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放送見るだけのテレビから脱却。ソニーAndroid TVの狙い

差別化やサポートは? 商品企画責任者に聞く新BRAVIA

 ソニーは今期の4Kテレビ新製品「BRAVIA 9400C/X9300C/X8500C」シリーズと、2Kテレビの「W870C」シリーズで、OSにAndroid TVを採用する。Android TVは複数のメーカーが採用を表明しているし、セットトップボックスとしては、Google自身が「Nexus Player」を発売済みだ。しかし、テレビに組み込まれて出荷されるのは、日本国内においてはソニーの新BRAVIAが最初になる。

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ソニービジュアルプロダクツ・TV事業部商品企画部統括部長の長尾和芳氏に話を聞いた

 Androidは、普段からスマートフォンでなじみのあるOSだ。しかしそれだけに、テレビというまったく別のジャンルへ広がっていくことには、不安と戸惑いもある。

 ソニーが作ろうとしているAndroid TVは、いったいどんなものになるのだろうか? ソニービジュアルプロダクツ・TV事業部商品企画部統括部長の長尾和芳氏に話を聞いた。

 なお、取材は開発中の実機を使ったデモを見ながら行なわれたが、試作機外観や放送映像・EPGなどの権利関係もあり、記事中での写真利用がかなわなかった。写真は発表会などのものである。

テレビの「開発効率化」が最大の狙い

 まず、基本的なところから始めよう。

 現在のデジタルテレビの多くは、Linuxをベースにした家電向けOSで動いている。各社は独自にハードウェアを作り、さらにその上で動くOSも、独自にLinuxをカスタマイズして使っている。だが多くのテレビメーカーは、自社オリジナルの要素が多いカスタマイズ版Linuxから、スマートフォン由来のOSへと切り換えを進めている。そこでソニーが選択したのがAndroid、ということになる。その理由はなんだろうか?

長尾氏(以下敬称略):テレビの開発規模がどんどん大きくなっていく中で、お客様のニーズ・サービスの進化について、1社による統合型の開発環境では、どのメーカーさんもまかないきれなくなっています。そうなると、オープンプラットフォームの仕組みを活用することが求められます。

 ある種、社外に広がる大きなエコシステムのリソースを共有しながら、できるだけタイムリーにお客様にお届けしていくということも考えると、オープンプラットフォームになります。そこは業界の流れだと考えています。Androidはスマホでいえば全世界で8割をカバーしているプラットフォームですし、Androidも「L」(5.0 Lollipop)になってかなり成熟してきています。Google側もAndroidのプロファイルをスマホ以外、たとえば時計とか車とかに拡張したい、という考えを持っています。その一環としてテレビのプラットフォームが定義されたことで、ある種安心して開発できる環境は整ったかな、と思っています。

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 この辺は、昨年6月にソニーがAndroid TVの採用を発表して以降、説明してきているものと変わらない。高度なテレビを作るためのコストを圧縮するために、自社だけでプラットフォームをメンテナンスする方向性を捨てた、という話だ。

 ただ、それはあくまでメーカー側の事情といっていい。消費者にとって重要なのは、製造コスト云々よりも、製品がどうなるか、である。

 ポイントは2つある。「どう快適になるのか、どう良くなるのか」ということと、逆に「悪くなることはないのか」という点だ。特に本誌読者のように、ITリテラシーの高い方々の場合、Androidの採用にはむしろ不安を抱く人もいるだろう。毎年のようにアップデートがあって、テレビと違い商品の利用期間も短め。アカウントの扱いは(家電機器の中では)複雑で、時には「サービス終了」もあり得る。

放送を見るだけなら従来との差はわからない?!

タッチパッドリモコン

 まずは、実機がどう動くか、そこから解説していこう。

 リモコンで電源を入れると、テレビ放送が表示された。リモコンの電源ボタンを押してから表示されるまでの反応時間は、特別遅いとも速いとも感じない。「いままでと大差ないはず」と長尾氏もいう。

 当然、視聴中の画面にも変化はない。ソニーのテレビの場合、昨年モデルより、付属のタッチパッドリモコンを使い、テレビ番組を見ながらネットコンテンツや他のチャンネルの番組を探せる「番組チェック」という機能があるのだが、これもそのまま。EPGも、見た目は変わらない。テレビの基本的な機能を使う分には、Androidであることを意外なほど意識させない。「そう作ったのだから当然なのですが」と長尾氏は説明する。

