西田宗千佳のRandomTracking

スマホ上に“マスメディア”を。サイバーエージェント藤田社長が語る「AbemaTV」の狙い

 サイバーエージェントは、4月11日の正式スタートを目指し、新しい映像配信サービス「AbemaTV」の準備を行っている。3月1日から、12チャンネルでの試験サービスも開始。それに先立ち、1月からは生配信を軸にした映像配信「AmebaFRESH!」もスタートしている。

左がAmeba FRESH!の、右がAbemaTVのアプリアイコン。どちらも、昨年4月、サイバーエージェントがAmebaのブランドロゴとして採用した「abemaくん」をモチーフとしている

 日本は昨年より、映像配信が本格的に一般化し始めた。このジャンルには、既存のテレビ局から映画会社、ネット企業まで、様々な企業が参入しているが、サイバーエージェントは映像配信を重要な先行投資領域と位置づけ、同社の主軸事業の一つとして取り組もうとしている。

 サイバーエージェントは、AbemaTVとAmebaFRESH!でなにを狙おうとしているのだろうか? 同事業全体のプロデューサーでもある、サイバーエージェント・藤田晋代表取締役社長に話を聞いた。

AbemaTVのプロデューサーも務めるサイバーエージェント 藤田晋社長

狙いは「10代のテレビ代替」、「受け身」だからこそ価値が生まれる

 まず、AbemaTVとAmebaFRESH!がどんなサービスかを確認しておこう。基本的には、どちらもスマートフォンでの視聴を想定した映像配信サービスである。広告ベースで運営され、利用は無料。どちらも、ストリーミング配信であり、バッファ待ちの少ない高速な再生や通信帯域による画質調整など、テクノロジー的には、昨今のトレンドをカバーしている。PCのウェブブラウザーからももちろん見られるし、AirPlayやChromecastにも対応しているので、大画面への表示も可能だ。とはいえ、主軸はスマートフォンでの視聴だ。

AbemaTVの画面。動画は自動的に再生が始まる。横にスワイプするとチャンネルが切り替わる
AmebaFRESH!の画面。AbemaTVと非常に似ているが、基本は「生配信」だ

 では、両者の違いはなにか? AbemaTVは、チャンネル1のニュース、チャンネル2のバラエティは24時間生放送が行なわれているが、ほかはそうとは限らず、番組表に沿って、テレビ放送に近い形で配信される。それに対し、AmebaFRESH!は生放送が軸。LINE LIVEやニコニコ生放送のように、多数のチャンネルが生で配信されている、というイメージだ。

AbemaTVは「テレビ」なので、きちんと番組表がある
AmebaFRESH!には多数の生放送チャンネルが用意され、それを選んで視聴するスタイルだ

 チャンネル数が多い上に、先にスタートしていることもあり、サイバーエージェントの動画事業としてはAmeba FRESH!の方が先行しているようにも思えるが、実は、そうではない。藤田社長の中では、明確なプライオリティがあった。

藤田社長

藤田社長(以下敬称略):ビジネスの中では先に「AbemaTV」のほうが決まったんです。

 今回は大前提として「マスメディアを作ろう」という発想がまずあります。特定の人が見てくれるものを作るのではなく「マスメディアを作る」のが狙いです。「テレビ局を作る」という発想に近いんですが。

 私もインターネットビジネスの経験は長いですが、過去の成功事例は、ユーザーが勝手にコンテンツを作って流してくれる、YouTubeやブログのようなものが多かった。そのため、セーフティーネット的に立ち上げたのがAmebaFRESH!で、プラットフォームとして配信主が作ったコンテンツを提供しているわけです。実際のモデルとしては、「AbemaTVでマスメディアを狙っている」というのが本音です。

 準備しながら絞り込んでいくつもりではいるのですが、メインターゲットは「テレビを見なくなった層」、十代二十代に置いているんです。

 僕の子供の頃もリビングでみんなでテレビを見る、という形でしたが、今は自分の部屋に入ってスマホを見るようになった。寝る直前までスマホを見ている、テレビを見なくなった若い層が覗き込んでいるスマホ上で見れるコンテンツを想定しています。

