“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第451回:自動シーン認識を搭載した中級機、キヤノンHF M31

~ ついにキヤノンもタッチパネルに ~



■ キヤノンは3レンジ展開

 メモリ記録モデルに絞って、小型モデルながらハイエンドという製品展開を続けてきたキヤノン。大型モデルの「HF Sシリーズ」を投入しても、従来の「HFシリーズ」もダブルフラッグシップという扱いであった。しかし今年の春モデルでは、フラッグシップが「HF Sシリーズ」、ミドルレンジが「HF Mシリーズ」、エントリーが「HF Rシリーズ」と、3レンジに分かれることとなった。

HF M31

 従来のHFシリーズの直系と言えるのが、HF Mシリーズである。ミドルレンジということで価格を抑えながら、ソフトウェア的な機能は上位モデルとほぼ同じとなっており、サイズ的にはやっぱりこのぐらいが、という人もいるだろう。今回発売される「HF M31」(以下M31)は、店頭予想価格が10万円となっているが、すでにネットでは7万円台まで下がってきているようだ。

 ソニーの場合、機能は同じで容量違いというバリエーションだが、キヤノンは容量違いモデルはなく、製品そのもので3レベルを設けるという戦略をとった。型番が31と中途半端なのは、米国向けにメモリ容量が半分のHF M30というモデルがあるからだ。

 またキヤノンHDカメラでは初めてタッチパネルを搭載したため、機能的もGUIも結構変わっている。ハイエンドモデルはまたそのうちレビューするとして、今回はM31で、機能的に1段階ステップアップした機能を中心に見ていこう。


■ サイズ感は前作を継承

 M31はシルバーとレッドの2色があり、今回はレッドをお借りしている。写真で見ると多少ビビッドに見えるが、実際にはワインレッドより少し明るいぐらいの赤紫で、深みのある落ち着いた色あいである。

 光学系、撮像素子は前作HF21と同じ。画質モードも同じである。実はそのHF21もHF20のマイナーチェンジだったので、約1年前から光学系は進化据え置きということになる。まあそれだけ自信があるということなのかもしれないが、他社がワイド方向にシフトしたり、裏面照射を採用したりとチャレンジが続いているのに比べると、波に乗り遅れている感じがする。

実物はもうちょっと落ち着いた渋い赤サイズ的にも前モデルHF21とほぼ同じ(左がHF21)

 レンズは動画(16:9)、静止画(4:3)ともに35mm判換算で39.5~592.5mmの、光学15倍ズームレンズ。ただし動画では手ブレ補正が強化された「アドバンストモード」を使用することで、テレ端で読み出し画素が変わるため、39.5mm~711mmの18倍ズームとなる。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

アドバンストモードテレ端

動画(16:9)


39.5mm


592.5mm


711mm

静止画(4:3)


39.5mm


592.5mm

-

 撮像素子は1/4型、総画素数約389万画素のCMOSセンサー。フィルターはRGB原色である。内蔵メモリは32GBで、前モデルHF 21の半分となっている。SDメモリーカードスロットも備えているが、新規格SDXCには対応していない。

 液晶モニターは、2.7型ワイドで、画素数は約21.1万ドット。また今回からタッチパネルになったことで、ジョイスティックがなくなっている。従来FUNC.ボタンだったところには、新機能のPOWERD ISボタンになっている。

タッチパネルになった液晶モニターボタン類はぐっとシンプルになったVIDEO SNAPボタンは上部に移動

 液晶部内側には、ディスプレイ切り替えボタン、記録/再生切り替えボタンがある。マイク、アナログAVアウトもここだ。また数秒間だけ映像を記録するビデオスナップボタンは、電源ボタンと並んで上部に付けられた。常時ユーザーの目にとまるところなので、使おうという気にさせたいということだろう。

背面は端子類が減り、すっきりした

 背面は端子類がほとんどなくなり、すっきりした。DC INの場所は従来通りだが、カバーがなくなっている。

 グリップ側には、オートとマニュアルの切り替えスイッチがある。従来は動画と静止画を切り替えなしで撮影できるデュアルショットモードと、動画モード、静止画モードの3切り替えだったのだが、今回は動画と静止画のモード切り替えは、タッチパネル上のボタンで操作する。

 グリップ部には、端子類のコーナーを幅広く取ってある。HDMI、USB、アナログコンポーネント端子がここにある。


モード切替は、オートとマニュアルのみグリップ部の下に端子類を移動

 また底部の三脚穴は、光軸上に付けられた。前作は大きくグリップ側の方にずれていたので、ハンディタイプのスタビライザーに載せると重心が取れなかったが、今回は大丈夫だ。


■ 便利な「こだわりオート」

 では早速撮影してみよう。あいにく撮影日は曇天および小雨がぱらついており、あまりパッとした絵柄が撮影できなかった。天気ばかりはどうしようもないので、ご容赦願いたい。

