西川善司の大画面☆マニア

350万円! JVCリアル4Kプロジェクタ「DLA-Z1」を上級マニアは見ておくべき

 今回の大画面☆マニアは久々のプロジェクタ製品だ。それも、民生向けながら価格は350万円というウルトラハイエンド機である。製品はJVCの「DLA-Z1」。レーザー光源を採用したリアル4Kプロジェクタである。

JVC「DLA-Z1」

 なお、筆者一人での設置が難しいため、メーカーのデモルームでの視聴評価となったことを先にお伝えしておく。そのため、いつも行なっている評価の内容とは一部異なっている。

設置性チェック~巨大なボディとヘビー級な重量。消費電力は750W

 中央に投射レンズを構えたオーソドックスな直線基調のデザインは、最近のJVC製DLAプロジェクタの伝統という感じで、既視感は強いのだが、実機を目の前にすると「げげ、大きい」という印象で頭がいっぱいになる(笑)。

 写真で見ると、従来のDLA-X型番とそれほど変わっていない見た目に思えるのだが、DLA-Z1の実物は、たしかに350万円という値段分はありそうな重厚感が漂っている。今回評価を行なったJVCの視聴室には、DLA-X770Rも設置されていたが、その大きさが一層際立って見えた。なにしろ中央の投射レンズからして大きさが違う。DLA-X型番では投射レンズ直径は65mmなのに対し、DLA-Z1は100mmもあるのだ。

上がDLA-Z1、下がDLA-X770R

 本体サイズはDLA-X系が455×472×155mm(幅×奥行き×高さ)なのに対し、DLA-Z1は500×720×235mm(同)となっており、横幅はともかく高さと全長が一廻り、いや二廻りほど大きく感じる。

 重量はDLA-X系の約15kgの約2.5倍にあたる約37.5kg。成人男性一人での移動が難しい重量だ。また、筆者宅はプロジェクタを天吊り設置するための天井補強を行なっているが、住宅会社からその耐重量設計が25kg以下と言われていて、DLA-Z1は余裕でこれをオーバーしているのであった(笑)。DLA-Z1の天吊り設置の場合、天井補強の耐久性についてはしっかり確認してほしい。

巨大な投射レンズ。左右のスリットは排気口にあたる

 エアーフローは、後面吸気の前面排気で、側面及び台置き時底にくる底面側にはスリットや開口部はない。防塵フィルタは後面から脱着交換が可能。本機はレーザー光源と言うことでランプ交換がなく、底面側にランプ交換ハッチはない。なので、天吊り、及び台置き設置、どちらにおいても「設置したままで」のメンテナンスに対応する。重量が重いだけにこれはありがたい。

後面側のスリットが吸気口。エアフィルタの交換はこのスリット部分を取り外して行なう

 高さ調整用の脚部は4つあり、その全てがネジ式だ。ネジ式脚部は4つなのだが、ネジ穴は6箇所空いているのが特徴で、これは、従来のJVC製プロジェクタの天吊り金具を取り付けるための配慮だ。DLA-Z1では、DLA-X系とは筐体サイズが違うにもかかわらず、純正の天吊り金具製品は、従来のものを継続利用できるのだ。

 具体的にはDLA-X7から純正オプション設定された天吊り設置金具「EF-HT13」(52,000円)のほか、その前のDLA-HDシリーズ用の純正天吊り金具を流用するためのベースプレート「EF-BP2」(22,000円)などが設定されている。JVC製プロジェクタのファンには嬉しい配慮だ。保証外ではあるが、これだけネジ穴が切ってあると、サードパーティ製の天吊り金具との適合も広がりそうである。

底面側。ネジ式の脚部は底面に空いている任意のネジ穴を使ってはめ込むことが出来る。本文では「ネジ穴が6箇所空いている」と記しているが、実際にはさらに後端と前端にも空いているので合計で10個のネジ穴が空いている

 投射レンズはフル電動式でズーム、シフト、フォーカスをリモコンから調整可能。

 ズーム倍率は2.0倍で、100インチ(16:9)の最短投射距離は2.98m、最長投射距離は6.07mとなっており、微妙にDLA-X系よりも短縮化している。とはいえ、大きくは変わらないので従来のDLA機オーナーは投射環境をそのままDLA-Z1に移行させることができるだろう。

