西川善司の大画面☆マニア

第187回

3D、4Kの次はダイナミックレンジ復元!?

ソニーのARメガネ、秘密は薄さ1mmのレンズに

現実世界の情景を再現するためのハイダイナミックレンジ技術(1)
~東芝とソニーのアプローチ

東芝ブース

 映像技術は2010年に3D立体視ブームを迎え、2013年には「4K」ブームを迎えた。前者は映像の次元軸を1つ増やす方向への進化で、後者は2Dとしての映像の解像度を増やす方向の進化だ。

 実は、映像技術に関しては、これ以外にも解決すべき問題はまだまだある。その1つ1つが今後の新しい映像技術のブームとなっていく可能性がある。直近でブームになるかどうかはわからないが、未解決な「ある要素」に関して、偶然か必然か、各社が同時多発的に対応していこうとする動きが2014 CESの会場で見られた。

 それが「ダイナミックレンジの復元」だ。

 現実世界の視界は、暗部と明部の輝度差を比較すると凄まじい格差がある。例えば、月がでていない夜空の下の地面はルミナンス(lum/m2)値で0.000001lum/m2の明るさしかない。一方、太陽光の下の雪原は1,000,000lum/m2の明るさで輝く。この明るさの格差はルミナンス値で10の12乗(lum/m2)の格差だ。コントラスト比で言うところの「1兆:1」ということになる。

 現実世界の視界を映像として記録、あるいは表示するためには1兆:1のコントラストを再現する必要があるのだ。しかし、この概念を、現在普及しているシステムで実現することは不可能だ。

 現在の映像システムは、輝度を8bit(256段階)で表現しているので、単純な考え方で行けば、1兆:1という幅のダイナミックレンジを256段階の輝度表現の中に不可逆圧縮的な手法で閉じ込めているという事になる。

東芝REGZA Z8は、疑似的に現実世界のコントラストを復元する「ハイダイナミックレンジ復元」機能を搭載した

 「1兆:1は無理でも、少しでも、これに近づけさせられないか」と考えたのが、東芝REGZA の「Z8」シリーズだ。

 Z8シリーズでは、映像中に含まれるIRE80%以上の輝度を持つ画素については「本来はもっと高輝度なのに、この範囲に圧縮された輝度」と見なし、発光輝度を拡大して表示する。REGZA Z8は一般的な液晶テレビの1.75倍に相当する750cd/m2まで光らせることが出来る直下型白色LEDバックライトシステムを有しているので、1兆:1のコントラストは再現出来ないまでも、最高輝度部は従来の1.75倍の明るさに光り輝かせることが出来るのだ。この機能の効果の優秀性については既に本連載でレポートしているので詳細はそちらに譲るが、この機能に手応えを得た東芝は、4K対応モデルを開発、今回のCESブースで展示していた。おそらく2014年内に高確率で発売されるだろう。

今回のCES東芝ブースで公開されたREGZA Z8の4K版とも言える試作モデル

 同様にダイナミックレンジレンジ復元に着目しているのが、ソニーのBRAVIAだ。

 今年のソニーブースでは、東芝の「ハイダイナミックレンジ復元」とほぼ同等の機能と見られる「X-tended Dynamic Range PRO」機能の技術デモを行なっていた。同機能は2014年の米国向けBRAVIA 4Kモデル上位機に採用すると発表されている。おそらくこの機能も、日本向け2014年モデルに適用される事だろう。

 北米モデルでは直下型白色LEDバックライトシステムを採用する「XBR-950B」(北米型番)に採用され、高輝度部に対するブースト輝度レベルは最大標準輝度の3倍というから相当なものだ。

 ソニー関係者によれば、この「X-tended Dynamic Range PRO」機能は、エッジ型白色LEDバックライトシステムを採用した4Kモデルの中堅、「XBR-900B」にも採用されるとのこと。ただし、エッジバックライトという原理的な制約の関係でブースト輝度レベルは2倍未満となるようだ。

BRAVIAも、2014年モデルでハイダイナミックレンジ復元「X-tended Dynamic Range PRO」を搭載する
左が「X-tended Dynamic Range PRO」採用機、右が従来機。明部だけでなく、暗部の階調特性もかなり優秀だ

現実世界の情景を再現するためのハイダイナミックレンジ技術(2)
~Dolbyが提唱した「Dolby Vision」とは?

