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西田宗千佳の
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E3 2010特別編 SCE平井社長単独インタビュー+会見詳報

「Move」、「3D」、「Plus」はPS3をどう変えるのか


SCE平井一夫社長。今回はソニー本社役員ではなくSCE社長の立場でお話を伺った

 E3のプレスカンファレンスを、ゲームプラットフォームホルダーの中で一番最後に行なったのはソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)だ。

 実のところ、他の2社ほど「新しい驚き」があるわけではない。すでに発表済みでビジネスの準備を進めていたものと、ちょっとしたサービスの公開を行なった、というのが実情である。別の見方をすると、プレスカンファレンスではあくまで「“アメリカ市場で”年末商戦をどう戦うか」に注力したメッセージを発した、ともいえる。

 他社と一線を画した戦略を採ったのはなぜなのか? そして、他社の動きを含め、現状のゲーム業界をどう考えているのか?

 SCE 平井一夫社長へのインタビューと、プレスカンファレンスや会場取材で得られた情報を合わせてお伝えしたい。 


■ E3での発表は「アメリカのもの」。「過剰なハードウエア」の意味が4年目で開花

プレスカンファレンスの会場となったShrine Auditorium。3Dデモの際には中央に大きなスクリーンが登場した

 すでに述べたように、SCEのプレスカンファレンスは、現地アメリカの状況にぴったり合わせた形のものだった。

 スタートしていきなり画面に現れたのは、よく知らない白人男性。どうやらSCEのエクゼクティブ、ということらしいが、それだけで現地のアメリカ人は爆笑した。彼の名は「プレイステーション広報部長のケビン・バトラー」。といっても本当は架空の人物で、正体は俳優のジェリー・ランバート氏だ。


「プレイステーション広報部長」のケビン・バトラー氏。アメリカでのSCEのCMキャラクターで、要は「SCE版湯川専務」といったところ。

 実は筆者も会見後に知ったのだが、「ケビン部長シリーズ」は、現在SCEアメリカが展開中のCMプロモーションのメインキャラクター。ちょっと自虐的なコメントを発しながら行なうプロモーションキャンペーンが、全米でゲームファン以外にも人気なのだとか。日本でいえば懐かしの「湯川専務」(Dreamcast発売時のCMに登場)、といったところだろうか(あちらは本当にセガの役員だったのだけれど)。

「ひきこもりでも大画面があれば楽しい。それこそが“ゲーミング”。夜中にゲームをクリアーし、トロフィーをゲット! でもそれになんの価値もない。それこそが“ゲーミング”。楽しいじゃないか! 友達が素敵な彼女を作ったって? 大丈夫、君は負け組じゃない。ほら、”ゲーミング”があるじゃないか!」

 カンファレンスのハイライトで、ケビン部長は壇上で長々とこのようなアジテーションを行なった。ゲーム業界へのエールなんだかなんだかさっぱりわからないが、会場は確かに大盛り上がりだった。

 実は、ゲームタイトルの紹介にしてもそうだ。全世界でヒットしそうなタイトルをまんべんなく紹介するのではなく、アメリカ市場で人気のタイトルにしっかりフォーカスを当てる形になっている。なにしろ、最後に大歓声で迎えられたのが、日本ではきわめてマイナーなタイトルでしかない(実は筆者もPS1の頃に見た経験しかない)「Twisted Metal」という作品だったくらいなのだ。

ステージやゲームを自由に作れることで人気の「LitteBigPlanet」に続編「2」が登場。こちらは日本でも知名度が高いが、やはりアメリカでの評価が高いタイトルの一つ タイトル紹介のトリを飾った「Twisted Metal」。大きな車の作り物も登場。現地では大歓声で迎えられたが、日本人にはちょっとピンと来なかった

 もちろん、モーションコントロールデバイス「PlayStation Move」(以下Move)や3Dゲーム、定額制の新サービス「PlayStation Plus」(以下PS Plus)も発表され、それらはそれなりにニュースバリューを持っている。だが、あくまでそれらは「タイトルありき」の存在。「こんな新技術・新サービスでこんなゲームができる」というシンプルなメッセージに終始した。

 これはどういった方針に基づくものなのだろうか? 平井社長は次のように語る。(以下、インタビューコメントは敬称略)

