西川善司の大画面☆マニア
第213回
【CES】16:9から21:9に変形する液晶TVなど、サムスン/LGブースをチェック
(2016/1/9 23:37)
毎年恒例、ライバル関係にあるサムスン対LGの対決だが、今年も幾つかの分野で波乱があった。物議を醸していたのは「最薄アピール問題」だ。
会期初日「世界最薄テレビ」としてサムスンは厚み3.81mmの液晶テレビを「World Slimest」というメッセージ付きでブース内に展示したのだが、対するLGは2.57mmの有機ELテレビを展示したので当然、世界最薄をアピール。
LGブースから来た一般来場者はサムスンブースで「ねえ、LGの有機ELの2.57mmの方が薄いよ」と声を掛けるわけで、これを受けて会期二日目、サムスンは、「World Slimest」のメッセージはそのままに、来場者に聞かれても厚み3.81mmの数値を言わないようになってしまった。
サムスンは液晶一本化。量子ドット技術採用のアピールで優位性主張
RGB有機ELサブピクセル方式で有機ELテレビの開発を進めてきたサムスンだったが、2014年に有機ELテレビ開発を断念することを発表。同時期にソニーとパナソニックもRGB有機ELサブピクセル方式のテレビ用有機ELパネルの共同開発を収束している。
これを受けて昨年のCESで、サムスンは「有機ELよりも液晶の方が美しい」というメッセージを打ち出すに至った。その「よりどころ」としたのが「量子ドット」(Quantum Dots)技術である。
量子ドット技術については本連載の過去記事で詳しく解説したことがあるので詳細はそちらを参照頂きたいが、簡単に解説すれば、入射してきた光をナノサイズの半導体結晶物質に照射して別の波長(色)の光に変換する技術ということになる。
なぜ量子(Quantum)というキーワードが出てくるかというと、光の波長変換を量子力学レベルで行なうからであるが、「量子」という言葉は未来的な響きがあるのでマーケティングキーワードとしても美味しいのである。
部材としては光学フィルムシート的なもので、エッジバックライトシステムでは白色LEDモジュールに張り合わせたり、直下型バックライトシステムでは液晶パネル全体に貼り合わせるような形で適用するパターンがある。
かくして「液晶一本化」の路線をとったサムスンは、この量子ドット技術を採用し、なおかつハイダイナミックレンジ対応を実現した4K液晶テレビに対して「SUHD」ブランドを与えたのである。
今年のサムスンブースのテレビ展示セクションはこの「SUHD」ブランドマークが乱舞し、その近くには「Quantum Dots Technology」を添えて、あたかもSUHDテレビは液晶テレビではないかのような印象を与えることに力を注いでいる。
そういえばサムスンはかつて、LEDバックライト採用の液晶テレビに「LED TV」というキーワードでマーケティングを展開したことがあった。今回の「SUHD」テレビ戦略もアレに近いものと考えていいかもしれない。
ちなみに、「SUHDのSはなんのSか。サムスンのSなのか」と聞くと面白い答えが返ってくる。「サムスンのGALAXYシリーズにGALAXY S6があるように、サムスン製品にはSが付くことでプレミアム感が与えられる。特に意味はないともいえるし、色んな意味があるとも言える」。
こうしたキーワード・マーケティング戦略においては腑に落ちない部分の多いサムスンだが、量子ドット技術を採用したテレビは実際のところ、発色はいい。ブース内では、2016年春モデルの量子ドット技術を応用した液晶テレビ製品の画質優位性を訴求するプレゼンテーションを実践していた。
量子ドット技術を活用して色再現性を向上させ、なおかつHDR表現にも対応させた4KテレビであるSUHD TVのラインナップは大別して2タイプ。1つはエッジバックライトシステム採用機である「KS9500」で、もう一つは直下型バックライトシステム採用機の「JS9500」である。
両モデルとも広色域に対応し、HDR対応を果たしてはいるのだが、BT.2020広色域のカバー率や公称コントラスト値は公開していない。ただし、UHD Allianceの「Ultra HD Premium」認証は取得しており、最低でも1,000nitのピーク輝度性能は保証しているそうである。
