小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第640回:もう出た! ソニーの4Kハンディカム「FDR-AX1」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第640回:もう出た! ソニーの4Kハンディカム「FDR-AX1」

4K/60pでXAVC S記録。始まる“4Kビデオ”の世界

ビデオで4Kをやるという意味

 ご存じのように日本では、総務省「ICT成長戦略会議 放送サービスの高度化に関する検討会」にて、4K放送を世界に先がけて推進することとなった。放送のデジタル化は、電波の有効利用という国策であったが、4K推進は経済成長戦略の一つとして位置づけられる。

 すでに一昨年ぐらいから4Kという言葉が登場し、製品もそこそこ出ているが、テレビを除いて制作機器というのは、これまで殆どが映画向けであった。一部JVCやアストロデザインが“4Kビデオ”という文脈で機材開発を行なってきたが、正直昨年ぐらいまでは「何に使うの?」という冷ややかさがあったと思う。

 ところが9月に東京オリンピック開催が決定した事から、話が全く変わってきた。2020年には“4K放送当たり前”の時代にするべく、国、メーカー、放送業界共同で推進していくというコンセンサスが取れた。

 そうは言っても、だ。4K放送は60pが標準フォーマットとなる。特にオリンピックのようなスポーツ中継では、60pは必須だ。シネマ用カメラでも60pで記録できるものはあるが、シネマレンズでサッカー選手は追いかけられない。あるいはカメラを肩に担いで近くまで行くこともままならない。シネマカメラとビデオカメラは、まったく別物なのである。

 そんな中、早くも民生用ハンディカムシリーズとして、4Kのカムコーダが登場した。「FDR-AX1」である。ソニーのHDカムコーダシリーズの型番は「HDR」だったことを考えると、FDRのFは“Four K”のFだろうか。ソニーとしては初の民生用4Kカムコーダで、店頭予想価格は42万円前後。11月8日から発売されている。

 “ハンディ”と言えるほど小さいか? というツッコミはあろうかと思うが、ハイエンドカメラとしては2004年のHDR-FX1、2008年のHDR-FX1000、2010年のHDR-AX2000に続く系譜となる。

 4Kビデオの到来を告げる新シリーズを、さっそく試してみよう。

小さいとみるか大きいとみるか……

 まずボディだが、基本フォルムはFX1から連綿と続く、グリップ部の先にコントロール部と液晶モニタを載せたハイエンドシリーズのスタイルを継承しており、特異なフォルムというわけではない。ただサイズ的にはシリーズ中で最大となっており、重量もバッテリ込みで2.77kgと、ハンディカムという文脈で捉えるとかなり重い。外形寸法は189×362×193mm(幅×奥行き×高さ)だ。

ハイエンドシリーズとしてもかなり大型
レンズフードはカバーも兼用

 昨年登場したJVCの4Kカムコーダ「GY-HMQ10」がバッテリ込みで1.62kgだったことを考えると、ほぼ1kg重い事になる。おそらく重量の大半は、レンズ部だろう。

レンズカバーを外したところ

 さてそのレンズだが、フィルター径72mmのGレンズで、焦点距離は35mm換算で31.5~630mmの光学20倍ズームレンズ。F1.6~3.4で、絞りは6枚羽根の虹彩絞りとなっている。また3段階のNDフィルタを装備している。

 撮像素子は1/2.3型の“Exmor R”CMOSセンサー、単板である。従来のハイエンド機では、ビデオカメラとしてはスタンダードな三板式を採用してきたが、シネマ系ではすでに単板が主流ということもあり、踏み切ったという事だろう。もちろん、カメラサイズの制約もあっただろうが。

 センサーは総画素数は1,890万画素で、有効画素数は約830万画素となっている。3,840×2,160をドットバイドットで撮るということだろうが、元々の撮像素子をフルには使っていないため、実際の撮像面積は1/2.3型よりも小さいという事になる。

3つのリングでマニュアル操作をサポート

 鏡筒部に3つのリングがあり、フォーカス、ズーム、絞りがそれぞれ手動で動かせる。リング動作は機械式ではなく、すべて電子式。

 液晶モニターは3.5型、約123万ドットのエクストラファイン液晶を搭載。タッチパネルではない。コントロール部は再生系のボタンと、メニュー操作用ボタンなどがある。

グリップの先に液晶モニターが展開する
液晶を開けたところにコントロール部が
側面のボタン類は従来モデルの設計を踏襲

 側面はボタン類が多いが、レイアウトはこのクラスのカメラとしては一般的なスタイルだ。フルオートの切り換えスイッチがあるが、マニュアルモードでは絞り優先、シャッター優先、フルマニュアルなどが使える。