平井氏が登壇、BRAVIAとの連携による3Dの訴求について解説を行なった

平井:誤解も多いのですが、E3は第一に「アメリカのショーである」ということであり、それを念頭に置いて、アメリカ市場向けのメッセージに注力しています。日本やヨーロッパ、アジアに向けた施策については、東京ゲームショウなど、適切な場でご紹介することになります。例えばゲームのタイトルなどについては、完全に地域に合わせてご紹介すべきだと考えていますので。

 とはいえその中で、ワールドワイドに向けてご紹介できるものはE3で、という形を採らせていただいています。

 ただその中で、今回は、特にジャック(SCEA CEOのジャック・トレントン氏)にお願いして、ソニーグループ・SCE全体の代表として、プレイステーションに関する3Dへの取り組みをお伝えするために、私がステージに立って発表させていただいた、ということなのです。

 Moveについては、アメリカでの値段などをプレスカンファレンスでお伝えさせていただきましたが、同時に日本でも価格を決定しています。

 「3D」、「Move」、「独占タイトル・コンテンツ」についてかなり時間を割いてご説明させていただきましたが、その上位概念としては2つのものがあると考えています。

 一つは「プレイステーションの勢い」が非常に追い風である、ということです。昨年の9月に発売させていただきました新型PS3の新価格、小型設計がかなりユーザーの皆様から評価が高い。年末商戦には世界中で好調な売れ行きを示しました。結果、2009年度内で1,300万台の販売を達成できました。(プレスカンファレンスで話した)要素というのは、追い風をさらに強めるためのもの、ということです。

 もう一つは、カンファレンスでジャックも触れてはいないのですが、この業界を長くウォッチしていただけている方ならば、伝わったのではないかと思っているのですけれど……。

 4年前にPS3が出る時、「なんでこんなに高いの?」、「なんでこんなに演算処理能力を入れているの? ゲームには不要」とさんざん言われました。その際、「これは10年先を見据えたもの。3年のライフサイクルで終わるような商品ではない」とお話してきました。ゲームだけでなく、いろんなものを楽しんでいただきたい、と。

 とはいえ、当時はゲーム「しか」なかったんです。だから「それで? その話のどこが正しいの?」という感じだったと思います。

 ですが、Blu-rayにしてもネットワークサービスにしても、色々な機能をすでに追加しています。特に今回は、全機種・全モデルでの3Dへの無料対応があります。また、Moveのような新しいコントローラーにも対応できます。

 Moveがあんなに安価にできるのも、コントローラーにコストをかけることなく、本体であれだけすばらしい処理ができるからに他なりません。やはりPS3本体の演算処理能力に負うところが大きいのです。日本では「torne」もありますね。あれも、一般的なBDレコーダとはまったく違う次元の操作性が効いています。これもPS3ならではです。

 4年前に「なんでここまで本体を高性能にするのですか?」と言われたことに対して、「こういうことなんです」と、実際に商品として、来年や再来年の話じゃないものを今年は実際にご紹介できるようになりました。「こういうことを私たちは狙っていたんです」と、具体的にご紹介できる段になって、それが”追い風”になっている部分もあるでしょう。

 ずっとウォッチしていただけている方々にならば、こういったコンテクストがご理解いただけると思っています。

 すなわち「PS3で、大幅なコスト追加を伴わずにできることの可能性」が広がっていることを、実際の製品としてアピールしたい、と考えた、というのが、「2010年のE3」での勝負所、ということだろうか。

 他方、他社のように「新プラットフォーム」、特にニンテンドー3DSや、iPhone/iPadのようなモバイル機器への対抗構想を公表しなかったことについては、次のようにコメントしている。

平井:もちろん以前からお伝えしているように、研究開発は常に続けています。しかし、我々は伝統的に「他社がこうしたからウチも急いで出そう」といったことはやりません。

 PSPのプラットフォームはすでに全世界で6,100万台を出荷しています。まずはこれをどのように伸ばしていくかに注力せねばなりません。現在がまずは第一、です。

 とはいえ、6年が経過しているプラットフォームである、ということは認識しています。ですから、社内では色々と議論はさせていただいています。ただそれは、PSPに限らず、PS3でも周辺機器でも同様です。常に検討はしています。

 おそらく、「PSPを現状のままさらに数年間利用する」という話ではないのだろう。だが、現状ではまだ公表できる段階になく、むしろ現行PSPのビジネスを着実に行なっていく段階、という判断、ということになるのだろう。 


