小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第603回:アイデア満載! パナソニックらしい「HC-X920M」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第603回:アイデア満載! パナソニックらしい「HC-X920M」

フル解像度三板式で解像度大幅向上、Ustream配信も

伝統の三板式

 ここのところビデオカメラ業界は元気がない状態が続いている。動画撮影がデジカメ勢に食われているところでもあるが、それによって「動画で撮るもの」が変わってきているのを感じる。

 そうは言っても、従来のように“確実に子供を撮りたい”といったニーズがなくなるわけではないので、その辺を踏まえつつどう生き残っていくかが、各社ビデオカメラ部門の命題だろう。

 デジタル一眼動画にはないビデオカメラのメリットとしては、「被写界深度の深さでフォーカスが外れない」、「強烈な手ぶれ補正」、「高倍率ズームを搭載しても軽い」といったところになる。さらにビデオカメラならではの光学設計としては、プリズムでRGBに分光して、それぞれを3つのセンサーで撮影する、いわゆる三板式という方法が存在することだ。

 これはまだ撮像素子が半導体ではなく、真空管みたいなものだった時代に、カラー映像を撮影する方法として開発されたものだ。これが未だに生き残っているのは、感度や色再現性、モワレに強いといった点で有利だからである。

 単板式が地道な改良で性能が追いついてきたことから、コンシューマでこれをやるメーカーはもはやパナソニックぐらいになった。もちろんコストはその分かかるので、ハイエンドモデルしかないわけだが、他社は業務用機でしかやってないのに比べて、パナソニックは手の届く価格帯で投入してくるのが特徴である。

 さて今回取り上げる「HC-X920M」(以下X920M)は、従来の三板式をさらに改良し、裏面照射3MOSとした。裏面照射はどこのセンサーか問わないのがオトナというものなのでここでは黙っているが、単板でも感度アップに効果が高いセンサーが三板式でどのようになるのか、興味深いところだ。店頭予想価格は、14万円前後となっている。

 パナソニックは昨年2月に「X900M」というモデルを発売しているが、その時は売れ筋と言われた「HC-V700M」のほうを取り上げ、これはレビューしていなかった。本連載としては久しぶりのパナソニックのハイエンドモデルX920Mを、早速テストしてみよう。

完成されたボディ

 パナソニックのカメラは、ここ数年デザイン的にはそれほど大きくは変わっていない。完成度に自信を持っているということだろうが、今回はマニュアルリングも含めてすべて真っ黒になっており、精悍さが引き立っている。センサーサイズも大型化しており、光学部も全体的に大きくなるはずだが、これを同じサイズに収めてきたわけである。

サイズ感は従来機と変わらない
全体的に真っ黒で、精悍なデザインだ
レンズは新設計の光学13倍

 レンズは35mm換算で29.8mm~399.2mm(動画の16:9時)の光学13倍ズームレンズ。F1.5~2.8と、かなり明るいレンズだ。前モデルのX900Mが光学12倍(29.8~368.8mm/動画の16:9時)だったので、多少だが倍率が上がっている。絞りは8角形の虹彩絞り採用で、このあたりがミドルレンジとの差別化ポイントとなる。なお手ぶれ補正のON/OFFで画角の変化はない。

撮影モードワイド端テレ端
動画(16:9)
29.8mm

399.2mm
静止画(16:9)
29.8mm

399.2mm

 撮像素子は1/2.3型裏面照射3MOSで、各センサーは283万画素。これを画素ずらしにより、4倍以上の画素数とする。すでにフル画素数のセンサーなのに、さらに画素ずらしする必要があるのかと思うところだが、普通に処理するよりも画素ずらしで画素数を稼いだ方が、結果的には解像感が上がる、ということのようだ。