 音声系は、内蔵マイクか外部入力かの切り換えは側面だが、外部入力側の設定はハンドル部にある。またアサイナブルボタンが6つ、集中して並んでいる。下の3つはZEBRA、PEAKING、THUMBNAILという記載はあるが、設定で自由に変更できる。なおグリップ部のズームレバーの後ろに7つ目のアサイナブルボタンがある。

ズームレバーの後ろに7番目のボタン
ステレオマイクも内蔵
外部入力の種別切り換えはグリップ部にある

 背面は結構複雑だ。まず記録カードは、新開発となるXQDメモリーカードが2スロット。4K/60pの映像を1枚のカードに記録でき、リレー記録も可能だ。記録フォーマットは、ソニーオリジナルのMPEG-4 AVC/H.264を使った「XAVC S」規格となる。

スロット、端子類はかなり多い
新開発のXQDカード。SDカードより一回り大きい
接点は内部で3グループに分かれている

 SDカードスロットも搭載するが、こちらは4Kは記録できず、AVCHDフォーマットのHD解像度撮影時にのみ使用できる。ただ現在AX1はAVCHDでの記録をサポートしていないので、今は使い道がない。AVCHD記録は来年夏頃のファームアップで対応するという。

出力は未だアナログコンポジットも備える

 その下にはUSBポートが2つあるが、上のUSBはHDDを直結してバックアップする、「ダイレクトコピー」用のもの。これもまだ機能しておらず、来年夏頃のファームアップで対応となる。その下のミニUSBポートは、カメラとPCを直結して映像を取り出すためのものだ。ただし転送速度はUSB 2.0となる。

 バッテリを挟んで反対側は、アナログコンポジットのAV端子がある。HDMI端子もあるが、現在のところ同社4KテレビBRAVIAとの組み合わせであれば、独自方式によりHDMIケーブル1本で4K60pでの映像伝送が可能だ。将来的にはHDMI 2.0へのアップデートも検討されているという。また出力設定を変更すれば、4KをHDにダウンコンバートして出力することもできる。

 横にもまたSDカードスロットがあるが、これはファームウェアアップデート専用で、他の用途はないという。ある意味豪勢とも言えるが、今後かなりのファームアップを予定しているからなのだろう。

バッテリーは大型のNP-F970で、装着しても後部から出っ張らないよう、かなり深くえぐれている
ヘッドホンモニターのチャンネル切り換えもある
AC電源での使用も可能

 グリップ部はかなりの厚みだが、丸みがあって持ちやすい。前方に吸気口があり、後部の横のファンから強制排気する。長時間使ってもグリップ部が熱くなることはない。ただ、親指があたるボディ部分のあたりがほんのり暖かくなる。

グリップの前方から吸気
ボディ横から排気

 カメラとしては結構大きな排気機構を備えているため、ファン音は気になるところだろう。屋外撮影ではまず問題にならないレベルだが、静かな室内にいると、ああ電源入ってんなーというのがわかる程度にはファンノイズが聞こえる。外部から音がLINEで貰えたり、インタビューマイクを繋いでの利用では問題にならないだろうから、業務ユーザー以上が困る事は少ないだろうが、カメラマイクで何もかも一人で撮るしかないというケースでは、場所を選ぶカメラと言える。

 なおほぼ同スペックで記録系がプロ仕様となったモデル、 「PXW-Z100」も発売されている。

初号機ながらさすがの品質

多彩な記録モードを備える

 では早速撮影、と行きたいところだが、その前に録画フォーマットについてまとめておこう。本機はプロ向け4K/HD録画規格、XAVCのコンシューマ版であるXAVC Sに対応している。違いとしては、XAVCがIntra FrameでもLong GOPでも記録できるが、XAVC SはLong GOPのみであること、ファイル形式がXAVCがMXFなのに対し、XAVC SがMP4であるといった点が挙げられる。

 本機で記録可能な解像度とフレームレートは以下のようになっている。

解像度フレームレートビットレート
3,840×2,16059.94p150Mbps
29.97p100Mbps
29.97p60Mbps
23.98p100Mbps
23.98p60Mbps
1,920×1,08059.94p50Mbps
29.97p50Mbps
23.98p50Mbps