 レンズシフト範囲は上下±100%、左右±43%で、DLA-X系よりもシフト範囲が広がっている。これだけのシフト量があるので、設置自由度に不満は出ないはずだ。

 なお、レンズのズーム、シフト、フォーカスといった設定状態は、「画素調整」「画面マスク」「アナモフィック」「スクリーン補正」といった関連パラメータとセットにして「設置設定モード」として最大10個までのユーザーメモリ領域に保存できるようになっている。

 この10個のユーザーメモリのうち、最初の3つについてはリモコン上のボタンから直接呼び出せるため、利便性は高い。多くのユーザーは、16:9モード、2.35:1モード、アナモフィックレンズ装着モードの3つを使い分けることになるだろうか。

レンズメモリー機能は拡張され、「画素調整」「画面マスク」「アナモフィック」「スクリーン補正」といった関連パラメータとセットにして記憶できる「設置設定モード」へと進化
10個ある設置設定モード(レンズメモリー)のうち、上から3つ目まではリモコンから直接、設定の切換が行なえる

 DLA-X系から採用され始めた「スクリーン補正」機能は、DLA-Z1にも搭載されている。これは、JVCが著名スクリーンメーカーの製品ごとに最適な画調プロファイルを制作して提供しているもので、DLA-Z1の公式サイトには最新の対応リストが掲載されている。2017年4月時点での対応スクリーン数は136種。JVCによれば、ユーザーの評判もよく、DLA-Z1にも継承したのだとか。たしかに、模倣が多いこの業界にあって、いまだ同種の機能は他社製品には見られない。今後とも、JVCオンリーワンの機能としてアップデートを続けていって欲しいものだ。

 さて、DLA-Z1の光源は組み込み固定式のレーザー光源なので、ユーザー交換には非対応となっている。公称光源寿命は2万時間だ。一般的な超高圧水銀ランプの寿命が約2,000時間と言われるので、ざっくりその10倍の寿命ということ。ランプ交換十回分の寿命といったところだ。

 経年劣化に応じた画質特性のキャリブレーションにも対応。キャリブレーション対象となるのは色、ガンマ、色空間など、多様な要素に対して行なえる設計。なお、DLA-Z1が対応する測色計は「Sypder5」「i1Pro2」の2機種(別売)。

 消費電力は750W。一般的なホームシアタープロジェクタが200W~250Wくらいなので、それらの約3倍。消費電力は高い。ただ、特殊な電源供給工事は不要で、一般的な家庭用コンセントから利用できる。

 騒音レベルは約1,000ルーメン相当の低輝度モードで約25dBとのこと。この値は、ホームシアター機としては「ちょっと騒音が大きめ」くらいの騒音レベルだ。一般的なホームシアター機は大体1,000ルーメン程度の輝度なので、家庭での視聴が前提であれば、この25dBの騒音レベルで活用することになるかもしれない。一方で、フル輝度スペックの3,000ルーメン時の騒音レベルは非公開。JVCも「30dBは超えている」とコメントしているので、視聴位置から2~3mの範囲での設置では騒音は結構気になるはずだ。3,000ルーメン投射での常設を考えるのであれば、視聴位置からプロジェクタを離した設置を検討したい。

接続性チェック~18Gbps HDMIに対応。3D映像視聴用のエミッターは別売り

 接続端子パネルは後面部の上部に実装されている。映像入力端子はHDMIが2系統のみで、アナログビデオ入力端子はない。

接続端子パネル部は後面にある

 HDMIは、HDMI2.0フルスペック対応で、著作権保護のHDCP 2.2はもちろんのこと、18Gbps伝送にもしっかり対応している。なので4K/60Hzは、YUV444はもちろん、RGB888にも対応する。またDeepColorにも対応しており、YUV422時は12ビット(36ビット)で60Hz伝送、YUV444時は12ビット(36bit)で24Hz伝送に対応する。

 HDRは、Ultra HD Blu-rayで採用されているHDR方式のHDR10のほか、新方式のHLG(Hybrid Log Gamma)への対応も完了している。

HDR映像は新方式のHLG(Hybrid Log Gamma)にも対応済み

 HDMI階調レベル(HDMIダイナミックレンジ)は、「オート」の他、「16-235(Video)」「0-255(PC)」「16-255(S.White)」にも対応。スーパーホワイトにまで対応しているのがユニークである。

