小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第611回:至れり尽くせりのハンドヘルド、キヤノン「XA25」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第611回:至れり尽くせりのハンドヘルド、キヤノン「XA25」

小型でもHD-SDI。MP4対応/2フォーマット同時記録

帰ってきた業務機シリーズ

 2010年よりキヤノンは業務用カムコーダとして、XFシリーズを投入してきた。XF305/XF105は、ハンドヘルド機ながらもMXF記録を中心に据えて業務展開したラインナップだ。

 そして翌年にはコンシューマ機をグレードアップする形で「XA10」を投入した。これは「iVIS HF G10」をプロスペックに拡張したタイプで、当時業務分野でも主流になると言われた、AVCHD収録モデルである。

 ご存じのようにプロの世界では、ムービーカメラとしてデジタル一眼が一般的に使われるようになり、圧倒的に表現の世界が拡がった。従来は何でもかんでもショルダー型のビデオカメラで撮らなければならなかったのに比べれば、格段に選択肢が増えたわけだ。

 その一方で、報道や記録映像では従来型ビデオカメラのほうが向いているのだが、なかなかそこに向けてのカメラが投入されなくなってきたという現状がある。プロの間でJVCの「GY-HM600/650」が高い評価を得ているのは、そういうアンバランスな市場を反映した結果といえるかもしれない。

 この春にキヤノンが投入する業務用カムコーダが「XA25/20」だ。市場想定価格は、XA25が25万円前後、XA20が17万円前後となっている。

 型番からするとまたコンシューマ機からのアップグレードのように見受けられるが、今回はそれに該当するコンシューマ機の投入はない。純粋に業務ニーズ向けに新設計された、コンパクトハンドヘルドモデルである。

 およそ2年の沈黙を破って登場した新XAシリーズの実力を、さっそくテストしてみよう。

一見コンシューマハイエンドだが……

 今回は上位モデルのXA25のほうをお借りしている。見所は多いのだが、最大のポイントはこのコンパクトさでHD-SDI出力端子を装備しているところだ(XA25のみ)。コンシューマ機並みのサイズでHD-SDI出力を装備したカムコーダは、他にないと思われる。

 XA20はハンドル部が別売(想定価格4万円前後)、HD-SDI出力無しという違いがあるのみで、それ以外は同じである。ということはハンドルを買えば違いはHD-SDI出力だけで、HDMIがあればいいという業務ユーザーからハイアマまではこちらでカバーするという事だろう。

 サイズ的にはXA10よりもやや大きくなっているが、取り外せるハンドルといった構造は継承されている。XA10で好評だったコンセプトはそのまま残しながら、もう一回最初から作り直した業務用機といえそうだ。

前モデル同様ハンドル付きのコンパクトスタイル
ハンドルを外すとさらに小型化も

 まず光学系だが、レンズは35mm換算で26.8mm/F1.8~576mm/F2.8の光学20倍ズームとなった。XA10が30mmオーバーの10倍だったのに比べると、広角・望遠ともに拡がった。ただ強力な手ぶれ補正の「ダイナミックIS」を使うと電子補正も入るので、ワイド側のみ28.8mmスタートとなる。

撮影モードと画角sample
ワイド端テレ端
手ブレOFF
26.8mm

576mm
ダイナミックIS ON
28.8mm

576mm
絞りは円形絞りを採用(F4にて撮影)

 絞りは従来通り8枚だが、今回は8角形ではなく羽根の形にカーブを持たせた円形絞りとなっている。キヤノンのビデオカメラでは初めての採用だという。

 鏡筒部には大型のマニュアルリングがあり、背面のスイッチでフォーカスかズームに切り換えできる。鏡筒部下にはカスタムダイヤルがあり、脇のボタンを長押しして機能を切り替えていくというスタイル。