■ Moveは「精度」に注目、低価格の理由は「PS3の性能」にあり

PS Moveについて解説する、SCEAプレジデント兼CEOのジャック・トレントン氏

 ここで、Moveの感想を述べておこう。

 カンファレンスでは、魔法を使って冒険する「Sorcery」というゲームがデモされた。Moveを「魔法の杖」のように扱う、というわかりやすい内容のゲームなのだが、その認識精度は、他のモーションコントロール系とは一線を画していた。


Move対応タイトルの例として紹介された「Sorcery」。Moveを魔法使いの杖として扱うアクションゲーム。ボタンを押して狙うのではなく、「狙った場所へ振って魔法をぶつける」という直感的かつ精度の高い操作が特徴 E3会場内でのブースにも、体験コーナーが設けられていた。リラックスした感じでMoveの感触をチェックできた

 例えば、Wiiはシンプルだがポイントを定めにくく、Wiiモーションプラスを追加してようやく精度が高まる。それでも、正確に画面を指し示すよりも「手首のスナップで操作する」ことに向いたデバイスである。だから、新作ゼルダの伝説「The Legend of Zelda: Skyword Sword」も、手首のスナップを素早い操作に、モーションを行動に生かす形のゲームに作りあげられている。

 他方マイクロソフトのKinectは、デバイスをまったく持つ必要がなく、全身を利用する。そのため多少の遅延はあるようだし、あまりに細かい動きをトラックするのは難しい。他方、いままでのゲームとはまったく異なる活用法が考えられる。

 MoveはWiiに方向性が近いものの、汎用性と正確性では、Wii・Kinect双方より上位にある。E3会場のブースで筆者も試してみたが、驚くほど「ピタリと場所を示す」、「すばやく操作する」のが簡単だ。マウスのようなデバイスが一般的でない据え置き型のゲーム機において、「ポインティングデバイス」としてはもっとも優れたもの、といえる。Moveは「特定の色のボールをトラックして位置を把握する」ことをベースに、様々なセンサーの情報を組み合わせて使うデバイスであるため、精度を出しやすいのだろう。

 ただし、Wii同様「コントローラー」の枠を外れたものではなく、「握る」「ボタンを押す」という動作が基本にはなる。Moveの認識に使われている「PlayStation Eye」は、Kinectほど多彩なものではないが、奥行きセンサーやマイクを備えている。だから画像認識をベースとし、Kinectに近い使い方も可能ではあるが、その可能性はまだはっきりと見えていない。

 他方、ユニークなのはMoveを「3Dテレビ」と組み合わせることもできる、ということだ。テレビに3D空間を表示しつつ、そこでMoveを使ってさらに「実在の空間を生かしてコントロールする」という形は、現状ではPS3ならではの形といえるだろう。カンファレンスでも紹介されたペットゲーム「EyePet」は、カンファレンスでの映像こそ2Dだったが、関係者によると3D+Moveといった活用が検討されているという。

 もう一つの特徴は、Moveが「安い」ということだ。モーションコントローラだけならば49.99ドル(日本では3,980円)、カメラ「PlayStation Eye」、専用ソフト「Sports Champions」とのセットで99.99ドル(日本ではソフトが変わり、5,980円)とかなり安い。この点も「PS3の特徴」と平井氏は説明する。Moveはほとんどの処理を本体側で行なうため、コントローラ側にあまりコストが発生しない。処理の多くをCellのSPUで行なうためだ。PS3のタイトルの多くは、SPUをフルに活用しているわけではない。「過大」と言われることの多いSPUの余力をMoveに生かすことで、現在の形を実現しているのだ。

世界での発売日と価格を明示して、Moveのローンチを発表。実は今回のE3で、「注目の新技術」の価格・発売日の両方が発表されたのはMoveだけだ。

平井:Moveには地磁気センサーや加速度センサーなど、かなり高精度なものが入ってますが、ある意味、かなりPS3の本体の高性能に頼るところがありますので、コントローラの方に色々なものを入れなくてもいいのです。そういうリスクを避けることができた、というのは確かです。先見性が効いて来ている、といえるでしょう。アグレッシブな価格設定ですが、出血大サービスではありません。当然のことながら「逆ざや(生産コストが販売価格を上回る状態)」ではないですよ(笑)。適正な利益を産める価格設定です。

 とはいえ、それはあくまでこちら側のお話です。ビジョンとしては、MoveをDual Shockに続く、第2のデファクトコントローラにしたいんですよ。そういう点で、あまり高い価格設定でも受け入れていただきづらいだろう、という要素も考えました。