 さて、今回の機能的な目玉は、強化されたオート機能と、その反対のマニュアル機能である。まずはオートの方から見ていこう。カメラ後部のスライドスイッチで「こだわりオート」にする。

 この設定ではメニュー操作が一切できなくなるが、その代わりに31種類に分類されたシーンモードから、適切なものを自動的に選択してモードを切り替えてくれる。逆光補正の自動化やコントラスト補正は他社でも導入が始まってきたところだが、青空を含むかどうか、また自動的にマクロモードになるかどうかという機能は、多くの人が望んでいたところだろう。

 いくつかのシーンを想定してテストしてみたところ、複数の強い色があるときに、あざやかモードに設定される。単色で濃い色だけ、例えば黄色い花のアップといった場合には、反応しないようだ。また人物も服装によって、鮮やか+人物として設定される。カメラが今のシーンをどのように捉えているのかがわかって、なかなか面白い。

服だけを撮ると、あざやか+人以外の被写体として認識顔が写るとあざやか+人物として認識


auto.mpg(196.7MB)
マニュアル撮影とこだわりオートの比較
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 例えば人物のパンアップでは、明るい+AUTOからあざやか+AUTO、明るい人物とモードが変わっていく。マニュアルでポートレートモードで撮影したものと比較してみると、各シーンモードをなめらかに繋いでいるのがわかる。もっとも本来はこのような意地悪な使い方で評価するものではなく、どこに持って行っても設定いらずで適切なモードになる、というものである。あくまでもこんな感じで動作する、というサンプルとして見ていただきたい。

 こだわりオートでは自動的に手ブレ補正がアドバンストモードに設定されるのだが、残念なのはソニーのCX550のように、三脚に載せたことを認識しない点である。さきほどのパンアップも、最後のところで手ブレ補正による揺れ戻しが確認できる。三脚だけでなく、どこかに置いて撮影することもままあるわけだから、このあたりの判定もぜひ加えて欲しいものである。


タッチ追尾のほうが、顔認識よりも優先される

 こだわりオートでは、画面上の被写体をタッチすることで、フォーカスと露出を合わせる「タッチ追尾」機能が使える。特定の被写体を追尾する機能は、ソニー、パナソニックのタッチスクリーン搭載機でしか実現できなかったわけだが、キヤノンもここに参戦したことになる。

 動画と静止画の切り替えはなく、シャッターボタンを半押しするとすぐに静止画モードに切り替わる。2秒間経過すると、また動画モードに戻る。



sample.mpg(356MB)

room.mpg(125MB)
こだわりオートによるサンプルこだわりオートによる室内サンプル。ろうそくの明かりは夜景モードとして認識した
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

■ 強化されたマニュアルモード

 ではマニュアルモードのほうを見ていこう。今回はタッチパネルになったことで、操作性が大きく変わっている。画面左上にあるFUNC.ボタンが、メニューへの入り口となる。

撮影時の新GUI画面。FUNC.ボタンがメニューへの入り口FUNC.ボタンからメニューを展開

画面下のスケールで自由に値を設定する

 カメラ設定を行なう「MENU」ボタンが左上にあり、そのほかは撮影中によく使う機能がボタンとして配置されている。AGCリミットなどは、前回はいくつかの値をプリセットできるだけだったが、今回からは1dB単位で設定できる。この設定は画面下のスケールを左右にドラッグするというスタイルで、今回のGUIの大きなポイントとなっている。

 また撮影画面左下は、最後に使った機能のショートカットが表示される。カメラの設定は、いろいろ変えてみて様子を見るというケースが多いわけだが、そういう一つのパラメータを頻繁に使う場合に便利だ。画面右下は、写真モードとの切換である。

 キヤノン機は以前から絞り優先、シャッタースピード優先モードを備えているが、GUIの変更により、それらの変更も画面下のスケールのスクロールで行なうようになっている。またAF、AEもそれぞれ、タッチした場所に合わせるマニュアルモードを備えた。微調整も同一画面上で可能なのは、新しい。

 これだけいろいろタッチすると、当然液晶画面の汚れが気になってくる。しかし、液晶画面がモニター部のフレームからへこんでいるタイプでは、拭いても汚れが端の方に寄るだけで、拭き取れない。

 だが本機の場合は、表面の保護ガラス面がモニター部のフレームに対してフラットなので、汚れが吹き取りやすい。またタッチスクリーンも圧力式になっているので、手袋した状態でもタッチ追尾などの機能が使える。ウィンタースポーツにはありがたい機能であろう。

タッチによる露出設定からさらに手動で補正も可能ガラス面がフラットなので、汚れが拭き取りやすい


stab.mpg(58MB)
POWERD ISによる補正効果
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 手ブレ補正の新機能としては、テレ端の手ブレ補正を強力に効かせる、手ブレターボのようなPOWERD ISも試してみよう。これは手ブレ補正がアドバンストモードでテレ端の時に、液晶脇のボタンを押すと、その時だけ強力に手ブレ補正を効かせるというものである。