 アナモフィックレンズや電動開閉シャッターなどの外部機器連携用のトリガー端子はミニジャック1系統のみ。通電時はDC12V、100mAが出力される。

 また、LAN端子とRS232C端子は制御用、USB端子はアップデートやメンテナンス用で、あまり一般ユーザーとは関係のないものになる。

 「3D SYNCHRO」という名称の端子は、3D映像視聴用の3Dシンクロエミッターを外部接続するためのものになる。DLA-Z1は、標準では単体で3D映像表示には対応しておらず、3D映像視聴のためには専用3Dメガネ「PK-AG3」(15,000円)、RF式専用3Dシンクロエミッター「PK-EM2」(10,000円)が別途必要になる。なお、従来製品に提供していた赤外線式3Dシンクロエミッターの「PK-EM1」も引き続き利用できるそうだ。

HDR表示時のDLA-Z1のステータス画面。YUV422、4K/60Hzの表示が行われていることが読み取れる。つまり、18Gbps HDMIに対応していると言うことである

操作性チェック~リモコンはダイレクト操作が魅力

 リモコンは、DLA-X系から採用されているものと同一デザインだが、ボタンのレイアウトはDLA-Z1独自のものになっている。入力切換系統がHDMI2系統のみなので、ダイレクトに切換先を選べる。レンズメモリー的な「設置設定モード」のトップ3つを直接呼び出せるボタンも備えている。

リモコンは[LIGHT]ボタンを押すことで自照式に発光。発光色は白色

 プリセット画質モードの「ナチュラル」「シネマ」「HDR」は、対応ボタンがリモコンにレイアウトされていて、直接切り換えできる。ただ、プリセット画質モードはこれ以外に「フィルム」「THX」そして6個のユーザー設定メモリも用意されていて、それらは[PICTURE MODE]ボタンを順送りに押して切り換える。

 疑似レンズアパーチャー設定、超解像処理に相当する「Multi Pixel Control」(MPC)、補間フレーム挿入倍速駆動の「Clear Motion Drive」(CMD)といった高画質化機能の調整もリモコンから直接呼び出せるのもいい。

 リモコンのボタン数は多くはないが、仕様頻度の高い操作系をちゃんとボタンとしてレイアウトしていることもあり、使用感は悪くないと思う。

画質チェック~光学性能よし、レーザー光源よし、HDR表現よし

 DLA-Z1の映像パネルは0.69型のD-ILA(Directdrive Image Light Amplifier)パネルで、解像度は4,096×2,160ピクセル。横解像度が3,840ピクセルではなく4,096ピクセルとなっているのはDCI規格に合わせるためだ。

 D-ILAは、反射型液晶パネルの一種で、1997年から実用化している。プロジェクタ向けの反射型液晶パネルといえばソニーのSXRDもあるが、製品での実用化はJVCが元祖である。今回、JVCが0.7型とせずに0.69型と、あえて小数点第2位まで明記してきたのは、競合のソニーの0.7型4K SXRDよりもわずかにコンパクトであることを強調するためなのだろう。公称値として発表されているスペックは、画素ピッチが3.8μm、画素間ギャップが0.18μmで、開口率が91%で、これは微妙にソニーの0.7型4K SXRDよりも微細化が進んだ数値である。

 ちなみにフルHD(1,920×1,080ピクセル)の0.7型サイズのD-ILAパネルが画素ピッチ8.0μmで、画素間ギャップが0.3μm~0.5μmで、開口率は88%~90%だった。これを考えると、今回の新開発4KのD-ILAは凄まじい微細度である。

 なお、駆動階調は12bit幅、応答速度は4msとのことで、理論上は240Hz、4倍速駆動にも対応できることになる。

 この新D-ILAパネル自体のネイティブコントラストは2万:1。動的な光源絞り機構なしで、このコントラスト表現力は、まさに反射型液晶パネルだからこそである。

 そして、この新開発の4KのD-ILAパネルだけでなく、DLA-Z1にはもう一つ、シリーズ初の新技術が盛り込まれている。それはレーザー光源だ。

 DLA-Z1の半導体レーザー光源は、青色レーザーで、これを白色光にして光学エンジン側に導くために、青色レーザー光を黄色の蛍光体にぶつけて白色光にしている。この仕組みは、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせて出来ている白色LEDとよく似ている。

 青色レーザー光源ベースのレーザープロジェクタといえばエプソンの「EH-LS10000」も同じだ。ただ、JVCの説明によれば、DLA-Z1の方が、この白色光を作り出す技術世代が進んでいるという。

