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4K+HDRに進化した「Apple TV 4K」でテレビが便利に。課題はコンテンツ数

 Apple TVが2年ぶりにリニューアルし、「Apple TV 4K」になった。その製品レビューをお届けする。この2年の間に、リビング向けのテレビは大きく変わった。2年前は4Kがようやく立ち上がりはじめた頃だったが、現在の主力商品は4K+HDRになっている。

Apple TV 4K。サイズもデザインも、2K版とほぼ同じだ

 Apple TV 4Kはその名の通り、Apple TVを4Kに対応させたものだが、現在のトレンドを反映し、「4K+HDR」になったのが進化点だ。この言葉で、Apple TV 4Kの機能的な本質はほぼ語り尽くされている。

 だが使ってみると、この製品がもう少し奥深い、面白い製品になっているのにも気付く。アップルからの「遅れてきた4K対応製品」がどうなっているのか、チェックしてみよう。

外観は「おなじみ」のスタイルのまま

 冒頭で述べたように、Apple TV 4K最大のアピール点は「4K」だ。だから、箱にも名前がはっきりと書いてある。箱は黒から白へ変わり、名前にも「4K」とついたものの、外観的な変化はそのくらいである。2Kと4Kを一緒に使っていると、どっちがどっちだったか忘れるほどだ。

Apple TV 4Kの外箱
左がApple TVの箱、右がApple TV 4Kの箱。黒から白へイメージチェンジ
左がApple TV 4K、右がApple TV(2015年版)。こうして見ると違いがわからない

 とはいえ、もちろん違いはある。2015年版(2Kモデル)にはあったUSB-C端子が、4Kからはなくなった。もともとサービスコネクタのような扱いで、一般には用途があまりなかったのでなくなったのだろう。実はあのコネクタ経由でスクリーンショットを撮れたのだが、その機能は「ネットワーク経由で行なう」ように変わったので、実際にはなくても困らない。今回の記事のスクリーンショットと動画も、その機能を使って撮影している。

 なお、ネットワーク経由でApple TV 4Kのスクリーンショット・動画を作成するには、macOS High Sierraの「QuickTime Player」を使う。この場合、記録解像度は2Kに限定されるし、著作権保護されたコンテンツは、Mac側には表示されないようになっている。

本体背面。左がApple TV 4K、右がApple TV(2015年版)。2015年版にはあったUSB-Cの端子がなくなった

 底面にも変化がある。2015年版にはなかった放熱スリット的なものが、4Kにはあるのだ。これは、プロセッサーが「A10X Fusion」になったことなどから、内部の放熱が厳しくなったためだろう。スリットはできたが正面からは見えないし、排気音がするわけでもない。使っている時は気にする必要もないだろう。

左がApple TV 4K、右がApple TV(2015年版)。4Kには放熱用と思われるスリットが用意されている

 本体の他の付属品は、電源ケーブルとリモコンの「Apple Remote」、その充電用のLightningケーブルと、これも変化がない。ただ、Apple Remoteは「Menu」ボタン周りに突起状のリングがついた。これはおそらく、暗闇で触ってもすぐにわかるように……という配慮に伴う改善だろう。機能的には変化はない。

内容物。こちらも2015年版と大差ない。HDMIケーブルは付属しない
Apple TV 4Kのリモコン
左がApple TV 4Kの、右がApple TV(2015年版)のリモコン。「Menu」ボタン周りに突起状のリングがついたが、機能は同じ

 なおリモコンについては、iOS11の登場に伴い、変化がひとつある。

 以前から、アップルが公開しているアプリ「Remote」を使うことで、iPhone・iPadをApple TVのリモコン代わりに使うことができたが、iOS11からはアプリが不要になる。OSの「コントロールセンター」から直接呼び出せるようになるからだ。操作がひと手間減るので、ありがたい改善である。これは従来のApple TVでも利用できる。

コントロールセンターにApple TV
iOS11搭載機器と組み合わせると、Apple TVのリモコンアプリが不要に。

わかりやすい「4K+HDR」の設定項目

 Apple TV 4Kの本質は「4K+HDR」だ。適切なテレビに適切なケーブルをつかって、4K+HDRのコンテンツを表示すればきちんと映る。Apple TVに標準搭載されている、空撮映像を使ったスクリーンセーバーも4K+HDRにリマスタリングされており、UI系も4Kになっている。