 実際に試してみると、ボタンを押していないときは通常の補正なので、被写体を探しやすい。そしてビシッと決めたい瞬間だけ自分で手ブレ補正を強化できる。絵を止めたいという気持ちと、画面をつまむような動作がマッチしていて、感覚的にわかりやすい。



■ 再生・ダビング機能も強化

 GUIの変化は、再生画面の方でも体験できる。撮影した映像のサムネイル表示は、通常は3×2の6画面表示で、この6枚セットを横にスクロールしていくスタイルだ。だが新搭載の3Dビューにすると、日付ごとにサムネイルが分けられ、さらに撮影順にファイルが重なるような表示となる。画面を下になぞると、順々に奥の映像が手前に出てくるというインターフェースだ。一覧性という意味では通常表示のほうがわかりやすいが、日付で映像を探したい場合は、こちらのほうが直感的にわかりやすい。

オリジナル表示は3×2表示日付ごとにファイルが重なる3D表示

 内部メモリからSDカードへのダビングも、従来は単にHD映像がコピーされるだけだったが、今回はカメラ内部にダウンコンバータを内蔵し、HDからSDへダウンコンバートしながらコピーできるようになった。例えば自分の保存用としてはHDでデータを持っておきたいが、広く配布するのでDVDにする、あるいはWebに上げるといった用途が考えられる。

 もちろんそれらはPCで作業をするわけだが、AVCHDのHD素材をそのまま扱おうとすると、かなり重たい作業となる。また最終的にHDからダウンコンバートする課程で、結構時間がかかる。それをカメラのハードウェアで、先にSDサイズにダウンコンバートしようというわけである。

 DVD用に変換後すると、SDカード内に「SD_VIDEO」フォルダが作られ、映像はSD-VIDEOフォーマット(.MOD)にリアルタイム変換される。ビットレートは9Mbpsと3Mbpsが選択でき、さらに画面には、撮影日時を書き込むかどうかの選択もできる。この日付を画面内に映像として書き込みたいというニーズは、記録映像などの分野で根強い要望があったものだ。

ダウンコンバートしながらコピーができるビットレートと日付記録が設定できる

 いったんプレイリストを作って書き出した場合は、1つのストリームにまとめられる。複数選択して書き出した場合は、それぞれのクリップごとに分かれて書き出される。カメラ本体では分割ぐらいしか編集機能がないので、編集のことを考えるなら、バラバラに書き出した方が便利だろう。

 Web用の書き出しは、ファイル選択後、液晶モニター横のPOWERD ISボタンと兼用になっているWEBボタンを押す。こちらもビットレートが2タイプ、日時書き込みのオプションが選べるのは同じだが、変換後は静止画用DCIMフォルダ内にMPEG-2(.MPG)で書き出される。手持ちの編集ソフトでの読み込みをテストする必要もあると思うので、両方のモードで書き出したオリジナルファイルを掲載しておく。サンプルは、両方とも9Mbpsのほうのみ日付ありとしてみた。

SD変換 サンプル動画

ビットレート

9Mbps

3Mbps

DVD用


mov00c.mod(19.7MB)


mov00b.mod(7.5MB)

Web用


mvi_0139.mpg(19.7MB)


mvi_0140.mpg(7.6MB)

オリジナル


00041.mts(53.4MB)

編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なおWeb書き出し直後にPCと接続することで、付属のPIXELA ImageMixerが連動し、アップロードまでできるようだ。今回は同梱のソフトウェアが入手できなかったので、そこまでのテストはできなかった。


■ 総論

 今回のM31は、光学系の進化はないものの、タッチパネル搭載でGUIを含めた新機能が大幅に増え、マニュアル派にも手応えのある機能強化がなされている。その一方初心者にもやさしいこだわりオートの搭載で、何もしなくてもいい絵が撮れるというところまで来た。

 これまでフルオート機能は、いつでも無難に撮れるというイメージはあったが、それが果たしてベストなのか、という問いには答えられていなかった。それをベストなシーン選択をするという機能で、人と機械どっちが上手いか、という領域に一歩踏み出したわけである。

 ただ、この春からのトレンドであるレンズのワイド化が見送られたのは、残念である。次の光学系の見直しがいつなのかは不明だが、今回はタッチパネル搭載とGUIやアルゴリズムの変更で手一杯だったという感じがする。ただテレ端は相当寄れるし、POWERD ISもあるので、特定の被写体を追いたいというニーズには合うのかもしれない。

 本体内ダウンコンバート機能は、内蔵メモリがこれだけあるのにSDカードっているの? という疑問に答えた機能である。まだまだ配布はDVDという現実はあるにしても、今さらDVDカメラには戻れないわけで、この機能は保存と配布をきっちり分けて考えるべき、というメッセージなのかもしれない。

 ワイド化の見送り、虹彩絞りなしというスペックだが、M31は絵に無理がないし、ミドルレンジらしいバランスに配慮したカメラだ。しかし変更点が地味なので、前作と比較するとメリットが見えにくいのが難点である。

(2010年 2月 17日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]