 効果が大きいことは認めるが、東芝の「ハイダイナミックレンジ復元」にしろ、ソニーの「X-tended Dynamic Range PRO」にしろ、いずれにせよ疑似的なダイナミックレンジ復元でしかない。

 根本的な解決をするには、ハイダイナミックレンジな撮影を行ない、これをハイダイナミックレンジに対応したコーデックで映像を伝送し、ハイダイナミックレンジ表示に対応したディスプレイ/テレビで表示する必要がある。

 業務用のカメラは既にハイダイナミックレンジ撮影には対応しており、1兆:1は無理でも、人間の視覚メカニズムで一度に感じられるダイナミックレンジをカバーする撮影が出来るようになっている。

 CGも同様で、今やすべてのVFXスタジオやCGプロダクションはハイダイナミックレンジレンダリングの仕組みを導入済みだ。

 問題は映像コーデックだ。

 この問題に関して、今回のCESではDolbyが「Dolby Vision」と呼ばれるソリューションを提唱した。

Dolbyが配布付したプレスキットに含まれていたDolby Visionの紹介映像

 Dolby Visionの名称は、旧BRIGHTSIDEが開発した直下型バックライトシステムのエリア駆動によって液晶テレビでハイダイナミックレンジ表示を行なうための特許技術として使われていた。しかし、今回同名のブランドをハイダイナミックレンジ表現に対応したコーデック技術にあてたのだ。

 Dolby Visionのメカニズムは、データ構造的には意外にシンプルである。現行のH.264などの最新コーデックでサポートされる追加メタデータの中に、映像フレーム中の輝度分布情報や最大輝度情報を埋め込むというのだ。つまり、Dolby Visionに未対応なシステムから見れば、余計なデータが付いた普通の動画ストリームにしか見えないため、互換性も問題なしというわけだ。

 単純化してしまうと、直下型バックライトシステムベースのエリア駆動で、撮影時の情景をリアルに再現するために必要な追加情報伝送の仕組み……と言える。東芝やソニーが、映像中の明部に対して、疑似的(あるいは推測的)に行なっていた輝度ブーストを、撮影時の現実の情景を再現する方向で正確に行なう事が出来る仕組み、と言ってもいいかもしれない。

 微妙に似ているのが、パナソニックが提唱する「マスターグレード・ビデオ・コーディング(MGVC)」だろうか。MGVCはBDビデオに収録した追加の色情報をHDMIケーブルでテレビなどに伝送する規格で、もともとBlu-ray 3D用に作られたMPEG-4 MVCの3D映像の「左右の眼用映像」伝送の仕組みを応用し、「2Dの映像フレーム」+「追加色情報」を伝送して、多色表現を実践する仕組みだった。

 Dolby Visionも同様に追加輝度情報を伝送することで、結果として多色表示にも貢献できる点では似ている。ただし、Dolby Visionは配布メディアをBDに限定するものではなく、映像制作や配信システム、ディスプレイなど、システム全体での対応が必要になる。

 CESでは、このDolby Visionの仕組みをシャープが自社ブースでデモしていた。展示されていたのは70型の4K液晶パネルに、直下型白色LEDバックライトシステムを仕込んだ試作機。これでSF映画「オブリビオン」のDolby Vision版ビデオクリップを再生し、従来の映像伝送方式の表示と横並びに比較できるようになっていた。

シャープブースで行なわれていたDolby Visionと従来方式の比較デモ。Dolby Visionでは、明部表現の煌めき感が鋭く、自発光マテリアルや金属表現、その他のハイライトなどが美しく描かれる。そして嬉しい副作用として、暗部の階調表現も安定して見えていた