 この辺、実はGoogleが提供しているAndroid TVとはけっこう異なる。例えばEPGでは、Android TV標準の機能は、アメリカで一般的な、時間が横軸に、チャンネルが縦軸になったものなのだが、BRAVIAのものは、日本で標準の、チャンネルが横軸で時間が縦軸のもの。文字の色や枠デザインも、これまでのBRAVIAと同じものが採用されている。そしてもちろん、「番組チェック」機能はBRAVIA独自のものだ。

 一方、いわゆる「ホーム画面」を呼び出すと、印象はかなり変わってくる。ホーム画面はAndroid TV標準のものがほぼそのまま使われている。BRAVIAの使い方を説明するものや、ソニーがBRAVIA向けに収集したアプリなどが並んではいるものの、基本的な構成はAndroid TVに準拠している。Android TVのホーム画面は、十字キー+決定で使うことを前提としており、よく使うコンテンツに関連するものが一番上に、その下にはアプリなどが並ぶ構造だ。ここでアプリを起動すると、BRAVIAはAndroid TVそのものになる。

 一見、テレビ系の機能とAndroid TVのアプリを使う機能がバラバラに存在しているようにも見えるが、そういうわけではない。テレビ系の機能は、「いままでのBRAVIAに似た見栄え・UI」のものが、わざわざAndroid上に実装されているのである。

 冒頭で述べたように、ソニーはテレビの開発効率向上を目的に、テレビに使うOSの変更を決めた。だが、それはあくまで内向きのこと。「テレビを買ってきた」つもりの消費者に、強い違和感を抱かせるものではいけない。

長尾:あくまでリーンバック、ソファなどで楽な姿勢をとって、リラックスしてテレビを楽しんでもらうために作っています。それがテレビに求められる体験ですから、今までと同じになるようにしています。そこでできれば、放送もネットコンテンツも、差をあまり意識しないで楽しんでもらえれば、ということがゴールです。そういう風にOSも作られていますし、我々もそう開発しました。

 過去、Googleが手がけたテレビ系ソリューションとしては、2010年にGoogleが提唱した「Google TV」がある。当時は、メーカー側で行なえる独自拡張・カスタマイズの幅はより狭く、どこが作っても似たようなものにならざるを得なかった。だがAndroid TVにおいては、開発初期段階からソニーとGoogleが意見交換し、「テレビメーカーとして独自性のあるもの」を開発できるよう、配慮が行なわれていたようだ。

 今回のBRAVIAより、スカパーの4K放送に対応したチューナーが内蔵されるようになった。もちろん、そうした日本独自の機能も普通に使えるし、「番組チェック」で内容確認もできる。さらに「番組チェック」の中には、よく使うアプリを登録しておいて呼び出す機能も用意された。ここにはAndroid TV用のアプリも登録可能である。すなわち、Android TVのメイン画面を使わなくても、日常的な操作はほぼ行なえるわけだ。要は、テレビとしての独自の作り込みが行なわれている、ということだ。

 Androidになって使えなくなった機能はほとんどないものの、1つなくなったものがある。ソニーのテレビでは、テレビが待機中にリモコンの数字ボタンを押すと、「そのチャンネルに対応した放送を表示して起動する」機能があった。だがAndroid TV対応BRAVIAでは、その機能には対応できず、なくなったという。

音声検索で「コンテンツ横断」を実現。「よく使う順」に自動整列

 Androidならではの良さももちろんある。その一つが「検索」だ。

 Android TVでは、文字入力はさほど重視されていない。もちろん、USBキーボードをつないだり、スマートフォンと連携したりすれば入力はできるのだが、「文字入力をして検索」はメイン機能に位置付けられていない。それどころか、「Android TVでは、ウェブブラウザーの搭載すら必須ではない」(長尾氏)という。映像視聴などを軸にした、完全な「リーンバック型機器」として設計されているのだ。

 検索については、主に映像コンテンツや、それに伴う情報の表示がメインになる。例えば、ある出演者の名前で検索し、関連番組をまとめて表示する……といった使い方だ。そこでは、リモコンに用意されたマイクを使って「音声検索」をする。音声検索にはGoogleのエンジンを使うので、現在スマートフォンなどで使われているものと同等の認識精度が期待できる。

 この辺は、特に目新しいものではない。機能としての重要度は高いが、ライバルメーカーも取り組んでいるものであり、テレビの一つのトレンドといえる部分だろう。

 しかし、Android TVならではといえる部分もある。それが、検索結果の表示だ。

長尾:検索結果は、利用者が「普段多く使う用途」の順に自動的に並び替えられます。デモではGoogle Playがトップになっていますが、おそらく多くの方は「テレビ放送」になるでしょう。また、HuluなどのVODを多く使う方は、そのサービスでの検索結果が上に来ます。

