西田宗千佳の
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Wii Uで「テレビからの独立」。任天堂 E3会見

~最初のデイスプレイに。ユーザーとの関係も変化?!~


 2日目(実際には、E3の会期は本日からで、ここまでは「プレイベント」である)の朝は、Nintendo of America(NOA) のプレスカンファレンスだ。任天堂は、昨年発表したWii Uの発売を、年末のホリデーシーズンに控えている。そのための情報を出す貴重な機会として、同社は今回のE3を重視しているはずだ。


Nintendo of Americaのプレスカンファレンスが開かれたNokia Theater

 ただし実際には、任天堂の「E3対策」は、他社より早く、2日前の日曜夕方(現地時間。日本では月曜早朝)から始まっている。「Pre-E3カンファレンス」として、Wii Uの概要の一部を公開していたからだ(詳しくは本誌記事参照)。

 思いのほか「ソーシャル」な要素を内蔵してきたWii Uがどのようなものになるのか? プレスカンファレンスは、期待を込めた形でスタートした。



■ テレビより「上」、最初に見るディスプレイへ

任天堂・宮本茂氏

 最初に壇上にあがったのは、宮本茂・専務取締役情報開発本部長だ。E3では、任天堂経営陣が登場する、ちょっとユニークなビデオが流れるのが通例だが、今年のビデオの主役は宮本氏だ。代表作のひとつである「ピクミン」のキャラクターが宮本氏といっしょに控え室から出てくるビデオからつながる形で、壇上に現れた。すなわち、最初の話題は「ピクミン」だ。

 「Wiiの登場から6年が経ちました。次の年から、次のWiiのハードはどうなっていくのか、話し合ってきましたが、ひとつの結論に至りました。リビングのエンターテインメントの中心になるには、テレビに依存していてはいけない。30年以上の家庭用ゲーム機の歴史の中では、テレビにつないでもらうことで機能してきた代わりに、テレビよりは『上』の立場には立てなかったのです。誰かがテレビを見ているとゲームができない。次のゲーム機は、例えば自分のモニターを持つようにしよう、そしてそれが、家族がリビングに入ってきたら、まず一番にみる画面にしようと、考えました。それがWii Uのはじまりでした。

 テレビからの自立によって、テレビに依存していたゲーム機の歴史が変わると思います。家庭のテレビのあり方もかわるでしょう。作っていくうち、次のピクミンはどうしてもこのハードで作ってみたくなったんです」

 そう宮本氏は話し、ピクミンシリーズ最新作・「ピクミン3」を公開した。

宮本氏は、Wii Uでの発売が予定されている「ピクミン3」をベースに、Wii Uのコンセプトを解説した

 プレイしたことがある人はよくご存じだと思うが、ピクミンというゲームはある種のリアルタイム・シミュレーションであり、同時に把握すべき情報が意外と多い。自らの周囲をしっかり見ることが重要なのだが、そのときのカメラ操作はひとつのハードルといえる。宮本氏も、「ピクミン初代で悩んだのはカメラ位置。全体も見せたいし個々も見せたい。それが、ハイディフィニションのWii Uでは解決しました」と説明する。また、マップをGame Pad側に映し、タップすることで目的位置に移動させるなど、「2つ画面があること」の価値を打ち出していた。

「ピクミン3」。人気ゲームの続編だが、Wii Uの高画質と2画面の要素を生かし、いままで以上に「要素は多いがすっきりと、しかもじっくりと」遊べるゲームになるという

 これはまさに、Wii Uのショーケースといえる。

 任天堂のカンファレンスは、3DS向けソフトの紹介も一部あったが、ほぼすべてがWii Uのショーケースとして機能していた。それぞれのゲームタイトルについての説明はゲーム専門メディアに譲るが、ピクミン3で宮本氏が示したように、2画面であること、使い方が自由であることなどを強調したものになっている。

「Sing」と名付けられた、開発中タイトル。GamePadに歌詞を表示するカラオケソフト。そういえばGamePadはカラオケボックスの端末にも似ている
Wiiヒットを牽引したフィットネスソフト「Wii Fit」のWii U版登場。Wii Fitは世界でもっとも売れた体重計になったが、それをそのまま利用する。新たに運動量計も付属し、連携して「屋外」のフィットネス記録も行なうUbi softが開発中の「JUST DANCE 4」。Wiiでヒットしたタイトルの続編だが、Wii UでもWiiコントローラーを使い、ダンスをするWii Uオリジナルタイトルとして、Ubi Softが開発中の「ZOMBI U」。実にストレートなタイトルでおわかりのように、いわゆるゾンビもの。GamePadを「唯一のサバイバルキット」として使い、ゾンビを倒していく
「ZOMBI U」にはちょっとしたオマケも。GamePadのカメラで顔を取り込むと、リアルタイムで「ゾンビ顔」にする
Wii Uのショーケース的存在になる、同時発売ソフト「Nintendo Land」。開発しているのは、Wii Uのソフトウエアプロデューサーでもある江口勝也氏


■ 「Game」「Social」「Entertainment」の三軸。Netflixなども重視し「テレビ以上」を目指す?

 この後、宮本氏からプレゼンを引き継いだ、NOA・プレジデント兼CEOのReggie Fils-Aime(レジー・フィザメイ)氏は、次のように話した。

 「今日のショーは、Wii Uのゲームのためのもの。1時間に詰め込むには数が多すぎる。Wii Uがどのようなハードウエアなのか、2画面の価値がどのようなものなのか、ゲーマー、そしてノンゲーマーにとってどのような価値を持つのか、どう生活を変えようとしているのか、といったことを理解していただくのはきわめて重要なことです。なので手短にご説明しましょう」

NOA・プレジデント兼CEOのレジー・フィザメイ氏フィザメイ氏より、Wii GamePadは1台で「2つ」まで使えるようにすることが発表された。しかし最初は「1台で楽しめるゲームにフォーカスする」という

 フィザメイ氏は、Wii Uに3つの要素がある、と説明する。


    あなたのゲームプレイを変えること。
    あなたとあなたのゲーム仲間との関係を変えること。
    あなたのテレビの楽しみ方を変えること。

 

Wii Uの軸となる3要素。「Game」「Social」「Entertainment」から、家庭内のエンターテインメントを変えたい、という願いが込められている

 画面上では、それぞれ「Game」「Social」「Entertainment」と描かれている。Wiiの時とさらに異なるのは、「直感的なだけでも簡単なだけでもなく、リビングルームに革命を起こす」(フィザメイ氏)と、「濃さ」もアピールしている点だろう。Wiiに似ているがより違う、ジャンプアップしたような体験である、というのが、任天堂側の主張だ。いままでと違うのは次の言葉からも感じる。

 「YouTubeにNetflix、Hulu PlusにAmazon Video? はい、どれももちろんイエス。ただしなによりも、どんなコンテンツもさらにユニークな体験になるのかが、重要な点なのです」(フィザメイ氏)

 任天堂は、自社のゲーム機で「非ゲーム的エンターテインメント」を初期からアピールすることは、これまでほとんどなかった。あくまで「ゲーム」にこだわる会社である、というこだわりからだ。

 しかしWii Uでは、急速に存在感を高めているノンパッケージ映像配信の名を最初から挙げ、「テレビに求められるエンターテインメントを、さらにユニークなものに」というアピールをおこなっている。これは、Wii Uにおける任天堂の変化を象徴するコメントの一つだ。

 テレビと「いっしょ」のエンターテインメントマシンから、「テレビよりも先に使われる」エンターテインメントマシンへ。そのためには、テレビに取り込まれている要素は積極的に採り入れていることを示す必要がある。

アメリカでメジャーな映像配信サービス4種に対応する、と発表。しかも、単に「見れる」だけにはとどまらないようだが……?

 ただし、その詳細は今回は発表されなかった。年末の発売に向け、さらに別の機会を用意し、新しい価値がどのようなものかを説明することになるようだ。

 「近いうちに、リビングルームでのエンターテインメントを、Wii Uがどのように統合し、向上させるかをお伝えしたい」

 フィザメイ氏はそう締めくくった。

「Miiverse」で、アバターを介してコミュニケーションする

 唯一時間を割いて紹介したのは、前出のオンライン・カンファレンスにて岩田聡社長が発表した、Wii Uのネットワーク機能「Miiverse」(ミーバース)だ。

 「Miiverseは、表通りの伝言板のようなものだと思ってください。Miiverseの中で話題のものに、Mii(任天堂のゲーム機で使われるアバター)が集まっているイメージです。今回、Miiはお互いに話すのです。情報提供のための幅広いツールを、それぞれのMiiが備えていることになります。これらのコミュニケーションはブラウザーベースで行なわれるため、ハードの発売時には実現できないかもしれませんが、最終的には、ニンテンドー3DS・PC・スマートフォンなど、ウェブが使えるポータブルデバイスからMiiverseが使えるようになることでしょう。ゲームの中からもMiiverseが使えます。ゲームの中では、マップのこと、しかけのこと、隠し面のことなどを話しているかも知れません」

Miiverseを使った、「Wii わらわら」(英語でもWii Wara Wara)と呼ばれる、Wii Uのトップ画面。Miiが、それぞれの人が遊んだ・気になるゲームの周りに自動的に集まり、それぞれが書いたメッセージなどが表示。「賑わい感」を演出するMiiverseでは、ゲーム内(画面はNew Super Mario Bros. U)に自然な形でメッセージを挿入していく形になるMiiverseはウェブサービスとして実装されており、PCやスマートフォン、3DSのウェブブラウザーからも将来的には使えるようになる

 すなわち、任天堂はWii U立ち上げと同時に、ゲームにひも付いたSNSを立ち上げる、ということなのである。それは、今のソーシャルゲーム内SNSのように、同じゲームのプレイヤー同士が話す、というだけのものではない。「任天堂のゲーム機で動作するゲーム」を一つの共通基盤として、それぞれの掲示板ができ、ゲームの各シーンからも、そのシーンにあった(もしくはそのシーンで書き込まれた)メッセージなどを見て、コミュニケーションができるものになる、ということだろう。

 これは、本質的に「非同期」のコミュニケーションであり、さらに、ゲームから「つかず離れず」のコミュニケーションでもある。Wii Uが2画面であり、ゲーム中にもメッセージが読みやすいこと、Wii Uのシステム自身がSNSを内包していることで、ゲームの間に(ゲームと同時に、ではないことに注目)コミュニケーションが挟まって、自分が好きなタイミングでプレイしつつ楽しめることが画期的だ。汎用のウェブサービスとして構築されることで、「ゲームを立ち上げていない時にもゲームのことを考えていてもらう」効果も生まれる。(実際往々にして、ゲームより「ゲームを語る」方が面白い、というのはありがちな話ではある)。

カンファレンスの最後で発表された「TOGHTER BETTER」の文字。Wii Uが狙う、新しい関係を象徴する

 「ゲームにソーシャルな機能を」というのは当たり前だが、ゲームをより日常に近くし、そのすき間をソーシャルネットワークで埋めていくのが、Wii Uのもうひとつの狙いなのだろう。

 最後に、任天堂はキーワードを発表した。「TOGHTER BETTER」。単に「いっしょ」でなく「よりよいいっしょ」。MiiverseとWii Uに込められた発想は、まさにこれだ。



■ 実は「勝ち組」はネット視聴者? ユーザーとの新しい関係を模索する任天堂

 今回、プレスカンファレンスが終了したあと、参加した多くのプレスは「あれ? 」と思った。いつもなら登場する、岩田社長が壇上に現れなかったからだ。また、ゲームのプレゼンは充実していたが、Wii Uの機能をどう生かしているかについての詳細な説明は、意外なほどあっさりしていたからである。
「なにか拍子抜けだな……」と考えていたプレス関係者は少なくなかったようである。

 だが、だ。この記事をお読みの方の中で、プレスカンファレンス中継の映像を日本で見ていた方は、「え? あんなに充実していたのに? 」と思ったのではないだろうか。

 この違いには秘密がある。

 実は、プレスカンファレンスでは流れず、中継映像では流れた映像があったからなのだ。

 中継映像では、フィザメイ氏のプレゼンが終了後、岩田社長が登場する「Wii U ショーケース」が流れた。出展されたWii Uタイトルがどのようなもので、Wii Uの機能をどう生かしているのかを解説した映像だ。E3 特設ページ内にある映像の、1時間11分あたりからが当てはまる。この映像が流れたことは、現場のプレスには、その時点では伝わっていない。

 岩田氏は映像の中で、「ショーフロアで体験できない皆様のために」と説明している。また、カンファレンス中、岩田社長はTwitterを使い、カンファレンスの内容の補足情報をつぶやいていたようだ。ということは、カンファレンスについては、「映像配信+SNSで見ている人がもっとも充実した体験ができた」ということでもある。

 今回、任天堂がE3で行なっている施策の最大の特徴はこここにある。

 ショーフロアに行けば体験できるのだが、多くのユーザーは無理だ。また実際には、来場者であろうとも、すべてを体験するのは難しい。そこで、時間や場所の制約を受けづらいネット配信を最大限に活用し、「世界中にいる、任天堂に注目しているユーザー」にフォーカスをあてたプレゼンテーションに組み立てているのだ。この仕組みを、任天堂は「Nintendo-ALL-Access」と呼んでいる。E3というお祭りを、会場に来ている人以外に広く拡大した、といってもいいだろう。

 任天堂は以前より、メディアを介したコミュニケーションよりも、自社から顧客に語りかける直接的なコミュニケーションを好んできた。今回のE3では、その施策を大胆に生かし、「ユーザー優先」の姿勢を採ったわけだ。

 正直、伝える側の人間としては、少々複雑な気分である。

 しかし、だ。ゲームという業界が急速に変化しており、ひょっともすると、E3のようなイベントの意味も瓦解してしまう可能性が見えてきている。とするならば、プラットフォームを運営する企業はなにをすべきなのか。

 少し大げさなようだが、任天堂は、そこを見据えて今回の施策を打ったのではないか、とも思える。ではこちらも、その上で「任天堂が伝えることの先になにがあるか」を伝えるつもりで臨まねばいけないだろう。

 ショーフロアは本日より開いている。昨年のWii U初公開時に比べると、フロア構成には余裕があり、たしかにたっぷり体験できそうだ。本日はスケジュールの関係から、ちらりとのぞいた程度だったが、会期中にしっかりとチェックし、Wii Uのインプレッションを別途お届けしたいと思う。

(2012年 6月 6日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

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[Reported by 西田宗千佳]