 EH-LS10000では、黄色蛍光体を円盤に塗布してこれを回転させることで、青色レーザーの照射先を分散させて経年劣化を遅らせ、また発熱の分散を図っていたのだが、DLA-Z1の光源システムは、この回転機構を排除しているのだ。つまり、固定化した黄色蛍光体に青色レーザーを照射させる仕組みとしたわけだ。しかも、蛍光体は従来型では有機物だったのに対し、DLA-Z1ではこれを無機物化し、耐久性の高い素材に置き換えている。

DLA-Z1に採用されている青色半導体レーザーモジュール

 この新レーザー光源システムは、部材メーカーとの共同開発によって産まれたものだそうで、JVCはこの技術に対して「BLU-Escent」と命名している。

 また、ソースとなっている青色光源は半導体レーザーであるため、応答速度はμs(マイクロ秒)のレベルで制御が可能である。つまり輝度制御を余裕でフレーム時間単位で行えるのだ。そこで、DLA-Z1では、機械式の動的絞り機構を廃止し、レーザー光源の輝度制御によって実践される疑似的な動的絞り機構を実現しているという。この特性は明暗差の激しいHDR表現との相性が良さそうだ。

 まずは画素の見え方のチェック。格子筋はほとんど見えず、開口部も変な多角形にはなっておらず美しい正方形形状になっていた。デモルームのスクリーンは16:9投射時で110インチ程度、投射距離は4mくらいだったが、各画素の輪郭も非常にシャープに見えていた。また、フォーカス斑もほとんど感じられず。中央で合わせれば外周部も比較的しっかりとフォーカスが合ってくれているようだ。新開発の大口径投射レンズの実力はなかなかのものだと思う。

 色収差は皆無ではないが、最低限だ。最外周で半ピクセルほどのズレを確認したが、ゾーンレベルで画素調整を行なうことで、ズレを低減させることはできると思う。

色収差の色ズレの見え方の調整(画素調整)は、縦横10×10ゾーンに対して行なえる

 続いては、実際の映像コンテンツとしてUltra HD Blu-ray(UHD BD)の「4K 夜景」を見た。4K夜景はHDR表現が分かりやすいHDR映像コンテンツの1つである。

 ところで「HDR表示ってプロジェクタでできるの?」「自発光画素ディスプレイパネルや、エリア駆動付きの液晶パネルでないと、HDR表示はうまく行なえないのでは? 」というふうに考えている人も多いそうだが、実際にはそんなことはない。

 もともと、従来のSDR(Standard Dynamic Range)映像信号は最大100nit程度の輝度範囲内で行なわれていた映像表現だ。これまでは、これを各映像機器メーカーが独自のノウハウと解釈で、ディスプレイ装置の最大輝度レンジの表示に変換してユーザーに見せていたのだ。いうなれば、映像機器メーカーが独自の解釈でSDR映像を疑似HDR化して表示していたといってもいい。

 これに対し、新たに規格化されたHDR映像(HDR10)では画素単位で規格上、最大10,000nitの輝度表現が出来るようになっているので(現在のコンテンツは最大1,000nit程度のものが多いが)、HDR映像信号の表示に対応できているものであれば、どんな映像パネルであっても、以前の「独自解釈の疑似HDR表示」よりは高品位な映像表示を行なえるはずだ。

 しかも、D-ILAパネルはネイティブコントラストが2万:1もあるので、リアルHDR表示時の高品位化は相当に期待できる。

 というわけで、期待感マックスで、画面に向かったのだが、その表示品質はその期待通り。

 暗闇に浮かぶビル群の窓枠からの生活光、道路の軌跡に沿って立ち並ぶ街頭、遠くの街明かりなどがピクセル単位で強く煌めいており、暗闇は部屋の暗さにほぼ沈んでいて、直視型のHDR対応テレビ製品に迫るHDR表示が出来ていると感じる。

 ピーク輝度は当然、直視型HDR対応テレビには及ばないのだが、D-ILAパネルは黒の締まりと暗部階調性能が優秀なこともあり、相対的に高輝度表現が鋭く見えるのだ。明るさ方向の強さでコントラストを稼ぐ液晶テレビとは真逆方向でHDR感を表現しているという印象だ。

 さらに、日本では未発売のUHD BD「ビリー・リンの永遠の一日(Billy Lynn's Long Halftime Walk)」を視聴。これはヴィン・ディーゼルも出演するハリウッド大作系映画なのだが、なんと4K/60p記録されている珍しいタイトルである。