量子ドット技術ベースの液晶テレビの将来応用事例として、この他、8K(7,680×4,320ドット)解像度の98型湾曲液晶テレビの試作機も展示していた。
サムスンの170型液晶TV複数の液晶モジュールを合体させたもの
今年のサムスンブースで、最も感銘を受けたのが液晶パネルのモジュール化技術である。液晶テレビ用の液晶パネルは大型のものほど部材量が多くなるので製造コストは高い。製造したパネルから不良が出れば、それは損失として大きい。
そこで、1枚の大型パネルを作るのではなく、画素単位で切り出した適当な大きさのモジュール液晶パネルとして、これを複数枚縦横に結合させて大型パネルとして構成したほうが生産効率がよいのではないか? これをサムスンが具現化したというわけである。
1モジュール目測で一辺が30cm前後の正方形に近い長方形で、これを複数枚連結させて構成したのが、サムスンブースで公開されていた「世界最大級の液晶テレビ」として公開された「170インチのSUHDテレビ」である。
「モジュールパネルを連結させて大型パネルを構成する」というこのやり方は、オーロラビジョンのような超大型LEDディスプレイを構成する際によく用いられる手法だ。液晶パネルで実践する事例もなくはないが、その場合は、パネルとパネルの間にはベゼル(額縁)の隙間が生じるために2×2で結合した場合は「田」の字のような格子筋が顕在化してしまう。
今回、ブースで展示されていた「170インチのSUHDテレビ」には、そうした額縁は見えない。実際、写真を見ても「田の字」状の継ぎ目は分からないだろう。
これはシャープのFFD(フリーフォームディスプレイ)技術と同様の、液晶画素を駆動するゲートドライバー等を画素単位に形成する類の技術を応用して「ベゼルなし」のパネルを生成しているものと思われる。
先ほど、「継ぎ目は見えない」といったが、実際には継ぎ目は存在し、継ぎ目を見えにくくするために、表示面側に1枚板のガラス板を貼り合わせることで「見えにくくしている」とのことである。
なので、最大望遠で撮影してみると、実際にはうっすらと継ぎ目が確認出来る。
しかし、この辺りを妥協すれば、1枚パネルでの製造が難しい、マザーガラスサイズを遙かに超えるような液晶パネルを自在に構成出来るということなのだ。
サムスンはこの技術を使った応用事例として、ただ1枚の大型パネルを構成するだけでなく、小さなサイズの液晶モジュールを動的に合体分離させるソリューションを展示していた。
1つは、複数の液晶モジュールが、表示されているダイナミックなダンス映像にあわせて、演出的に大きな画面に集約したり分離したりをするもの。これはデジタルサイネージの応用事例として有望だろう。
もう一つは、映画表示に最適なシネマスコープサイズのアスペクト比21:9状態と、普通のワイドアスペクトである16:9状態を交互に往き来する応用事例で、こちらは民生用途向けのテレビ製品にも使えそうなアイディアだ。
サムスンは、この液晶モジュールを合体分離させて全く別形態の画面サイズ、アスペクト比の状態に移行させる機能を「トランスフォーマブルTV」と名づけていた。この「トランスフォーマブルTV」、実際の製品化については未定。実際問題、この変形メカ自体のコストが高くつきそうなので、製品化の可能性は低そうではある。
ただ、前出の170インチ大型液晶テレビのように「1枚の大型液晶パネルを作るための代替案」としてはこの技術は有望なので、何らかの形で、日の目を見る事になるかも知れない。
Ultra HD Blu-rayプレーヤーとソフトのパッケージイメージも
4Kブルーレイこと、Ultra HD Blu-rayのプレーヤーは、日本勢ではUltra HD Blu-ray規格の言い出しっぺであるパナソニックが実機製品を展示して面目を保っていたが、韓国勢ではサムスンが先陣を切る格好となった。
今春発売予定で、型番は「UBD-K8500」。一緒に、これから発売される予定のUltra HD Blu-rayソフトのイメージサンプルも展示していた。
パナソニックは実機での再生デモを行なっていたが、サムスンのプレーヤーは本体の展示のみだ。ただし、店頭価格を399ドルと公表され、実際のパッケージも展示していたので、Ultra HD Blu-ray時代到来のリアリティは十分に訴求出来ていたように思える。
LGは有機EL推し。IPS液晶にも配慮しつつのHDR時代へ
LGブースは、有機EL(OLED)を前面に押し出した展示で、入口には膨大な数の有機ELテレビを直径十数メートルのドーム状にレイアウトし、これを巨大なドームスクリーン見立てて、街の夕闇や海棲生物が泳ぐ海底を表示するデモを実践していた。有機ELテレビの特徴はなんといっても漆黒の黒なので、この特性を際立たせる内容となっていた。
テレビセクションのメインテーマもハイダイナミックレンジ(HDR)で、様々なHDRコンテンツの表示デモが行なわれていたが、ユニークだったのは、LGのテレビ製品内で“HDR対応レベル”を規定しているところ。
LGとしては、最上位テレビ製品は有機EL製品で、自発光の強みを活かし、「HDR PRO」という対応レベルを与えている。
一方でLGは、IPS液晶を推進してきたこともあり、IPS液晶テレビ製品をぞんざいに扱うことは出来ない。そこで、4K液晶テレビ製品もHDR対応、BT.2020規格広色域対応製品については「SUPER UHD」ブランドを与えている。
しかし、IPS液晶は自発光映像パネルではないので、やや有機ELに対してHDR対応力は及ばない……ということで4KのIPS液晶テレビの「SUPER UHD」のHDR対応力については「HDR-Plus」というレベル名を与えている。
まぁ、「PRO」と「Plus」で、“PROの方が偉い”としたLGのブランディングが分かりやすいかと聞かれれば判断が難しいが、一応、LGとしては「有機ELの方が上位」という考えを明確化してきたのである。
ちなみに、LGの今期の有機ELテレビのピーク輝度は800nitで、昨年モデルの500nitから+60%向上している。液晶テレビのピーク輝度の公称値は不明だが、サムスンの液晶テレビが1,000nit、他社製品も筆者が把握している範囲では同程度なのでLGでも同じくらいのはずだ。
よって、ピーク輝度については、「HDR対応液晶テレビの方が有機ELテレビよりも上」という認識で良いかと思う。ただし、コントラストは暗部の沈み込み具合にも依存し、その点においては自発光画素を有する有機ELが圧倒的優位であり、結果、実効コントラストは液晶よりも有機ELの方が上となる。
LGの有機ELテレビ、G6とE6の違いについて
今回のCESで発表されたLGの有機ELテレビには、上位のG6シリーズ、下位のE6シリーズがある。違いが今ひとつ分かりにくかったが、ブースで細かく聞いてきたので紹介したい。
G6は77型/65型をラインナップし、E6は65型と55型で展開するのだが、基本的な表示性能は両モデルとも同じで、ピーク輝度は800nitとなっている。つまり、HDR対応力は「HDR PRO」で同じなのである。
違いは、有機ELパネルの表面のコーティングにあり、上位のG6は3層コーティングを実践することで、外界の映り込みをより低減させている。下位のE6はこれが二層コーティングになっている。
サムスンを結果的に黙らせることになってしまった世界最薄2.57mmの薄さはG6/E6共に同じである。
ただし、上位のG6は背面をスラントかつスリークなデザインにまとめ上げ、スピーカーユニットをスタンド部に追い出すなどして手が込んでいるのに対し、E6は、2.57mmの薄さはボディの上部のみで、下部は一般的な液晶テレビ並の厚さとし、スピーカー等もその下部に当て込んでいる。
背面があまりにもすっきりとスリムなデザインとなっているため、G6の背面に、バイナルグラフィックを貼り付けるデザイン提案を行なっていた。このアイディアは、あくまで参考出品で、サービスとして提供するかどうかは未定とのことだが、バイナルグラフィック自体はありふれたものなので、電機量販店等が独自にこうしたサービスを展開するようになるかも知れない。