 すなわち、「テレビ的な価値観の動画配信」をスマホの中に作るわけだ。そこで勝負をかけるのはAbemaTVの方、ということになる。「FRESH!は先行公開して手ごたえをつかむもの。どうやら、ここから空振りということはなさそうだ、という感触」と藤田社長は言う。すなわち、ある意味テストであり、空振り防止のための仕組みだったわけだ。

 その理由は、「マスメディアを狙う」という戦略そのものにあり、重要なファクターが存在する。

 AbemaTVでは、アプリを開くといきなり動画が再生される。昨今のオンデマンド系ビデオ配信は、まず映像を選んでから再生をスタートするが、AbemaTVは違う。左右に画面をスワイプするとチャンネルが切り替わっていく構成で、テレビのザッピングに近い。動画が勝手に流れ出す、というやり方はdTVが提供している手法に近いが、AbemaTVはもっと徹底している。無料で見ている場合、番組の「冒頭に戻る」機能も、アーカイブを見る機能もない。リアルタイム視聴だけだ。まさにテレビ放送をネットで見ているのに近い。これも意図的なものだ。

藤田:我々が目指しているものは、今のネット動画の視聴スタイルともちょっと違っています。自分が知っているものを好きな時・好きな時間に見る、検索して見る、ということが「意外と疲れる」ということに着目しているんです。検索や「動画をゼロ秒から再生」ボタンを押すことは疲れる。

 視聴態度として「Now On Air」を途中から見せられる、というのはネットでは新しいはずです。それに慣れさせたいです。それが楽だし、見ても見なくてもいい気楽さにつながります。

 それを成り立たせるために、1ch目はニュース、2ch目はバラエティを24時間生放送します。生放送はオンデマンドにできませんから、とりあえず1ch目と2ch目を生放送にして慣れさせて、そのまま「Now On Air」を見ることに慣れてもらう、という形にしています。

 ネット動画はこれまで「オンデマンドの持つ自由度」を重視する方向で進化してきた。それは、自由度の低い「放送」というメディアに対するアンチテーゼ、という側面が大きかったが、ネット動画を「マスメディア」にする、という戦略の上では、オンデマンド性の追求はマイナスだ、と藤田社長は言う。

藤田:インフィード動画広告(筆者注:TwitterやFacebookのタイムラインに埋め込まれている動画広告)が視聴されているのは「受け身」であるからです。それは音楽サブスクリプションの「AWA」を先にやってわかりました。

 今までも、iTunesを使って好きなものを好きな時に見れる・聞ける状態にあったわけですが、やっぱり、自分が知っている曲を調べて探して聞く、ということに疲れる。サブスクリプションだと、誰かが作ってくれたプレイリストが流れてくるわけです。「やはり受動的な視聴スタイルが楽なんだ」ということを再現しようとしたのがAbemaTVなんです。そういう意味ではまったくゼロからビジネスモデルを組み立てたので、世界的にも参考になるものはなく、新しいものかと思います。

 Netflixなどの動画配信がレンタルビデオ代替だとすると、我々は「テレビ代替」です。スカパー!などを立ち上げている感覚に近いですね。視聴の簡単さでいえば、テレビ以来の簡単さです。無料で、登録もいらない。スカパー!は見始めるまでが相当大変ですよね。広告モデルである、無料であるということがカギなんですが。

 ただ、私はスカパー! にも相当課金していますが、サッカーの番組を小さいスマホの画面で見ようとは思わないんです。そこですみ分けができると思います。もちろん、AbemaTVはAirPlayやChromecastで飛ばせるので、大画面で見ることもできますが。

 いままで、こういった動画ビジネス成功のキーファクターは、「いかにお茶の間の真ん中にあるテレビに入り込むか」でした。WOWOWもしかり、スカパー!もしかり。Netflixですら「テレビのリモコンの真ん中に入る」ことで成功した。我々が新たに賭けたのは「手元にあるスマホやPCで見る」ということです。

