小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第684回:高級コンデジ激戦!? キヤノン「PowerShot G7 X」は、ソニー「RX100 M3」よりスゴいのか
第684回:高級コンデジ激戦!? キヤノン「PowerShot G7 X」は、ソニー「RX100 M3」よりスゴいのか
(2014/10/22 10:50)
激化する1インチコンパクト市場
ここに来て高級コンパクトデジカメ市場が勢いづいている。2012年3月にキヤノンがコンデジながら1.5型CMOSを搭載した「PowerShot G1 X」を発売。加えて11月にソニーがフルサイズセンサーを搭載した「DSC-RX1」を発売した時点で、市場ではセンサーサイズが大きな高級コンデジというジャンルが確立した。
DSC-RX1は現在でも20万円を切らない超高級機だが、1インチセンサーのRX100シリーズは、RX1に比べれば価格も手ごろということで、大きく市場を開拓する立場となった。大トロは買えないけど赤身じゃヤだ、中トロぐらいならうちでも、というスーパーマーケットのマグロ解体ショーみたいな戦法が見事にはまった事例だと言える。まあ筆者もその術中にはまり、RX100 M3を買ったんですけどね、ええ。
その稼ぎどころである中トロ領域は、これまで他メーカーが手つかずであった。そこに投入されるのが、今回ご紹介するキヤノン「PowerShot G7 X(以下G7 X)」というわけである。価格はオープンで、直販サイトでの価格は66,800円。
パナソニックも11月に4K撮影を可能にした、4/3型センサー搭載のコンパクト機「LUMIX LX100」を投入するが、これは10万円を超えた大トロの部類であり、中トロとごっちゃにして語るべきではない。
さてこのG7 X、スペック的にもRX100 M3と近いが、ストリートプライスでは15,000円ほど安い。M3はビューファインダが付いているのがポイントなので、そこの差と考える事もできるが、ビューファインダいらないという人にとっては魅力的だろう。
今回は1インチセンサーを搭載したこの2台を並べて撮影して見た。いつものように動画を念入りに撮影したが、写真も撮り比べたので、こちらも参考になるだろう。
ある意味姉妹機?
G7 Xのボディは、サイズ感としてはコンパクトデジカメによくあるサイズとも言えるが、RX100シリーズとかなり近い。両者を並べてみると、姉妹機と言っても過言ではないほどよく似ている。
デザイン的なポイントとしては、G7 Xのほうがモードダイヤルとシャッターボタンが突出しており、そこに赤いリング状の差し色が施されている。そのあたりが、いわゆるキヤノンっぽいイメージとなっている。
特徴的な鏡筒部のリングダイヤルは、RX100シリーズがクリックなしでクルクル回るのに対し、G7 Xはガシッとしたクリック感があり、カチカチと明確な手応えがある。逆に言えばフォーカスのような無段階の調整には使わない(使えない)という事でもあり、このところは賛否あるだろう。
では順にスペックの細かいところを見ていこう。まずセンサーに注目すると、G7 Xは総画素数約2,090万画素の1型、アスペクト比3:2の裏面照射型CMOSセンサー。一方RX100 M3は、総画素数約2,090万画素、1型、アスペクト比3:2の裏面照射型CMOSセンサーである。そもそもこれだけのサイズの高感度裏面照射CMOSってソニー以外作れましたっけ? って考えると、これ以上はオトナの事情ではっきりとは言えないが、もうわかるな。そういうことである。
有効画素数は、G7 Xが2,020万画素なのに対し、RX100 M3は2,010万画素。このあたりはレンズ設計の違いだろう。
レンズはG7 Xが24-100mm/F1.8-2.8の光学4.2倍ズームレンズ。RX100 M3は24-70mm/F1.8-2.8の光学2.9倍ズームレンズだ。絞り羽根はG7 Xが9枚なのに対し、RX100 M3は7枚。
モデル名 | PowerShot G7 X | RX100 M3 |
センサー | 総画素数2,090万画素 1型裏面照射CMOS | 総画素数2,090万画素 1型裏面照射CMOS |
有効画素 | 約2,020万画素 | 約2,010万画素 |