 実際にデモ映像を見てみたが、自発光する火花や爆炎の輝きがリアルなだけでなく、逆光表現の光筋表現などに空間の奥行きが感じられる様が新鮮であった。それと、階調表現もダイナミックレンジが高められている関係か、暗部の階調表現も非常にリアルだ。8bit輝度表現をただ広範囲の輝度レンジに割り当てただけでは、このような表現にはならない。暗部から明部まで安定した階調表現も、まさしくDolby Visionの恩恵なのだろう。

 現在Dolbyでは、このDolby Visionを映画業界、テレビ業界、そしてビデオオンデマンドサービス各社に売り込み中とのこと。しかも、関係者の手応えはかなり良いというから展望は明るそうだ。Blu-rayのようなセルソフトで採用されるかどうかの見通しはまだ立っていないが、今後、注目すべき技術にはなりそうである。

ソニーのHUDメガネはホログラフィック平面導光板を採用

 ソニーはヘッドマウントディスプレイ(HMD)のアプローチでバーチャルな大画面を実現する「HMZ-T」シリーズを民生向け製品として投入しているが、実はもう一つ、ヘッドアップディスプレイ(HUD)技術の開発も積極的に行なっている。最近ではHUDとは言わず、AR(拡張現実)ディスプレイなどと言われることも多いが、ようするに、現実世界の視界とCGなどの映像を合成してユーザーに見せるディスプレイ技術のことだ。

 今回のCESでは、ソニーはブース内で「SmartEye Glass」という名称のHUD試作機を展示。実際に来場者が体験できるようなデモンストレーションを行なっていた。

 デモの内容としては、プロジェクタからスクリーンに映し出された、FIFAの「CONFEDERATIONS CUP 2013 BRAZIL」のサッカー試合映像を、このSmartEye Glassを通して見ると、試合状況応じて、選手情報やニコニコ動画的な視聴者フリーコメントが見られるというものであった。

HUDメガネ「SmartEye Glass」。透過光率は90%
4K×2画面で投射されるサッカー映像。これを被験者がHUD眼鏡で覗くと試合情報が浮き出て見えるというデモ

 このSmartEye Glassは、かけると両眼の前に表示レンズがやってくる仕組み。Google Glassのように片目で見るのではなく両目で見るのが特徴的だ。これについて開発関係者は、「用途を考えるとこうしたHUDは長時間活用する事が多くなる。一般的な人間は普段の生活で片目の視界を集中してみる事に慣れていないため、あえて両眼で見る仕組みを採用した」とのことだ。

装着したところ

 実際にHUDメガネを掛けてデモを体験すると最初に驚かされるのは、表示CG映像が映像スクリーンあたりに結像して見える点だ。視差だけではなく、眼球の水晶体調整で得られる焦点による距離感として映像スクリーンの上に映像が乗って見えるのだ。

 そして、このHUDメガネのレンズの薄さにもびっくりする。レンズの厚みはわずか約1mmなのだ。

 ソニー関係者によれば、このHUDの焦点距離は、被験者の前方1m先から体感的に無限遠にまで調整可能だというから凄い。

 実はこのHUD、ユーザーが見ている映像は、実際に眼前に映像が結像しているのではなく、厚み1mmのレンズの中を伝搬してきた鏡像を見ているのだ。鏡の中に写っている自分の姿の鏡像は、自分と鏡までの距離の2倍奥に見えることは経験的に理解できるだろう。

 ソニーのHUDから見える映像はまさにそうした感じで、メガネのレンズがある位置からずっと離れた位置にあるように見えるのだ。

 映像が、眼球と、映像の投射を行なっているプロジェクタまでの距離よりもだいぶ遠くに見える秘密は、厚さ1mmの透明レンズにある。

SmartEye Glass背面。掛けた時にこめかみにあたる部分に、プロジェクタが搭載されている。膨らんでいる部分がそうだ
重さ、サイズ感的には、3Dテレビ用の3Dメガネと同等