 ネット動画メディアということで、サイバーエージェントの取り組みは、先行するツイキャスやLINE LIVE、niconicoなどと比較される場合もある。だが、そうした意識は藤田氏にはない。

藤田:YouTubeはともかく、ツイキャスやニコ生はコアなユーザーに強いサービスだと思います。我々がやろうとしているのはマジョリティなので、意識しすぎないようにしています。普通の子たちを相手にしたい。Amebaはもともとネットオタクじゃない方々を対象にしたメディアですからね。リテラシーはそこまで高くない、マジョリティ層に向ける、ということです。

ターゲティングは「しない」。「なにもなくても開く」アプリになる

 AbemaTVがマスメディアを目指すのは、そこで「広告」というビジネスを展開するためだ。映像を見たら広告が入っていて、そこからマネタイズするというモデルは、テレビ放送の根幹であり、ある意味ウェブビジネスの根幹でもある。サイバーエージェントは広告会社として、そのフィールドで長年戦ってきた。

 一方で、ネットでの動画広告というと「ターゲティングが重要」と言われる。だから、動画サービスでは、独自の会員登録にこだわる企業も少なくない。しかし、藤田社長はそれを完全に否定する。事実、AbemaTVにもAmebaFRESH!にも、会員登録作業は一切ない。

藤田:事前にアンケートやユーザー登録をさせることはありません。これは、正式サービス時でも変わらないです。

 我々も広告会社なので、そこはかなり精通しているつもりでいるんです。よく「ターゲティングを」というんですが、ターゲティングしようとすると広告商品にならないんですよ。ターゲティングしても少人数になってしまうので、広告効果が望めない。

 テレビでも、ソーシャルゲームに興味がない人にソーシャルゲームの広告をバンバン流したり、やせるつもりのない人にダイエットの広告を見せたり、派遣で働くつもりのない人に人材派遣の広告を流したりしています。あれが「マスメディア」であり、全体で広告効果が生まれる。それこそが、あるべき広告の姿だと思っているんですよ。

 みんな「ターゲティングしよう」「ターゲティングしよう」という意識に苛まれていて、細かくプロファイリングしようとするのですが、じゃあ、その対象が何人なんですか?となると「10人です」「150人です」では意味なんてないですよ。

 あと、広告というのは、新しいものを告知していくわけですから、受け身の人にしか届かないかもしれない。

「この動画を再生しよう」と前向きの気持ちになっている時に広告を流すと、誰でも怒ります。うちの子供だって怒ってますよ(笑)。やっぱり、目的をもっているところに広告を流されるとキツいですよ。いいのは、惰性で見ているところの広告価値です。昔でいえば、ヤフーニュースのトップの広告価値。あれは「惰性」だけでしたからね。TwitterやFacebookのインフィード広告の価値も「惰性」です。たまたま出会ったときに見たものを受け身で見る。

 まだこれからですが、僕は同じ観点で、AbemaTVの広告効果は高い、と思っています。受け身で見るはずだから。

 逆にいえばそうでないと、広告効果が果たせない。

 ネット広告って、階層を1つ入った瞬間に広告効果が厳しくなります。そこに「目的」をもっちゃっているからです。「あれ見よう」と思っているところで広告が出ても、もう寄り道はしないわけだから。何見るでもなく開けてみた、という時に広告が出た、というのが一番です。

 もうひとつ「受け身」「惰性」という点から狙うところがある。スマホアプリとしての「位置づけ」の点だ。

藤田:目指すところははっきりしていて、「自分のスマートフォンの中の定番アプリ」として、Twitter、Facebookを開いた後に「なにやってんのかな」と惰性で開いてもらうことです。TwitterにFacebookにInstagram、各種ニュースアプリなど、そういう存在は限られていますよね。

 例えばLINEであれば、友人からメッセージが来ないと開けないじゃないですか。連絡する時だけ使う。でも、「目的がなくても開くアプリの一つ」になれれば違う。これが非常に重要です。

 家に帰ったらテレビをつけていたり、朝起きたら新聞をとってきたり、ということと同じように、AbemaTVのアプリを開く、という形にしたい。そうすれば、受け身で視聴させられるじゃないですか。最初からそれを狙っています。