 前述の通り、現時点ではAVCHDフォーマットでの記録には対応していないが、HD撮影できないわけではなく、XAVC SとしてならHD解像度でも撮影できる。今回はHD解像度では撮影していないが、よほどAVCHD決め打ちでしか編集できないシステムでない限り、ビットレートを考えればHDでもXAVC Sのほうがメリットがある。

 今回のサンプルは、すべて3,840×2,160/59.94pで撮影している。音声はカメラ内蔵マイクを使用した。実際に4KのXAVC Sの編集サンプルは、再生できる方は少ないと思われるので、4Kサンプルとしては3カットだけとした。なお30pに変換するとXAVC SフォーマットでもWindows Media Playerなどで再生できるようなので、合わせて掲載しておく。長いサンプルは、HDサイズにダウンコンバートしたものである。

VEGAS ProでXAVC S 4K/60P出力した動画を、YouTubeにアップロードしたもの
VEGAS ProでXAVC S 4K/60P出力したもの
4k60p.mp4
(375MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
VEGAS ProでXAVC S 4K/30P出力したもの
4k30p.mp4
(240MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
VEGAS ProでXAVC S HD/60p出力したもの
sample.mp4
(437MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
三脚穴は2箇所にある

 ハンディのカメラとしては重いほうだが、グリップ部を持つと前後のバランスは取れているので、扱いにくくはない。ただ三脚に載せると穴がやや後ろ側にあるため、前が重たくなる。ねじ穴が2箇所にあるので、回転留めの突起が外せたり引っ込んだりするタイプのシューなら、前のねじ穴に止めたほうがいいだろう。

 4K撮影でこれまでよく問題になっていたのはフォーカスだが、さすがにビデオタイプのカメラだけあって、AFの精度は高い。ただ、民生機のように顔認識による追従や、AFポイントをタッチしてそこに合わせるような機能はなく、機能としてはシンプルだ。

AF動作のサンプル
af.mp4
(108MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 また拡大やピーキング表示もできるので、フォーカスアシストはまず問題ないだろう。被写界深度がそれほど浅くならない点も、フォーカスの心配が減る部分だ。

 レンズを光源方向に向ければフレアはそれなりに出るが、散ってしまう感じもないため、使いやすいだろう。6角形の虹彩絞りで、ボケの形も見苦しくない。

ピーキングによるフォーカスアシストも正確に決まる
フレアは散る感じもなく、うまく押さえている

 撮影して気になったのが、液晶モニターの映像のコントラストである。実際にはちゃんとしたコントラストで撮影はできているのだが、どうもモニターのコントラストが浅いようで、全体的にパッとしない印象の絵に見える。ビューファインダは液晶とほぼ同じ画素数(約123万画素)あるが、時分割方式で視点を移すとカラーブレイキングが発生する。しかも黒が浮く傾向はあまり変わらない。

 また、モニター表示として、波形モニタやヒストグラムが出ないため、露出が決めづらい。ゼブラ表示を頼りに決めていくしかないのだろうが、撮影時のシビアなモニタリングは別にモニターを用意した方がいいだろう。

 ただ画質としては、レンズを相当頑張ったようで、テレ端でも収差は感じられず、解像感の高い描画となっている。4Kの民生初号機で、ここまで完成させてくるとは正直驚いた。

裏面照射だけあって、暗部の階調も十分
テレ側でもこの解像感

 民生機とはいってもパパママカメラではないので、派手なエフェクトのような機能は入っていない。むしろ詳しい人にしかわからないガンマ設定が沢山入っている。大まかにはSTD(ビデオ)とCINE(映画)カテゴリに分かれているが、その中でさらにガンマが選択できる。このあたりはNXCAMのような上位モデルの設定に合わせたようだ。

【STD】

設定サンプル
DVW:DVWカムコーダー相当
×4.5:低輝度部ゲインが4.5
×3.5:低輝度部ゲインが3.5
240M:SMPTE-240M相当
R709:ITU-R709相当(デフォルト)
×5.0:低輝度部ゲインが5.0