 この厚さ1mmレンズは、ホログラフィック平面導光板(Holographic Planar Waveguides)なのだ。ホログラフィック平面導光板は回折格子を応用した光学部材で、役割を簡単に言い表せば、プロジェクタからの映像を、この1mmのレンズ内で何度も反復反射をして眼前にまで到達させる働きをしている。

 基本的に厚さ1mmのホログラフィック平面導光板で得られる焦点距離は固定だが、プロジェクタに組み込まれた光学系制御を組み合わせることで表示映像の焦点距離の遠近は調整が可能だとしている。

ソニーがSID08で発表した論文より抜粋。SIDの時はフルカラー映像を表示するHUDメガネだったが、ホログラフィック平面導光板を使った根幹原理はこれと同じ

 この小型プロジェクタはLED光源を使った小型液晶プロジェクタであり、映像パネルの解像度は400×240ドット。今回は、用途が情報表示がメインと言うこともあって、表示はカラーではなく緑色の単色での表示となっていた。もちろん、原理的にはフルカラー映像の表示も可能だとのことだ。実際、ソニーは、フルカラー表示のHUD試作品を制作し、ディスプレイ学会のSID(Society for Information Display)で公開したこともある。

 このSmartEye Glassだが、これそのものではないものの、同種の技術を既にアメリカの映画館チェーンRegal Entertainment Group系列の映画館で一部実用化済みだという。一体何に実用化されているかというと、耳の不自由な人に向けた字幕表示サービスだそうだ。

 ソニー関係者は、競合他社製の同種HUDと比較して、眼前に来るレンズが圧倒的に薄いことも優位点としてアピールしていた。レンズが厚いと、通して見る現実世界の視界が見づらくなったり不自然に見えたりするのだ。正面真ん前はいいが、斜め前方向の視界は、厚みのあるレンズを通して見た視界と直接見た視界とが大きくずれて見えてしまう。厚さ1mmレンズであれば違和感も小さくなるわけだ。

 ソニー担当者は、今後のHUD技術の応用先としてカーナビなどを挙げていた。

エプソンのHUDメガネは第二世代モデルへ

 エプソンもHUDの技術開発においては先進メーカーの1つである。2011年に「MOVERIO」(モベリオ)という名称でHUD製品を発売。この時の型番は「BT-100」だったが、今回のCESでは後継の「BT-200」が発表された。

 先代のBT-100の240gから大幅な軽量化に成功しており、その重さはわずか90g。これは「マイクロディスプレイパネルの透過型液晶パネルと投射光学系をより小型化したこと」と、「メガネ本体のデザインや材質などを見直したこと」で達成されたという。

装着状態。手に持っているのがタッチパッド付きコントロールボックス

 表示映像解像度は960×540ドット。フルHDの縦横半分の解像度に相当する。映像はソニーのメガネと同じく、掛けた時にこめかみ辺りにくる左右フレーム部分にプロジェクタが内蔵されており、ここから投写された映像が、レンズ内に仕込まれた光学路を通じて眼前まで伝送されて表示される仕組みだ。

 ソニーのHUDは回折格子であるホログラフィック平面導光板を採用していたが、エプソンのBT-200では、回折格子ではなく、映像光線を垂直に導き入れる屈折/反射光学系を採用している。そのためか、メガネのレンズ部の厚みは10mm近くはある。プロジェクタから投射された映像はまずダイクロックミラーでレンズ側へと反射させられて、レンズ内の拡大系の光路を経て、眼前のハーフミラーに導かれる仕組みだ。眼前に表示される映像は約2.5m先に表示され、ハーフミラー越しに現実世界を見る事になる。