 こちらもHDR映像で、砂漠の市街戦シーンは、明るく乾いた日差しが降り注ぐため明るいシーンなのだが、その世界の明るさと、道路の側溝や庇下の陰、車が落とす影の黒さの対比がとても鮮烈でリアルに見えた。HDR表現の定番というと「逆光の太陽」やネオンや照明、炎などの「自発光物」などが挙げられるわけだが、このシーンでは、むしろ逆の「陰」「影」の黒さにHDR感を感じさせられたのだ。新型D-ILAパネルののコントラスト感、恐るべしである。

 DLA-Z1は、HDR映像信号を検出すると、自動で映像処理体系がHDR専用モードに切り替わる。画質調整を行なった場合も、そのパラメータの効き具合(効能)がHDRモードとSDRモードとで異なってくる点には留意しておきたい。

HDR映像が入力されると、カラープロファイル、色温度、ガンマなどがHDR専用の調整モードへと切り替わる

 JVCの説明によれば、DLA-Z1では、HDR10形式の映像を受けた際には、自身の表示性能に合わせる目的から、入力映像に対して400nitあたりを最大輝度に想定した実効ガンマ補正(PQカーブ補正)を行なっているそうだ。例えば、入力されたHDR映像が最大輝度1,000nitの情報を持っていても400nit付近の階調領域に収束させるような補正を掛けるということである。しかし、ただ400nitへ飽和させてしまうのではなく、対数的に400nit付近に収束させることで最明部においてもちゃんと階調表現としての分解能は残しているという。

 実際、HDR対応テレビでも、その製品の階調特性や最大輝度に合わせてこうした変換は行なわれているので、DLA-Z1だけが珍しい事をやっているわけではない。筆者が今回のデモを見た限り、DLA-Z1の補正に違和感はなく、暗いシーンにおいても明るいシーンにおいても違和感のないHDR表現ができていたように思う。

 UHD BDの場合、そのHDR映像コンテンツの最大輝度データがメタ情報として記録されているはずで、この情報をもとにすれば400nit付近に収束させる高輝度階調に対するバイアスをいろいろと変調できそうな気がするが、JVCによると、プレーヤーによってこの情報を出力するものとしないものが市場に混在するそうで、安定的な振る舞いをさせるべく、デフォルトでは400nitより高い輝度に対しては固定的な収束のさせ方をしているという。気になった場合は、ガンマ補正の調整の「明部補正」をいじるといいようだ。

 発色については、「ビリー・リンの永遠の一日」と「レヴェナント」でチェックした。

 DLA-Z1の色表現能力は、DCI-P3色空間カバー率100%、BT.2020色空間カバー率80%以上と説明されており、DLA-X系がBT.2020色空間カバー率70%前後らしいので、DLA-Z1は表現できる色域は相当に広いということになる。

 実際に、「ビリー・リンの永遠の一日」は明るい状況下での人肌表現を、「レヴェナント」では森の中の比較的暗い状況下での人肌表現をチェックしたが、双方で不自然さは認められず。明るい状況下での人肌表現は血の気が感じられる透明感のあるもので、4Kの解像力も伴って妙にリアルに見えていた。暗い状況下においても、灰色のようなゾンビ肌にならず、ちゃんと暗い状況下での人肌の暖かみがが残っている。

 DLA-Z1は、4Kプロジェクタ製品としては世界初の「THX 4K Display」認証を取得しているそうだが、たしかに映画コンテンツで求められる発色表現を、高いレベルでチューニングできていると感じた。

HDR映像入力時、カラープロファイルが「HDR」では、新型シネマフィルターはオフとなり、輝度優先の画質になる。「BT.2020」とすると、新型シネマフィルターが適用されて、より広色域な表現が可能になる

 定量的な色再現能力を検証するため導入したスペクトロメーターで、DLA-Z1の白色光を計測した。

 1つはDLA-Z1のレーザー光源に最適化を施したという新型シネマフィルターを適用した広色域モードでの計測、もう一つはこれを適用しない輝度優先モードでの計測だ。画質モードは「ナチュラル」。

新型シネマフィルターオン時
新型シネマフィルターオフ時

 見比べると一目瞭然。新型シネマフィルターオン時の方が赤緑青(RGB)のピークの立ち方が鋭い。

 スペクトルをよく観察すると、青が鋭く高いが、これはレーザー光源自体が青色だからだ。新型シネマフィルターオフ時より、オン時の方が、青に比べて赤や緑の山が高いが、これは赤や緑が強められているのではなくシネマフィルター透過時に青が減退し、相対的に赤や緑の割合が高められているためだ。