【CINE】

設定サンプル
Cinema tone1
Cinema tone2

編集はまだ大変

 さて、撮影できたのはいいが、史上初のXAVC Sフォーマットで撮った絵をどのレベルのマシンなら編集できるのかというのは、割と切実な問題である。今回は編集用として、ツクモ eX.computerで4Kモデルとして販売している「RA7J-A52/4KS」をお借りすることができた。3D CADやCGアニメ制作などでの利用も想定したPCで、シャープの32型4Kディスプレイ「PN-K321」とPCを組み合わせたセットになっている。価格は598,000円(2013年11月19日現在)。CPUはインテル Core i7-4770、メモリ8GB、1TB HDD、AMD FirePro W5000を搭載したWindows 7 Proマシンである。今回はPC本体のみをお借りしている。

eX.computer「RA7J-A52/4KS」
AeroStream専用オリジナルケースを使っており、中はかなり余裕のある設計で拡張性も高い
シャープの32型4Kディスプレイ「PN-K321」がセットで、DisplayPortケーブル1本で4K表示を行なう

 撮影されたクリップは、専用リーダーを使うことでUSB 3.0のスピードでPCに転送できる。ただPC側がSSDでもない限り、HDDに移すよりは、メモリーに入れたままで扱った方がレスポンスはいいだろう。

XQD専用カードリーダー
USB 3.0で高速転送が可能
PlayMemories Homeでプレビューが可能

 AX1で撮影した4K/60pの録画ファイルは.MP4形式になっているが、Windows版QuicktimeやMedia Playerでは再生することができない。一方でソニーが無料配布しているクラウド画像/動画管理ソフト、PlayMemories HomeがXAVC Sに対応している。メモリー内からのプレビュー再生や、ファイルの取り込みもサポートしている。メモリー内から再生してみたところ、4K/60pでも滑らかに再生できた。

 ただ、HDDに取り込んでしまうと、4K/60pの高ビットレートとHDDの転送スピードの問題から、プレビューにはコマ落ちが発生する。

 一方映像編集ソフトとしては、XAVC S対応を表明しているメーカーはいくつもあるが、AX1には、このフォーマットにも対応した「Vegas Pro 12 EDIT」のライセンスが付いてくる。今回はこれで編集した。ただ、4K/60pのプリセットはなく、新たにカスタム設定で作る必要がある。

XAVC Sに対応した「Vegas Pro 12 EDIT」
プロジェクトのプリセットは4K/29.97pまでしかない

 XAVC Sのクリップ再生は、HDDに取り込んだものからではコマ落ちが激しく、編集どころではない。5GBほどキャッシュに割り当てて「キャッシュプレビュー」機能を使えば数10秒はなめらかに再生できるが、それだけでは編集したクリップ全体を見るには足りない。HDの黎明期に一瞬だけ流行ったプロキシ編集機能が、4K/60p時代にはどうやらまた必要になりそうだ。

 一方、カードリーダーを使ってXQDカードから直接読み出してみると、クリップを選ぶたびに多少待たされるが、PCはハイスペックなので再生そのものは滑らかにできる。ただ、編集したタイムラインを再生する場合は、クリップの境目に来ると次のクリップの読み込みを始めるので、全体を通して編集タイミングを見ることはできなかった。

 なお、4K/60pのXAVC Sファイルへのレンダリングは、途中で「Vegas Pro 12 EDIT」の処理が止まってしまうことが多く、なかなか完了することができなかった。元々出力テンプレートにも4K/60pがないためカスタム設定で作るしかなかったが、そのあたりの動作検証がまだ終わってないのかもしれない。このあたりは今後のバージョンアップに期待したい。

総論

 昨年、JVCから4Kカメラ「GY-HMQ10」が出たときは、4枚のSDカードに分割記録し、PC上で貼り合わせて4Kにするという、当時の技術でやれる現実解を用いて4Kを実現していた。あれから1年が経過し、ようやく1枚のメモリーカードで、1ファイルで4Kが撮れるところまで来たわけである。

 XAVC/XAVC Sはオープンな技術フォーマットと位置付けられているが、ソニーが独自に開発したもので、その点には賛否あるかもしれない、というかもう何度も繰り返してきた道であり、これがデファクトになるのかは対抗勢力の巻き返し次第ではあるものの、このカメラの登場は、タイミング的にはベストである。

 編集は、とりあえずカット編集ぐらいなら、メモリーカードの直読み出しでなんとかなるところまでは来たが、制作ワークフローを作るには編集用の中間コーデックの検討も含め、もう少し環境整備が必要だろう。

 ただ、放送のほうは4K中継の方に注力していくことが既定路線であるため、4K/60p編集ワークフローは、どちらかというと業務/コンシューマ分野に投げられた格好だ。CPUを含めたITハードウェアの性能アップを睨みながら、巨大高圧縮ファイルをどう料理していくか。ここには案外ITベンチャーの入る隙も相当あるように思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。