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第502回

新Apple TV 4Kはどこが進化したのか。リモコン刷新、画質最適化

Apple TV 4K。ストレージは32GBと64GBがあり、前者は2万1,800円で、後者は2万3,800円

アップルのテレビ向けセットトップボックスである「Apple TV 4K」が久々にアップデートした。5月21日から発売が開始されるが、製品版の動作をチェックしてみよう。

同製品の前のモデルが発売されたのは2017年9月のことで、実に4年ぶりの刷新である。前回も本連載でレビューしているが、それと比較しながら解説していきたい。

4K+HDRに進化した「Apple TV 4K」でテレビが便利に。課題はコンテンツ数

4年前とではコンテンツをめぐる状況も、テレビをめぐる状況も大きく変わっている。その中で、新モデルはどのような位置付けになるのだろうか。

デザインは過去とほぼ同じ、でも「リモコン」は完全刷新

ちょっとおさらいから入ろう。

アップルは現在、「Apple TV」というブランドをハードとサービスの両面で使い分けている。

アップルが関わる映像配信サービス全体を「Apple TV」とし、それを利用するためのアプリが「TVアプリ」もしくは「Apple TVアプリ」として提供されるようになっている。アプリはアップル製品だけでなく、テレビやPlayStation 5、Fire TVなどの他社製品にも公開される形になり、色々な機器で利用可能になっている。

さらに、アップルが出資して作ったオリジナル作品を配信する、有料の映像配信サービスとして「Apple TV+」がある。これはサービスとしてのApple TVの中にある有料サービス、という入れ子構造でちょっとわかりにくくはあるのだが、「+がある」ので混同しないようにしていただきたい。

そして、ハードとしてのApple TVは「アップルのサービスをテレビで楽しむための専用デバイス」として開発されたものだ。ハードウェアとしての歴史はもう10年以上になるが、アップルの他の製品に比べると、長いスパンで販売されている印象が強い。

今回の製品も、本体の外観を見ると、旧モデルとの差はほとんどない。

以前の記事に掲載した、2017年モデル(左)・2015年モデル(右)のApple TV。冒頭の写真と比較していただきたいが、形は変わっていない。サイズも同じだ
2021年モデルの背面と底面。2017年モデルと全く同じだ

ただ、箱を見ると今の状況の変化が感じられる。「4K」の文字が強調され、箱の裏には連携する機器や他社サービスの名前が並ぶ。映像配信がより日常的なものになった時代に合わせた変化を受けて、商品を手に取る人に向けたわかりやすさを改善したのだろう。

本体の箱の「4K」はレインボーカラー。これが外観上の大きな違いだ
箱の裏には、連携するサービスや機器の説明が。「2021年にApple TVでできること」をシンプルに表している

ハードウエアとしての最大の違いは「リモコン」だ。

2017年モデルではタッチパッドを軸にしたリモコンだったが、2021年モデルでは「ボタン」軸のものに変わった。ボディもアルミ削り出しになり、以前より重く厚みがある。とはいえ、適度な大きさ・重さで使いやすい。

個人的には、新たに「電源」「ミュート」のボタンが付いたのがうれしい。

これらはHDMI CEC経由で動くようになっていて、テレビとApple TVの両方を「電源」ボタン1つでオフ(正確にはスリープだが)にできるようになっている。

また、テレビの側の音声をミュートするボタンもあるので、「音量を一時的に下げるためにテレビのリモコンを持ち出す」必要がない。

映像配信を中心に楽しむならこのリモコン1つで操作が完結するので、より便利になった。実のところ、筆者が一番評価する「2021年モデルでの進化点」は、リモコンの変更だ。

2017年モデルのリモコン。タッチパッドが目を惹く
2021年モデルのリモコン。アルミ削り出しで、以前のものより重くなった。タッチパッドから「ボタン」になり、ボタンとしても「電源」(右上)と「ミュート」(左下)が追加になっている

「ボタン」に回帰した理由は、リモコンに求められる「正確さ」を重視してのことだ。タッチパッド操作は素早いが、「メニューの特定の位置でピッタリ止める」のは少し慣れがいる。

実は筆者は、実家のテレビにApple TVをつなぎ、両親がテレビで映像配信を見られるようにしている。その時、タッチパッドのスライド操作は、彼らにとって少し戸惑いを感じるものであるように思えた。これは高齢者だけでなく、ある種の好みや慣れの問題でもあり、若くとも「ボタンの方がいい」という人はいるはずだ。

