外でのフォーマットというわけではなく、久保さんが作ったものなんですよね?


久保氏

久保:はい、その通りです。私はもともとタイムロードという会社でプロオーディオ機器の輸入販売を行なっており、レコーディングスタジオなどに製品を納めていました。もちろん、こうした現場ではスピーカーで音を聴くのが中心であり、ヘッドフォンはあくまでもオマケという扱いでした。しかし今から10年ほど前にUltrasoneのヘッドフォンを扱うことになり、中には48万円するモデルもあったんですね。そんなすごいヘッドフォンが存在するのかと驚いていたら、コンシューマユーザーの間で、それが飛ぶようにうれて、完売してしまう実態をしり、本当にビックリしました。みなさん、すごい音で聴いているんだな、と。また様子を見てみると、プレーヤーからラインを取り出して、それをヘッドフォンアンプを通した上で、いいヘッドフォンで聴いている。すごいことをしているんだなぁ、と。

 ただ考えてみれば、オーディオを本気で趣味にしている人が、いい音をスピーカーで実現しようとすると、機材に莫大なお金がかかるだけでなく、果ては部屋を改造するといったことになり、大変なことになってしまいます。でも、ヘッドフォンでならば、そこそこ現実的な金額でハイスペックではなく、ハイエンドが入手できます。その実情を知って、今後ヘッドフォンのほうが広まるな、と確信したんです。

――そうしたヘッドフォンが業務用のスタジオにも入っていったんですか?

久保:いいえ、スタジオにあるのはソニーのMDR-CD900STくらいしかなく、ミックスした仕上がりをチェックする程度。この状況を見て、これはマズイ事態になっているだろうと思いました。Ultrasoneをはじめとする高級ヘッドフォンは解像度が非常に高く、すみずみまで音を聴くことができるのに対し、音楽制作のほうはスピーカー用にしか作っていないので、「スタジオにも2、3台はこうしたハイエンドのヘッドフォンを用意しておくべきだ」ってブログにも書いたんですよ。

――そこから、どんどんとヘッドフォンの世界に入っていったわけですか?

久保:そうですね。ただ、仕事としてはプロオーディオ機器の納入といったことのほかに、特殊音響事業部という部署での仕事をしていました。これは放送局や大学の研究開発用の機材の納入などで、22chの音を出すのに必要なシステムをデザインし、それを納めるといった仕事です。信号処理に関する研究所のお客様も増えて、そこで使うシステム設計をしていたのです。今の仕事もまさにそれなんですよ。そうした研究機関においては、バーチャルに立体的に定位させるのは当たり前にやっていました。頭部伝達係数を使って計算を行ない……というのをさんざんやっていましたね。

――なるほど、そうした特殊音響分野でのノウハウが、HPLへと繋がっていくわけですね。

久保:はい。ヘッドフォンというのは小さなスピーカーであり、それを耳につけて聴くわけですから、まさにスピーカーを真横に持ってきたようなものですよね。でも、レコーディングエンジニアは前方に置いたスピーカーから音を出すことを前提に音を作っています。それをヘッドフォンで聴いたら当然ミックスバランスは崩れてしまい、リスナーはそうした状況を我慢するしかありませんでした。

スタジオにおいてスピーカーでミックスされた各楽器の定位
従来の音源をヘッドフォンで聴いた際の各楽器の定位感

 さすがに最近はある程度、ヘッドフォンでのリスニングにも目を向けるケースも出てきていますが、ヘッドフォン専用を作るわけではないので、ちょっと中途半端な状況になっています。その結果、ヘッドフォンで聴くと「これはちょっといいかも!」と思う一方、スピーカーで聴くと妙にショボく聴こえるというケースも出てきています。これは音圧の設定にも関係してくるものですね。でも、それまでに身に付けてきた技術を使えば、スピーカー用にミックスした音を、その通りにヘッドフォンで聴くことができることは明白でした。だったら、ヘッドフォン用の音源を作るというのも面白いんじゃないか、と思い立ったんです。e-onkyo musicなどのハイレゾ配信を見ると、ステレオ版、サラウンド版があるので、それと同じようにヘッドフォン版もあるべきではないか、ってね。

――そういう発想はまったくありませんでしたので、とっても新鮮に思えます。でも、これまでもサラウンドをヘッドフォンで聴くという技術はありましたよね。そうしたものではダメだったんですか?