 内蔵メモリは64GBで、各画質モードと記録時間は以下の通り。従来機と比較して、新たにPHモードを搭載、その代わり9MbpsのHXモードが廃止となっている。

モードビットレート解像度/fps記録時間(64GB)サンプル
1080/60p28Mbps1,920×1,080/60p約5時間20分
00024.MTS
(39.9MB)
PH24Mbps1,920×1,080/60i約6時間
00025.MTS
(36.5MB)
HA17Mbps1,920×1,080/60i約8時間30分
00026.MTS
(27.7MB)
HG13Mbps1,920×1,080/60i約11時間
00027.MTS
(22.5MB)
HE5Mbps1,920×1,080/60i約27時間30分
00028.MTS
(11.1MB)
iFrame28Mbps960×540/30p約5時間20分
M1020002.mp4
(45.1MB)

 ※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

撮影/再生モード切り換えはスライドスイッチで

 液晶モニタは115万ドットの3.5型で、タッチスクリーン操作を行なう。ビューファインダーは0.24型カラーモニターで、26.3万ドット相当となっている。時分割方式のディスプレイなので、素早く視点を動かすとカラーブレイキングが起こる。

 ボディ上部には「インテリジェント オート」モードに一発で戻すボタンがあり、モード呼び出しボタンとしても機能する。撮影モードとしては、インテリジェントオート、インテリジェントオートプラス、クリエイティブコントロール、シーンモード、マニュアルの5つだ。

液晶を開けたボディ面にある丸い大きな穴は、スピーカーではなく空冷ファン。スピーカーはその左
電源ボタンはヒンジ近くにあるが、通常は液晶の開閉だけでON/OFFできる
マイクは5.1ch収録に対応

 もう一つの「Wi-Fiボタン」は今回の目玉で、ネットに繋いでUstreamライブ配信や見守り機能などを実現する。これはあとで試してみよう。

 ホールド感としては若干前が重いバランスではあるが、手にしっくりくるデザインなので、重さを感じさせない。重量は標準バッテリー搭載で480gと、ハイエンドモデルとしては結構軽い方だ。

解像感の高い動画

独特の筒型メニュー

 では早速撮影してみよう。今回はインテリジェントオートモードを中心に1080/60p、音声は2chで収録している。メニュー操作だが、画面左下に出る操作ダイヤル的なところをタッチすると、筒状のメニューテーブルが出てきて、ショートカットメニューも含めて全機能にアクセスできるというスタイルだ。

 マニュアル撮影も可能だが、完全にフルマニュアルではなく、シャッタースピード優先か、アイリス優先となる。また前方のリング脇にあるカメラファンクションボタンで、マニュアル撮影時のパラメータを呼び出し、リングで操作することもできる。

 無線LAN関係の機能だけは全部「Wi-Fiボタン」からしかアクセスできないので、無線LANを使わないユーザーがメニューに触れることはない。

ファンクションボタンとリングでマニュアル撮影をサポート
シンプルなメインメニュー

 映像的には、やはり解像感の高さが光る。テレ端、ワイド端ともに申し分ないキレの良さだ。昔の三板式モデルでは、フル解像度未満のセンサーを使って画素ずらしでHD解像度を得ていたので、どうも画面が偽色っぽいというか、色がズレた感じが気になったものだが、この完成度であれば問題ない。

襟元の模様などもしっかり描画
体の細かい模様もモワレはない
水流のシーンもビットレート不足は感じない

 1080/60pの28Mbpsでは、ビットレート的に破綻するカメラも過去にはあったのだが、本機はその辺は上手くクリアしており、画質的な不満は見られない。

 発色も良く、パンジーの紫は現場で液晶モニターで見たときはもうちょっと青っぽかったが、撮れている色は正確だった。反射や透過光などの明るい部分では、色が白く飛んでしまうことはないが、階調がなくなってしまうケースもあり、明るい方はわりとクリップしやすいように感じられる。

微妙な発色も正確
色は出るが階調がなくなってしまうケースも
stab.mp4(30MB)
手ぶれ補正は強力だが、限界が来ると大きく戻る
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ぶれ補正では従来から光学式+電子式で、ローテーション方向まで含めた5軸補正をウリにしており、今回ももちろん搭載されている。補正限界に来たときにガーッと元の位置に戻っていくアクションが所々に見られる。このあたりのアルゴリズムは、もう少し改良の余地があるだろう。