レンズ焦点距離 (35mmフィルム換算) | 24~100mm | 24~70mm (3:2時) |
F値 | F1.8~F2.8 | F1.8~F2.8 |
絞り羽根 | 9枚 | 7枚 |
ファインダー | - | ○ |
背面モニタ | 3型 3:2 104万画素 | 3型 4:3 120万画素 |
バリアングル | 上に180度 | 上180度/下45度 |
軍艦部のレイアウトは、両者とも非常に似ているが、G7 Xはモードダイヤルと露出補正ダイヤルが同軸で重なって、2段になっている。電源ボタンもやや大きめで、押しやすい。フラッシュは左肩にあるが、RX100 M3はその位置にビューファインダがあるため、フラッシュはセンターにある。
背面の見た目も似ているが、RX100 M3はボタンを小さめにして、隙間を多くとっているのに対し、G7 Xはそれぞれのボタンが大きく、出っ張りも高い。このあたりは、ユーザーのアクセシビリティに対する考え方の違いが垣間見える。
小さいボタンは指先でしか押せず、やや押し込みに力が必要だが、大きなボタンは指の腹で押せるため、少ない力で押せるというメリットがある。ネイルの長い女性は、ボタンが大きく出っ張っているほうが押しやすいだろう。
液晶モニターは、サイズこそ両方とも3型だが、G7 Xがアスペクト比3:2の104万画素なのに対し、RX100 M3は4:3の120万画素。絵を表示する面積としては、G7 Xのほうが若干広いが、RX100 M3にはビューファインダがあるので、特にマイナスポイントとはならないだろう。
大きな差は、チルトのヒンジ構造である。RX100 M3が上に180度、下に45度チルトできるのに対し、G7 Xは上方向に180度回転するのみで、下方向には動かない。ローアングル、自分撮りにはOKだが、ハイアングル撮影時にはモニターできない可能性がある。
またG7 Xのモニターはタッチパネルだが、RX100 M3はタッチパネルではない。ただこれは機能が少ないというより、コンセプト的にそうしたと言う意味合いが強い。
端子類は右側に集まっており、USB兼用のAV出力端子、microHDMI端子がある。案外重要なポイントとしては、G7 Xはバッテリーの本体充電ができず、専用充電器が必要になる点だ。
ソニーのカメラは現在ほとんどのモデルで本体のUSB端子から充電できるようになっており、これは旅行先で「ンガー充電器忘れたー!」という際に重宝する。移動中などカメラを使わない時にも、モバイルバッテリで継ぎ足し充電できるなど、色々便利なのだ。これは搭載して欲しかった。
Wi-Fiによるリモート撮影にも対応している。NFCのタッチポイントが底部にあるというのはユニークだが、スマホとのリンクでは変なところに苦労してくっつけるより、安定する。
印象のいい絵づくり
ではさっそく撮影してみよう。今回は動画はマニュアルモードで、静止画はオートモードで撮影している。普通逆だろうと思われるかもしれないが、逆のレビューはきっとどこかでやると思われるので、逆張りである。
コンパクト機にしては、動画でフルマニュアルまで実装しているのは大したものだ。今回はなるべく条件を合わせるため、シャッタースピードや絞りは2機で同じ設定にして、ISO感度で露出を追いかけることにした。
まずG7 Xの録画モードだが、ビットレートの設定は無く、フルHDでは60pと30p、720/30p、VGA/30pモードがあるのみである。今回はフルHD/60pで撮影している。ビットレートは35Mbps/VBRと、AVCHDよりも高ビットレートとなっている。ただソニーのXAVC Sは50Mbpsなので、その15Mbpsがどう効いてくるかも一つのポイントであろう。
まず画角は広角側は共に24mmだが、テレ端で光学4.2倍と2.9倍の差は小さくない。RX100 M3は超解像ズーム領域まで入れればだいたい同じぐらいまで寄れるが、精細感は同じとは言えない。一番強力な手ぶれ補正を入れると、若干画角が狭くなるのは双方とも同じだ。
両者を撮り比べてわかるのは、G7 Xはやや緑が強く、RX100 M3は青が強くチューニングされているようだ。空抜けの色はRX100 M3のほうがいいが、木々の緑はG7 Xのほうがいい。またG7 Xのほうが高コントラストで、見栄えがいい。
