プレイバック2025

オーディオに金を使いすぎて、年が越せない by秋山真

ご利用は計画的に

オーディオにお金を使いすぎて、このままでは年が越せない。

結論から言うとそんな1年になってしまった。順を追って話そう。

筆者も今年で48歳。上司にあたる日本オーディオ協会会長の小川さんからは、お会いするたびに「あなたももうすぐ50なんだから、ちゃんと人生設計をしなさい!」と愛のムチを頂戴し、「確かにそうだよな。よし、2025年は無計画に散財ばかりしていないで貯金しよう!」、そう心に誓った1月、テクニクスの完全ワイヤレスイヤフォン「EAH-AZ100」をポチる。AZLAのイヤーピース「SednaEarfit Crystal 2」との組み合わせに、「TWSの音質もここまで来たか」と鳥肌が立つ。

「EAH-AZ100」ユーザーにはイヤーピースの交換を是非オススメしたい

2月、自室のスピーカースタンドを、TARGET AUDIOの「R1」という、1本26kgもある金属の塊から、ヤフオクで見つけたSonus faberの「Stand MINIMA」に交換。ウォールナット材の支柱+大理石のベース+金属の天板というハイブリッド構造で、それまで厳格なモニタースピーカーとして鳴らしていた愛機ATC SCM10 SEから、しなやかさと寛容さを引き出すことに成功する。

TARGET AUDIO「R1」。金属の塊で出来ていて、重さはなんと26kg
美しいデザインの「Stand MINIMA」は汎用スタンドとしても非常に優秀

3月、自室の音にある程度満足すると、今度はリビングのAVシステムの音をなんとかしたくなる。

4月、長年憧れていたElectro-Voiceのスピーカー「ARISTOCRAT 12'N/DYM」をヤフオクで衝動的に落札し、リビングに導入。同じホーン型でもJBLとは違う、暖かみのある中高域と、30cmウーファーの風のような低音に酔いしれる。

積層材によるCDホーンが特徴の「ARISTOCRAT 12'N/DYM」。言わずと知れた米国ブランドだが、本機はスイスでアッセンブルされている

5月、案の定、ARISTOCRAT 12'N/DYMをもっと良いアンプで鳴らしたくなり、ちょうど知人が手放そうとしていたSpectralのパワーアンプ「DMA-100S Series2」を格安で譲ってもらう。世界中に信奉者がいるスペクトラル製品だが、これが本当の“どフラット”と言わんばかりのスーパーナチュラルなサウンドに度肝を抜かれる。

右がSpectral「DMA-100S Series2」。発熱が少なく狭いラックでも安心。左のマランツSTEREO 70sはプリアンプとして使用

6月、私が企画しているOTOTENの恒例イベント「リクエスト大会」で、伝説的カセットデッキであるナカミチ「DRAGON」が必要になり、所有者であるオーディオライターの二見直明氏を、編集部あべちゃんに紹介してもらう。そして、初めて聴いたDRAGONの驚天動地なテープサウンドに、これまで自分が積み重ねてきたオーディオの概念を根本から覆される。

7月、ヤフオクに程度の良さそうなDRAGONが出品されているのを発見。とはいえ、年代物なので入札に躊躇していると、二見氏から「僕が一生面倒を見ますから」というプロポーズのような言葉をもらい、背中を押されて落札する。

上がソニーDTC-1500ES、下がナカミチDRAGON。国産オーディオ黄金期の象徴的テープデッキが揃い踏み

8月、二見氏から、「STUDER A730を直しませんか?」と提案される(あの記事に出てきたA730は私の個体)。

ついでに、編集部あべちゃんがAV Watchアワードの審査中に持参したソニーのモニターヘッドフォン「MDR-M1」の音が気に入り、翌月の日本発売と同時にポチる。

ソニー久々の会心作である「MDR-M1」は、キャリングケースに入れて出張先でも活躍中

9月、めでたく約10年ぶりに復活した「A730」と、二見氏が購入した「D730 Mark2」を直接比較する機会が訪れる。結果はD730 Mark2の圧勝。中古相場の高騰っぷりから、「マルチビット機のAこそ最高の730」と信じて疑わなかった私は大ショックを受ける。

令和の時代にSTUDER A730(左)とD730 Mark2(右)を比較試聴する日が来るとは

10月、二見氏がApogee Electronicsのスタジオ用AD/DAコンバーター「PSX-100」を持って遊びにくる。往年のアポジーサウンドが味わえる逸品だが、A730とAES/EBUで接続したところ、西海岸サウンドとヨーロピアンサウンドが見事に融合したプロサウンドに感激。これはD730 Mark2単体に勝るとも劣らない音と判断した私は、eBayに$250で出品されていたPSX-100を、二見氏の「絶対買うべきです!」という言葉を信じて、光の速さでポチる。

A730に「PSX-100」を組み合わせる。デジタル接続でもSTUDERの音色はしっかり残る
PSX-100は最終的にラックへ移動し、CD専用DACとして使用中。ハイレゾ系のMytek Manhattan DAC 2と使い分けている
STUDER A730はいつでも触れる&眺めることができる場所に設置

11月、A730+PSX-100によるCD再生があまりに素晴らしくて、サブスクの音をもっと良くしたくなる。すると、前述したSpectralのパワーアンプを譲ってくれた知人が、今度は究極の電源ケーブル「Allegro Power Cable」を2本放出することを知り飛びつく。高音質CD「XRCD」の生みの親で、私のオーディオ師匠でもある田口晃がプロデュースした大蛇のような弩級ケーブルだが(麻倉先生のお宅の床をのたうち回っていることでも有名)、格安で譲ってもらえるとはいえ、2本ともなると結構なお値段(当時の定価は1本36万円)。にも関わらず買う。

12月、これで所有するAllegroが計4本となり、Aurender「ACS10」、Ediscreation「Silent Switch OCXO」「Fiber Box 2」、Ferrum Audio「HYPSOS」といったネットワークオーディオ関連機器全てがAllegroで統一される。その効果は筆舌に尽くし難く、我が家のサブスク再生は別次元の高みに達する。と同時に、預金口座が底をつく。編集部あべちゃんに「このままでは年が越せない!」と非常事態宣言をしたところ、「なら、もっと原稿を書け」と言われ、プレイバック2025に急遽参加することになる。(←イマココ)

大蛇のようにのたうち回るケーブルをラックの最上段まで引き上げるという難工事に、途中何度も田口トモロヲの声が聞こえた

こうやって時系列に並べてみると、イヤフォンとヘッドフォン以外はほとんどが中古で、業界貢献にもなっていない。小川会長、自分は今年もダメダメでした。仕方が無いので、二見氏に一生面倒を見てもらおうと考えています。

秋山真

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫の世話と、愛車のローン返済に追われる日々。2019年からは日本オーディオ協会の職員として協会運営にも携わっている。