小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第602回:ロクラクの新全録機「ロクラクIII・ALPHA IIサーバ」を試す

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第602回:ロクラクの新全録機「ロクラクIII・ALPHA IIサーバ」を試す

2TBで8chを約1週間録画。D3出力やネット経由伝送も



地道に拡がる全録

 テレビ番組を全チャンネル24時感録画する、いわゆる“全録”は、なかなかレコーダの本流になれないまま今日に至っている。とは言え、出れば必ず話題になるので、みんな一定の興味関心はあることは間違いないのだが、どこか決め手に欠ける部分があるようだ。

 近年で言えば2011年末から2012年初等にかけて、バッファロー「DVR-Z8」と、東芝レグザサーバー「DBR-M190」が相次いで発売され、いよいよブーム到来かと思われたが、他社があとに続かなかった。

 だが、今年は日本デジタル家電の「ロクラクIII・ALPHA IIサーバ」が登場(昨年12月受注開始、今年1月より出荷)、さらにはパナソニックが「DMR-BXT3000」を2月10日より発売開始と、製品がだいぶ揃ってきた。PTPの地デジ版SPIDERは、法人用モデルは発売済みながら、一般家庭用モデルが発売延期となっているが、こちらも期待がかかるところだ。

 今回は日本デジタル家電の「ロクラクIII・ALPHA IIサーバ」(以下ALPHA II)をお借りすることができた。直販価格で税込み298,000円。思えば日本デジタル家電が「ロクラク」をひっさげてレコーダ業界に参入してきた時は、ものすごいベンチャーが現われたと思ったものだが、あれからもう10年経ったのかと思うと、なかなか感慨深いものがある。ロクラクの最高峰モデルとはどういうものなのだろうか。さっそくテストしてみよう。

 【記事を一部更新して再公開しました】
 記事初出時に、最新版とは異なる古いファームウェアだったため、実際の製品版とは、動作や一部のUIに違いがあり、一時非公開としました。最新ファームウェアとは使用感などが異なる部分がありますが、一部を修正し、記事を再公開しました(2013年3月6日)。



一見すると普通のデッキ?

外見は1Uでラックに収まりそうなサイズ

 ALPHA IIは8ch録画可能な全録機だが、サイズ的には幅、高さ、奥行き共にほぼ1Uサイズといったところで、外見は非常にシンプルだ。表面にはボタン類はまったくなく、電源ボタンすらない。

 フロントパネルを開けると、中はmini B-CASカードスロットが8つあり、ユーザー自身がそこにカードを挿す必要がある。また背面にも1つカードスロットがあり、こちらは放送中のテレビ番組をライブで見るためのデコードに使われる。合計9枚のカードを本体に挿すことになる。

フロントパネルは簡単に開く
ずらりと並ぶmini B-CASカード

 フロントパネルにはエンコーダの動作状況を示すLEDがあり、動作しているエンコーダの数だけ青く光る。8ch全てが動作しているときは、横にずらっと点灯するわけだ。また時々一つのチャンネルが紫色に点灯するが、これは番組のバックアップ指定を行なったときに、バックアップ中のエンコーダがどれかを表わしている。

 背面パネルの構成もなかなかユニークだ。アンテナ入力とスルーがあるのはまあ当たり前として、アナログのAV出力を備えているのは、昨今のレコーダとしては珍しい。さらに、オプションとしてD3の出力を追加する事もできる(予定価格は12,000円)。

 また、内部で映像をアナログ信号に変換、それをループバックし、リアルタイムで再録画することで、コピー回数制限を回避する事ができる。そのためのループバックスイッチも背面に用意している。

端子構成が変わっている背面
D3端子の入出力は最近では珍しい仕様
アナログのループバック用切り換えスイッチもある

 もう少し具体的に言うと、デジタルコピーの場合はダビング10ルールにより、ダビングするたびにコピー可能回数が一つずつ減っていく。しかしアナログ出力したものを再収録した場合は、収録したファイルそのものはコピーネバーだが、ダビング可能回数は減らない事になる。

 リアルタイムかけてダビングすることを考えれば、アナログ経由の再録画はそんなに積極的にやりたいとは思わないが、すでに9回ダビングしてコピー回数がゼロになった番組でも、複製が可能だ。この機能のために、本機は8ch録画用以外にもう一つ別のエンコーダを装備している。

 もちろん広く使われているHDMI出力も装備しており、外部USB HDDも接続できるなど、今どきの機能もきちんと押さえている。ファンは1つあるだけで、動作音はほとんど感じられない。