2021年モデルでは、ボタンによる動作に加え、ボタンの表面がタッチパッドとしても機能するようになっているので、黒く丸い部分で指を滑らせると、これまで通り、タッチパッドの素早い動作が使える。両方のいいところどりをしているのは、非常に好ましい。

クリック感のあるボタンだが、実際には表面がタッチパッドとしても動作するようになっていて、正確な操作と素早い操作を両立している

サイドには音声認識の「Siri」を呼び出すボタンがある。これを押しながら、リモコンをマイクのように見立てて話すわけだ。この使い方は理にかなっているし、わかりやすく戸惑いもない。

側面には「Siri」ボタンがあり、音声認識を使う時は、ボタンを押しながらリモコンに向かって話す

なお、充電はLightningケーブル経由で行なう。頻繁に行なうものでもないし、満充電まで何時間もかかるわけではない。iPhoneのケーブルを、充電が必要になった時だけ短時間使わせてもらう……的な感覚で十分だろう。

底面には充電用のLightningコネクターがある

「iPhoneからの設定の簡単さ」は圧倒的

では使い勝手はどうだろうか?

まず、セットアップがとにかく簡単だ。これは今のアップル製品の特徴でもあるが、Bluetoothを使ってiPhoneと連携するようになっており、iPhoneの側から設定などを引き継ぎ、ワンタッチで設定が完了するようになっているのだ。

具体的には、Apple TVをテレビと電源につなぎ、テレビの電源を入れてからiPhoneを持って近づくとiPhone側にApple TVの設定を促す画面が出るので、「設定」をタップするだけでいい。すると、Apple IDからWi-Fiの設定など、必要な情報が自動的に転送され、設定が完了する。

初めて電源を入れた場合には、設定を「iPhoneと連動して行なう」ことが可能になる。Apple IDやWi-Fiなど、必要な情報はiPhone側から転送される
iPhone側では「設定」をタップするだけ。AirPodsなどの設定と似ている

この設定の簡単さこそ、「他のSTBでなくApple TVを選ぶ理由」だと思う。ただし、iPhoneの利用者限定ではあるが。アップル製品との連動を求める人向けの製品なので当然といえば当然だ。他のSTBにアプリとして「Apple TV」を入れて使うこともできるし、後述するように、映像視聴だけならそれでも満足できる部分があるだろう。だが、設定の簡単さは、他のアプリやSTBでは満たせない部分でもある。

なお、iPhoneでの設定を終えると、そのまま「iPhoneをApple TVのリモコンがわりにするかどうか」も聞かれる。こちらも以前からある機能だが、設定や呼び出しが簡単になった。リモコンの方が快適なので常用することは少ないと思うが、スマホからも操作できるのは意外と便利である。

なお、今回の話題として、やはりiPhone(正確にはFace ID搭載のものに限定)連携機能となるが、テレビの表示画質を調整する「カラーバランス」調整機能がある。画面の表示をiPhoneのセンサーで取り込み、最適な画質に合わせるものである。

テレビに調整機能があり、適切なコントロールが行なわれているのであれば、この機能を使う必要はないと思う。設定がまったく行なわれていない場合や、そもそも設定機能が弱いPC用ディスプレイなどで使う場合にとても有効だ。調整機能自体はとても優れたものだ。

この点については編集部がテストした記事が掲載されているので、そちらをお読みいただくのがいいだろう。

iPhoneでテレビがプロ画質に!? Apple TVのカラーバランスを試す

実のところ、この機能は2021年モデルでないと使えないものではなく、過去のApple TVであっても、tvOSのアップデートで対応できる。このあと紹介する各種UIの進化も、基本的にはtvOSのアップデートで対応できる。

2021年モデルの特徴は、ハードウエアの性能進化による「ゲームのクオリティアップ」と、4K・HDR・60Hzコンテンツへの対応、そして前述の新リモコンといったところになる。残念ながら、日本では4K・HDR・60Hzコンテンツがほとんどなく、この進化点があまり生きてこない。スポーツで有効なものなので、「4K・HDR・60Hzでのスポーツ配信」が増えてほしいと思う。

設定項目より。「4K・HDR・60Hz」の項目が登場している点に注目

高速動作でUIが快適、「リモコンの改善」の美点も

前述のように、UI自体はtvOSの進化で実現している。また、各種プラットフォームに提供されている「Apple TVアプリ」でも扱える部分は多い。だが、最新の2021年版Apple TV 4Kで使うと、やはり動作が速くてかなり快適だ。