 いまは皆さん、テレビ放送だけでなく、多種多様なコンテンツを視聴するようになっています。そこで幅広いコンテンツへと対応し、その差を意識することなく使えるようにするには、こうした仕組みが必要だと考えます。

Android TVでの音声検索。写真ではGoogle Playの結果がトップにきているが、実際には、「機能」を利用する頻度に応じて並べ変えが起こる

 Android TVにおいては、YouTubeも含め、各種VODの再生はそれぞれの「アプリ」が担当する。そしてまた、テレビ放送関連の機能も、AndroidというOS側から見ると、一つの「アプリ」に見えるわけだ。Android TV上ではそれぞれのアプリの使用頻度を集計しつつ、それぞれのアプリ内で持っている番組情報を串刺し検索し、「今見たいものはこれですね」と言う形で提示する仕組みだ。

 そもそも、VODへの対応を「アプリ追加」で行なえること、そのアプリ開発が、広く普及しているAndroidベースであり簡単であることは、Android TVを採用する大きなメリットだ。

 なお、VODの中には、スタートではアプリベースでなく、ウェブベースで対応するものもある。これは、従来のBRAVIAや他社テレビ向けに展開していたサービスをそのまま使いたい、とする事業者向けのものである。先ほど、「Android TVではブラウザは必須ではない」と書いたが、BRAVIAにはウェブブラウザとして、Operaが搭載されている。これは、ウェブのニーズがまったくないわけではない、ということに加え、「過去のBRAVIAで採用しており、そこでサービスとの互換性もとりやすい」(長尾氏)という事情もあったようだ。

 通常、Android TVの機能追加には「Androidのアプリ」だけが使われるが、BRAVIAの場合にはブラウザーベースのものも「アプリ」として追加可能になっている。こちらのダウンロードには、Google Playではなく、ソニーが用意したアプリセレクトストアである「Sony Select」を使う。

Sony Selectからブラウザベースのアプリを追加

搭載予定のアプリ

動画

PlayStation Video

YouTube for Android

niconico

Hulu

Netflix

GYAO!

ビデオマーケット

U-NEXT

テレビドガッチ(Web)

楽天SHOWTIME(Web)

ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール(Web)

Billbong(Web)

TSUTAYA TV(Web)

DMM.com(Web)

T'S TVレンタルビデオ(Web)

アクトビラ(Web)

知育

タッチ! ことばサウンド

パ・リーグさんすうホームラン

きかんしゃトーマスとパズルで遊ぼう!

パズル&テイルズ〜おかしのくにをつくるのじゃ!!

えほんであそぼ! じゃじゃじゃじゃん

MOVING BOOKS! jajajan(英語版)

--健康

HomeFitness24onTV

ライフ

乗換案内

i・フィルター

H.I.S.TV

クックパッド

スカパー! プロ野球セットアプリ

料理サプリ

Hot Pepper Beauy

ショッピング

QVCアプリ(Web)

ゲーム

アスファルト8:Airborne

FINAL FANTASY III

Sky Force Anniversary

リアルボクシング

消防士

Red Ball 4

その他

My BRAVIA

 もう一つ、Android採用のメリットとしてソニーが推すのが「Google Cast」だ。これは、従来Chromecastを使って行なわれていた、スマートフォンからの「画像転送」などの機能を指す総称で、スマホのアプリ側で「Cast」ボタンを押せば、簡単にAndroid TV側にスマホの映像・音声が転送できる。

 最近はスマホで音楽や写真、音楽を楽しむ機会が増えたが、それを気軽にテレビでも楽しめるようになる、というものだ。筆者も自宅などで日常的に使っている。とはいうものの、従来はChromecastなどの外付け機器が必要であり、どうしても利用者が伸びていなかった。また、いままでは「外付け機器」だったので、まずテレビの入力をつながっている端子に切り換え、それからCastしていたということも、手間の面ではマイナスだったと感じる。HDMI CECを使うと自動切り替えもできてはいたが、完璧なわけでもなかった。

 しかし今回、テレビの中に標準機能として組み込まれたことで、使い勝手は劇的に向上した。電源が待機状態で画面が消えている時も含め、Castが行なわれると自動的にCastアプリが起動し、スマホからの画面を表示するようになったからだ。

 このように「入力切り換え」を意識するシーンが減ることも、テレビの使い勝手向上という意味では価値ある変化だと感じる。

 なお、Android TV採用BRAVIAでは、「電源を切る」、すなわち待機状態にした後、次にテレビの電源を入れた(待機状態から復帰させた)場合、なにが表示されるのだろうか?

