■ 噂の広角モデルいよいよ登場
1月のCESで発表され、その隙のないスペックに度肝を抜かれたソニーのハンディカム。裏面照射型CMOSの搭載は他社がなかなか追いつけないところではあるが、さらに今回は大幅にレンズを広角にシフトしてきた。'08年に発売した「HDR-FX1000」では29.5mmという広角レンズを搭載したが、あれはあのサイズだからできたスペック、というのが当時の認識であった。
しかし今回は小型機で、しかもハイビジョンクラスで35判換算30mmを切る広角のレンズを搭載したというのは、驚異的だ。レンズの広角化はコンパクトデジカメから普及していった流れであるが、ついにビデオカメラにもその流れが到達したわけである。
HDR-CX550V |
ソニーでは昨年2月に投入したHDD記録モデルのXRシリーズ、そして昨年夏には従来のメモリ記録モデルCXシリーズを大幅に強化したCX520と、HDD型、メモリ型を順次投入してきた。そしてこの春は、同スペックの上位モデルが、HDD型とメモリ型両方で発売される。これらの新モデルでは、メモリースティックデュオとSD/SDHCの両方に対応したメモリーカードスロットを備えているのも特徴だ。
今回はそのうちメモリ型の新モデル、HDR-CX550V(以下CX550)をお借りしている。発売日は2月19日で、店頭予想価格は13万円前後。2万円高いHDD型のHDR-XR550も記録系以外は同スペックなので、参考になるだろう。さて、現時点で小型ハイビジョン機最大画角の実力を、さっそくテストしてみよう。
■ メモリ型ながら本格スペック
まずボディだが、コンパクトが売りだったCXシリーズにしては、CX550はだいぶ大柄で、サイズ感としては、従来のXRシリーズがそのままメモリ化したような印象を受ける。ビューファインダを搭載していることも大きな要素だが、前モデルのCX520と比べると、やはり広角レンズを搭載した関係で、どうしても前玉は大きくなる。
前作より若干大型化したボディ。左が前作CX520、右がCX550V | 鏡筒部が一回り大きくなっているのがわかる |
レンズはオリジナルのGレンズで、動画(16:9)29.8mm、静止画(4:3)26.3mmの光学10倍ズームレンズ。ただしアクティブ手ぶれ補正を使用したときのみ電子ズームも併用され、最大14倍ズームとなっている。それ以外の場合は、光学10倍ズームとなる。この電子ズームの領域があることで、後で述べるテレ端で2倍ブレないという手ブレ補正技術に繋がっている。
動画で30mmを切るワイドレンズ搭載 | グリップ側前方には、外部マイク入力とヘッドホン端子がある |
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | ||
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
動画(16:9) | 29.8mm | 417.2mm |
静止画(4:3) | 26.3mm | 368.2mm |
マニュアルダイヤルで絞り、シャッタースピードが変更可能に |
レンズ脇に飛び出しているのは、従来XRに搭載されていたマニュアルダイヤルだ。操作可能なパラメータも増えて、従来のフォーカス、カメラ明るさといったもの以外に、新たに絞りとシャッタースピードが搭載された。近年ソニー機では絞り優先、シャッタースピード優先といったマニュアル操作モードがなかったが、今回から搭載されたわけである。従来機では、せっかく虹彩絞りを搭載したのに、絞りがオートでしか動かないので、メリットが半減していた。
あいにく両方を同時に設定して、完全マニュアルにすることはできないが、今回からは、納得いくボケを自分で設定できるわけである。
撮像素子はお馴染みExmor Rで、サイズは1/2.88型。総画素数は663万画素だが、クリアビッド配列による補間処理で、最大1,200万画素相当となる。
画質モードも今回から24MbpsのFXモードを搭載。そのかわり7MbpsのSPモードがなくなっている。従来は16Mbpsが最高であったため、早くから24Mbpsを搭載したキヤノン、JVCに比べると、絵柄によってはビットレート不足が目立っていた。しかし今回からは、同じ土俵に上がってきたわけである。