 別に、スマホをもって最初に開くアプリじゃなくてもいいのですが、Twitterを開いたら、そのあとで開けてくれ、という感じですね。僕もそうですけれど、スマホ中毒になっている人は、見るものがなくなったら「なんとなくこれを開く」というアプリがありますよね。暇なときに一回はこれを開ける、という。そういうものにしようとしています。

 すなわち、サイバーエージェントが狙うのは「テレビを見る習慣を失った若者に」「なんとなく暇なときに開く」「受動的に楽しむ」マスメディア、ということなのだ。受動的メディアに徹するのは、動画メディアとしての価値だけでなく、広告価値から逆算したものでもあるのだ。

Netflix参入で「日本の動画ビジネス」の潮目が変わった?!

「ここが潮目で、動画事業ができるタイミングだと思った」と藤田社長は言う。番組については、4月11日の本サービス開始に向けて鋭意制作中だというが、「メジャーな方々が出ていただけるようになっている」と話す。

藤田:かつては「ネットに出るのは2流3流」というイメージがありましたが、もはやまったく変わっています。今回も躊躇なく出ていただいています。これは、隔世の感があるのですが。いままでは「ネットの番組に出るなんて……」、「ネットの番組に出てもあまり見られない」という反応が多かった。それがガラッと変わったな、と思いますね。

 やっぱり、スマートフォンなんですよ。要は。あれはネットというより、小さなテレビのような存在です。

 また、特にNetflixが来る、という話があったのが大きかった。あれが成功した理由としては、テレビのリモコンのど真ん中にドンと居座った、という部分が大きかったのですが、やはり「Netflixがきたらどうなる」みたいなことが話題になり始めたときに、たぶんあの影響で、権利関係者・芸能事務所も「やらなければ」という意識になった。去年、Netflixが来る、彼らが制作費をかけて番組を作る、と言われたことが、僕としては、大きな潮目だったと思っています。

 私もあれを見て動き始めたんですが、最初は我々も動画配信サービスとして、サブスクリプションのメニューを考えていたんですよ。ですが、そもそも、高額でむずかしいな、と思っていたことと、AWAを始めたことで「ネットでは受け身のほうが楽だ、そうでないと疲れるわ、ネットって」という意識がより強くなった。自分が知っているものしか会えないし、検索も面倒臭いし。

 やはり、まず無料でないと、ネットでは広がらない。いまだに違法の音楽コンテンツもある。みんな必死に無料のものを探すんです。だから「無料である」ことが大事。それと、オンデマンドは意外と面倒臭い。「さあ見よう」とドラマや映画を再生するのは、けっこう元気がいりますね。

 話を聞く限り、やはり、藤田社長にとって、音楽サブスクリプションであるAWAを手掛けたことは、今回のサービスにとって大きな影響があったようだ。では、AWAの現状はどうなのだろうか? 国内では「有料契約者数の伸び悩み」という声も聞くが、藤田社長は否定する。

藤田:僕にとっては読み通りです。サブスクリプションの普及には2年以上かかるだろう、と思っていました。使い始めるとめちゃめちゃ便利で、手放せないサービスなのですが、それが浸透するには時間がかかる。また、去年はいろいろなサービスがパラレルに始まったので、使い比べる時間も必要だったでしょう。

 今は粛々と、いいものを作れば伸びるだろう、ということでサービスを磨いている状況です。だから、僕は「時間の問題」だと思っています。

 AbemaTVには、まったくサブスクリプションモデルがないわけではない。オンデマンド配信とタイムシフト再生は、無料ユーザーは使えず、有料会員のみが使える。だが「あまり積極的には推さない」ともいう。

藤田:見放題にするには会員になってください、という形ですね。1,000円程度の料金を想定しているのですが、逆にいうと、あんまり最初から推すつもりはないです。むしろ敷居を上げている部分があります。

