■ 大判センサーの時代
ビデオカメラの世界を追いかけてもう10年以上になるが、ここ最近、もはや今までのホームビデオ視点では捉えきれない世界がどんどん拡がってきているのを感じる。火付け役はやはり、デジタル一眼でハイビジョン動画が撮影できるようになったことだ。
これまで被写界深度の浅い映像は、写真の世界の独壇場であったのが、その世界観そのままで動画が撮れるようになった。長年プロの世界で生きてきた人間にとっても、これは衝撃的な出来事である。というのも、これまで放送の映像というのは、どこもかしこもフォーカスがびっしりあっている、報道的な要素の強い絵作りが良しとされてきたからである。
その一方でコマーシャルの絵作りは、長年フィルムで映画並みに撮影してきた文化があり、「写真のような映像」という作品性が重視されてきた。しかしその映像は、高額なコストを払ってようやく撮影できるものであり、永らく「ビデオ」の世界とはべつのものであった。
深度を浅くするのは、長玉(テレ側)で撮ること、絞りを開けること、撮像面積が広いこと、の3要素で決まる。テレ側、絞りを開けることは従来のビデオカメラでも可能だが、撮像面積の広さだけは、どうやってもかなえられなかった。そのハードルをデジタル一眼が越えた瞬間、映像文化は何かが弾けたのである。
これまでレンズ交換できるビデオカメラは、業務用機にはいくらでもあった。しかし、大判のセンサーを搭載したカメラは、これまでソニーのF35、あるいはRED ONEのような、ごく限られた一部のシネマ用カメラしかなかった。それがコンシューマ機として登場する。
NEX-VG10(以下VG10)がそれである。型番が示すように、すでに先行発売されているデジタル一眼、NEX-5/3の流れを汲みつつ、デジカメではなくビデオカメラとして仕上げてきたのが、このモデルだ。今回いち早く実機をお借りすることができたが、あいにくファームウェアが最終ではないため、実写サンプルの掲載および画質評価はできない機体である。残念だが実写はまた次の機会に譲るとして、今回はVG10の細部をじっくり見ていこう。
■ 十分に小型なボディ
従来ソニーでも業務用に近いクラス、例えば「HDR-AX2000」などは、そこそこ大きなカメラである。しかしVG10は、大型センサーながら単板ということもあり、ボディサイズはかなり小さい。付属レンズを合わせても、コンシューマ機での大型カメラぐらいのサイズで収まっている。
まずレンズだが、標準で付属するのは「SEL18200(E 18-200mm F3.5-6.3 OSS)」である。これはNEX-5/3と同時に発表されたが、秋に発売予定となっていた高級レンズだ。動画撮影に対しても、もちろん十分な静音性を確保している。動画撮影時の画角は、32.4mm~360mm(35mm換算)。
全体の半分ぐらいがレンズ | ズームはレンズがせり出してくるので、移動時用のロック機構がある |
現在発売中のEマウントレンズとの最大の差は、このレンズのみ手ブレ補正の「アクティブモード」に対応している点である。補正は光学で行なうので、カメラ側の機能ではなく、レンズの機能として実現している。
もちろん現行のNEXシリーズ同様、マウントアダプタを使ってαレンズも使用可能だ。AFなどは動作しないため、フルマニュアルで撮影する必要がある。αレンズに限らず昨今のデジタル一眼用レンズは殆どが絞りリングを搭載しないが、このマウントアダプタでは本体ダイヤルでαレンズの絞りが動かせるようになっている。
なおマウントアダプタを使って35mmフィルムレンズを使った場合、画角は静止画で1.5倍、動画で1.8倍となる。つまり28mmのレンズを付けると、静止画で42mm、動画で50.4mmとなるわけである。
撮像素子は、APS-Cサイズの23.4mm×15.6mm「Exmor」CMOSセンサー。実際にはNEX-5で採用されたものと同じだ。静止画用センサーのため、センサーからの映像出力は30fpsとなる。それを60iで記録するので、2フィールドが同じ瞬間の映像になるというわけだ。露出計を使用する場合のセンサー感度としては、ISO 160相当だそうである。