編集部にある「REGZA Z10X」にApple TV 4Kをつなぎ、スクリーンセーバーを表示。きちんと4K+HDRになっていることがわかる
比較のためにSDRも。色深度とクロマフォーマットが違う
4K対応版のNetflixアプリで、4K+HDRのコンテンツを視聴。きちんとHDRになっている

 ただ、4K+HDRのことをご存じの方ならおわかりのように、2K時代に比べ、4K+HDRの設定は複雑化している。同じ4K+HDR対応テレビでも、発売時期によっては「4K+HDR+60p」の表示はできない場合があるし、テレビのHDMI端子のすべてが4K+HDRに対応しているわけでもない。HDMIケーブルも、18Gbpsの伝送帯域に対応した「プレミアムHDMIケーブル」認証のあるものが必要になる。AVファンならともかく、普通の人にはなかなか高いハードルだ。

 Apple TV 4Kは、その辺での配慮がうまくできている。

 まず接続時には4K+HDRでの接続を試し、「解像度とフレームレート優先」で自動設定を行なうようになっている。

ケーブルをつなぐと、HDRでの表示に対応しているか、自動でテストを行なう

 「設定」の「ビデオとオーディオ」の中にはより詳しく、きちんと設定するための項目も用意されている。まずは「ケーブルを調べる」を選ぶことをお勧めする。これを実行することで、適切な表示が行なえるかどうか、調べてくれるのだ。4K+HDRが見れるつもりなのにうまくいかない場合には、ここでセッティングできるし、ケーブルの問題も見つけられる。

「ビデオとオーディオ」から、各種設定が行える。特に解像度・色深度などの設定項目は充実している。
「ケーブルを調べる」を選ぶと、適切な設定かどうか・ケーブルが規格に対応したものかどうかを確認してくれる

 もちろん、明示的に設定を変えることもできる。解像度・色域・フレームレート毎に設定が並んでいるので、自分が求めるものを選んで試してみればいい。

 4K+HDR関係で面倒なのは、スペック的に機器は機能を満たしているのに表示出来ない場合、それが「テレビの問題」か「ケーブルの問題」か「機器の問題」かが分かりづらいことだ。Apple TVもそのジレンマと無縁ではないが、少なくとも、各種設定から明示的にチェックできるので、「問題がどこにあるか」「どの表示を今の自分が使えるか」はわかりやすくなっている。過渡期的な仕様といえるが、この種の機器の中では、Apple TVの仕様は「わかりやすいもの」といえる。

解像度・色域などを明示的に選んで設定することも可能。「使える・使えない」を自分で試して確認できる分、わかりやすくはある。
PCでの解像度変更に近いUIで、変更結果をチェックできる
解像度だけでなくクロマ設定も、動作確認しながら設定が行なえる

 なお、オーディオ出力については、2015年モデルと同様で、7.1chもしくは5.1chの出力まで。Dolby Atomosなどのオブジェクトオーディオには対応していない。

オーディオ出力に変化はない

UIはそのまま、4K+HDRコンテンツは「当面Netflixと写真」

 ではUIを見てみよう。

 実際問題、2015年モデルと大差ない。解像度が4K化されたくらいだろうか。(ただし動画キャプチャ環境の問題から、以下の動画は2KのUIである)

UIに大きな変化は見られない。動作がなめらかであることが特徴なのは変わりない。
UIの様子を動画で。基本的にはこれまでのモデルを踏襲している

 Apple TVの特徴は、Siriをつかってコンテンツを検索できることだ。英語環境では、「HDRのコンテンツを探して」などと言えば対応作品がすぐに出てくるようになっている。

 しかし、日本ではそうはなっていない。これは、Siriのデータベースのアップデートの問題なのか、それとも、テスト段階での日本のiTunes Storeに「4K+HDR作品」がなかったからか、不明だ。

