“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ 「黒船化」した前モデル
この春に登場したソニー「HDR-XR520V」は、市場よりもむしろビデオカメラ業界に大きなインパクトを与えたようだ。GPSに対しては静観の構えだが、広角側の手ブレ強化、裏面照射型CMOS「Exmor R」による暗部のS/N、虹彩絞りは、各社ともかなり驚いたようである。そろそろハイビジョンカメラの進化はこんなものか、あとはメディアチェンジか、と思われていたところに、まだまだビデオカメラにはやれることが山積しているということがわかったわけである。
一方市場の反応はと言えば、やはりメモリモデルCXシリーズの後継を希望する声が大きかったようだ。これはやはり、HDDモデルならではの、重い、デカいといった不満は、もはや長時間撮れるというポイントよりも重要であると考える層が増えたということだろう。昨今はメモリモデルでも大容量になってきているし、そもそも何十時間も一気に撮れなきゃいけないものなのか、というところに疑問符が付いたわけだ。
「HDR-CX520V」 |
そしてこの夏登場するのが、XRの進化ポイントを全部入れ込んだメモリモデル、「HDR-CX520V/500V」である。両モデルの違いは、メモリ容量とカラーリングのみで、機能的には同じである。今回は上位モデルのCX520Vをお借りしている。
ユーザーの期待に応えて登場! という格好だが、冷静に考えれば半年で新モデルの企画・設計から量産までできるわけはないので、XRシリーズの登場時からほとんど仕込みは終わっていたと見るべきだろう。また今回はメディアが違うだけでなく、手ぶれ補正を早くもさらに一歩進化させてきたあたりは、半年の余裕をそこに注ぎ込んだということなのかもしれない。では早速、新モデルの実力を試してみよう。
■ 見所が多いボディデザイン
メモリモデルとしては、HDDモデルより小さくなって当たり前である。そこはもちろんクリアしているわけだが、XR520Vが激しく非対称でメカメカしいデザインだったのに対し、CX520Vは起伏の少ない、すっきりしたテイストになっている。
レンズ、撮像素子はXR520Vと全く同じなので、以前の記事を参考にして欲しい。画質モードも同じなので、今回は割愛する。
内蔵メモリはCX520Vが64GB、500Vが32GBとなっている。この夏はトップ3のメーカーが容量64GBでそろい踏みだ。おそらく今後も、容量の差は各社とも足並みが揃うのではないかと思われる。
HDDモデル「XR500V」(右)と比較。だいぶ小さくなっている | この夏の目玉三品。左からパナソニック「TM350」、ソニー「CX520V」、キヤノン「HF21」 |
外部メモリはメモリースティックPRO Duoで、パナソニックTM350のようにリレー記録には対応しない。ただTM350は、動画と静止画の記録先を別々のメディアに設定できないので、この設計思想が大きな影響を与えていると考えられる。
液晶モニタはCXシリーズでは最大の3.0型 |
液晶モニタは3.0型で、CX12の2.7型よりも大きくなっている。従来液晶画面の端にあった「液晶ヨコボタン」は物理ボタンを廃止し、画面内に表示されるようになった。ただ、“ホントは設計時にはまだボタンがあったんじゃないのぉ”的な目隠しパーツが填っているのが、気になる。
今回は、メニューのGUIも変わっていて、HDR-TG5Vで採用されていたスタイルになっている。今後はこの新GUIが標準になっていくのだろうが、従って今はXR系とCX系では、機能はほぼ同じながらGUIが違う、ということになる。
液晶内側は、控えめなパワーボタンのほか、再生モードへの切り替え、ナイトショットなどのボタンが並ぶ。GPSのスイッチもここだ。HDMIとUSBコネクタ部は、メモリースティックPRO Duoと同じ場所にまとめられている。
TG5V同様の新GUIを搭載 | ボタン類は液晶内側に綺麗にまとめてある |
後部にあるのは、マニュアル用のダイヤルだ。XR520Vではレンズの右下にあった、フォーカスや露出などをマニュアルで制御するダイヤルが、ここに移ってきた。
ボディがスリムなぶん、背面もシンプルにまとまっている。ビューファインダーがないこともあるが、動画と静止画のボタンがデザイン的に埋め込まれており、すっきりしている。
グリップ部には、アナログA/Vとリモコンの集合端子がある。またGPSユニットは、側面に付けられた。従来機では、ボディ天面にそれとわからないように実装していたものの、そこだけ素材が違うのが気になったが、今回は敢えて素材の違いとGPSの存在を強調することで、デザイン的なアクセントとしている。ボディを握っても指がかからない場所にあるため、実際の使用にも支障がない。