またハンディカムは標準解像度(SD)でも撮影できることが一つのポイントであるが、画質モードが大幅に整理されて、HQモードだけになった。
動画サンプル | |||
HDモード | ビットレート | 動画記録時間 | サンプル |
FX | 24Mbps | 約6時間 | |
FH | 17Mbps | 約7時間40分 | |
HQ | 9Mbps | 約15時間35分 | |
LP | 5Mbps | 約25時間15分 | |
SDモード | ビットレート | 動画記録時間 | サンプル |
HQ | 9Mbps | 約15時間35分 | |
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
液晶は高コントラストのTruBlack採用 |
液晶モニターは3.5型ワイドの92.1万ドットと大型化し、さらにデジタルフォトフレームで採用されていたTruBlack液晶となっている。高コントラストで黒がしっかり沈むのが特徴である。さらに視野角が170度もあり、どういう角度で見てもまず輝度反転することがない。
メニューの構成は前作とほとんど変わっていないが、液晶が大きいぶんだけタッチスクリーン上のボタン類も大きくなり、操作しやすい。以前のように操作したい項目とは違ったところを押しちゃった、ということが大幅に少なくなった。
液晶内側には、今回のソフトウェア的な目玉とも言える、「iAUTO」(おまかせオート)ボタンがある。これは、顔、シーン、揺れ、室内・屋外の4つの要素、合計12の撮影状況を自動で認識し、自動で最適な組み合わせを選択する機能である。従来は専用のシーンを撮影するための専用モードをユーザーが選ぶ必要があり、そこまでこだわらない人はなんとなーく無難に撮れる「オート」を選ぶぐらいしかなかったのだが、今回はシーンを見分けて自動でその専用モードになってくれるわけである。
便利な「iAUTO」(おまかせオート)ボタン装備 | メモリーカードはbカードと兼用スロット |
バッテリは新型のVタイプ |
背面にはビューファインダがあり、このあたりもXRシリーズと近いものがある。ただビューファインダ内の映像はかなり小さく、解像度も20.1万ドットしかないので、フォーカスなどを見るには液晶モニターの方がいい。また視度調整のレバーが、ものすごく回しにくい。このレベルのビューファインダだったら、別に無くても良かったような気がする。
バッテリが前モデルのHタイプから変更になっており、新たに投入されるVタイプとなった。高容量、急速充電に対応し、バッテリ残量精度も上がっているそうである。旧来のHタイプは新しいCX550には付かないが、VタイプバッテリはH、Pタイプと互換性がある。つまりVタイプは、以前のH、Pタイプ採用のハンディカムなどには付く、ということである。
■ ワイド端のぎっしり感がすごい
ではさっそく撮影してみよう。業務用機、あるいはFX1000、AX2000クラスのカムコーダ以外では初となる、30mmを切るワイド端は、さすがに十分な広さがあり、撮りやすい。従来の40mm台のレンズでは、横は入ってるが縦が入らない、という構図の苦しさがあった。特にデジカメで広い構図に慣れている人には、違和感なく使えるだろう。
ワイド端での解像感も、ビットレートが高くなったこともあって、なかなか良好である。遠景もいいが、近接した被写体をマクロ的に撮ったときの解像感の良さは、目を見張るものがある。ここに来てコンシューマ機でも、ようやくハイビジョンらしい画角が撮れるようになった。
ワイド端でのぎっしり感がすごい | ワイド端で寄ったときの解像感も良好 |
一方テレ端は、光学と電子ズーム合わせれば14倍あるということで、画角的には寄り足りない感じは受けない。オールマイティに撮れる画角に仕上がっている。ただ電子ズームの影響か、従来機と比べれば若干解像感が低く、甘い感じを受ける。レンズの性能かは定かではないが、従来機と比べれば若干解像感が低く、甘い感じを受ける。
テレ端では若干甘い印象も | 10倍ぐらいのズームまでは解像感は高い |
もう一つテレ端で気になったのが、逆光とテレ端という条件が重なったときに、パープルフリンジがかなり出る。従来機もそうだったっけ? と撮り比べてみたが、まあ従来機も多少は出ているものの、それほど気になるほどではなかった。