 答えは「前回使っていた機能」。放送なら前に見ていたチャンネルが表示されるし、VODを見ていたならVODが表示される。スマートフォンをスリープさせた時と同じ動作、と思えばわかりやすい。

 すでに述べたように、待機状態からの復帰時間は従来のテレビと大差ない。また、待機状態での電力消費も「従来と大差ないはず」(長尾氏)という。一方、待機状態ではなく、電源を完全に切ってしまってから、いわゆる「コールドブート」する場合には、「時間はまだ公開できないが、いままでのテレビよりずっと起動に時間がかかる」(長尾氏)という。今時のデジタル家電がそうであるように、頻繁に使う機器なら、「電源の完全切断」はあまりやらない方がいい。

映像は「ブラックボックス」を通って処理。放送もVODも高画質化

 メーカーの独自性、という点で重要なのが「画質」「音質」の部分である。この点についても、長尾氏は「まったく問題ない。Androidだからどうこう、という部分はなく、前回のモデルに比べて進化を遂げている」と説明する。

 今回見たのは試作モデルであり画質評価用のものではなかったため、筆者として、今回のモデル全体での評価は避ける。だが、発表会などでの製品説明モデルを見る限り、新しいOSの介在による影響は見受けられなかった。

長尾:BRAVIAにおいては、絵を出す・音を出すという部分は、弊社独自のLSIを使った「ブラックボックス」を通して行なわれます。ですから、それら自社技術による差別化で大きく変わって来ます。また、バックライトコントロールなど、そもそもAndroidの外である部分も非常に重要です。

 新BRAVIAでは、内部で使われている画質向上用LSIおよびシステムコントロール用SoCが一新されている。4K製品においては、画質向上LSIの「X1」とシステムコントロール用SoCがセットで使われ、2K製品では、システムコントロール用SoCだけが使われる。SoC側には、これまでBRAVIAで使われてきたLSI「X-Reality PRO」由来の技術も盛り込まれているそうで、4K製品においては、SoC側の画質向上機能とX1が連携して画像を作る。また、X1がない場合も、従来のBRAVIAと同等の画質が実現されているという。

4K BRAVIAの新高画質化LSI「X1」

長尾:こうした画質向上の部分は、放送だけでなく、BRAVIAの中の、あらゆる映像に効いてきます。Android側で動作するVODアプリケーションやYouTubeなどでもです。ネット経由での4K映像はビットレートが低いものが多いのですが、かなり画質改善が見込めます。テストでいつも見ていますが、「15Mbps程度のはずなのに、ここまでになるか」と自分達が感心するほどです(笑)

X1の動作イメージ。こうした処理はAndroid TV内で「ブラックボックス」化して扱われる

 一方、Androidで使うことを考えると、気になるのは「SoCの性能」や「メインメモリーの量」だ。SoCは、スマートフォン向けSoC大手のMediaTekと提携、MediaTek側で生産されている。このSoCが何コアのCPUで、GPUの性能がどれくらいなのかが知りたいところだ。しかし、ソニー側は「テレビ向けなので、ノーコメントとさせていだきたい」とのみ回答している。ただし「ハイエンドのスマホほどのものではない」(長尾氏)とだけは教えてくれた。実際動作を見ると、ゲームなどもそれなりに動いているが、今時のハイエンドスマホよりは性能が低そうな印象を受けた。ゲームコンソールのようにバリバリ最新のゲームを動かす、というものではなく、スマホゲーム的なものをちょっと楽しむ、といった形が現実的だろう。

 とはいうものの、「VODを中心としたアプリケーションを使うなら、十分以上の性能がある」(長尾氏)というし、極端にGPUやCPU性能に依存するアプリをのぞけば、実際その通りだろう。そこで当面、巨大なパフォーマンスが必要とされることもない、とは思う。とはいえ、テレビという利用期間が長い製品において、パフォーマンス用件は特に気になる点だ。「今はアプリを使うにも問題がない」ということが、どこまで通じるだろうか。若干の不安はある。

 なお、Android TV用のゲームアプリをBRAVIAで楽しむ場合には、USBやBluetoothで接続するゲームパッドが必要になる。サードパーティー製で「Android用」とされるものなら、おおむねどれでもかまわない。一方で、ソニーのゲームパッドといえば誰もが思いつく、PlayStation用のものは非対応だ。正確には、動くかも知れないが正式にサポートはされない。理由は「Android用として作られたものではないから」(長尾氏)だという。事情はわかるが、消費者に対する分かりやすさという意味でも、普及度という意味でも、PlayStation用のものには「ソニーが独自に追加対応」しているべきなのではないか、と考える。

Android TVでも「従来と同じサポートポリシー」、放送波アップデートはない?!