 サービスとしては「オンタイムで見てほしい」んです。みんなタイムシフトになっちゃうと、「受け身で見る広告ベースのメディア」という価値が薄れて、ほかのものと同じになってしまう。なので、あえて高めの価格設定です。それでも見たい人はお金をお支払いいただいて、という形にしているのです。

放送と違って「尺はゆるゆる」、データ分析からの戦略構築はこれから

 AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日の合弁事業である。そのため、番組制作にはテレビ朝日から、相当数のスタッフが出向して対応しているという。

藤田:いま、猛烈に準備しています。本開局の時には「おお」というようなところがワッと入っています。一通り、主だったところにはお声がけしています。たぶん好きだろうな、というものと、「普段だったら絶対見なかったけど、見たら面白い」というような驚きと、いろいろ混ぜています。

 テレビ朝日のプロデューサーや制作の方々が相当数出向で来ています。1チャンネル目が24時間のニュース、2チャンネル目が24時間のバラエティで、全部生ですから、それを準備している最中です。それらのチャンネルがいまどうなっているのかな、と気になるものを作るのがまず重要ですね。その先に、我々が買い付けてくるコンテンツが流れる。

 当然多少は、テレビからの視聴者移動はあるでしょうけれど、ターゲットが「テレビを見なくなった層」なので、それ以外はまず考えていないです。基本的に若い世代が面白いし、若い世代に近い年齢層の出演者をずらっと並べる。基本的な番組の作り方自体が変わってきます。

 生放送の場合、尺の中にぎゅっと収める、ということを考えなくていいですから、放送とは作り方も全然違います。タイムスケジュールは一応あるのですが、もう、ゆるゆるです。テレビ局から来た方々は、放送とは違うやり方に手応えを感じているようです。

 大変なんですけどね(笑)。毎日やることになりますから。

 AbemaTVでそろえているのは、買い付けているものにしろ作っているものにしろ「誰が見ても面白い」という方向性のものです。新しい、いままでに見ていないようなものであっても、「なんか面白いな」と感じられるような、一般性のあるものを作っているつもりです。スポーツも、「これあまり見ないな」という種類のものを買い付けています。

 それから、映像の美しさはかなり気をつけているところです。テレビも字幕が多くなり、セットもケバケバしくなっているじゃないですか。部屋でパッと流しても、おしゃれに見える映像を心がけています。

 スマートフォンというデバイスは美しいものです。そこで不快なものを流すのは合わないです、Instagramを見てもそうですが、みなスタイリッシュなものを求めるようになっていますよね。

 尺の他にもう一つ、テレビとは違うところがある。それが「データ」だ。ターゲティングはしないものの、視聴データはしっかりとる。テレビにおける、最大にして唯一の指標である「視聴率」と違い、ネットから得られるデータは厳密なものだ。

藤田:もちろん、時間やチャンネルに区切って広告の最適化はしますよ。あと、視聴データは全部出ます。何%が最後まで見た、というところまで。

 まず20チャンネルではじめよう、2chが生で他はタイムスケジュールで、という部分については、僕が編成を仕切っています。まあ、いわば「あてずっぽう」なんですが。全体のプロデューサーとして「こんな感じがいいんじゃないのか」という形でやっています。

 まだあてずっぽうですが、いまヒートマップを採り始めているところです。この時間に人が増える、そこでの視聴態度がどうか、といったような分布ですね。この辺のデータが出たら、それを見て「あてずっぽうの精度を上げる」つもりです。

 ただ、視聴動向は、今のテレビとは全然違うと思います。やはり寝る前の時間帯がいいので、深夜帯には力を入れています。本格的な分析はこれからですが。

 データという点では、筆者がテスト配信を見ていて「面白い」と感じた部分がある。配信を「見ている人」の数が必ず表示されるのだ。一方、コメント表示などについては、Twitterで見ている番組についてつぶやく機能や、そのツイートを見る機能こそあるものの、コメント表示を軸にした機能はないし、ニコニコ動画のように、画面にコメントが重なる表示も採用されていない。