モード切替ボタンもデザインの中に溶け込んでいる | GPSアンテナのカバーをデザイン上のアクセントにした |
また今回は同時発売のアクセサリがいくつか出ている。「GP-AVT1」は、三脚機能付きのシューティンググリップである。同様の機能を持つものは三脚メーカーからも出ているが、純正はリモコン端子にケーブルを接続することで、ズームレバーと録画、写真の機能がグリップ上で操作できる。ズームレバーは2段のクリックがあり、低速、高速と使い分けができる。
スタイルケース「LCM-AX1」は、これまでの無骨なカメラケースとはひと味違った、セミソフト素材を使ったケースだ。素材は柔らかいが、内部にはかなり厚手のクッション素材が仕込まれており、通常のおでかけには十分な緩衝力を発揮する。
ミニ三脚にもなるシューティンググリップ「GP-AVT1」 | グリップ部の上面に操作ボタンを配置 | 柔らかな素材のスタイルケース「LCM-AX1」 |
■ 追加された新機能
今回新しく搭載された手ぶれ補正の新機能について解説しよう。従来通りワイド端の補正領域を10倍に広げた「アクティブ」モードではあるのだが、CX520Vからは新たに、傾き方向のブレも補正できるようになった。
上下左右の補正に関しては従来通りの光学式だが、傾きの補正は画素の読み出し領域を少し狭めてブレ分の余裕を持たせておくという電子式である。つまり新アクティブモードは、光学式と電子式のハイブリッドなのだ。
従って今回はアクティブモードにすると、少し画角が狭くなる。非アクティブモードでは43~516mm(35mm判換算)の12倍ズームだが、アクティブモード時の画角は非公開となっている。ただ過去のカメラと比較すると、おそらく44mm~528mmぐらいになるのではないかと推測する。なお静止画モードでは手ぶれ補正にそもそもアクティブモードがないので、画角は同じである。
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | ||
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
動画(手ブレ補正なし) | ||
動画(アクティブモード) |
画角が狭くなるとは言っても拡大するわけではなく、元々余裕のある撮像素子の画素数からの読み出し領域を変えるだけなので、画質に対する影響は軽微だ。傾き補正の画像処理は、BIONZで行なっている。
傾き方向の検出は、新たに搭載された3軸のジャイロセンサーで行なう。HDDモデルのXRは2軸のジャイロセンサーしか積んでいないので、ファームウェアのアップデートでは対応できないという。
今回は比較対象としてXR500Vもお借りしているので、両方のアクティブモードを比較してみよう。左手にCX520V、右手にXR500Vを持って、同時に撮影を行なった。
active.mpg(75.5MB) | stab.mpg(187.9MB) |
手ブレ補正OFFと新アクティブモードの画質比較 | 前アクティブモードと新アクティブモードの補正比較 |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
カメラは右の方が持ちやすいので、XR500Vのほうが多少有利なはずだが、映像はCX520Vのほうがなめらかである。ただXR500Vのほうが重量もあり、重心がグリップ部から離れているので、傾きのブレが大きく起こりやすいという面がある。いずれの理由にしても、CX520Vは傾きに強いということは言えるだろう。
マークした顔は、二重の枠で表示される |
もう一つの新機能として、「優先顔キメビデオ」機能がある。従来は複数人の顔認識は搭載していたが、その中で優先順位を付けられなかった。例えばグループショットの中で、目的の人物にのみフォーカスや露出を合わせたいと思っても、できなかったわけである。
今回の優先顔キメは、認識された顔の四角い表示のうち、一つをタッチすると、その顔を覚えて優先する。追従するのは、フォーカス、カラーコントロール、明るさ、スマイルシャッターだ。優先以外の顔は、認識はするがこれらのパラメータは追従しない。
face.mpg(71.4MB) |
優先顔キメの実験。モデルさんの顔にロックしたのち、途中でターゲットを見失う |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