 こういったものを受け入れていただくには、まずは「タイトル」の充実が大切。さらに、それがいかに楽しいかをお伝えすることが大切だと思います。しかしこればかりは、いくら言葉を尽くしてもなかなかご理解いただくのが難しいものです。

 実はこの構図というのは、ハイデフだとか3Dとまったく同じ。いろんなイベント、店頭でのトライアルを通して、いかに面白いかということを体験していただくのがすごく大事なんです。Moveだけの話ではなく、プレイステーションの歴史的にも常に、「楽しいかどうか」をうまく伝えていくことが重要でしたから。まさしく「百聞は1プレイに如かず」といったところです。
 


 

■ 3Dの衝撃は予想以上、「エモーション」の世界が次の目標

 平井氏も挙げた通り、3Dでもまったく同じ事が起きている。カンファレンスでは、1,000インチのスクリーンを使い、2011年2月の発売が告知された「KILLZONE 3」のプレイがデモされたのだが、そのインパクトは強烈なものだった。平面のスクリーンショットでは、その衝撃はまったく伝わってこないだろう。

「KILLZONE 3」は2011年2月に全世界で発売。主に技術的なクオリティの面で、3Dゲームの世界をリードするタイトルの一つといえるだろう カンファレンスでは、1,000インチのスクリーンに3D対応版KILLZONE 3を投射してプレイ。立体感そのものよりも「空気感」「存在感」が圧倒的で、とても魅力的なコンテンツに思えた

 

E3会場に大量の3D BRAVIAが展示され、PS3での3Dゲームを体験できた
 奥行き、飛び出し感が感じられるのはもちろんだが、もっとも大きいのは「空気感」の違いだ。爆炎や細かな破片、かげろうなどが、きちんと「ボリューム感をもった形」で再現され、リアリティの向上に一役買っていた。「3Dで表示する」ことを念頭に、2D的な「ごまかし」のテクニックをあまり使わずに作られているからだろう。

 どこに行けばいいのか、どこを撃てばいいのか、どこからの攻撃が危なそうなのか、といった「FPSをプレイする上で必要なお約束ごと」が、立体に感じられる空間であるだけに、恐ろしく直感的に感じられた。日本ではFPS(一人称シューティングゲーム)というとまだ抵抗がある人も多いジャンルだが、3Dとの相性は抜群。3Dでゲーム、というとマニアックな印象を受けそうだが、むしろ「ゲームには詳しくない人」をこちら側に引き込むのに向いていそうだ。

 特に今回は「1,000インチ」という巨大なスクリーンで体験できたため、迫力もひとしおだ。以前本連載で、PS3の3D出力調整機能は「1,000インチまで対応」との情報をお伝えしたが、実はこのようなイベントでの利用も考えてのことだったのである。会場からは歓声が上がっていたのだが、特にこの手のゲームには慣れているはずのゲーム系ライターやアメリカ人からの反応が抜群に良かったのも印象的だった。

 確かに難点もある。フレームレートはきちんと持続されていたようだが、解像感は若干落ちていた。おそらく、720pをある程度下回る実質解像度で内部演算したものを、スケーラーで拡大しているためだろう。だが、そのことよりも「3Dになるインパクト」の方が遙かに強い、と感じた。


3Dをアピールする平井社長

 今回のE3では、ゲームプラットフォームを運営する各社が、それぞれに「従来のゲームの形」からは離れたアプローチを採り始めたことが特徴といえるだろう。平井氏にも3DSやKinectについてコメントを求めたが、直接的な返答は帰ってこなかった。だが、トータルとして、そういった方向にゲーム業界が向かっていることには「完全に賛成」という立場であるという。

平井:常々私は、ゲームに関してある夢を語らせていただいています。それは「モーション(動き)からエモーション(感情)へ」というもの。そういう意味では、現実感を追求していくのは正しいことだと思っています。

 もちろん「エモーション」の部分は、ゲーム業界として課題が多く残っています。ただ、3Dなどは「エモーションの世界」にすこしずつ入りはじめているのかな、と感じます。「ゲーム業界でこれからどうするの?」と言われますが、まだまだやることはあります。エモーションの部分にはまったくといっていいほど入っていけていません。特に、エモーションの「入力」と「リアクション」の部分はできていない。例えばゲーム中に、「あ、あなたウソをついていますね。目が泳いでますよ」といった指摘に直面するようになったら面白いと思いませんか? それはまだ先の話かもしれませんが、そういった方向に私は向かっていきたいし、そうなると信じているので、3DやMoveで、また次のステップを踏むことができたのではないかな、と思っているんです。