外見は3Dテレビ用3Dメガネのよう。サイズ感もそんな感じ
レンズの中の様子。映像の光はこの中を駆け巡り、最終的には中央辺り、斜めのハーフミラーに到達して、ここの鏡像を見る事になる
鼻にあたるクッションは自在に変形が可能。これ、地味ながら開発スタッフのこだわりなのだとか

 ソニーのものとは異なり、表示映像はフルカラーなため、文字情報以外に、普通にフルフレームのフルカラー映像も表示出来る。なお、フルカラー表現には3枚の液晶パネルを用いているのではなく、RGB-LED光源を時分割駆動させているのでもなく、実は直視型液晶ディスプレイと同じく、RGBカラーフィルタを用いたサブピクセル構造を採用している。担当者によれば、これはエプソンが「3LCD」という3板式液晶パネル採用陣営のリーダー的メンバーであり「時分割カラー表示を避けなければならない立ち位置のため」と笑っていた。時分割カラー表示にすれば、画素数的にはHD解像度も実現出来たかもしれないのだが、それよりも色再現性を重視したと言うことなのだろう。

 HUDメガネ部には9軸自由度のモーショントラッキングシステムを搭載。具体的には電子コンパス、ジャイロ、加速度センサーの3センサーと、GPSによって被験者の動きを完全に把握出来るようになっている。

 この他、単眼カメラを右目側フレームの正面方向に搭載。カメラは写真撮影やARマーカー等の撮影に利用することになる。撮影中はインジケーターが点滅し、撮影であることを相手に知らせる仕組みがちゃんと組み込まれていた。

カメラで撮影中であることを知らせるインジケータ
付属するイヤフォン。バーチャルサラウンド機能も搭載。マイク付き
ボックス部にはmicroSDカードスロットが搭載されている。持ち出して楽しみたいコンテンツはmicroSDカードに保存して楽しむことも出来る

 BT-200にも、ボックス形状の小型コンソールボックスが付属し、MOVERIOの設定変更や動作制御はこのボックスを用いて行なう事になる。このボックスにはタッチパッドが実装されており、動作OSはAndroid 4.0。ボックス操作時は、眼前にはスマートフォンで見慣れたAndroid画面が表示されていた。

 ボックス部はIEEE 802.11b/g/n準拠のWi-FiとBluetooth 3.0の無線インターフェースを完備する。Wi-FiはMiracastにも対応。スマートフォン等で再生した映像を無線でBT-200側で再生できる。ただし、ボックス部はAndroid端末なので、WebブラウザやYouTubeを利用するだけであれば、ボックス部の使用だけで完結できる。

 オプションパーツとして、AVターミナルユニットを提供予定だそうで、ブースではその試作モデルも公開されていた。

 このAVターミナルの使い方は2通りが想定されている。1つはAVターミナルをテレビとHDMI接続する活用例。このケースでは、BT-200に投写されている映像をテレビにも表示させることができるようになる。

 もう一つはこのAVターミナルにBlu-rayプレーヤーなどのAV機器をHDMI接続する例。BDプレーヤーで再生した映画などをBT-200にMiracastで飛ばし、BT-200で楽しむことができるようになる。

オプションのAVターミナルユニット
左からUSB端子、DC入力、HDMI-OUT、HDMI-IN
左が受信(RX)モード、右が送信(TX)モード。RXはBT-200の映像をテレビに出力するためのモード。TXは接続したAV機器からBT-200に向けて映像伝送するモード
ARシューティングゲームをプレイ中の様子。AVターミナルユニットを使って被験者が見ているものと同じ映像をテレビに出力中

 BT-200はモーショントラッキングや位置情報対応、カメラ搭載……と、ARメガネ的な機能を全方位で装備するが、実は、ARアプリケーションがなくとも、それ単体で、「機動性をもったパーソナルAVマシン」として楽しめるようになっているのが好感触であった。