一方動画撮影での結果を見ると、G7 Xのほうは若干ざわついた感じが残る。また動画での解像感という点では、G7 Xのほうに甘さが目立つ。ある程度寄った絵柄ではあまり感じないが、引きの絵で特に解像感の違いを感じる。
静止画と動画の落差という点では、G7 Xのほうは動画に精細感を欠くだけでなく、発色や立体感も違いがあるので、写真では良かったシーンも動画で撮るとしょぼいという事が起こる。RX100 M3はその点、あまり差がなく作られている。
操作感では、RX100 M3は右手でカメラを持ったままモードダイヤルが回せるので、動画を撮ったり写真を撮ったりといったモード変更は簡単だ。一方G7 Xもモードダイヤルは同じ位置にあるのだが、外側に露出補正ダイヤルがある関係で、親指では回しにくい。回せない事もないが、回転が固いので、つい強く握ってしまい、手の腹でメニューボタンを押してしまうことがある。
一方シャッターや録画ボタンは、G7 Xのほうが大きく、しかも出っ張っているので、操作性は高い。RX100 M3の録画ボタンは、ほとんど隠すような位置に配置されている上にクリック感もないので、逆スイッチとなる可能性が高い。その点G7 Xのクリック感ありのほうが安心できる。
AFに関してはどちらも遜色ないが、G7 Xはタッチ追尾やタッチシャッターが使える分、動きのある被写体には強いだろう。ただタッチして追尾しているはずだが、フォーカスは合わないままという事が時々起きる。
一方マニュアルフォーカス時は、G7 Xはピーク表示があるのみだ。一方RX100 M3はピーク表示もあるが、拡大表示も使える。
手ブレ補正はソニーを超えた?
続いて手ぶれ補正をテストしてみよう。双方とも、光学手ぶれ補正に加えて電子補正も加えることで、5軸補正を実現している。手ぶれ補正と言えば、最初にワイド端にも大きく補正を加えることで、歩行時にもなめらかな撮影を実現したのがソニーで、他社が追従してくる中でどんどん先に進み、長らく他社に追従を許さなかった部分だ。
今回両方のカメラで同時に撮影してみたが、歩行時の衝撃を緩和している点では、G7 Xに軍配があがる。見ていて不快な感じがないよう、やわらかく抑えている。
双方の手ぶれ補正の特徴を見るために、カメラを左右に振ってみた。カメラが止まった後、RX100 M3が瞬時に中央にリセットするのに比べ、G7 Xは比較的ゆっくり行きすぎて戻るというアクションが見られた。
もちろんこのような現象は、手ぶれ補正範囲の限界を超えているために起こる事で、これを以てどちらが優れていると判断したいわけではない。アルゴリズムの違いを明確にするために行なったものである。
G7 Xはローテーション方向もかなり強力に補正する。そのため、手持ちでカメラをパンすると、船に乗ってるかのような補正の揺れを映像に感じる事がある。何をどこまで補正するのが人の生理として違和感がないのか、まだまだ奥深いところである。
総論
サイズやレンズ、さらにセンサーまで共通項が多い両機だが、映像に対する考え方の違いから、出てくる映像はずいぶん違いがある。RX100 M3がやや青みのあるすっきりシャープな印象にまとめているのに対し、G7 Xは自然なトーンながらもコントラストを強めにしており、見栄えのよい絵づくりでまとめている。
ただ動画に関しては、G7 Xは絵の甘さとエンコードに起因するのか、ざわついた印象が残念だ。よほど効率のいいエンコーダでも、写真っぽいキレの動画という事になると、フルHD/60pでも50Mbpsぐらいはないと、十分とは言えないのかもしれない。
操作感としては、ソニー機に慣れているとダイヤルの堅さが気になるものの、ボタン類は押しやすく、操作性は良い。一方メニューは、タブは少ないものの縦方向に長く、特定のメニュー項目が探しづらい。メニューをカスタマイズする機能でカバーはできるが、そこまでユーザーが深入りして使いこなすかどうか、正直微妙なところだ。
個人的には、老眼対策としてビューファインダに依存している部分もあるので、RX100 M3が手放せないところだが、楽しみで写真を撮るならばG7 Xのほうが楽しめそうだ。もう少し動画を頑張ってくれたら、さらに満足度は上がっただろうが、そこが値段なりということなのかもしれない。
キヤノン G7 X | ソニー RX100 M3 |
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