 今回の新機能としては、自動的に画面の水平を取ってくれる機能が追加された。±3度が補正範囲なので、ものすごく極端に効くわけではないが、手持ち撮影のときは便利だろう。なお液晶画面には水準器表示も出せるが、これが結構中央にでっかく出て邪魔なので、これで頑張るよりはこの水平補正機能を使った方がいいだろう。

 室内撮影では、裏面照射らしいS/Nの良い黒が出ている。ただ裏面照射のおかげで明るく写るという感じでもなく、オート撮影の割には絞り目にチューニングしているようだ。

sample.mp4(175MB)
屋外サンプル
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
room.mp4(60MB)
室内サンプル
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 クリエイティブコントロールも試してみた。ジオラマ撮影、8ミリムービー、サイレントムービー、インターバル記録の4つがある。ジオラマ撮影はあいにく近所では俯瞰で撮れる場所がなく、効果的なサンプルがお見せできないが、「ぼかさない部分」の幅を3段階で決められ、位置もタッチスクリーン操作で自由に動かせるなど、自由度の高いインターフェースとなっている。

 8mmムービー、サイレントムービーはなぜ今レトロ方向にフォーカスしたのかよくわからないが、フィルムグレインやスクラッチノイズを追加するモードだ。8mmムービーでは色調としてY、B、Rの3タイプが選べ、サイレントムービーではコントラストの高中低が選べる。当然だがサイレントムービーでは音声は収録されない。

ジオラマ撮影では、ぼかさない部分をマニュアルで設定できる
art.mp4(40MB)
前半が8mmムービー、後半がサイレントムービー
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

実践的な無線LAN機能

 では無線LAN機能を試してみよう。パナソニックはビデオカメラの無線LAN対応という点では、この春モデルからの搭載となり、比較的後発である。そのぶんだけ他社をよく研究しており、なかなか実用性の高い機能を搭載してきた。

Wi-Fiボタンを押して現われるメニュー

 対応機種としては、この春モデルの中ではローエンドの「V210M」を除いてそれ以上のモデルに、無線LAN機能を搭載している。「V520M」だけUstream放送時に若干の制限があるだけで、機能的には同じだ。

 おそらくもっとも使い出がある機能は、「TVで再生」だろう。これはホームネットワークの無線LANにカメラを接続することで、DLNAクライアントから動画を再生する機能だ。従来はHDMIケーブルを接続しないと見られなかったものが、無線接続で再生できる。

バッファローのLink Theaterで問題なく再生可能

 最近はテレビにDLNA機能が搭載されているものが多いが、MP4の再生に対応しているものであれば、再生できる。筆者宅ではバッファローのLink Theaterでテストしたが、コマ落ちもなく綺麗に再生できた。

 「リモート操作」は、他のメーカーでも積極的に対応している機能である。スマホの専用アプリを使ってカメラのモニターや録画実行を行なうというものだ。専用アプリは「Image App」というのがiOSとAndroid OS用に無償公開されている。

 使い方としては他社と同じで、カメラ側がアクセスポイントになり、そこにスマホでダイレクト接続するか、共通のアクセスポイントに接続しておいてコントロールするという方法である。

 コントローラとしてはかなり良くできていて、音声のモニターも可能だ。iA(インテリジェントオート)のON/OFFや逆光補正など、細かいカメラ設定部分まで変更できる。カメラの電源OFFもリモートで可能だ。

 また自分撮りモードでは、モニター画像を左右反転したミラー画面になる。離れた場所にカメラを設置して自分撮りする場合、カメラの液晶モニターは遠くて見えないが、このモードを使えば写り位置や画角などを確認できる。

カメラコントロールアプリ「Image App」
カメラのかなり細かいところまで設定可能
自分撮りモードでは画像がミラー表示になる
Ustream放送は事前にLUMIX CLUB PicMateでのサービス連携が必要

 「Ustreamライブ配信」では、カメラ本体を使ってUstreamへ生放送できる。屋外からではモバイルルータなどが必要になるが、逆に言えばそれだけあればライブ配信ができる。