ホーム画面からアプリを呼び出す、という基本的な構造は昔から変わらないが、アプリ間をスワイプなどでサクサク移動し、切り替えながら使えるのは快適だ。

Apple TVのホーム画面。アプリをアイコンから呼び出す形は変わらない
アプリを切り替えていく動作は素早く快適

一方で、アップルのサービスである「Apple TV」も、ハードであるApple TVの中に「TVアプリ」として入っている。冒頭で述べたような階層構造があるからだ。

「TV」アプリ。アップルからの映像配信は、このアプリを使って視聴する

実は標準設定の場合、リモコンの「ホーム」ボタンを押したときには「ホーム」ではなくこの「TV」アプリに戻るようになっている。映像配信としてのアップルのサービスを多く使うならその方がいいのだろう。ただ、他のサービスも頻繁に使うなら、「ホーム」を呼び出す設定に変えた方がいい。

意外なほどいいな、と思ったのが「ミュージック」だ。Apple Musicと連動するのだが、音楽が再生できるだけでなく、ミュージックビデオが見られるのがいい。言及されることが少ないが、Apple Musicには意外とミュージックビデオも多い。だから、テレビでゆったりミュージックビデオを楽しむには、Apple TV 4Kはとても向いている。

「ミュージック」アプリ。Apple Musicと連動する
ミュージックビデオの視聴が快適なのは、テレビ向けとしてとても良い要素だ

なお、先日発表されたように、Apple Musicは6月から「空間オーディオ」に対応する。Apple TV 4Kからも楽しめるようになるとのことなので、ここも気になる要素ではある。

Apple Musicはなぜ「空間オーディオ」「ロスレス」に対応したのか

Apple TV 4Kならではの要素として「リモコン」を挙げたが、リモコンは特に映像再生時に特別な価値を持つ。

冒頭の写真で見るとわかるように、リモコンのボタン兼タッチパッド部は、「丸い形状にセンターボタン」となっている。これは、その昔の「iPod」と同じ構造と言っていい。

実際、タッチパッドの丸い部分は「クルクルとタッチする」動作が可能になっている。これは、動画を一時停止して好きな場所まで飛ばすときなどに便利だ。サムネイルが出るのだが、クルクル回すとそのサムネイルが高速で切り替わりながら移動していく。目的の場所がとても探しやすい。

PS5やXboxのコントローラにも対応

Apple TV 4Kというハードウエアを使う利点の一つは「ゲーム」だ。もともと、tvOS向けにそれなりの数のゲームが出ていたが、今は「Apple Arcade」もあり、そちら向けのゲームも増えている。

tvOS向けのゲーム、特にApple Arcadeのゲームは、いわゆる「ゲームコントローラー」で遊ぶものが増えている。

例えば、「みんなのゴルフ」の開発元であるクラップハンズが開発した「CLAP HANZ GOLF」も、Apple TVの上ではコントローラーを使って遊ぶようになっている。

Apple Arcadeで密かに筆者がイチオシのゲームである「CLAP HANZ GOLF」も、Apple TVではコントローラーを使う

過去、tvOSやiOSからは「専用に作られたコントローラー(MFi対応製品)」のみに対応していた。ただ、現在のアップル製品では、PS4向けの「DUALSHOCK 4」、PS5向けの「DualSense」、PC/Xbox向けの「Xbox Oneワイヤレスコントローラ」にも対応しており、Apple TVからも使える。ペアリングの方法も画面に出てくるくらいだ。手持ちのものがある、という人も多いだろうし、かなり身近に感じられるのではないかと思う。

PS4向けの「DUALSHOCK 4」、PS5向けの「DualSense」、PC/Xbox向けの「Xbox Oneワイヤレスコントローラ」のペアリング方法は、Apple TVに表示される

こうした点も含め、2021年版Apple TV 4Kは、「今のアップル製品の最新事情」を反映した製品、という部分が多い。tvOSのアップデートで、同じことが2017年モデルでもできるのだが、やはりそろそろ、新しい世代のプロセッサーに変えておいた方が無難ではある。

「今、iPhoneユーザーが選ぶと最も良いSTB」こそがApple TV 4Kの本質であり、その最新モデルであることが、最大の価値なのだ。

西田宗千佳