再生機能にも強化点がある。これまでハイライト再生は、その場限りの再生であったが、最大8つまで「シナリオ」という一種のプレイリストとして保存できるようになった。ファイルとして書き出せるわけではないが、再生しつつダビングするなどの用途に使えるだろう。
■ 強さの中にも弱みが…
実験のほか、CX520Vでいろいろ風景を撮影してみた。レンズ、センサーなどは前回と変わっていないが、普通にオートで撮影すると、明るいところが飽和して白飛びしてしまう傾向が見られた。AEシフトを使って-3ぐらい絞ると、飽和せずに丁度良くなるようだ。
露出オート | ||
AEシフト -3 | ||
画面をタッチしてパラメータを決める「スポット測光」や「SPOT測光フォーカス」もあるので、それらを使ってもいいだろう。ただこの2つとAEシフトは同時には使えないので、どちらを使うかは最初に決心しておく必要がある。今回は、マニュアルダイヤルにAEシフトを割り付け、フォーカスが来ないところをスポットフォーカスで補うというセッティングで撮影している。
前回の冬の撮影と違って、今回は光量の多い夏場の撮影であることも多少影響があるのかもしれない。しかし調整すればOKなところを見ると、チューニングでなんとかなるレベルであることには違いない。せっかくGPSと日時データを持っているのだから、だいたいの光量を推察して季節ごとに多少露出のオフセットを変えるようなことをやると、こういう問題も解決できるのかもしれない。
sample.mpg(389MB) |
動画サンプル |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
また今回のサンプル動画では盛大にマイクがフカレているが、撮影日は相当風の強い日だったので、これはどのカメラでも起こることである。ただ本機には風量低減のような機能がないので、余計目立つという見方もできる。
風が強いことでわかったことが他にもある。盛大に木の葉が揺れるような映像では、やはり最高でも16Mbpsというビットレート不足からか、圧縮による画質の劣化が見られることだ。
最近はキヤノンとビクターがAVCHD規格の上限である24Mbpsモードを採用しており、今回のように無駄にビットレートを食う絵柄に対しても強みを見せているが、ソニーとパナソニックは静観の構えである。これはやはりAVCHD規格を立ち上げた立場もあり、AVCHDのDVD記録という呪縛からなかなか逃れられないということなのだろうか。
今回のタイミングで、ソニーから新型DVDライターが2モデル出ているが、ユーザーとしてはそろそろBlu-rayのライターが欲しいところだ。そうなった段階でビットレートの障壁がもう一段階取り払われることになり、画質面でもさらに進歩が見られるだろう。
■ 総論
前作XR520Vのときは、案の定これでメモリだったらな、という声が多く聞かれた。そしてこの夏、満を持してCXシリーズとして投入ということで、機能的には最強の1台が現われたことになる。しかもワイドな手ぶれ補正をさらに新機軸で強化と、他社にとってはまた一歩引き離された格好だ。
しかしなかなかこれで完璧とは言えず、今のところ3つの課題があるように思う。人物以外のAFは未だにマニュアル操作なしにはしんどい点、夏場はちょっと明るすぎて飛び気味になる点、最高ビットレートが他社よりも低いため、絵柄的にしんどい場合が出てくる点だ。
新GUIはすでにTG5Vでも採用されているが、改めて俯瞰してみると、ちょっと機能が多すぎのようにも思う。昔からソニーのカメラを使っている人には、少しずつ積み上げてきた機能なので把握できるかもしれないが、最初に買ったビデオカメラがこれ、と言う人は、とても把握しきれないだろう。
絵作りや表現に関係するものなら個人的には大歓迎だが、どちらかと言えばオートでダメなところをカバーする機能がてんこ盛りで、辟易としてしまう。もう少しオートに重きを置き、機能の集約・整理を行ない、ユーザーに何をコントロールさせるのかを明確化する必要があるのではないかと思う。
もっともこれは先にXR520Vが出たため、余裕をもって今回のCX520Vを評価できたからで、2月にこれが出ていれば手放しで最強モデルと評したことだろう。この半年で他社に追いつく隙を与えたことがマーケティング的に良かったのかどうか、この夏のボーナス商戦の行方は興味深い。
ただ他社が追いついたと言っても、大幅な本体設計を行なわない限り、追従できるのはワイドの手ぶれ補正ぐらいである。Exmor Rによる室内・夜景撮りの実力、そして虹彩絞りの美しさは、十分にアドバンテージがある。
機能を使いこなせる人ならば、買って後悔しないカメラだと言えるだろう。