「次のハードはこうなる」というような具体的な話ではないが、このコメントが、平井氏の考える「未来」の形であり、他社の動向に対する答え、ということになるのではないだろうか。 


■ 「Plus」はあくまで「Plus」。「PSNの基本は無料」を継続

有料ネットワークサービス「PlayStation Plus」を発表

 3DやMoveと並んでもう一つ、PS3に関する新たな展開として発表されたのが、PlayStation Networkの有料サービス「PlayStation Plus」(PS Plus)だ。6月29日より日本でもサービスがスタートする。詳細は別記事をご参照いただきたいが、その狙いはどこにあるのだろう?

平井:PS Plusは、明確に「オプションサービス」であって、必須の存在ではないです。いままで無償で色々なサービスを提供してきましたが、それがまるでトロイの木馬のように、続々と有料サービスに移行していく、ということはまったく考えていません。あくまで「オプション」です。この点は、プレスカンファレンスでもご説明させていただきました。有料が基本である他社のサービスとはまったく異なる位置づけとご理解ください。

 プラスアルファで「こういうサービスがあるといいよね」という内容について様々なご要望をいただいているのですが、それに対してはある程度のバリュー(対価)がお互いにあるでしょう? という話です。そうじゃないと、「これまでタダで楽しんでいたものがなくなる」ということになってしまいますので。

PSNのアカウント数は5,000万件を突破

 現在検討中の「Sony Online Service」との関係ですが、PS PlusはあくまでPSNの中でのエコシステムの一部、という形です。例えば北米では、BRAVIA向けの映像配信サービスとして「Qriocity」をローンチしています。現在はペイ・パー・ビューが中心ですが、CATV的なサブスクリプション・モデルを導入することも、将来的には考えられるでしょう。そうなった時にPSNのメンバーでもある方は、テレビ向けとPS Plus、両方を合わせての定額サービス、といったものに発展する「可能性」があります。ただあくまで可能性の範囲で、今のところ、PS PlusはあくまでPSNのためのプラスアルファのサービスです。

 現状では「なにが有料で使えるのか」が明確でないため、価格に比したバリューを理解するのが難しい状況にある。サービス開始に伴い、コンテンツの内容や「付加サービスの便利さ」が分かってくることだろう。できる限り「高いバリュー」になることを期待したい。


 


■ 4月1日の「新生」は体制に影響せず。これからの狙いはソニーとの「文化交流」

 先の話という意味では、気になることが一つある。SCEは4月1日に会社としての「形」が変わった。これまでのSCEが「SNEプラットフォーム」という社名に商号変更を行ない、さらにハード・ソフトの開発・販売の事業を分社化、そちらに「ソニー・コンピュータエンタテインメント」という旧来の社名をつけた。SNEプラットフォームはソニー本体に吸収合併され、単独の会社ではなくなった。すなわち「以前のSCE」と「今のSCE」は、正確には別の会社なのである。SCE本社の所在も、秋には、SCE創業以来の南青山から、品川のソニー本社へ移転することになる。

 ゲーム事業やSCEの今後に関し、「大きな方針転換があるのでは」との憶測もあった。だが平井氏は、そういった見方を完全に否定する。

平井:今回のことは、完全に手続き上の変更です。これが社員や会社の方向性に影響を与えることはまったくありません。実際、全社員を集めて、「全社員の雇用にも、仕事の内容にも変化はない」と事情を説明したのですが、「結局なにも変わらないなら、集めてまで説明してくれなくていいですよ」と言われたくらい。もう社内でも話題に上らないくらいですよ。

 じゃあどういう変化が出てくるのか、ということですが……。まずは今まで以上に、ソニーグループ全体としての戦略に入っていきます。3Dが良い例です。グループとしての一翼をプレイステーションとしても担っていく、という形です。これはとても重要なことです。人事面でも変化はありました。マネジメントレベルでも現場レベルでもそうですが、ソニー本社との人事交流、私は「文化交流」と言っているのですが、これを積極的に行なっています。