 実際、映画「オブリビオン」のHD映像を見せてもらったが、現実視界と表示映像の関係が「半透過」くらいまでならば、映像輝度が高いせいもあってか、かなり美しかった。もちろん、現実視界よりも映像の方の優先表示にしてしまえば、よりHMD的な画質に近くなり、さらに鮮烈な映像美が楽しめた。色再現性も良好で、動きの激しい映像でも色割れも知覚されない。720p未満の表示となっていたわけだが、解像感もそれほど悪くない。

 視覚上の映像の大きさとしてはリビングで2~3m先に置いた60型テレビを見ているくらいの感覚であった。「バーチャル大画面を楽しむ」というソニーの「HMZ-T」シリーズよりは、HUDというデバイスの性格上、大画面感はそれほどでもないが、逆に「HUDでここまで綺麗な映像が表示出来るのか」という驚きはあった。

BT-200をHMD的に活用するための遮光アタッチメント。
度付き眼鏡レンズをBT-200にはめ込むためのアタッチメント。これを使うと視力補正メガネの上にBT-200を掛けないで済む

 さて、期待されるBT-200対応のARアプリケーションだが、現状は、9軸モーショントラッキングなどの情報取得には、エプソンが開発契約を結んだデベロッパにだけ提供されるSDK(開発キット)を利用する必要がある。また、開発したアプリケーションもGoogle Playのようなオープンサービスでの提供は想定されないそうだ。

 この辺りは、キヤノンITソリューションズのAR/MRシステム「MREAL」がゲームエンジン「Unity」を採用したことに倣って、ゲームエンジンのプラグインシステムのような形でSDKを提供した方が、開発コミュニティでの広がりが期待できると思うのだが、どうだろうか。

 この第2世代MOVERIO「BT-200」は、今春日本でも発売が予定されており、想定価格は7万円前後。北米では3月から699ドルでの発売が予定されている。

BT-200の技術をベースにした業務用HUDソリューションのデモ。写真は、修理やメンテナンスをおこうための訓練用ARアプリの事例
こちらは赤外線カメラを使った事例で、血管を浮き上がらせた映像をAR的に見る事が出来る。医療現場向けソリューション
バンダイナムコゲームスが開発したARゲーム「Sketchbook Fantasy」。スケッチブックをARマーカーとして認識。このスケッチブックに描かれた絵を背景にタワーディフェンス系のアクションゲームが楽しめるようになっていた。

ソニーに対抗? LGも超短焦点フロントプロジョクションTVを展示

 今回のCESでは、ソニーがローボード型の超短焦点4Kプロジェクタを発表して話題を呼んだが、LGエレクトロニクスも、同種の製品の展示を行なっていた。製品名は「HECTO2」。

 曲面ミラーを駆使した超短焦点フロントプロジェクションという部分においては、ソニーのものと同じだ。ただし、採用している映像パネルが違う。LGの「HECO2」は、1,920×1,080ドットのフルHD 0.65型DMDチップを採用した単板式DLPプロジェクションベースのシステムとなっている。

 光学系にズーム機構はなし。ただし、わずか15cmの投射距離で100インチの大画面の投射を実現する。画面輝度は非公開だが、光源にはレーザー光を用いていること、DLP元来のハイコントラスト性能との相乗効果で公称コントラスト値は1,000万:1を謳う。

フロントプロジェクションシステム本体。
画面の明るさはリアプロジェクションTVと同程度のイメージ。ソニーの超短焦点4Kプロジェクタにあった光学ズームは無し

 製品には別体型の10W+10Wのサウンドバー(スピーカーユニット)と、100型のスクリーンが付属。また、プロジェクションシステム側にはデジタル放送対応チューナが内蔵され、LGのスマートTVの機能も全搭載される。

 実はこの製品。製品名に「2」とあることからわかるように2013年に発売された「HECTO」の後継モデルだったりする。

 従来モデルとの違いはMiracastやインテルの無線映像伝送規格「WiDi」に対応した点など。スペック表記上では100型の投写距離が、従来モデルの55cmから15cmへと短縮されているが、これは従来が壁面から光軸までの距離を記載していたものが、新モデルでは壁面から本体の設置位置までの表記に変わっただけ。となれば、画面輝度も従来の150cd/m2に準じた値と思われる。