久保:ドルビーヘッドフォンやバーチャルヘッドフォンですよね。HPLも基本的な考え方は同じで、頭部伝達係数を使って計算を行ない、頭外定位させるというものです。そのドルビーヘッドフォンはレイク・テクノロジーを買収して得た技術です。実は、タイムロードは元々レイク・テクノロジーの代理店をやっていたので、その経緯を全部見てきました。実際、プロトタイプの研究段階で聴いていたときは、非常に素晴らしいものでしたが、製品化への開発を進めるに伴い音質が落ちていき、結果的にあまりいい音にはなりませんでした。

HPL音源をヘッドフォンで聴いた際の各楽器の定位感
HPLサラウンド音源の定位感

――私も、ヘッドフォンで聴くバーチャルサラウンドというのは、あまりいい印象を持っていません。確かに効果音を聴く上では、なんとなく立体的に聴こえるけれど、音楽を聴くのにはちょっと残念なものなので、あまり興味を持たなかった……というのが正直なところです。

久保:でも、それはある意味仕方ないことだったんですよ。こうしたヘッドフォンでサラウンドを実現する技術はAVアンプなどのシステムの中に入っていて、内部のDSPを使ってリアルタイム処理を行なっています。そもそも、この処理にはかなりの演算能力が必要になるのですが、こうした機材の中に入っているDSPはバーチャルサラウンドだけに使えるわけではないのです。バーチャルサラウンドは、あくまでもオプション機能でしかなく、ごくわずかなDSPパワーで処理せざるを得ないため、どうしても音質が犠牲になってしまうんですね。たとえて言うならハイレゾの高音質データをMP3で聴くような感じでしょうか……。映画やゲームのエフェクト的サウンドを楽しむならそれでもいいでしょうが、音楽だとガッカリしてしまいます。ドルビーヘッドフォンも多くのリスナーの方は、一度オンにして聴いてみて「ふ~ん」といって、またもとに戻してしまうのが実情です。やはり処理能力の100%をヘッドフォン用の音作りに割り当てるべきだろうというのがHPLの考え方です。でも、そんな機材を開発するとなると膨大なコストがかかってしまうし、そうした機材の購入をリスナーに強いるのも難しいところです。それなら、あらかじめヘッドフォン用の音源を作っておけば、どんなプレーヤーでも再生することが可能となり、これまでミックスバランスが崩れたものしか聴くことができなかった人が、本来の音楽として楽しめるようになるはずだ、と考えたのです。

――実際、それは簡単に実現できたのですか?

久保:ある程度のことは、すぐにできましたが、実際いろいろな人がこの音を聴いたときに「これは圧倒的にこちらのほうがいい」と思ってもらえるようにしないとダメだと考えました。そこに向けて、いろいろと調整を行なった結果、これでいいだろうというものができたときに、沢口さんに音を聴いてもらったのです。そうしたところ、沢口さんからは「前方定位を出そうとすると音が悪くなる。なぜかというと音が遠くから聴こえるということは、それだけ周波数特性が落ちたり、反射が大きくなるからです。一方、キレイな音にしようとすると距離感がでない。でもHPLはそれが両立している。定位感もあって、キレイさもある。そう感じたのはHPLが初めてです」との評価をいただいたのです。そして、「このHPLを広めたいから」とおっしゃっていただき、UNAMASでの音源制作が実現したのです。

ミックスのバランスや音圧はオリジナルを維持

――久保さんご自身が、研究職の出身というわけではないんですよね?

久保:そうですね。でも特殊音響事業として、長年、研究所の方々といっしょにやってきたので、いつのまにか身についた感じですよ。いまでもシステムを設計しているので、そうしたものを作るのに必要なソフトや技術は常日頃から使っていますからね。ウチの会社、アコースティックフィールドは、そうしたツールの代理店も行なっているので、それを利用してエンターテインメントにも使っていこうというのがHPLなわけです。そのため、HPLで使っている基本的な技術は大学などで研究しているのと同じものであり、ドルビーヘッドフォンが使っている基礎技術と同じでもあります。直接だけでなく、間接を含めたインパルスレスポンス(IR)を使ったフィルターを使うという手法です。

――IRのデータ自体も久保さんが作っているんですか?

久保:そうです。一般的にIRは非常にいい部屋を使って実測していくわけですが、逆にいうと、その部屋での音以上のものにはなりません。では、その部屋、そのスタジオが世界で一番いい部屋なのかというと、そうもいかないですよね。だったら、最高にいい音の部屋を設計してしまえばいいのです。その理想の部屋をソフトウェア上で設計した上で、そこからシミュレーションによってIRを作り出したのです。だから、どこかの部屋を真似する必要はなく、まさに理想的な部屋のIRになっているわけです。

――そうした部屋を設計したり、IRをシミュレーションで作り出すツール自体を久保さんが開発しているわけではないんですよね。

SIR Audio TOOLSの「ButterFLY」

久保:そんなことはしていませんよ。ウチの会社で輸入して取り扱っているツールを利用しているだけです。具体的にはSIR Audio TOOLSという会社のButterFLYというツールです。私がマルチチャンネルでのIR作りをしたいと頼んで、向こうで作らせたものですよ。

――ってことは、単に輸入しているというのではなく、システムの仕様策定そのものを久保さんがしているってことではないですか!ここで伺いたいのは、久保さんが作ったIRを利用すれば、どんな曲でも自動的にHPLに変換されると考えていいのでしょうか?