 USBのBポートもあるが、これはPCを使ってファームウェアをアップデートするときに使用する。ただネットに繋いでおけばオンラインアップデートも可能なほか、USBメモリにファームウェアを入れてアップデートするなど、複数の方法が選択可能だ。

 電源はACアダプタで、脱落防止措置などは何もない。引っぱったら抜けてしまうので、AVラックなどに収めた場合は、配線変えなどで抜き出すときに注意が必要だ。

リモコンはわりかしよくあるタイプ

 リモコンも見てみよう。一般に全録機は、予約録画のような手順が必要ないため、機能的には逆にシンプルになる。本機のリモコンもシンプルで、一般的なレコーダのリモコンからすればボタン数は少ない。メニュー操作用の十字キーと再生操作ボタン、チャンネル変更用の12キーといった、ごく一般的な作りだ。

 メインフィーチャーは全録によるタイムシフト再生のはずだが、メインの割にはボタンが小さいのが若干気になるところである。



機能的にはシンプル

 まずは導入時の初期設定だが、これがほぼやることのすべてである。最初にB-CASカードの確認、続いて地域設定とチャンネルスキャンを行なう。スキャン結果の中から、8ch分の録画割り当てを行なうと、あとはもうタイムシフト録画が開始される。

初期設定はウィザード通りに進めていくだけ
8chの割り当てを決める

 録画画質は、プリセットで標準、長時間、高画質の3モードがあるほか、カスタムとしてユーザーが任意に2パターン設定できる。基本はH.264へのエンコード記録で、解像度は横を1,440ピクセルとしている。今回は標準画質でテストしている。

メインメニューに並んだ機能アイコン
タイムシフト画面へと進む
タイムシフトの画質設定画面

 内蔵HDDは2TBで、全てをタイムシフト領域に割り当てると、以下のような録画日数になる。タイムシフト以外に普通の録画予約もできるが、その領域を内蔵HDDに割り当てると、録画日数が減る。外付けHDDと併用するほうがいいようだ。

【タイムシフトの画質と録画日数】
画質モード録画日数映像ビットレート音声ビットレート
高画質約3.4日5.5Mbps128kbps
標準約6.1日3.0Mbps128kbps
長時間約9.3日2.0Mbps64kbps

 まずもっとも標準的なタイムシフト再生を試してみよう。本機は製品の性格上、電源OFFにはならないのだが、一応リモコンには電源ボタンがある。普通に電源を入れると、まずは生放送の状態をそのままスルーで出力する「パススルーモード」になっている。いわゆる普通にテレビを見ている状態だ。

放送中の画面からタイムシフトへの移行画面

 ここで「タイムシフト」ボタンを押すと、タイムシフトモードへ移行する。現在見ている番組をキーにして、今この場から視聴するモードに入るか、あるいは番組の先頭から再生するモードに入るか、それとも前回タイムシフト視聴したところに戻るかを選択する。

 いったんタイムシフトモードで番組再生を始めると、同じ時間帯に放送していた、いわゆる横のチャンネルにいつでも移動できる。例えば夜8時の番組のところに移動すれば、8ch全部が夜8時の再生ポイントに移動するので、あたかもタイムマシンで夜8時にジャンプしたかのようにチャンネルを切り換えることができる。

 ポイントは、チャンネル切り換えが、生放送を見ているときよりも高速だということだ。デジタル放送になってチャンネル切り換えが遅くてイライラしている人も多いことと思うが、ほぼアナログ放送時代と同等のレスポンスで切り換えることができる。この点では、過去の番組にさかのぼれるというだけでなく、ちょっとリアルタイムからは遅れるものの、昔ながらのザッピングでテレビ放送を楽しみたいという人も、タイムシフトで視聴すると精神衛生上よろしいという事だ。

 また、過去に録画した番組を、番組表から選んで視聴することもできる。ただ、番組表は番組情報が細かく表示されるわけでもなく、フォントも小さいので、離れた場所からは見辛いのが残念だ。

過去の番組表から視聴したい番組を選ぶ
チャンネルごとのリスト表示も可能

 ここで「画面表示」ボタンを押すと、リスト表示もできる。チャンネルごとに録画番組を遡っていくスタイルで、文字自体はこちらのほうが見やすい。

 画質としては、標準の3.0Mbpsで通常の番組視聴には支障はない程度だ。ただシーンがディゾルブで変わるときにはビットレート不足を感じるケースもある。あともう少し良くしたいと思ったら、画質設定からカスタムを選んで、調整することができる。なお、日本デジタル家電によれば、最新版ファームではVBRのピーク時ビットレートを約6Mbpsまで向上させており、シーンチェンジ時の画質改善が図られているという。