 価格は未定とのことだが、これも従来モデルの9,000ドル(日本円で約90万円)と同程度だと予測される。

東芝REGZAの4Kテレビの動向を探る

21:9の5Kテレビは韓国メーカーも力を入れ始めた分野。日本メーカーとしては、この画面サイズと解像度にどんな価値を見出すのか。ちなみにLGとサムスンの105型5Kテレビは湾曲デザインとしていたが、東芝は平面デザインとしていた

 東芝REGZA の2014年モデルは、基本的に58型以上のモデルは全て4K化していくそうで、それにともない「4Kテレビにはもう一要素、別のユニークな提案」が必要になってくのではないか、と、東芝・デジタルプロダクツ&サービス社ビジュアルソリューション事業部 VS第一部 商品企画担当 参事 本村裕史氏は語る。

 今回の東芝ブースで展示された「3つの4Kテレビプロトタイプ」は、そうした「ユニークな提案」の具体的な形と言うことになるのだろう。

 1つは105型の21:9/5,120×2,160ドットの5Kテレビだ。シネマスコープサイズの映画を大画面で表示する、というのがこのテレビの直接的な活用方針となる。

 2つ目は65型の湾曲型4Kテレビだ。視聴位置のスイートスポットは狭くなるが、液晶の視野角的にも全表示面が視聴者位置に向くことになるこのデザインは、画質的にも優位だとされる。

 3つ目は、既に「プレミアム2K」ブランドのREGZA Z8シリーズで好評を得ている「ハイダイナミックレンジ復元」機能を4Kテレビにも適用していく提案で、今回の展示ではこれを65型の4Kテレビ試作機で実現していた。

65型4Kの湾曲型テレビ。画質的に優位な点はあるが、視聴位置のスイートスポットを狭くする面もある
ハイダイナミックレンジ復元機能を付加した65インチ4Kテレビ試作機。直下型LEDバックライト採用で700cd/m2というスペックはREGZA Z8と共通

 本村氏としては「3つ目」の「ハイダイナミックレンジ復元4Kテレビ」が最もリアリティのある「ユニークな提案」として、実際の製品化の検討を進めているそうだ。

 個人的には、「1つ目」の21:9アスペクト、5,120×2,160ドットの5Kテレビに魅力を感じている。もちろん、シネスコ・コンテンツを全画面で楽しめるというのも魅力なのだが、それに加えて、この横長大画面をマルチディスプレイ的に活用したら面白そうではないか……と筆者は考えるのだ。

100型のミラー型横長ディスプレイ「グラスルーチェ」。実は65型4K、29型2K、23型2Kの3画面を100型のハーフミラーエンクロージャに内蔵している構成。3つの独立したディスプレイ装置として駆動できる

 例えば、16:9コンテンツを表示したときに左右に縦黒帯が表示されるのではもったいないので、ここにさらに別入力の映像や放送映像を表示したりして活用するのだ。例えば、5,120×2,160ドットに3,840×2,160ドットで4K画面を1つ表示しても、1,280×2,160ドット分の領域があまるので、ここをみっちりと活用してやれば1,280×720ドットの3画面分の表示が行なえる。実際、今回のCESでも、LGが、21:9アスペクトのPCディスプレイ製品でそうしたアイディアを一部取り入れている製品があった。

 本村氏もこの提案に対して「同様のことを考えていた」と賛同する。東芝ブースで展示されていた、鏡とディスプレイを融合化した「GLAS LUCE」(グラスルーチェ)は、まさにそうしたアイディアを具現化したものの一形態だったとも述べていた。

 「大画面」と「高解像度」の2つの要素を持ったディスプレイ機器は、単なる「映像鑑賞用のテレビ」以外の価値も提案できる可能性を秘めているように思える。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら