小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第683回:音質大幅強化のキヤノン「iVIS mini X」ようやく日本発売! パンテーブル「CT-V1」も試す
第683回:音質大幅強化のキヤノン「iVIS mini X」ようやく日本発売! パンテーブル「CT-V1」も試す
(2014/10/15 10:00)
自分撮りコンパクトカムコーダとしてiVIS miniが登場したのは、ほぼ1年前の事である。アクションカムライクな単焦点ワイドレンズを搭載しながらも、機能的にはこれまでのiVISとほぼ同等の機能を持ち合わせており、アクションカム文脈とはちょっと違う方向性のカメラだった。
今年の1月には早くも次期モデル「iVIS mini X」がCESで発表され、米国では3月に発売されたものの、日本では発売されなかった。このまま発売されないままなのかと思っていたら、10月16日から日本でも発売を開始するという。
なんでこの時期に日本での発売を決定したのか諸説考えられるが、前モデルの「iVIS mini」が9月末で販売を終了したため、そこのラインナップがなくなっちゃうのもなーという事なのかもしれない。
キヤノンに限らず、コンシューマ向けビデオカメラ事業は縮小傾向にある。いわゆる横型や縦型といった普通のビデオカメラは、価格を下げても売れない。その一方でアクションカムは、4万円~6万円程度でも売れている。「なんでも撮れます」というニーズはスマートフォンとデジカメに吸収され、ビデオカメラはコンセプトの時代に突入したのだ。
2世代目となる「iVIS mini X」、価格はオープンプライスで、直販サイトでの価格は38,800円。初代は直販サイトのみの販売だったが、今回は一般量販店でも販売するという。ではその実力をさっそくテストしてみよう。
若干大型化したボディ
ではまずボディから見ていこう。初代iVIS miniが薄型でポケットサイズを謳っていたのに対し、iVIS mini Xは厚み、フットプリント共に一回り大きくなっている。胸ポケットに入らないほどではないが、スマートには収まらない感じだ。
正面はガンメタリックな金属パーツで覆われており、より精悍なイメージとなっている。カラーは、前モデルは白黒2色展開だったが、今回はブラックのみだ。
大きくなったからには、それだけ機能的にはアップしている。最も強化されたのは、音声まわりだろう。ボディで特徴的なのは、正面のマイクだ。前モデルよりも口径が2.5倍大きなマイクを採用し、さらにノイズ低減部材もマイクユニット前に配置することで、S/Nを強化した。またリニアPCMで音声記録できるAVCHDモードも新たに加え、音楽収録を重視した作りとなっている。
これだけ音声の機能強化を考えると、競合は最初からアクションカムではなく、ソニー「HDR-MV1」や、Zoom「Q4」あたりとガチンコでやるよ、という事であろう。
さらに外部マイク用の端子も用意されている。ただしボディにはアクセサリーシューのようなものがないので、別途手で持って収録するか、何かで固定する方法を考える必要がある。音声入力レベルはマニュアルモードを備えており、ボディ横のボリュームでアナログ的にレベルが決められるようになっている。
ボディ左側にはRECボタン、再生ボタンがあり、真ん中にminiUSBとminiHDMI端子がある。前モデルではUSB給電ができなかったが、今回も対応していない。まあ実際にはほぼ同時進行で設計が進められたモデルなので、ユーザーのフィードバックを受けての改良は間に合わなかったという事だろう。
ただソニーやZoomのカメラが、いわゆる横型ビデオカメラ的なデザインなのに対し、iVIS mini Xは平形ゆえのユニークな機構を持ち合わせている。液晶画面が上にあり、前にも後ろにも向けられる。これは自分撮りする際に、モニターを見ながらでもあまり目線がレンズからずれない。また底部には自由な角度で固定できるスタンドがあり、別途ミニ三脚などを持ち歩かなくても、どこにでも置いていい角度で撮影できるのも、他にない強みだ。
レンズは広角単焦点レンズで、撮像素子は1/2.3型 1,280万画素CMOSセンサー。デジタルズームはできないものの、撮像素子の読み出しエリアを切り換えることで、アップ撮影を実現している。またアップ時には、動画撮影時のみ電子手ぶれ補正が使えるようになった。録画モードが増えたことで画角の組み合わせが複雑になっているので、整理してみる。
記録モード | 画角モード | 手ぶれ補正 | 有効画素数 | 焦点距離 (35mm換算) | |
MP4 | Wide | - | 899万画素 | 16.8mm | |
UP | OFF | 207万画素 | 35mm | ||
UP | ON | 207万画素 | 35mm | ||
AVCHD | Wide | - | 829万画素 | 17.5mm | |
UP | OFF | 207万画素 | 35mm | ||
UP | ON | 不明 | 43.7mm | ||
静止画 | Wide | - | 1,200万画素 | 15.4mm | |
UP | - | 276万画素 | 32.1mm | ||
AVCHDでは、MP4に比べて若干画角が狭くなる。音声をリニアPCMで記録できるのがウリだが、使いづらい。記録モードを変えることによってちょっと寄れるという考え方もできるが、そういう使い方は後ろ向き過ぎるだろう。
また上下逆にカメラをセットしたときの上下反転記録は、AVCHDモードでは動作しない。またスロー、倍速、インターバル記録もAVCHDモードでは動作しない。
他社製品ではMP4でもリニアPCMで録れるものがあるため、リニアPCMのためにわざわざAVCHDモードを増やしたというのは納得できない。AVCHDの追加は、操作が煩雑になっただけで、ユーザーにとっては大してメリットがない。
バッテリーはかなり強化されており、前モデルが連続65分程度しか持たなかったのに対し、今回は約160分程度の録画が可能だ。また充電も、ACアダプタによる本体充電となった。したがって今回充電器は付属せず、代わりにACアダプタが付属する。
ACアダプタは、USB給電ができない以上、連続使用で必要になるケースも多いが、別に買うと8,000円もする。しかも特殊形状のコネクタなので、代用品もない点が不評であった。だが今回はこれが標準で付属、さらに後述するパンテーブル「CT-V1」でも使えるので、少しお得感が増した。
強化された音声モード
ではさっそく撮影だ。撮影日は台風一過で晴天ではあったものの、相当に風が強く、集音のコンディションとしては悪条件なのが残念である。
本機は見かけが小型の割には機能的にはフルサイズのiVISと変わらないため、モードの関係が複雑だ。まず映像に関するモードとしては、撮影モードと特殊記録の2つの関係を把握する必要がある。特殊記録は、インターバルやスロー撮影などの特殊撮影を選択する部分だが、ここが「通常」にセットされていないと、普通の撮影ができない。
一方撮影モードは、スポーツや夜景といったシーンモードを選ぶ部分だが、ここにオートやプログラムAEといったモードも集められている。絞り優先やシャッタースピード優先といったモードはなく、当然マニュアルモードもない。
映像の明るさは、オートモード以外のすべてのモードで調整可能だが、ホワイトバランスはプログラムAEでしか使えない。
一方映像モードと独立して、「オーディオシーン」という、オーディオだけのモード選択がある。音楽やフェスティバル、スピーチといった、撮影シーンに最適化されたモードがあり、ボイスレコーダでもこんなに細かくシーンモードが分かれたものはあまりないだろう。
実際に聴き比べると、1台のカメラで集音したとは思えないほど音質が変わる。最適なモードを選ばないともったいないレベルだ。
オーディオシーンは映像モードと関係なく選択できるが、自分で細かく設定できる「カスタム」は、撮影モードがオートのときだけ選択できなくなっている。他のモードでは設定できるのに、わざわざカスタムだけを使わせない意味がよくわからない。
これまで普通のビデオカメラでも、映像モードと音声モードを別々に設定するという習慣がなかっただけに、ユーザーには複雑に見える。組み合わせで考えると大変な数だ。
むしろ映像と音声は、両方セットにしたほうがわかりやすいのではないだろうか。例えば映像は車内モードでありながら、音声は「森と野鳥」モードという組み合わせはまずあり得ないわけで、ユーザーからすれば車内モードを選んだだけで、映像も音声もそうなることを当然期待しているだろう。
映像のWideとUpは、いったん録画を止めないと切り換えできないが、画質的にはそれほど大きな差はなく、単焦点レンズを使った効果としては現実的だ。
画質的には最高でMPEG-4 AVC/H.264の24Mbps CBRとなっており、フレームレートは30fpsなので、従来のビデオカメラとほぼ同等である。レンズがややでっぱっているので、光源のフレアを拾いやすいのが弱点だろう。
新しく付けられた手ぶれ補正は、歩行の衝撃を完全に吸収できるほどではないが、OFFよりは結果がある。OFFでは手ブレそのものよりも、振動によるローリングシャッター歪みの方が気になるが、手ぶれ補正ではかなり補正されているのがわかる。これも使わないと損な機能だ。
シンプルだが使いやすい電動雲台
では次に、別売のパンテーブル「CT-V1」(9,980円)を試してみよう。これはリモートにより、電動パンを実現するためのスタンドである。監視カメラの世界ではこのような電動雲台と一体になっているものは過去沢山あったが、最近になって様々な後付けの電動雲台が沢山製品化されている。
CT-V1は汎用の雲台ではなく、同社製の一部のカメラ(iVIS HF R52/R42、iVIS mini X、iVIS mini)でのみ使用できる。電動で動くのは横方向だけで、縦方向は約40度角度が変えられるものの、ネジ留め式である。横方向は、左右に約100度、合計約200度動かせる。
電源は前述のようにカメラのACアダプタがそのまま使えるほか、単三電池2本でも動作する。底部に三脚穴もあり、この雲台自体を三脚にセットすることも可能だ。
カメラ台の部分は、蓋のようになっており、取り外せる。裏側のネジを使って蓋にカメラを固定し、その蓋ごと雲台に固定するというしくみだ。蓋を外した内部には2本のケーブルが収納されており、片側をカメラのDC入力に、もう片側をUSB端子に接続する。
雲台にACアダプタを接続した場合、この結線によって雲台とカメラの両方に電源供給が可能だ。したがって長時間待機状態にしても、途中でバッテリー切れを起こす心配がない。なお両方に給電している時は、カメラ側の電源がOFFになってもバッテリーの充電はできないようだ。
雲台のコントロールは、ピクセラ製アプリ、「CameraAccess Plus」で行なう。カメラとスマホをダイレクトに接続する「宅内モード」、カメラはホームネットワークのWi-Fiに接続しておき、スマホはLTEを使って接続する「宅外モード」の2つがある。パンテーブルは、どちらのモードでも使う事ができる。
今回は屋外に両方とも持ち出しているので、宅内モードでダイレクト接続している。録画しなくてもカメラの映像をスマホ側で確認できるほか、カメラ側での録画開始、スマホにストリーム映像の録画ができる。宅外モードはスマホ録画ができないだけで、機能的には同じだ。
アプリでカメラに接続し、パンテーブルがあるということが認識されると、モニター画面の上にコントローラが表示される。スピードは2段階で、より外側にあるボタンが高速、内側が低速だ。
モーターはほぼ無音といっていい。これならペットの様子を見ようとして、驚かしてしまうこともないだろう。ただコントローラをタッチして実際に動き出すまでは1秒程度タイムラグがある。おそらく宅外モードではもっとタイムラグが長くなると思われるので、大抵は見たいところで手を離しても、行きすぎる事になる。何度か行きつ戻りつして、見たいアングルにするという動作になるだろう。
パン動作は、低速では雲台が少し引っかかりながら動いているように見えるが、映像がかなり広角なので、動きにブレがあってもほとんどわからない。モーターを低速で均等に動かすのは、トルクの問題もあり、なかなか難しいようである。
総論
キヤノンの調査によれば、前作iVIS miniの購入者は主な撮影シーンとして楽器演奏、ドライブといった趣味が第1位だが、第2位には行楽、第3位に子供や孫の記録といった、従来のビデオカメラとしての用途が上がっている。つまり、カメラコンセプト通りに特殊用途で使う人もいる中で、案外“普通のビデオカメラ”として使っている人もそれなりに多いようだ。
今回のiVIS mini Xは、前作から音声収録が強化されたモデルと見る事もできるが、逆に従来型のビデオカメラから光学ズームを取って小さくしたという見方もできる。つまり、従来のビデオカメラではデカ過ぎ、重すぎ、仕舞いづらいといった不満が解決できておらず、そこに平形で小型なiVIS miniXがすっぽりハマるという見方もできるのではないか。
ちょっとした動画撮影や自分撮りなら、スマホで十分だろう。だが会議やプレゼンの記録といった長時間撮影となれば、空き容量が足りない、バッテリーが足りない、固定が面倒といった不満が出てくる。音が悪いというのも、スマホ動画の弱点として上がってきているのも事実だ。
そうやって限界を知ってスマホから卒業し、やっぱり専用機だといって戻ってくる先は、もはや横型従来タイプのビデオカメラではあり得ない。そこのパイを取りに行くモデルが、各社から出始めているという事だろう。
今年アクションカムに参入した国内メーカーも多いが、スポーツ用途に絞るならばもっと先鋭化しなければ、小さなパイを食い合って終わりだ。元々国内ではスポーツはそんなに大きなパイではないし、海外ではGoProに敵わない。
そう考えると、特殊に見えてレンズ以外は普通というiVIS miniシリーズの方向性は、中途半端とも見える反面、アクションカムを見て「違うんだよなぁ」と思っている人たちにジャストフィットする可能性もあるんじゃないかと思っている。
iVIS mini X |
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