やや弱い検索機能

 検索機能もあるが、それほど強くない印象だ。キーワード検索は、フリーキーワードに対応するわけではなく、事前に番組名などをキーワード登録しておく必要がある。「放送中の番組情報から検索」は、番組名か、番組情報から検索することができる。

タイムシフト番組の検索画面
事前に番組名をキーワードに登録する必要がある

 番組名での検索は、1週間保存できることを考えれば、デイリーの番組を探すときには便利に使えるだろう。一方、番組情報に関しては、一部のキーワードから抽出できるというわけでもなく、情報全部を検索するだけなので、結局今放送しているその番組しか見つからない。それだったらその場でタイムシフト再生に移行すれば済むだけなので、何のために実装されているのかよくわからない機能である。

番組名検索は、帯番組では便利
ジャンル検索で映画を選択

 ジャンル検索は、EPG上のジャンルから選択する方法だ。何やってるかわからないが映画を探したいとか、そういうときには便利である。

 「全てから検索」を選ぶと検索が始まり、録画されている番組のリストが表示される。ここからさらにリモコン操作で放送局や放送日で絞り込める。さらに、日付順以外にも番組タイトル名前順にソート表示し、名前から自動的にフォルダにまとめる機能も備えるという。

タイムシフトから番組を切り出してバックアップする機能も搭載

 タイムシフトは約1週間のループレコーディングなので、いっぱいになれば上書きされてしまう。本機では録画してあるタイムシフトから、特定の条件に合う番組だけをバックアップして、取っておくことができる。

 バックアップスタイルとしては、すべて、ジャンル選択、キーワード、ジャンル+キーワードの4タイプ。今回は特定のジャンルとして、バラエティと映画のみを、USB HDDにバックアップする設定にしてみた。

 バックアップは、ターゲットとなる番組の録画終了後に行なわれる。同時に複数のバックアップ対象が現われた場合は、順次1つずつバックアップが行なわれるようだ。

バックアップした番組は、サムネイルで選択できる

 こうすることで、結果的に、特定のジャンルのみ、1週間以上保存する事ができる。バックアップ用のHDDがいっぱいになった場合は、古い番組から順次上書きされていく。もちろん削除禁止にもできるので、長期保存しておきたい番組をキープする手段としても有効だ。

 バックアップされた番組は、当然番組表には現われてこないので、別途メインメニューの「ビデオ選択」から、サムネイルと番組名で選択していく。特定の番組にすばやくアクセスするためのショートカット的にも使える機能だ。

総論

 ロクラクIII・ALPHA IIサーバは、独自ハードウェア、独自OSによる、完全オリジナルの全録機である。光メディアなどは搭載していないため、従来規格や過去の製品との互換をしがらみとして引きずる事なく、独自の解釈で製品化できるのが強みだ。

 ただメニューの作りなどは必ずしも洗練されているとは言いがたい。昨今の流行であるホームネットワーク機能を使うには、端末として同社の別製品が必要となる。すでに同社製品を持っている人は導入しやすいだろうが、最初にALPHA IIサーバを導入する人にとっては、ハードルが高い事になる。

 だが、同社製品同士をペアリングする機能によって、インターネットを介した遠隔視聴を可能にしている。アナログ映像として入力・録画した番組をネット経由で伝送するもので、セキュリティチップを搭載した機器同士、1対1でペアリングする事で実現している。

 過去日本デジタル家電では、親子ビデオ通信機能を使って、海外で日本の番組を視聴するためのレンタルサービスを行なっていたが、これが著作権法の直接侵害(いわゆるカラオケ法理)としてテレビ局に訴えられた。最高裁まで戦った結果、親機の管理責任を問われて、平成24年1月31日に知財高裁に差し戻しとなっている。

 レンタルではなく、各個人がサーバを家庭に置いて行なう分には私的複製の範疇なので、本機の機能そのものの違法性が問われているのではない点は、消費者としてきちんと理解すべきである。

ハイビジョン・ロクラクSlim・NEOIIサーバ

 難点といえば、価格が298,000円と、競合製品に比べてずば抜けて高いところである。だがソニーのロケーションフリーが製造終了となった今、DTCP+対応製品の登場も期待されるが、海外渡航時のテレビ視聴を実現する方法が加速度的に少なくなっている現状で、全録で遠隔視聴を実現できる本機は他には変えられない存在である。

 一方、家の中で一人で使う分には、コストに合うかどうか、他の製品とじっくり比べてみたほうがいいだろう。なお、地デジのダブルチューナと、1TB HDDを搭載した小型のレコーダ「ハイビジョン・ロクラクSlim・NEOIIサーバ」(198,000円)も用意されている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。