レンズフードには跳ね上げ式カバー機構を搭載
マニュアル用リング搭載
背後のスライドスイッチでリングの機能を切り替える

 センサーは新開発の1/2.84型、有効291万画素のHD CMOS PRO。こちらも新しい画像処理エンジン「DIGIC DV4」との組み合わせにより、防振機能を大幅に強化した。

 また、このモデルではAVCHDだけでなく、MP4記録も可能になっている。今回のテスト撮影は、特殊撮影以外はMP4 35Mbps/59.94pで撮影している。

AVCHD記録
ビットレート解像度フレームレート
28Mbps1,920×108059.94p
24Mbps1,920×1,08059.94i/29.97p/23.98p
17Mbps1,920×1,08059.94i/29.97p/23.98p
5Mbps1,440×1,08059.94i/29.97p/23.98p
MP4記録
ビットレート解像度フレームレートサンプル
35Mbps1,920×1,08059.94p
MVI_0181.mp4
(42.1MB)
24Mbps1,920×1,08029.97p/23.98p
MVI_0182.mp4
(30.9MB)
17Mbps1,920×1,08029.97p/23.98p
MVI_0183.mp4
(23.7MB)
4Mbps1,280×72029.97p/23.98p
MVI_0184.mp4
(5.54MB)
3Mbps640×36029.97p/23.98p
MVI_0185.mp4
(4.32MB)
記録はSDカードのデュアルスロット

 内蔵メモリは搭載せず、ストレージは2つのSDカードスロットのみだ。また静止画撮影機能はあるが、写真モードやシャッターボタンはなく、画面内のPHOTOボタンをタッチして撮影するのみだ。

 さらに2つのスロットに異なるフォーマットやビットレートでの記録もできる。組み合わせのポイントとしては、ハイビットレートと低ビットレートの組み合わせ、AVCHDでは同じビットレートでのミラー記録が可能だ。ただ59.94pのみ、いずれのフォーマットでも同時記録はできないのは残念だ。

同時記録の組み合わせ
AスロットBスロット
AVCHDMP4
28Mbps
24/17/5Mbps4/3Mbps
AスロットBスロット
MP4MP4
35Mbps
24/17/4Mbps4/3Mbps
3Mbps3Mbps
AスロットBスロット
AVCHDAVCHD
28Mbps
24/17/5Mbps24/17/5Mbps
(ミラー記録)

 ミラー記録は、特に記録映像の分野で求められている機能だ。低ビットレートの同時撮影は、現場からのネットへのアップロードを想定している。おそらく想定としては報道だろうが、日本ではテレビとネットが乖離しまくっているので、あまりニーズはないだろう。速報が必要な大ネタならば生中継するが、速報をネットで出すぐらいなら早く帰ってこいと言われるのが、日本のテレビ報道である。これは主に海外でのニーズが多い機能だと思われる。

有機EL採用の液晶モニタ

 液晶モニターは3.5型123万ドット有機ELで、色再現性はNTSC比100%を誇る。視野角は80度以上とあるが、だいたい45度を超えると若干緑に転ぶ傾向がある。

 タッチパネルになっているが、タッチ方式が以前とは変わっている。旧モデルは抵抗膜方式だったので、少し力を入れないと反応しなかった。今回はスマートフォンなどで採用されている静電容量方式なので、軽く触るだけで操作が可能だ。

 また液晶を触りたくないという人のために、背面にジョイスティックを設けた。これにより、ビューファインダで撮影しながらの設定変更も可能だ。そのほかボディには5つのボタンがあり、機能をアサインできる。ビューファインダも156万画素と大幅に高精細化しており、アイカップの形状も見直してより使いやすくなっている。

後部にジョイスティックも搭載
45度まで跳ね上がるビューファインダ

 ハンドル部にはXLRの音声入力端子があるほか、赤外線撮影用の発光部がある。赤外線撮影などしないという人もあるかと思うが、暗転した舞台でカメラポジションを移動する、アングルを変えて待ち構えるといった時に、目の代わりになるといった使い方もあるだろう。