右上の「視聴数」に注目。これは、このチャンネルを今見ている人のリアルタイムでの数だ

藤田:あえてそうしています。画面の真ん中にTwitter拡散のボタンだけがあって、そこで書いたものがコメントのように並ぶんですが、あくまで「自分のTwitterアカウントに書いてもらう」という形です。そして、そこから友達に拡散してもらう。どうしても何か書きたい、というときはその方法ですね。あえて絞りました。

 視聴者数を出したことと、ツイート表示は狙いが同じです。「いまこの瞬間、5年前のK-1を見ている人が、自分ひとりじゃない」ということがけっこう大事なんです。

 映画が公開されたらみんな話題にしますよね。でも、3カ月後にその映画を観たっていいわけですよ、本当は。封切り3カ月後に観る人がいないのは「みんなが観ている時に観たい」から。そういう心理が働くので「みんながこれを見ているよ」ということが話題になっていくことが大事なんです。

 コメント欄をつけるかどうかはかなり迷ったんですが、今はTwitterだけにしました。これの様子を見て、必要とあらばコメント欄の追加を検討しています。

 でも、映像にコメントをかぶせることは、選択肢としてなかったです。あれがいやだ、というコンテンツ制作側の意見はあったので。

 niconicoは難しい時代に動画配信の環境を作ったパイオニアです。テレビの前で、ひとりでもブツブツしゃべっている、という現象をとらえたものでした。

 ですが、今はデバイスもネット環境もあの頃とは変わったので、無理してでもやろうとは……。動画を見てもらうために、ああいうチャット的な文字コミュニティの面白さをつかうというのが、あの当時は必要な要素だったんです。でも、そこは変わった、という認識です。映像の面白さだけで見てもらえる時代に変わった、ということです。

自称神アプリ? ユーザー数拡大に奇策なし。1,000万ユーザーを狙う

 AbemaTV事業において、藤田社長は徹底的に「マス」にこだわる。では、マスとはどのくらいの数字を考えているのだろうか? 彼の口からは「1,000万人」という数字が出てきた。

藤田:AmebaFRESH!を先に出したことで「けっこういけるな」という手ごたえをつかんだんです。いきなり空振りはありえないな、と。本当に少ないところから100万へ、となると苦しいな、と思っていたんですよ。でも、FRESH!を先行公開したところで、全然空振りをなさそうだ、と。あそこでは、AbemaTVで展開する番組に近いものを、すでに展開しています。

 100万までは割と早く伸びて、そこからはスケールを出していくために、という形ですね。レイターマジョリティのような、「みんながやっているから私も」という方々に広げるフェーズになる。そこからは粛々とやっていく形ですね。

 ただ基本的には、奇策はない、と思っているんですよ。TwitterやFacebookも1日でああなったわけではなく、長年の改善とユーザー開拓の努力でああなったわけで。逆にいえば、非常に強力な導線をもったデバイスやサービスがあっても、その中の「モノ」が良くなければユーザーはついてくれない。日常的なサービスにしようとおもったら、クオリティを上げるしかない、と思うんです。

 クオリティとは、アプリであるとかサービスの出来が半分、コンテンツの出来が半分だと思っているので、面白いコンテンツを流し込むこととサービスを良くすることを、地道に積み上げていくしかない。

 だから、一気に「神アプリ」ともてはやされて伸びる可能性は薄い、と思っています。まあ、実際は「神アプリ」なんですけどね。自分で言うのもなんですが。

 テレビ局は今、「10代がテレビを見てくれない」ことに悩んでいる。そこでテレビを変えるのではなく、「テレビ的な新しいメディア」を狙うのがサイバーエージェントの作戦だ。番組の内容はまだ評価できる段階にないが、確かに、AbemaTVのアプリはよくできている。動画の読み込みもスムーズでひっかかるところもなく、画質もかなり良い。「受け身でなんとなく見る」ことをしっかり分析したものになっている。

 この先の課題は、本サービススタート後に「番組」の質で評価されるかどうか、そして、10代の間に「なんとなく開くアプリ」として認知されるかどうかだ。番組内容は「まだ秘密」とのことだが、来月の本格サービス開始を注視しておきたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41