第396回:M-AudioのUSBオーディオI/F「Fast Track」を試す
~ 24/48対応。「M-Powered Essential」同梱で安価にDAW ~
先月、M-Audioから10,000円強で買える、USBオーディオインターフェイス「Fast Track」が発売された。
「Fast Track」 |
必要最小限の機能のみを持った機材ではあるが、「Pro Tools M-Powered Essential 8」という新しいソフトがバンドルされている。事実上、最も安価でPro Toolsが使えるセット製品となっている。
そこで今回は、このFast Trackがどんなオーディオインターフェイスであるかを紹介するとともに、新しいPro Toolsについてもどんな機能があるのか見ていくことにしよう。
■ 24bit/48kHz対応。トップパネルにノブを搭載
ご存知の方もいると思うが、M-AudioのUSBオーディオインターフェイスとして、「Fast Track」と名の付く製品はこれまでもいくつかあった。Digital Audio Laboratoryにおいても、「Fast Track Ultra」を紹介しており、ほかにも「Fast Track USB」、「Fast Track Ultra 8R」、「Fast Track Pro」などがある。
10月に発売されたFast TrackはFast Track USBの後継となる製品で、実売価格12,600円前後。Fast Track製品の中では価格帯的に、もっともローエンドに位置づけられるものとなっている。
実際に見ても軽くてコンパクト。入出力は2IN/2OUTで、サンプリングデプスは24bit、サンプリングレートは44.1kHzと48kHzの対応となっている。ただ、入出力端子を見ると、サウンドカード系の機材とは明らかな違いもある。
まずフロントに左側にあるのが、XLR(キャノン)端子型のマイク入力。これは+48Vのファンタム電源にも対応しており、リアのスイッチでオン/オフを切り替え、端子左側のLEDで状況が確認できるようになっている。
右の端子がTS(標準ジャック)端子型のライン入力となっているが、ギターの絵が描かれていることからも分かるとおり、普通のライン入力ではなく、ハイインピーダンス対応のギター/ベース入力用の端子だ。
マイク入力 | +48Vのファンタム電源も装備 | ギター/ベース用入力 |
スペックを見ても入力インピーダンスは1MΩとなっている。もっとも音響接続には「ロー出しハイ受け」の原則というのがあるので、このギター入力端子にシンセサイザをはじめとする電子楽器やオーディオ機器を接続してもOKだ。とはいえ、あくまでもモノラルなので、用途は限られてしまいそうだ。
このマイクおよびギター入力端子の右にはそれぞれLEDが2つ設置されているが、下が入力信号を感知すると緑に点灯するシグナルLED、上がレベルオーバーすると赤く点灯するクリッピングLEDとなっている。
さらにその右にある「Direct Monitor」と書かれているボタンは、入力信号をヘッドホンでモニタリングするためのボタンだ。これをオンにすると、入力信号がPCを介さず直接ヘッドホンでモニターできるようになっている。そのため、たとえばWindows Media PlayerやiTunesなどで音楽を再生しながら、ギターを弾けばヘッドフォンではミックスされ、マイクで歌えば即カラオケとして使うことも可能というわけだ。その右がヘッドフォン出力だが、これも標準ジャックタイプのものとなっている。
デザイン/使い勝手として、ちょっとユニークなのは、各レベル調整のためのノブがトップパネルに用意されていること。左からマイクゲイン、ギターゲイン、ヘッドフォンボリュームとなっており、大きなノブだけに微妙なレベル調整も行ないやすい。
一方、リアパネルにあるのは前述のファンタム電源のオン/オフのほかは、メインアウトとなるステレオのRCAの出力が2つ、それにUSB端子という構成だ。
トップパネルにノブを搭載 | リアパネルの端子 |
■ Digidesign「M-BOX2 mini」と比較
このようにFast Trackは2IN/2OUTながら、完全にミュージシャンをターゲットとしたレコーディング機材となっている。2chある入力の片方がマイク、もう片方がギターという仕様から、よく似ているのが、Digidesignの「M-BOX2 mini」だ。
「M-BOX2 mini」(左)とのサイズ比較 |
DigidesignもM-Auidoも、現在は同じアビッドテクノロジーが持つ2つのブランドという関係ではあるが、最高24bit/48kHzという仕様やProToolsソフトウェアがバンドルされるという面でも、ソックリだ。所有しているM-BOX2 miniと並べてみると、大きさ的にはM-BOX2 miniより、少し小さい。
ただ、M-BOX2 miniがアルミ筐体で、かなり頑丈なボディであるのに対し、Fast Trackはプラスティックボディで軽い。また、M-BOX2 miniはInput 1のほうがマイク端子だけでなく、TSフォンのライン入力も利用できるという点で柔軟性は高くなっている。