 ボディのグリップ部はやや太めで高さがあるため、手にしっくり馴染む。このサイズでシーソー式ズームレバーを搭載したのも、大きなポイントだ。

ハンドル部にXLR入力
シーソーズームを搭載
ハンドル部分は取り外し可能だ

 端子類はほぼ前面に集中しており、HD-SDIも前にある。Gen Lockやタイムコード端子はないが、最近はデジタルスイッチャーで同期は自動引き込みになっていること、編集もノンリニアが主流になりタイムコードの同期運用が減ってきたことから、なくても困らない現場は多いだろう。内部的にはタイムコードが設定できるようになっている。

このサイズでHD-SDI搭載
後ろ側は充電とアナログAV端子

使いやすい新機能満載

ハンドル部の音声機能をOFFにしないと内部マイクが生きない

 ではさっそく撮影してみよう。今回はハンドルは装着しているものの外部マイクは使用せず、内蔵マイクの性能をテストしている。ただハンドルを装着した場合、外部入力部のスイッチをOFFにしないと、内蔵マイクが切られたままになり、無音で収録されてしまう。モデルさんのショットでいくつか音声がないのは、このスイッチに気がつかなかったからである。

 まずAFだが、これまでのハイスピードAF以外にもいくつかのモードが選べるようになった。「ミディアムスピードAF」は、ハイスピードよりも若干速度を落としてAFを追従させるモードだ。

 「フェイスオンリーAF」は、顔検知により人の顔があるときには追従するが、それ以外はマニュアルフォーカスとなるモードだ。人がはけたあとも背景にフォーカスを合わせる必要がない場合に有効である。

 マニュアルフォーカスでも、1ポイントだけフォーカスポイントが記憶できる。2点間のフォーカス送りなどで便利に使えるだろう。

3タイプのAF動作比較
af.mp4
(189MB)
マニュアルフォーカスではポイントを1箇所セットできる
新ダイナミックISとパワードIS
stab.mp4
(70.6MB)

 手ぶれ補正は、従来のダイナミックISに電子補正を組み合わせた、新しいものになっている。昨今のトレンドであるが、ローテーションや、パンチルト方向のローリングにも対応した。「パワードIS」はより強力に効くため、脇を締めて両手で支えれば、手持ちでもFixの映像が撮れる。

 画質面では、AVCHDが60p撮影が可能になって久しいが、上限28Mbpsでは厳しい面もあった。しかしMP4モードでは35Mbpsまで使えるため、エンコードに起因する破綻は感じられない。ビデオカメラであるが故にローパスフィルターによる甘さはあるものの、なめらかな質感を感じさせるしっとりした絵になっている。

水面でも破綻しない高ビットレート
しっとりした発色でなかなか魅せる
肌も白飛びせずダイナミックレンジは広い
動画サンプル。MP4 35Mbps/59.94pで撮影
sample.mp4
(237MB)
室内撮影のサンプル。赤外線撮影も
room.mp4
(126MB)

 操作面では、マニュアルリングが2つあること、アサイナブルボタンが5つあることなどから、マニュアルでの設定変更がかなり楽だ。ワンマンで何でもやらないといけないタイプの撮影では、かなり負担が減る事だろう。

 室内撮影では、新画像処理エンジンによりS/Nは上がったはずだが、AGCオートでは暗部を上げすぎの傾向が見られる。AGCリミットは付いているので、自分でいい具合に調整すれば済む話なのだが、考え方としてオートはむしろ保守的で、マニュアルではリスクを覚悟で攻めるという方が、このカメラが想定しているユーザーには使いやすいかもしれない。

多彩な特殊撮影機能

 XA25では、通常のビデオモード以外にシネマモードを搭載しており、29.97pもしくは23.98pで撮影できる。ビットレートは35Mbpsが使えず、最高で24Mbpsとなる。

シネマモードのみ、フィルタが使える
filter.mp4
(190MB)