レンズのリリースボタンは、グリップ部前方にある。グリップベルトの付け根と鏡筒部の間の隙間にあるという格好なので、片手でボディを持ち、片手でレンズを外すのは結構大変だ。右手でグリップ部を上から持ち、人差し指でリリースボタンを押して、左手でレンズを掴んで回す、という外し方が一番無難でスマートではないかという気がする。
レンズを外すと、すぐにセンサー部が見える | レンズのリリースボタンは、グリップベルトと鏡筒部の間 |
液晶モニタは3.0型92.1万ドットの高精細TruBlackディスプレイを搭載。タッチスクリーンではない。ただこの液晶モニタ、上下90度ずつしか回らないようだ。つまりグルッと反対側に向けて自分撮りができない。最近は一人で立ちレポなどする人も増えたが、そういう使い方ができないのは残念である。
液晶モニタは高精細TruBlackディスプレイを採用 | 回転角は上下90度までで、これ以上回らない |
またビューファインダは、0.43型115.2万ドットという高精細タイプだ。実はHDR-AX2000に搭載されているものと同じ、というこだわりようである。
ボタン類は一見少なく見えるが、モニターを開いた本体側面に8個も付いている。中央部はメニュー操作用ダイヤルで、押し込むと決定というスタイルだ。
バッテリは最近新しくでたVシリーズで、付属のバッテリでは、まだかなり奥行きに余裕がある。倍ぐらいのバッテリを付けても、ボディから出っ張る心配はなさそうだ。最大サイズであるFV100を装着した場合の撮影可能時間は、315分となっている。
マニュアル操作用のボタンは液晶内部に集約 | バッテリ装着部はかなり奥行きがある |
電源スイッチは、録画ボタンの外側に付けられた昔ながらの方式。最近は液晶の開閉で自動的に電源ON/OFFが切り替わるものも増えたが、ビューファインダがあるものは明示的に電源スイッチが必要である。あるいは、業務用機のセオリーに合わせたのかもしれない。
グリップ部には、イヤホン端子と、DC IN、やや前方にはHDMIとUSB端子がある。DC INはあるが、これは付属ACアダプタを使って本体を動作させるというもので、本体充電には対応しない。同梱のバッテリチャージャーで充電することになる。
T字バーの上部にはアクセサリーシューが2つある。前方が接点付きのホットシュー、後ろは従来のカメラアクセサリを取り付けるコールドシューだ。コールドシューは後ろ向きなので、方向が変えられるジョイント付きのアクセサリを付けるということだろう。
イヤホンとDC INは後方 | 前方にHDMIとUSB端子 | アクセサリーシューは2つ |
■ ハンディカムとは違った作り
マイクに関しては、多少説明が必要だろう。特徴的に出っ張った内蔵マイクは、マイクカプセルを4つ搭載した、かなり凝ったものとなっている。
従来カムコーダに内蔵されているマイクは、無指向性のものである。本来は前方に指向性が必要なのだが、指向性マイクは振動に弱いという弱点があるために、無指向性マイクしか付けられなかった。これをソフトウェア処理で、指向性を持たせてきたのである。
マイクカプセルを4つ使ったユニークな設計 |
しかしこの方法では、それほどしっかりした指向性が出ないという弱点があった。そこでVG10では、無指向性のマイクを4つ使い、ハードウェアを使った信号処理で指向性を出している。これにより、無指向性+ソフトウェア型に比べて、大幅に音質と指向性が向上したという。
これだけマイクがいっぱいあると、フカレが心配になるが、標準でウインドスクリーンを同梱するという。ソフトウェアによる風音軽減処理に比べて、音質への影響が少なく、良好な結果が期待できる。
さらにオプションとして、ガンマイク「ECM-CG50」も用意されている。ホットシューに付けられるが、音声入力は外部にケーブルを回して、マイク入力に差し込むというスタイルだ。