逆光気味のテレ端ではフリンジが気になる | 同条件でCX520で撮影 |
tere.mpg(41.9MB) |
左側の枝に偽色や偽輪郭が見える |
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
動画で撮ってみると、偽色以外にも偽輪郭? のようなものが出ているのがわかる。これはおそらく、テレ端のレンズ収差をプロセッサで補正している動きが若干遅れて見えているものではないかと推測する。ただ、逆光という条件が重ならなければ、これほどの現象は出ない。
さすがにこのサイズでこれだけのワイドレンズを設計すると、多少はスペックが犠牲になるところも当然ある。このあたりは、それを押してユーザーのニーズが高い30mm越えのワイド端にするか、それとももう少し押さえて中庸なあたりでバランスを取るかは、各社判断が分かれるところだろう。
カメラが安定すると、三脚に載せたと判断される |
新規に搭載されたiAUTOは、なかなか使い出がある。サンプルの撮影時には三脚に載せたり降ろしたりするわけだが、iAUTOでは三脚に載せた状態を映像の揺れから自動判別して、アクティブ手ブレ補正の動きを押さえてくれる。
sample.mpg(410MB) |
動画サンプル |
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
実際に三脚に載せてテレ端で撮影している時に、アクティブ手ブレ補正がかかっていると、アングルを決めるのと手ブレ補正の動きが追かけっこになってしまって、なかなか決められないというジレンマがある。しかし三脚に載せて数秒待っていれば、三脚状態を認識するので、テレ端でもアングルが決めやすい。
こういった動作は、ユーザーとカメラの阿吽の呼吸を感じさせて、なかなかおもしろい。
■ もう一歩踏み込んだ機能
stab.mpg(254MB) |
テレ端での手ぶれ補正。CX550のほうがなめらか |
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
手ブレ補正でもう一点強化されたポイントが、テレ端での補正量である。従来の光学式に加え、電子ズームしている領域を使って電子手ブレ補正を組み合わせて、従来比2倍の補正量となった。
今回はテレ端で手ブレ補正の利き具合をテストしてみた。左手にCX550、右手に前作CX520を持ち、撮影者は静止、被写体が歩いているというシチュエーション。本来ならば利き手の右手に持ったCX520のほうがマシな映像が撮れるはずだが、見た限りではやはりCX550のほうがなめらかに補正されているのがわかる。
オートが賢くなってくれるというのは大変楽になるわけだが、逆に言えばユーザーはほとんどやることがなくなってしまう。しかしそのぶん絵作りに集中できるというメリットがある。そこで活躍するのが、マニュアルダイヤルだ。
被写界深度、すなわち背景のボケに対する関心は、動画の世界でも高まってきているが、それを絞りで調整できるようになった。背景のボケが大きくなる条件はいくつかある。まず望遠であること、被写体と背景との距離がそれなりにあること、撮像面積が大きいこと、絞りをなるべく開けること、といったことをクリアすると、背景がうまくボケるわけである。
この中で望遠、すなわちテレ端はカメラによって限界があり、撮像面積は固定である。従ってボケをコントロールする条件は、被写体と背景との距離、すなわちそういう構図を作ることと、絞りを開けることの2点となる。
iAUTOの状態からマニュアルダイヤル中央のボタンを押して絞りを選ぶと、自動的にiAUTOが解除される。テレ端では最大に開けてF3.4、絞ってF9.6である。この間で、ボケ幅を自由にコントロールできるわけだ。
F3.4 | F9.6 |
ただ今回撮影した限りでは、iAUTOでも絞りはほぼ開放になっていて、マニュアルで開放にしてもあまり変わらないケースが多かった。そもそもこれまでハンディカムでは、オートではだいたいF4ぐらいになっていることが多いため、開放のF3.4と半絞りしか変わらないこと、また冬場で光量が少ないことなどが重なって、あまり変わらなかったと思われる。