 シネマモードでは独特のフィルタを装備しており、効果のかかり具合をH/M/Lの3段階で設定できる。サンプルでは“M”ですべての効果をテストしている。

 またフレームレートの組み合わせにより、スローモーションとファーストモーションの撮影が可能だ。60fpsで撮影し24fpsで再生することで最高40%スロー、24fpsで撮影し60fpsで再生することで最高250%のファーストモーションが再生できる。

スロー/ファーストの組み合わせ
再生fps再生fps再生fps
60p30p24p
記録fps24fps250%125%100%
30fps200%100%80%
60fps100%50%40%
40%スローのサンプル
slow.mp4
(45.7MB)

 なお貸し出し機では、24fps撮影60fps再生の組み合わせのみ、カードエラーで記録できなかった。これは撮影時に使用したSDHC Class10のカードでは、転送速度が足りないせいかもしれない。製品発売時には、メーカーから公式な速度情報が出るだろう。サンプルとして、60fpsで撮影し24fpsで再生する40%スローを掲載する。

【編集部追記】
 キヤノンによれば、上記のカードエラーはレビューに使用した貸出機固有の問題で、製品版では24fps撮影60fps再生でも正常に撮影できるという(2013年5月7日)。

 昨今のトレンドとなりつつある、無線LAN機能も装備している。ポイントは2.4GHz帯の11b/g/nだけでなく、5GHz帯の11a/nにも対応したことだ。実際に映像・IT系展示会場などの撮影では、会場内を2.4GHz帯の電波が飛びすぎており、役に立たない事がたびたびある。しかし5GHz帯を利用する機材は今のところ少ないので、安定した接続が期待できる。

Wi-Fi機能も搭載

 無線LANの機能としては、カメラコントロールと撮影ファイルのFTP転送が可能だ。カメラコントロールは専用アプリではなく、Webブラウザで使うWebアプリとなっており、ライブビューを見ながらフォーカス、アイリス、ズームホワイトバランスが調整できる。また撮影モードの変更や記録スロットの変更なども可能だ。

無線LANによるカメラコントロールも可能
Kindle Fire HDでコントロールしてみた
スマートフォン向けの簡易操作画面

 テストではKindle Fire HDを使ってカメラコントロールを行なった。ご存じかもしれないがKindle Fire HDはGoogle Playが利用できないので、大抵のメーカー製アプリはインストールできない。しかし5GHz帯にも対応しており、無線LANはデュアルアンテナなので感度が高い。こういう特殊端末も利用できるのは、Webアプリの一つのメリットだ。

 なおカメラコントロールには、画面の小さいスマートフォンで利用する簡易操作モードもある。

総論

 XFシリーズはプロユースを意識した高画質シリーズであったが、それ以降コンシューマの分野では数々のイノベーションが起こり、カメラ機能もずいぶん様変わりした。XA25は、それらのイノベーションをまんべんなく取り込みつつプロユースを意識した作りとなっており、「他にまだ何か?」と問われれば、「ないないw」と答えざるを得ない出来となっている。

 HD-SDIの搭載はあきらかにプロユース狙いで、中継やマルチカメラ収録の現場を大きく変えていくだろう。特に地方ケーブルテレビなど、スタジオもロケもカメラを使い回したいという分野では重宝しそうだ。

 XFシリーズとの決定的な違いは、MXFフォーマットに対応していないという部分になる。しかしMXFでメタデータをきっちり管理・運営しているところは、現状それほど多くないこともあり、それほどのハンデにはならないだろう。XA25の登場で、事実上XF105の必要性は薄まったといえる。

 今の映像制作シーンはデジタル一眼一色という感じだが、実務では従来スタイルの撮影のほうが多いはずだ。そういった用途のカメラが次第に少なくなってきているのも、課題の一つとなっている。このカメラがその問題を解決するか、市場の評価をよく見ていきたい。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。