同梱のウインドスクリーン | 別売のガンマイクもセットできる |
ただここまでやっておきながら、マイク音量のマニュアルでのレベル調製機能はないようだ。音声収録に強いことが、デジカメにはないビデオカメラのアドバンテージであるはずだが、この点が残念である。
GUIに関しては、これまでのハンディカムはタッチスクリーンを採用しており、GUIもそれに合わせたものだった。今回は液晶パネルがタッチスクリーンではないため、NEX-5で採用されたものをベースに、ビデオカメラ用に再設計されている。
撮影モードはダイヤルの1プッシュですぐ呼び出せる |
基本は「メニュー」ボタンでメニューを出し、ダイヤルで選択、ダイヤルのプッシュで決定、「メニュー」ボタンで戻る、といった流れとなる。その他、ダイレクトに本体ボタンで操作できる撮影パラメータは、ホワイトバランス、フォーカス、ゲイン、露出補正がある。
撮影モードを絞り優先にすれば、ダイヤルが絞り調整、シャッタースピード優先にすれば、ダイヤルがシャッタースピード調整となる。マニュアルモードの場合は、絞りとシャッタースピードをゲインボタンで切り替えながら、交互に調整することになる。
従来のハンディカムにはなかった機能として、NEX-5譲りの「クリエイティブスタイル」が搭載された。サンセットやビビッドなど、シーンモード相当という側面も残しながら、もう少し踏み込んだ設定もその場でできる。オプション(Focus)ボタンを押すと、さらにコントラスト、彩度、シャープネスも調製できる。
記録用のメモリーは内蔵しておらず、液晶下のスロットにメモリースティック DUOもしくはSDカードを挿入する。デジカメではないので、当然NEX-5/3のような連続記録29分以内という縛りはない。
積極的な絵作りができる「クリエイティブスタイル」 | メモリースロットは下部に1つ |
録画モードはこれまでのハンディカムと同様、AVCHD記録で、最高ビットレートが24MbpsのFXモードを備える。なおこれまでハンディカムは、Standard Diffinition撮影にもモード切り換えで対応していたが、本機はSD撮影モードはない。
もちろん、静止画モードも搭載している。有効画素数1,420万画素で、撮影できる絵としては、先行のNEX-5と同等だという。さらに最大秒間7コマ連写機能も備えた。NEX-5のような手軽さはないが、ビデオも十分に撮影できて静止画機能は同じということは、NEX-5の完全上位モデルと考えることもできる。ただし本機には静止画用のフラッシュは内蔵されていない。フラッシュ撮影は、別途アクセサリーシューに付けることになる。
■ 総論
NEX-5が発表されたとき、Eマウントのビデオカメラも開発中という話は聞いていたが、思ったよりも早く出てきて、ちょっと驚いた。今回は残念ながら実写データの公開ができないため、期待した方には物足りないレビューだろうが、画質評価可能なモデルがお借りでき次第、もう一度実写レビューを予定している。発売は9月10日予定、市場想定価格20万円前後となっているが、約10万円の上位レンズが付いてくるわけだから、本体価格は実質約10万円ということになる。ただし本体のみの販売はないそうである。
実は今年4月のNABでは、パナソニックがマイクロフォーサーズのビデオカメラを参考出品し、年内の発売をめざすという発表がされていた。大判、というと正直6×6とかには及ばないが、従来のビデオカメラ用センサーに比べれば大幅に大きいセンサーを使った動画撮影は、あきらかに新しい流れとして、メインストリームに流れ込んできている。これからアート方面では、主流になってくるだろう。
これまで一般のユーザーがアートを撮ろうとしても、そんなことに対応できるビデオカメラはなかった。どんなに頑張っても、安っぽい再現ドラマみたいになってしまっていたわけである。これからのアートムービーは、プロ・アマ関係なしに、デジタル一眼と大判ビデオカメラの戦いになっていくのかもしれない。