 なお、オフ時は緑と赤の山が重なり合っており、オン時はそれがない。つまり、RGB合成色の色純度は、オン時の方が高くなるということだ。

 実際の映像でも、シネマフィルター適用時の方が発色は自然で美しい。ただ、色温度が高めのビデオコンテンツで、しかもHDR対応映像と言うことであれば、オフ時でも発色の印象は変わらないし、なにしろ輝度的にはオフ時の方が高くなるので、あえて活用するのも悪くはないかも知れない。

 この他、通常のブルーレイ(2K )で「ダークナイト」を視聴し、ビル群の空撮シーンを視聴して、補間フレーム挿入型倍速駆動の動作をチェックしたが、補間エラーによるピクセル振動現象は認められず、特に問題なし。別のシーンでは、超解像処理(MPC)の動作もチェックしたが特に違和感はなし。

 超解像処理(MPC)の動作モードは「グラフィックモード」で「4K」と「2K」が選べるが、これについてどういう振る舞いをするか、解説をしておこう。

 「4K」設定時は入力されたフルHD映像に対し、テクスチャ強調(ディテール強調)と輪郭のスムージングの両方を行なうのだが、「2K」設定時は輪郭のスムージングのみが行われる。この動作アルゴリズムを知っておくと「アニメ系コンテンツは2K設定の方が自然かも」というような、映像特性に合わせた活用方針が見出せることだろう。

 3D映像も視聴。視聴コンテンツは「怪盗グルーの月泥棒」で、いつものジェットコースターシーンで、クロストークの出具合をチェック。3D映像にも超解像処理(MPC)が掛かるので、解像感は申し分なしだったが、トンネルシーンの電灯の二重映りは若干見えてしまっていた。JVCによれば、3D映像については動作を確認している程度で、画質チューニングを詰めてはいないとのことである。まぁ、メインは4K/HDRコンテンツということで「3Dはおまけ程度」という位置づけなのかも知れない。

 恒例の、表示遅延の計測については、機材と時間の都合で今回は測定できず。ただ、DLA-Z1にはリアルタイム応答性に優れた「低遅延モード」が搭載された。低遅延モード時の公称遅延時間は非公開とのことだが、60Hz時、約2フレーム強くらいはあるそうだ。従来のモデルよりは大幅に短縮しているという。

本気のマニアには文句なくオススメ。課題は価格とサイズ

 限られた時間内の評価だったので、いつものような深掘りの評価はできなかったが、それでも、DLA-Z1の画質レベルの高さはわかった。JVCのプロジェクタは、長らく疑似4K的な「e-Shift」(時分割4K技術)に立ち止まっていた感が強かったため、「リアル4K機は大丈夫なのかな?」とも最初は思っていた。

 しかし、よくよく考えてみればJVCは、2001年からリアル4Kの1.7型のD-ILAパネルを製造しており、2004年からは業務用のリアル4Kプロジェクタの開発・製造するなど、リアル4Kプロジェクタの開発技術に関してはどこよりも年季が入っている老舗である。

 今回のDLA-Z1は10年以上の時をかけて磨いてきたリアル4Kプロジェクタ技術を、満を持して民生に降ろしてきたモデル。不安要素はない。ホームシアター機として必要な機能と、今求められる最新技術動向を網羅しており、製品のまとめ上げ方には安定感すらある。

 350万円という価格は、民生向けホームシアター機の範疇を超えている気はするが、搭載されている全ての機能が、ホームシアターの上級マニアの方向をちゃんと向いている実感があった。予算的にこのモデルが買えるユーザーには、文句なくお勧めしておく。

 細かく言えば、3D映像の品質は「まあまあ」で、表示遅延もそこそこ、静粛性について低輝度モード(LDパワー:低)以外ではうるさめ……と言った課題もあるが、大きな課題はは価格、そして設置スペースだろう。

 今後、楽しみになってくるのは、DLA-X系クラスのリアル4K機の登場だ。競合のソニーは100万円以下クラスでのリアル4K機の投入において先行している。JVCファンからすれば対抗機が待ち遠しいところであろう。より多くのユーザーが、DLA-Z1級の画質に触れる日が来ることを願いたい。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら