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映画「ひつじ探偵団」が傑作すぎる。羊の皮を被った王道ミステリーをお見逃しなく

「ひつじ探偵団」

江戸川乱歩は「ひつじ探偵団」の夢を見るか?

5月8日から公開がスタートした映画「ひつじ探偵団(原題:THE SHEEP DETECTIVES)」が、思いのほか傑作で震えた。タイトルの印象から“ほのぼの子ども向け映画”、または“ちょっとおふざけな映画”と思われるかもしれないが、マジで侮らないでほしい。

「羊たちの沈黙」ならぬ、「めっちゃ喋る羊たち」の姿が描かれた本作は、ゆるふわ動物コメディを期待して映画館を訪れた観客に、良い意味で衝撃を与える。なぜなら、可愛らしい羊の皮を被った王道ミステリーで、なかなか深い示唆のある物語なのだ。

あ、でも、可愛いは可愛いし、ゆるふわ感もある。言うなれば、もふもふな可愛さとオーソドックスなフーダニット(=犯人の正体に焦点を当てたミステリーの形式)を両立した映画となっている。

しかも、舞台はイギリス。シャーロック・ホームズやミス・マープルらを輩出した英国名探偵の系譜に、まさか“羊”が並ぶなんて。江戸川乱歩が生きていたらびっくりであろう……と、日本のミステリーファン目線でも静かに血が騒ぐ一作だ。

そんなわけで以下、ネタバレなしで、本作の推しポイントをお伝えしていこう。

なお、ステマにならぬよう先に記しておくと、実は筆者、本作の公式パンフレットにコラムを寄稿している身。いわば“中の人”にも近い立場だが、もはやパンフで飽き足らず「もっと探偵団の魅力を語りたい!」という衝動に突き動かされ、本記事を執筆している次第である。

映画『ひつじ探偵団』 予告/5月8日(金)全国の映画館で公開

「チェルノブイリ」脚本家が放つ羊ミステリー

映画「ひつじ探偵団」は、ドイツの作家レオニー・スヴァンが書いた同名小説を原作にしている(日本では早川書房から刊行:旧版2007年1月/新装版2026年5月)。監督を務めたのは「ミニオンズ」のカイル・バルダ。さらに製作総指揮として、話題の「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のフィル・ロード&クリストファー・ミラーが名を連ねる。

そして、脚本・原案を担当しているのはクレイグ・メイジン。米HBOの傑作ドラマ「チェルノブイリ」の脚本を手がけた人物だ。

個人的に、ドラマ「チェルノブイリ」は大フェイバリット作品である。その魅力については、2年前に本コーナーでも語らせていただいたが、史実を元にした凄まじい重厚感と見応えがある極上のヒューマンドラマだった。

なので、そんなクレイグ・メイジンの名前が「ひつじ探偵団」にクレジットされているのを見たときから、筆者は「これはただのほんわか動物映画で終わらん」と確信していた。そしてその予感は、わりとエッジの効いた形で的中した。

主役のヒュー・ジャックマンが序盤で退場

ではいよいよ、この映画の見どころに触れていこう。物語の舞台はのどかなイギリスの田舎町。そこに、主人公ヒュー・ジャックマン演じる羊飼いのジョージが暮らしている。

ジョージはミステリーが大好きで、飼っている羊たちに毎晩、お気に入りの推理小説を読み聞かせている。そして実は、羊たち側もその内容を理解していて、「犯人はメイドでしょ?」なんて言いながら羊同士で謎解きを楽しんでいる……という、ほのぼのした世界観で幕をあける。

この時点で、「なるほど、主人公のヒュー・ジャックマンが飼っている羊たちと一緒に、現実に起きた殺人事件を解決するストーリーなのね」と思いきや……。

序盤にして、ヒュー様はいきなり死体で発見される。「え、この人ウルヴァリンよね……?」と観客が動揺する隙すらなく、物語の主導権は、彼が育てた羊たちへバトンタッチ。そして羊たちは、大切なご主人様を殺した犯人を突き止めるべく、謎解きを開始するのだった……。

主人公、まさかの被害者。しかもスゴいのが、擬人化した羊キャラとかではなく、もふもふ草をはむリアルな羊たちが謎解きに繰り出すところだ。住み慣れた牧草地を飛び出し、小さな蹄で人間社会へ踏み込んでいく彼らの姿から目が離せない。

しかも単に家畜として描かれるだけではなく、羊たちの世界には羊たちのルールがあり、そこで生まれる関係性のドラマがストーリーに奥行きを生んでいたりもする。さすがクレイグ・メイジン。

なお、羊たちは人間の言語を理解できるが、人間側は羊の言葉を理解できない(メェとしか聞こえない)。なので、人間〜羊間での会話は生まれない。そんな制約がある中で、羊たちは人間たちの話を盗み聞きし、証拠品を分析し、ロジカルに真犯人に迫っていく。

雄弁な羊たちの群れに飛び込め

思い返せば我々は、これまで映画の中で多種多様な羊たちに出会ってきた。沈黙する羊、アンドロイドが夢に見る羊、禁忌の姿で生まれた羊……と、彼らは様々な象徴や記号となって我々の前に姿を見せてきたわけだが、ここにきて過去最高に“雄弁な羊たち”がスクリーンに現れたことになる。

探偵団の羊たちは、全く沈黙せず、めちゃくちゃ喋る。王道ミステリーを盛り立てる彼らの会話劇と、もふもふの癒やしに包まれながら、脳みそをフル回転させられるのも心地良い。

あとこのミステリーが終始、圧倒的なビジュアルが生む多幸感に包まれているのもポイントだ。触れた瞬間に体温まで伝わってきそうな、濃密で柔らかな羊毛のテクスチャーや、犯人を見抜く横長の瞳の精緻なディテール、そしてリアルな表情が、羊たちの知性に鮮やかな彩りを与えている。

なお、個人的にデメリットだったのは、本作を観てからジンギスカンを食べるのに少しだけ躊躇するようになってしまったこと。しかしそれもまた、この映画が持つ圧倒的な生命力に当てられた証拠と言えよう。

みなさんもぜひ映画館で、雄弁な彼らが織りなす“沈黙しない羊たちの肖像”を目の当たりにしてほしい。

そして公式パンフレットもぜひチェックしていただけたら幸いです!
杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。 執筆履歴はhttps://sugiuraminako.edire.co/から。