SiriでHDRコンテンツを探してみたが日本ではまだうまく動いていない

 海外では9月22日の発売時から、それなりの数の4K+HDR作品が配信されるものの、日本では準備に時間がかかる模様だ。アップルとしては「積極的にコンテンツ提供をよびかけていく」としており、いくつか交渉もまとまっているようだが、アメリカ市場向けほどスムーズにいっていない……という状況であるようだ。

 なお、4K+HDRのコンテンツが配信された場合の価格は「2K版と同じ」であり、すでに2K版の映画を持っている人には、同じ映画の4K+HDR版が配信されると、自動かつ無料で4K+HDR版にアップグレードされる。この方針は「基本的には日本でも変わらない」(アップル関係者)という。

 すなわち現状は、4K+HDRに対応している別のサービスを併用するのが基本となる。具体的には「Netflix」だ。Apple TV 4Kの発売に合わせてアプリがアップデートされ、4K+HDRへの対応が行なわれる。こちらは筆者も試したが、問題なく高画質に視聴できた。

NetflixはApple TV 4Kに初日から対応。きちんと4K+HDRのコンテンツを楽しめる

 他のサービスにおける4K+HDR対応は、まだ「準備中」といったところのようだ。

 これまでAmazon プライム・ビデオはApple TVに対応してこなかったが、年末までの対応がアメリカでアナウンスされた。

 Apple TV対応のゲームについては、現状は「2K描画からの4Kアップコンバート」になっている。ただし、ゲームデベロッパーが開発すれば、4K+HDRでの描画も行なえるという。

 自分で撮影した写真などは、iCloudの「写真」機能を介して、4Kでテレビに表示できる。写真を動画スライドショーにする「メモリー」も4K対応だ。iPhoneでたくさん写真を撮っている人には、案外この機能がもっとも有用かも知れない。少なくとも操作性でいえば、SDメモリーカードやデジカメを経由し、テレビにつないで表示するよりずっといい。

 一方で、YouTubeは4K+HDRに対応していない。現状では対応予定もないようだ。4KテレビなどではYouTubeの4K動画もかなり見られているので、ここで対応がないのは気掛かりである。

 なお、2Kコンテンツについては、内蔵SoCである「A10X Fusion」を使って4Kへのアップコンバートされ表示される。アップコンバート品質は「そこそこ」。圧倒的な効果、とは思わなかったが、十分満足できるものだと感じた。Apple TVを使っている人には、PC用モニターなどにつないでいる人も多い。チューナがいらなければその選択肢はアリだし、昨今は4Kディスプレイも安くなってきたので、賢い選択のひとつだとは思う。ただし、4Kディスプレイには良いアップコンバート機能が備わっていない場合が多く、2Kのコンテンツを見る時に不満が出やすかった。Apple TV 4Kの場合、「Apple TVを介して見られる2Kの映画や動画」に限定されるものの、アップコンバート画質が「若干良くなる」メリットがある。

iPhoneユーザーにはファーストチョイス、安価なライバルをどう見るか

 映像配信の世界も、この2年でずいぶん変わった。日本はサービス展開やコンテンツ増加の面で、いまだアメリカに比べ不利である。しかしそれでも、Netflixを初めとしたSVODや、Abema TV・DAZNのようなライブ中継系のサービスも増え、「放送への依存度」は減ってきている。

 それらのコンテンツをいかに快適に見られるかは、今後のテレビにとって重要な課題だ。テレビ内蔵の機能も進化はしてきたが、パフォーマンスなどの問題がまだ残っている。外付け機器の方が、性能もいいし価格も安い。

 Apple TVはその最たるものだが、問題は、他のライバルが「非常に安くなっている」こと、映像配信におけるiTunes Storeの価値が低下していることだ。上にはPS4 Proのようなゲーム機があり、下にはAmazonのFire TVのような安いSTBがあり、厳しい市場ではある。

 しかし一方で、「快適に4K+HDRを楽しめる外付け機器」として、Apple TVの完成度が高いことに変わりはない。特に、iPhoneなどアップル製品との連携は強い。結局iPhoneユーザーにとっては「圧倒的ファーストチョイス」であり、そこで「丹念な4K対応が行なわれた」ことが、Apple TV 4Kの価値なのだ。ここで、「4K+HDRの映画配信」がもっと増えれば、状況は大きく変わってくることだろう。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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