 これは「引っ越し」にも関係してきます。なぜ「文化交流」をやっているのか、といういと、同じソニーのネットワークプロダクツ&サービス・グループ(NPSG)にいるとはいえ、物理的に場所が離れていると、やっぱり心理的にも「距離」があるんですよ。たまたまソニーシティ(品川ソニー本社ビル)の中にフロアの空きがあるということで、「これはいいチャンスだ」と考え、私からお願いしてソニーシティへ移すことにしました。日常的に、それこそ社員食堂で同じ釜のメシを食うところから「文化交流」していかないと、と思います。

 やっぱり、それぞれの企業には良さがあるんです。SCEにはSCEの社風・歴史がありますし、ソニーには大会社ならではの良さがある。「ああ、こういう考え方もあるんだ」ということを、ソニーの社員にもわかってもらいたいし、逆にソニーは60年以上の歴史がある企業ですから、システムだとかプロセスの面で優れたところがあるんです。そういった部分をSCEの社員には知って欲しい。これまでのソニーとSCEは、接点はあるけれどお互いにお互いのことを「なんだかね」と感じる部分があった。それじゃあまったく意味がなくて、お互いに違いが分かるし、良いところは採り入れるよ、という文化を創っていきたいと思うんです。

 もちろんそれは、SCEがソニーに吸収されてしまう、ということではありません。

 例えば、社員にこんなことを聞かれたんですよ。「平井さん、僕らソニーシティに行っても、ジーンズで通勤していいんですかね?」って。そりゃもちろんですよ。なんで近くなったからって、チノパンにしなきゃいけないんですか(笑)。そういう考え方になることそのものがおかしい。僕らは僕らのやり方でやればいいんです。ソニーの中でもSCEがひときわ輝くような形にしたい。ソニーの他の部署の人からも、「SCEってよく分からないところもあるけれど、なんかいいよね」と思っていただけるようにしないといけません。ただしもちろん逆に、ソニーから吸収しないとけいないことも多い。だから「文化交流」なんです。

 確かに3Dでは、ソニーとSCEの「ユナイテッド」な姿を感じることができる。「文化交流」がどのように進むのか、それがプレイステーションにどういった変化をもたらすかは、秋以降の施策から見えてくることになるだろう。 


■ torneのアップデートはやはり「6月」、AVC圧縮はtorne側が担当

 最後に、E3の話題からはちょっと脱線するが、ここまでで「torne」に関する新しい情報も得られているので、併せて解説しておきたい。

 torneは6月にアップデートを予定しており、そこでAVCによる圧縮に対応する。事情によりまだアップデートは行なわれていないようだが「6月という公約は守れるだろう」とSCEの関係者は話す。

 AVC圧縮の機能はPS3のCellで行なうものではなく、元々torneが使っているLSIに備わっているトランスコーダー機能を使ったものだ。だから実は、開発初期段階から実装が想定されていたものなのだ。AVCでのエンコードは、ビットレートが「3倍」(おそらく4〜6Mbps程度?)に固定され、「標準設定」になる。これまでのDRモードは「高画質設定」に格上げされる。SCE関係者は「画質をみていただければ、そう設定した理由が納得してもらえると思います」と自信を語る。実のところ、torneで使われているLSIは多くのテレビパソコンなどでも採用されているものだが、圧縮時の画質の評判はそれほど良くない。だがそれはパラメータによりかなり調整できるもののようで、torneにおける圧縮は、画質面でも追い込んだものになっているようである。

 そのヒントになるのが、PS3では「EPGのジャンル情報が使える」ということである。現在のtorneでも、録画番組の再生やテレビ番組の生視聴時の「デコード」に、EPGのジャンル情報が使われている。これと同様に、AVCでエンコードされた録画番組を再生するために、PS3側でデコードする際にも、その番組のジャンルに合わせたパラメータが設定されたフィルターが適用され、適切な画質が実現できるようになっているようだ。すなわち、再生時に処理を行なうだけの余力をCellが持っていることが重要ということだ。SCE社内ではこの機能に、「torneでのトル数(録画予約件数)の多いある番組」の名前をつけて「※※※※フィルター」と呼ばれているらしいのだが、公式情報ではないので、伏せ字としておく。どの番組なのかはみなさんでご想像いただきたい。

【訂正】
記事公開後、SCEより、AVC録画とEPGの関係については、「エンコードパラメータの変更ではなく、デコード時のフィルター適用の側である」との指摘をいただいた。そのため、より正確な情報に合わせて記載を変更した(6月18日追記)

(2010年 6月 17日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]