ドライバの選択画面 |
ドライバをインストールしてFast Trackを接続してみると、何も迷うこともなく、即使うことができた。ここではWindows Vistaの32bit版にインストールしたが、Windows 7にも対応しており、M-Audioのサポートサイトに行くと32bit版も64bit版もダウンロード可能となっている。
もちろんMacも完全にサポートしておりSnow Leopard(Mac OS X 10.6)の32bit版、64bit版もドライバがそれぞれ用意されている。ドライバの設定画面も単純で、バッファサイズの設定画面、サンプリングレートの設定画面がそれぞれ用意されているだけだ。
バッファサイズの設定やサンプリングレートの設定画面などがそれぞれ用意されている |
使ってみると前述のようなiTunesでMP3などを鳴らしながらギターの練習ができるという点では非常に便利。もちろん、Direct Monitorではエフェクトがかからないので、最近よく使っているPropellerheadのRecordでドライバ設定してみたところASIOドライバに対応しているから、あっさりセッティングもでき、気持ちよく使うことができた。ちなみにWindowsではASIOドライバ、WDMドライバが、MacではCoreAudioドライバの利用が可能になっている。
ASIOドライバに対応 | 操作画面 |
気になる音質だが、とりあえずMP3を再生させてみたり、Recordで録音、再生を行なった感じでは非常に良好。ノイズなどを含め音質的な問題点は感じられなかった。ただ、入力端子が普通のラインでないため、いつもオーディオインターフェイスのチェックで使っているRMAA Proによるテストはできなかった。
■ DAWソフト「Pro Tools M-Powered Essential 8」を同梱
さて、このFast Trackには「Pro Tools M-Powered Essential 8」というソフトがバンドルされている。DVD-ROM1枚が入っているのみだが、これまでに存在しなかった初お目見えのソフトだ。これはいったいどんなものであり、Pro Tools LEやPro Tools M-Poweredと何がどう違うのだろうか?
「Pro Tools M-Powered Essential 8」が同梱する |
まず、Pro Tools LEやPro Tools M-Poweredについて整理をしておくと、前述のM-BOX2 miniなどのM-BOX2シリーズやDigi 003などにバンドルされているDAWがPro Tools LE。これはプロのレコーディング業界でデファクトスタンダードとして使われているPro Toolsソフトウェアの機能限定版となっているが、実は機能的な違いはほとんどない。
最大の違いは業務用のPro Toolsソフトウェアが、外付けのハードウェアに搭載されているDSPパワーを活用できるため、PCのCPU負荷を非常に低く抑えて動作させられるのに対し、Pro Tools LEはDSPをサポートしておらず、すべてCPUパワーで動くネイティブ版のソフトであるということ。
別の見方をすれば、CubaseやSONAR、LogicなどのDAWと同等なのがPro Tools LEであるともいえる。ほかにも映像や外部機器との同期機能が弱いなどの違いはあるものの、編集機能などにおいてはまったく同じであるといって差し支えないだろう。一方、Pro Tools M-PoweredはPro Tools LEと同じくDSPを非サポートで、機能的にもまったく同じ。別売の拡張性オプションに違いがある程度だ。
ただし、LEとM-Poweredは動作に必要となるハードウェアに違いがある。M-BOX2やDigi003などが接続されていることで起動が許可されるのがLEで、M-Audioのハードウェアが接続されていることで起動が許可されるのがM-Poweredというだけなのだ。
つまりドングルとして使用するハードウェアが異なるだけといっても過言ではないだろう。ただし、M-PoweredはM-Audio製品のほかにiLokというUSBドングルも必要となる。またLEがM-BOX2製品にバンドルされるのに対し、M-Poweredはあくまでも別売のソフトウェアであり、30,000円前後という価格設定。M-BOX2 microが29,800円前後、M-BOX2 miniが39,800円前後であることを考えるとM-Poweredが割高に感じられていたことも確かだ。
FastTrackを接続していないとエラー表示が出る |
そんな中に登場したPro Tools M-Powered Essentialは、FastTrackにバンドルされたソフト。USBドングルはなくても起動するが、FastTrackを接続していないとエラーが表示されて起動できないというプロテクトがかかっていた。