 事前の準備として、パナソニックが運営するLUMIX CLUB PicMateというサービスに加入し、そこでUstreamとの紐付けを行なう必要がある。このライブ配信機能では、カメラが直接UstreamのAPIを叩くわけではなく、いったんPicMateを経由してUstreamへ転送するというスタイルになっているようだ。

 これは一見すると手間がかかるように見えるが、おそらくUstreamも含め他社サービスのAPIが変更になったときに、カメラ側のファームで対応しなくていいといったメリットがあるのだろう。また複数の同社製カメラを利用する場合、PicMateのログイン情報だけでどのカメラでも対応のサービスが使えるようになるという、ID/パスワード管理機能としても機能する。

 サイト側の設定が完了したのち、カメラ側でPicMateのログイン設定を行なうと、Ustream中継モードが使える。中継しながらの同時録画もできる(V520Mを除く)ので、放送中に回線が途絶えても、完パケは手に入る。ただ中継と同時録画の場合は、1080/60pモードは解除され、1080/60iのどれかの画質モードを選択する事になる。

 ストリームは回線品質に応じて自動的に調整させることができる。いつもの公園でテスト配信してみたが、フレームレートを頻繁に変えて調整するようだ。サンプル配信はこちらのページに掲載している。

Ustreamモードの画面。左下のアイコンをタップすると、放送が開始される
Ustreamモードの設定画面

 最後にもう一つ、「見守り」機能も面白い。多くの無線LAN対応カメラでは、WANを通しても絵が来ますよ、だから監視カメラ的に使ってもいいんじゃないですか、という提案は良くあるのだが、パナソニックはそこからもう一歩突っ込んできた。

 カメラを見守りモードで設置しておくと、見守ってる側のスマホから、音声のメッセージを送ることができるのである。他社は映像も音声もカメラからスマホへ一方向へやってくるだけだが、音声を逆に送り返すというのは、画期的だ。

mima.mp4(40.2MB)
見守りモードの動作テスト。スマホで喋ったあと、それが転送されてカメラ側で再生される
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 スマホの「Image App」で「見守り」モードを起動すると、ズームや録画の他に、マイクのアイコンがある。これをタップしてしゃべると、数秒後に、にぎにぎしいチャイム音のあと、音声が再生される。テレビ電話的なものということではなく、会話のやりとりは成り立たないが、留守番中の子供に言って聞かせるとか、そういう用途では十分である。

 このあたりは、他社の対応具合を見て練った部分だろう。一方的に撮るだけならWebカメラでも十分だが、スピーカーを搭載していて音声が返せるというのは、ビデオカメラならではである。

総論

 パナソニックがついに裏面照射搭載ということで、「ついに軍門に降ったか」感もあるのだが、それを三板でやるあたりがなかなかこだわっている。画素数も十分で、さらに撮像面積も大きくなっており、解像度と感度、さらに色再現性という面でバランスの取れた製品となっている。

 デジタル一眼に対抗して「あれもこれも」といった感じではなく、機能を整理してスッキリしているところも、なかなか好感が持てる。ただデザイン的に新規の部分がなく、見た目も真っ黒なので、なかなか一般の人には良さが伝わらないかもしれない。ただ見る人が見れば、いいカメラだということがわかるはずである。

 なお、バッテリーは3MOSだけにあまり持たず、フル充電で1時間ちょっとしか持たない。予備のバッテリーはあったほうがいいだろう。

 後発である無線LAN機能も、なかなか機能が高く、上手く使うといろいろ楽しい事ができそうだ。従来の運動会撮りではなく、子供と一緒に動画を撮ることが楽しめるだろう。

 それを10万オーバーのハイエンドモデルでやるのか、というツッコミはあろうかと思うが、無線LAN機能はミドルクラスにも搭載されているので、リモート機能や見守り機能などもうまく使って、スマホ世代の子育てに、新しい動画の楽しみを広げてもらえたらと思う。

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パナソニック
HC-X920M

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。