しかし表現の幅を自分で体感できるようになったというのは、ユーザーにとっては大きなメリットである。さらに虹彩絞りでボケの形が綺麗なので、やる意味もあるというものである。欲を言えば、もう少し大きなボケ幅が欲しいところだが、これ以上は撮像素子のサイズ的に難しいだろう。
■ 新しいバックアップスタイル
最高画質が24Mbpsに引き上げられたことで、従来のバックアップスタイルであった、DVDドライブでAVCHDディスクを作るという方法が使えなくなった。もちろんPCに繋げばどんなビットレートであろうともバックアップはできるのだが、ビデオカメラとPCが常にセットである環境でユーザーが使うとは限らない。
いわゆるPCレスでバックアップという環境は、各社ともに苦心してきたところだ。ソニー、パナソニックなどBlu-rayレコーダを出しているメーカーは、それに繋いでバックアップという提案もできるが、それ以外の手段も欲しい。唯一JVCは、PC用のBlu-rayドライブをカメラに直結して書き出すというソリューションを搭載しているが、ソニーは外付けHDDをカメラに直結して書き出すという仕掛けを搭載している。
USBの外付けHDDなら繋がるというが、実際には「USB Aポートのメス - ミニAポート」という変換ケーブルが必要になる。ソニー純正のケーブルもあるが、PC量販店に行けば同様のケーブルは見つかるだろう。今回はウィルコムのW-ZERO3[es]用として売られているエレコムの変換ケーブルを使用した。
今回使用したのは、2.5インチのIDE HDDを、市販の外付け用ケースに入れたものである。カメラ側にACアダプタを繋いでおけば、バスパワーだけで動く2.5インチHDDもあるようだが、テストで使用したものはそれだけでは電力が足りなかったため、別途HDDにもACアダプタを併用した。
接続すると、まずフォーマット画面が出る。フォーマットはFAT32で、それ以外でフォーマットされているHDDの場合はこの画面が出るようだ。フォーマット後は、コピーしていない映像をバックアップするか問い合わせ画面がでる。「コピーする」を選ぶと、HD、SD、静止画がそれぞれバップアップされる。
HDDのフォーマットも可能 | コピーするか、メディア内の映像を再生するかを選択 | バックアップ進行中の画面 |
バックアップしたHDDからの再生にも対応。動画、静止画のアイコンがUSB経由であることを表わしている |
バックアップ後のHDDをPCで見てみると、カメラ内のフォルダ構造がそのままコピーされるようだ。またこのHDDをカメラに繋いで先ほどの画面で「コピーしないで再生する」を選ぶと、カメラ経由で映像を再生することができる。
HDDそのものにラベルを書いたりするというのは一般的ではないし、これが恒久的なバックアップ手段ではないかもしれないが、メモリ型やHDD型のバックアップの問題をとりあえずはクリアすることはできる。
■ 総論
今回のCX550は、機能強化された部分は数々あれど、やはりこれだけのワイドレンズを搭載したことがポイントであろう。今後ビデオカメラ業界にも、このワイド端のトレンドは確実に押し寄せるものと思われる。
今回ちょっと残念だったのは、やはりレンズを急激にワイド化したこともあって、テレ端側に難点が感じられた点である。14倍という倍率で特に不足は感じないが、画質面でもうちょっと解像感が欲しい。今後はワイド化とテレ端画質のバランスは、評価のキーポイントになるだろう。
単純に画角を広く取れば、そのぶんだけ望遠側が物足りなくなる。この2つはなかなか両立ができないわけだが、テレ端の方は電子ズームも含めた画像処理技術で埋めていくことになる。またレンズ収差をプロセッサで補正していく技術も、今後一層進んでいくと思われる。
個人的には、もうHDD記録の時代じゃないんじゃないかという印象を持っているが、内蔵64GB、しかもメモリースティックだけでなくSDカードも使えるようになったということで、さらにメモリ化が加速すると思われる。また同時に、DVD記録の時代もある意味終わったのかなということで、今後はバックアップメディアとしてHDD、あるいはBlu-rayという方向になっていくのだろう。
CX550はいろんな意味でこれからの方向性も示したし、同時に課題も示したカメラだと言える。