久保:基本的なIRのプリセットはステレオ用、サラウンド用それぞれに何種類か用意しています。ジャンルだったり、ミックスの状態だったり、ライブものなのかなどによって使い分けるようにしています。またプリセットを選んだ後、ある程度マスタリング的なこともしています。いわゆるEQ補正ですね。ヘッドフォンで聴いたときに、より自然な形にしています。よくあるのは低域でスーパーローを出している作品などは、ヘッドフォンで聴くときつすぎるので、少し落としてあげる必要があります。またハイを強くかけているものなども、ヘッドフォンだと、より強くなってしまうので、それも少し抑えるといった感じです。ただし、ここで行なっているのは音作りではなく、ヘッドフォンで聴くとおかしくなるものを直すという考え方です。やってはいけないのは、ミックスのバランスを崩したり、音色をいじってしまうことですね。

――音圧についてはいかがですか?

久保:IRを使うということは、当然音が小さくなります。そのため、音量をなるべく上げるようにはしています。元の音源とまったく同じレベルにはならないケースもありますが、ここでコンプをかけるといったことは決してないですよ。空間があるということは、ダイナミックレンジが広がることを意味しています。最近は音圧戦争から解放される流れもあるので、世の中の音圧が下がっていくと、HPLにしたものも同じように感じられるようになるはずです。ミックスエンジニアの方にお願いしたのは、「ぜひ、スピーカーでいいミックスをしてください」ということ。そうしたら、あとはこちらでやりますよ、と。どこも制作予算が厳しくなる中、スピーカー用と別にヘッドフォン用のミックスを作る余裕はありません。こちらでHPL化すれば、簡易マスタリングみたいなのが1個増えるだけなので、コスト的にも大幅にダウンできるはずです。

実際の作業はDAWであるStudio OneにButterFLYをプラグインとして組み込んで行なっている

――実際、HPLの音を聴いた人たちからの反応はいかがですか?

HEADPHONE BOOK 2015(音楽出版社刊)

久保:昨年、秋のヘッドフォン祭ではじめてデモをしました。ここに集まるリスナーさんに聴いていただこうと、音源をいくつか用意していったのですが、聴いていただいた方々みなさんが「100%これはいい」と言っていただけたので、自信を持ちました。私のデモの仕方として、最初からHPL音源を聴いてもらい、最後に「元の音源はこれなんですよ」と。HPLを聴いた瞬間に分かってくださる方々が多く、「よくない」という意見が皆無だったのが怖いくらいでした(笑)。「全部の音源がこうなるといいですね」といった意見もいただきました。その後、e-onkyo musicでの配信も始まりとても好評です。先日はHEADPHONE BOOK 2015という雑誌の付録にサンプルも入れていただき、少しずつ広まっているところです。

――今回、沢口さんのレコーディングではハイトサラウンドを交えた実験的なレコーディングをしていました。トータル9chあったと思うのですが、HPLでそうしたものを再現することも可能なのですか?

久保:理論的には何チャンネルでも実現可能です。もちろん、CPUパワーは食いますし、どこまでリアルになるかは実際の音源で試してみないと何ともいえないところはありますが、これが実現できると面白いですよね。もっとも、HPLがあれば、スピーカーは不要になるといっているのではありません。まずはヘッドフォンで、サラウンドの楽しさを体験していただき、そのうえで興味を持ったらスピーカーの世界へ進んでもらう。そんなお手伝いができればいいなと思っているところです。

――ありがとうございました。


 こうしたインタビューの後に、HPLのサウンドをいろいろと聴かせていただいた。当初、ドルビーヘッドフォンのような音ではないかと期待していなかったのだが、驚くほどいいものであり、確かに前方にあるスピーカーから聴いているような感覚。著作権の問題で、そのまま公開するというわけにはいかないけれど、YouTubeのライブ映像の音をHPLに差し替えるといったことも可能であり、それをデモしてもらったところ、圧倒されるほどの迫力あるものだった。試しに、HPLではなく、オリジナルの音に切り替えてもらうと違和感が大きくて驚いた。「前から聴こええてくるべき音が、耳の横にへばり付いた」という印象なのだ。実は困ったのは、そこから。家に帰って、普通に音楽をヘッドフォンで聴いても、違和感を覚えるようになってしまったのだ。久保氏に連絡したところ「数日もすれば、また元に戻りますよ」と笑っていたが、それほどの威力を持った技術だったのだ。

 そのHPLを手軽に体験できるように、3つのデモ曲がYouTubeにアップされている。これはオーディオのみで、映像があるものではなく、すべてステレオのHPL2ではあるが、これを聴けばHPLがどんなものなのかはある程度、体験できるはずだ。個人的には、もっと数多くの楽曲のHPL版が出てほしいし、できることなら、HPLへの変換をリアルタイムにできる機材が出てきてほしいところ。もちろん、DSPパワーがフルに使えずに音質を落とすことになったら本末転倒なので、それに特化した機材があれば十分なニーズがあるはずと思った次第だ。久保氏の説明では、単にプリセットを選ぶだけでなく、マスタリング的な処理も重要とのことだったので、簡単にはいかないのかもしれないが、今後が非常に楽しみな技術だと思う。

HPLのデモ楽曲
e-onkyoのHPL配信楽曲
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2015

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto