■ 720p限定だがハイビジョン
これまでデジカメでも、動画が撮れるというものは少なくなかった。特にコンパクトデジカメでは、ほとんどのモデルで動画の撮影をサポートしてはいた。しかしそれはあくまでもメモ的な使い方にとどまっており、ハイエンドであるデジタル一眼レフに行くほど動画は撮れない、というか撮らないという方向でなんとなくコンセンサスが取られていたようなところがあった。
しかし昨年3月にカシオがネオ一眼「EX-F1」でハイビジョン撮影に対応、そして昨年後半にはNikon、Canonが相次いでデジタル一眼でハイビジョンの動画撮影に対応したことにより、事情が変わってきた。
象徴的なのが、今年1月にAVCHD規格のサブセットとして「AVCHD Lite」が発表されたことだろう。AVCHD Liteは1,280×720/60pの、いわゆる720pで撮影できることを表わすサブセットのようである。
実はこれまでもAVCHD規格そのものは、すでに720pもカバーしていた。もちろん主流は1080iだったが、昨年パナソニックが業務用カムコーダとして、AVCHD規格で720p撮影ができる「AG-HMC150」を発売している。新たにAVCHD Liteを定義づけた意味は、720p以上の解像度では撮影できないタイプのものを区別して訴求するということなのだろう。
さて、そのAVCHD Lite対応の第一弾として、パナソニックからDMC-TZ7/FT1が発売された。すでにハイビジョンのビデオカメラを持っている人には、720pでは見劣りするかもしれないが、小さなデジカメでもハイビジョンが撮れるということは、マーケット的には大きな訴求ポイントになることだろう。
いつものように静止画の実力は僚紙デジカメWatchに譲るとして、ここでは動画機能にのみ着目したレビューをお送りする。コンパクトデジカメで撮るハイビジョンは、どんな絵を見せてくれるだろうか。その実力を早速テストしてみよう。
■ 見た目はまったく普通
今回はDMC-TZ7(以下TZ7)のシルバーモデルをお借りしている。3月6日発売で、店頭予想価格は4万7,000円前後となっているが、ネットではすでに4万円を切り始めている。値崩れが相当激しいコンパクトデジカメの世界ではちょっと高い部類に入るが、その値崩れを防ぐために各メーカーは付加価値の創造に苦心しているわけである。
前モデルTZ5の後継ということで、ボディサイズの割には大口径のレンズを搭載している点がポイントとなるが、グリップ部分は割とあっさりしている。デザイン的には薄型デジカメのすっきり感を持ち込みつつ、上位クラスの機能を維持したというところだろう。
大口径レンズ搭載だがすっきりしたフォルム | 全体的にボタン類が少ない |
レンズはライカ DC VARIO-ELMARで、画角は35mm換算で25~300mmの、光学12倍ズームレンズとなっている。ズーム倍率は現在のハイビジョンカメラに比べても遜色なく、ワイド端が広い。手ぶれ補正も光学式だ。
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | ||
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
動画(16:9) | 25mm | 300mm |
静止画(4:3) | 25mm | 300mm |
撮像素子は1/2.33型、有効画素数1,010万画素のCCDだ。ハイビジョンカメラではすでにCCDのものは、現行モデルでは1台もないわけだが、その理由は主に消費電力である。しかし本機は基本がデジカメなので、動画の連続撮影による電力効率の悪さは、あまり重視しないということだろう。
動画撮影は、AVCHD LiteとQuickTime Motion JPEGでの撮影が可能となっている。解像度はどちらも最高で1,280×720ドットだが、AVCHDのほうが圧縮率が高いので、より長時間記録できること、従来のAVCHD再生対応機器でそのまま再生できることがメリットだ。なおAVCHD Liteフォーマットとしては60pだが、CCDからの出力が30fpsしかないため、実際には30p相当の動画となる。
動画サンプル | |||||
記録 | 画質モード | 解像度 | ビットレート | 8GB | サンプル |
AVCHD Lite | SH | 1,280×720 | 17Mbps | 1時間 | |
H | 13Mbps | 1時間20分 | |||
L | 9Mbps | 2時間 | |||
Motion | HD | 1,280×720 | 30Mbps | 33分50秒 | |
WVGA | 848×480 | 15.5Mbps | 1時間7分 | ||
VGA | 640×480 | 13.5Mbps | 1時間17分 | ||
QVGA | 320×240 | 4.5Mbps | 3時間50分 |
カメラ上部ほぼセンターにステレオマイクがある。ただし本体のスピーカーはモノラルだ。音声記録はドルビーデジタルによるステレオ記録。
背面には動画専用のRECボタンがあり、上部ダイヤルの「メモ」モード以外の全モードで録画が可能。以前のデジカメは、動画記録用のモードを別に持っていたものだが、最近は録画ボタンは別途設けていつでも撮れるという設計が主流となっている。
SDカードスロットはバッテリと共に底部にある。本体左側にはHDMIミニ端子と、アナログAV/USB兼用端子がある。全体的にはステレオマイク装備なのが特異なぐらいで、コンパクトデジカメとしては割とオーソドックスなスタイルとなっている。
カメラ上部にステレオマイク。左の穴はスピーカー | 背面にRECボタンを装備。テレビ出力用にHDMIミニ端子も備える | バッテリとSDカードスロットは底面 |
■ 手軽に撮影可能な動画
これまでデジタル一眼などでも動画撮影にトライしてきたが、デジカメの動画撮影には機能的に制限があるのが普通である。本機の場合、動画撮影時には手ぶれ補正がモード1(常時動作)に固定となる。
動画記録枠は表示設定が可能 |
フルオートのiA(インテリジェントオート)モードでは、静止画重視ということなのか、ファインダーは静止画画角で表示される。一方通常撮影やモード撮影の場合は、上下に半透明のマスクが出て、動画撮影時の画角がわかるようになっている。ただ実際に撮影をすると、撮影前の表示画角よりも若干横が広めに撮れるようだ。なお上下のマスクは、設定で表示を切ることもできる。
また静止画撮影では、顔認識だけでなく、個人の顔を認識し最大6人まで登録できる機能がある。複数人の撮影でも、ポイントとなる特定の個人にフォーカスや露出を合わせるわけだが、動画撮影ではこの個人認識機能は動作しない。
focus.mpg(36.2MB) |
顔認識により、向かってくる人物撮影はほぼ問題なし |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の35~50Mbps VBRで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
では早速撮影してみよう。フォーカスの追従性だが、さすがに顔認識は得意とするだけあって、こちらに向かってくる被写体に対しても、限界までうまく追従できる。このあたりの追従性の高さは、ビデオカメラに近いものがある。
【2009年3月13日訂正】
初出時に「コンティニュアスAF」をOFFにしてもAFが動くとしておりましたが、撮影モードが「インテリジェントオートモード」以外では、フォーカスが固定されます。なお、「インテリジェントオートモード」では、設定の如何に関わらずAFとなります。記事の表現に誤りがあったことをお詫びするとともに、該当部分の文章を削除して、訂正いたしました。
なお、手ぶれ補正も、動画撮影時には切ることができないようだ。例えば立ち止まってカメラをパンしたときなどは、パン尻で手ぶれ補正の誤動作により妙な動きになることがある。もちろんこのクラスのカメラなら常に手持ちで撮ることになるだろうが、それでもあまり気持ちのいいものではない。
絵作りとしては高コントラストで、色味も結構しっかりしている。PCモニタで見る分には十分だ。搭載されている液晶モニタがかなり発色がいいので撮影時は気持ちいいのだが、テレビに通してみると全然違う印象を受ける。ガンマの違いで、あっさりした感じの色味に見えてしまうのは残念だ。
発色はなかなかいい | 高コントラストではあるが、もう少ししゃっきり感が欲しい | 若干白飛びしやすい傾向がある |
絵のキレとしては、解像度が1,280×720ドットということもあるが、撮像素子の特性なのか、それほど解像感が高い感じがしない。ビットレートはハイビジョンカメラ並みにあり、画素数が少ないので、もう少し上手くエンコードできても良さそうな感じだが、そのあたりのノウハウの共有が社内で行なわれていないのかもしれない。
sample.mpg (140MB) | room.mpg (87MB) |
動画サンプル | 室内サンプル |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の35~50Mbps VBRで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
スミアが出やすいのが難点 |
撮像素子と言えば結構困るのが逆光の撮影で、CCDによる盛大なスミアが出るのにはまいった。最近ビデオカメラの世界ではCMOSばかりで、スミアを見ること自体が珍しくなってきている。画質モードの撮影では、いつものアングルではスミアだらけで絵にならないので、若干角度を変えて撮影している。
■ 編集機能に課題
次に再生機能について見ていこう。撮影時に静止画、動画のモードによる区別がなかったのと同じように、再生時にも標準では静止画、動画の区別なく、時間軸でサムネイルが並ぶ。また撮影モード別の再生機能もあり、静止画のみ、AVCHD Liteのみ、Motino JPEGのみに限定しての再生もできる。
動画、静止画が時間軸で並列に並ぶ | カレンダー表示も可能 |
出力は1080iにも設定できるが、カメラ側で拡大表示するわけではない |
サムネイル表示は、一度表示されて以降は非常に高速で、サイズの変更やスクロールなどを行なっても、ストレスはない。動画の再生は、ボタンに表記がないのでわかりづらいが、十字キーの上ボタンである。
本体による再生はなめらかで、HDMI出力もあるのでカンタンにテレビに出せるメリットがある。ビエラリンクにも対応するので、テレビがビエラの場合はテレビのリモコンで再生や早送りといったコントロールができる。
編集に関しては、本体に動画の編集機能がないため、外部に頼ることになる。先週取り上げたDIGA「DMR-BW950」で実際に試したが、取り込んで再生・編集することが可能だった。ただ、取り込んだ映像はクリップごとに分かれるわけではなく、一本の繋がった映像として編集しなければならない。これは長時間撮影した場合の編集がしんどいのと、基本的にDIGAの編集とは部分削除なので、再生順序の並び替えといった作業は難しい。
SDカードからDIGAに取り込み可能 | 全体を1本の映像とみなしての部分消去は可能 |
本体付属のPC用画像管理ソフトは「PHOTO fun STUDIO 3.0 HD Edition」で、AVCHDの再生と編集もできる。再生に関しては、フルHDより720pはデータが軽いこともあって、かなりなめらかな再生が可能だ。PHOTO fun STUDIOでは、サムネイルをクリックした時点で即時再生が開始する。
「PHOTO fun STUDIO 3.0 HD Edition」が動画取り込みにも対応 | こちらはクリップごとに部分消去が可能 |
メニューを作成してDVDメディアにAVCHDフォーマットで書き出し可能 |
一方映像の編集に関しては、1クリップごとに部分削除できるにとどまっている。もっとも複数ポイントの削除にも対応しているため、クリップの真ん中だけ必要という場合も、一度に作業できる。
AVCHDディスクへの書き出し機能も備えており、選択したクリップからメニューを作成することもできる。このあたりは、HD版の簡易型DVDといった機能を、AVCHDフォーマットとして実現したものと言えるだろう。
■ 総論
これまでのハイビジョン記録可能なデジカメ同様、どんなモードでも背面のRECボタンを押せば即時撮影が始まるという作りは、今後のデジカメの基本路線となるようだ。デジタル一眼の場合は、絞りやシャッタースピードなど、露出を自分で制御できないことに不満がつのるが、これぐらいのコンパクトデジカメだったら、まあ撮れればいいやと割り切れる。
わざわざAVCHD Liteとして別の名前を付けて訴求するからには、おそらくコンパクトデジカメはフルHDに行かず、しばらくは720pがスタンダードになるということだろう。720pフォーマットのメリットは、テレビに出すというよりも、PCでそれほど負荷をかけず、それでいてSD(VGA)より綺麗という、丁度いい落としどころとしてもっと注目されていいフォーマットである。それに、AVCHDのサブセットということで、PCレスで、DIGAなどのAVCHD対応レコーダに取り込んで、編集してBlu-rayなどに書き込めるというのは、一般への訴求力は高い。
編集に関しては、なかなかコンシューマで丁度いい編集ツールがないのが難点ではあるが、不要部分をさっと削除してYouTubeに上げるといった使い方だったら、割合簡単にできる。コンシューマでも、編集できる人はものすごく凝ったものを作るわけだが、いろんなレベルの人がそれぞれに動画で遊べるというところを、コンパクトデジカメが開拓していくのかもしれない。
今後は、オマケ機能だからまあこんなもんでいいかという見方もあるだろうが、動画としてもうちょっとちゃんと撮ろうよという話になったときに、ビデオカメラまでの価格差が倍以上あるというところがネックになってくるだろう。そのあたりをコンパクトデジカメがXactiっぽい方向になってフォローしていくのか、それともビデオカメラが下がってきて隙間を埋めるのか。
米国では低価格のMPEG-4動画カメラが人気のようだが、日本のコンパクトデジカメがほぼ変わらぬ価格帯で攻めてくるとしたら、性能ではデジカメが圧勝するだろう。ただコンパクトデジカメも、じり貧の低価格競争から脱却する手段として動画をターゲットとするならば、もう少し撮影後のソリューションをしっかり確保する必要がある。
何をやっても結局日本では子供撮り用ということにならないよう、デジカメ動画のムーブメントは大事に育てていって欲しい。