気になる機能だが、さすがにPro Tools LE、ProTools M-Poweredと比較すると、いろいろと削られている。まずオーディオトラック数が16、MIDIトラック数が8と制限されるほか、最大同時入出力が2つまでとなっている。またインストクルメント・トラック数も8までビデオトラックや、スコア機能も搭載されていない。
またPro Toolsはバージョンが8になってからエフェクト、インストゥルメントともにプラグインの数が大幅に増えたが、Pro Tools M-Powered Essentailでは、だいぶ絞り込まれている。これらスペックの違いを表にまとめたので、参考にしてほしい。
| Pro Tools M-Powered Essentail | ProTools M-Powered | Pro Tools LE |
基本性能 | 16オーディオトラック | 48オーディオ・トラック | |
最大同時2入出力 | 最大同時18入出力 | ||
8インストゥルメント・トラック | 32インストゥルメント・トラック | ||
8 MIDIトラック | 256 MIDIトラック | ||
4 AUXチャンネル | 128 AUXチャンネル | ||
1マスター・フェーダー | 64マスター・フェーダー | ||
- | ビデオ・トラック | ||
- | スコア機能 | ||
エフェクト及びプロセッシング | ベーシックなDigiRackエフェクト | コンプリートなDigiRackエフェクト・セット | |
SansAmpギター・プロセッサー | SansAmp及びEleven Free | ||
3 AIRエフェクト | 20 AIRエフェクト | ||
各チャンネル3 インサート | 各チャンネル10インサート | ||
各チャンネル3 AUXセンド | 各チャンネル10 AUXセンド | ||
4モノ(2ステレオ)バス | 32モノ(8ステレオ・バス) | ||
インストゥルメント及びループ | 3GBミュージック・ループ | 8GBミュージック・ループ | |
Structure Essential | Structure Free、Xpand! 2、Mini Grand Piano、 | ||
拡張性オプション(別売) | - | Music Production Toolkit 2 | |
- | - | DV Toolkit 2 | |
- | - | Complete Production Toolkit |
サンプリング音源のプラグイン「Structure Essential」 |
なお、このProTools M-Powered Essentialで唯一新たに追加されたプラグインがサンプリング音源の「Structure Essential」。M-Powered Essential上の唯一のソフトシンセなのだが、見た目や機能はLEやM-PoweredにあるStructure Freeと同じ。
ただし、Structre Freeが約900MBのサンプルデータが付属していたのに対し、Structure Essentialは約2.5GBと、より強力になっているのだ。まさにオールマイティーな音源として搭載されているので、活用用途は広そうだ。
■ 「Pro Tools LE」と変わらない使用感。安価なDAWとして利用可能
使ってみた感じでは、Pro Tools LEなどとなんら変わらない。Pro Tools LE用のデータを読み込んでみると、未搭載のエフェクトに関する警告は表示されるものの、問題なく再生することができる。
確かに、録音トラックを3トラック以上指定すると警告が表示されるが、基本的な使い勝手に違いはない。メニューを見ると、ところどころ機能にM-Poweredアイコンがついている。実はこれはM-Poweredにはあるけれど、M-Powered Esseintialには未搭載の機能を示しており、これを選ぶと、先ほどと同様の警告が表示される。
Pro Tools LE用のデータの読み込みも可能 | 基本的な使い勝手には違いはない | M-Poweredアイコンがついている |
こうしたことからもわかるとおり、ProTools M-Powered EssentialはDAWの機能的には、それほど多くは期待できない。とはいえ、ギアーやマイクを使っての、そこそこのレコーディングは十分にこなせるし、MIDIによるリアルタイムレコーディングや打ち込みも可能だ。
このProToolsがバンドルされて12,600円で購入できるというのは、極めてコストパフォーマンスが良いといえるだろう。M-BOX2 miniとはちょっと競合しそうな気もするが、とりあえずProToolsを使ってみたいというユーザーにとっては、1/3のコストで購入できるのは嬉しいところだ。
今後、このProTools M-Powered Essentinal 8がM-Audioの各種製品にバンドルされるようになることも考えられそうだが、担当者に確認してみたところ、現時点ではまだ何も決まっていないとのことだった。まずは、DTMの入門用の安価がシステムが誕生したことを歓迎したい。