 「テレビ」として考えた時、Androidを採用するリスクは2つある。「複雑になるのではないか」「サポートはどうなるのか」ということだ。

 スマートフォンでは、Googleのアカウントが必須だ。フィーチャーフォンからの移行などの際、そこでひっかかる人も少なくない。まあしかし、「スマホはそういうもの」と考えればしょうがない部分もある。だが、テレビは違う。テレビでアカウントが必須となれば、戸惑う人も出てくるはずだ。実際他のテレビメーカー関係者からは、「Android TVに対する優位点は、アカウントが不要であること」との説明を受けたこともある。

 だが、この点を長尾氏は否定する。

長尾:テレビとして使うだけなら、Googleのアカウントは不要です。それどころか、ネット接続も必須ではありません。もちろん、Google系のサービスを使うには必要ですが、そこは従来のテレビでも「個別のサービス利用には個別のアカウントが求められることもあった」ものと、同じと考えてください。

 Android TVのBRAVIAにおいてGoogleのアカウントが必要になるのは、「Google Play経由でのアプリ・コンテンツダウンロード」と、音声検索機能などである。もちろん、テレビの機能を完全に使うにはアカウントの取得とネット接続が必須だが、その辺はいままでのテレビと大差ない。

 テレビのアップデートについても、Google Playもアカウントも使わず、テレビが独自に行なう。

 一方アップデートは方法については、「放送方式も含めて内容に応じて検討」とされているが、既存のテレビほど「放送でのアップデートが軸」というわけでもなさそうだ。Android端末らしく、ネットワークでのアップデートが基本、と見て良さそうだ。

 では、アップデートポリシーはどうか? 長尾氏は「いままでのテレビと変わらない」と説明する。

長尾:基本的な、テレビを見る・コンテンツを見るという機能については、変わらず提供していきます。そこはいままでのBRAVIAも、Android TVベースのBRAVIAも、テレビメーカーとしての考え方が大きく変わるものではありません。OSのアップデートはGoogleと協議が必要になる部分もありますが、基本的には、期間も方針も、これまでのテレビとまったく同じです。多数のサービスを集めてきて搭載していますが、こちらは、各サービス事業者の事情に合わせて判断、ということになるでしょう。

 すなわち、Android TVのサポートについては、あくまでソニー側がいままでの「テレビという製品」のポリシーで行なう、と宣言したに等しい。そのための具体的なフレームワークについてはコメントがなかったが、少なくともソニー側が「スマホと同じライフサイクルではなく、そのための準備は必須である」と考えていることが分かる。一方で、Android TV化のメリットもあるという。

長尾:BRAVIA内にある他社のサービスについては、アップデートがより楽になるはずです。Google Playのアップデート機能を使い、各社が独自の判断で改善できるようになるからです。いままでは、BRAVIA側でまとめて改善が必須だったのですが、アプリになればそうではなくなります。

日本独自仕様の開発に課題も。録画機能は「夏」にアップデートで提供

 Android TV搭載のBRAVIAは、5月にアメリカ市場での販売がスタートし、順次それぞれの国へと投入されている。日本は6月20日発売の予定だが、これは、全体として「最後発」グループになる。

 理由は「日本の放送事情への対応に手間がかかるから」と長尾氏は説明する。確かに、データ放送からB-CAS、番組表と、日本市場で「普通のテレビ」の機能として求められるものは多い。今回は特に、BRAVIAとしてははじめて、スカパーの4K放送「スカパー! プレミアムサービス」に、内蔵チューナーで対応した。その工数もあったろう。

 一方で、USB HDDを接続しての「番組録画機能」や、家庭内LANにある他のレコーダの番組を表示する機能などは、6月末の発売時には実装されない。「後日、ソフトウエアアップデートで実装します。夏の間には提供できる予定です」と長尾氏は言う。その「夏」がいつなのかは、コメントを避けた。少なくとも、6月の発売からすぐ使える……というわけではなく、もう少し先になるようだ。

 これまでのテレビにはすでにあった機能を、Androidの上に、しかもあまり違和感を感じないよう作り込んで実装するのは大変だ。ある意味二度手間ではある。

 しかしソニーは、最終的なテレビビジネスでのコストおよび効率、そして今後の伸びしろのために、そうした「産みの苦しみ」を味わっている。「まったく新しいプラットフォームへ移行した割にはスムーズに進んだ」と長尾氏は言うが、おそらく今後も、日本オリジナルの機能開発では、色々苦労が出てくるだろう……と予想できる。

 それでも、「放送を見るだけ」のテレビから脱却することが、市場でどう受け入れられるのか。今回のBRAVIAについては、そこに注目しておく必要がありそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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