“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第514回:いよいよ登場する、ソニーの3Dカムコーダ「HDR-TD10」

~ 現時点で最も現実的な3D撮影機 ~



■ いよいよ出そろったコンシューマ3D機

HDR-TD10
 プロフェッショナルの3D撮影は、2台のカメラをリグで繋いで撮影するという方法が一般的だが、コンシューマではなかなかそういうわけにも行かないので、ツインレンズ方式のカメラを使うのが現実的だ。幸いなことにすでに製品がいくつか出てきており、3D動画にトライしている人も出てきている。

 ソニーはプロ業界では3D映像制作への対応は早かったが、コンシューマでは出遅れていた。しかし今年のCESでは、ハンディカムで1機種、Bloggieで1機種のツインレンズモデル投入を発表した。すでに先週Bloggie 3D「MHS-FS3」は発売されたようだが、ハンディカムの「HDR-TD10」(以下TD10)は当初4月発売を予定していたものの、震災の影響もあるのか、連休明けの5月13日に延期された。

 また先日のNABでは、このモデルを業務用機化した「HXR-NX3D1J」も発表された。こちらは音声入力やハンドルなどの仕様が違っているため、価格は346,500円だが、TD10のほうは店頭予想価格で15万円前後と、半額以下になっている。

 連休中に遊ぶのを楽しみにしていた方も多いかと思うが、そこはこの記事を読んで我慢していただくことにして、本格的なツインレンズ搭載ハンディカムの実力を早速テストしてみよう。



■ ボックス型?ユニークな設計

全体としてはかなり箱っぽい

 ツインレンズ方式とは言っても、パナソニックのように普通のカメラに3D用コンバージョンレンズを付けるというやり方もあるが、本格的な撮影に対応しようとすればレンズが2つあるだけではダメで、撮像素子もそれぞれ必要だし、画像処理エンジンは2倍の能力が必要になる。ようするにちゃんとやろうとすると、カメラ2台分の部材が必要になるわけだ。

 それをいかに綺麗にまとめてみせるかというのが設計の腕の見せ所なわけであるが、先行するJVCの「GS-TD1」はその点をかなり上手くやったモデルと言えるだろう。一方、ソニーのTD10はボディ全長を短くする方向を選んだせいか、かなり「箱」っぽいデザインになっている。

 しかしグリップには滑りにくい素材を使用し、手で掴む部分はオーガニックな形になっているため、ホールドはしやすい。横に長い感じもなく、さらに重量もそれほどないので、持ちやすさという点では従来のカメラと違うところはない。

グリップ部のアールが手にフィットする指がかりもよく計算されている

二眼一緒にレンズカバーで閉じられる作り
 まずレンズ部だが、2レンズが一つのレンズカバーで閉じられるようになっている。焦点距離は3D時が34.4mm~344mm(35mm判換算)の光学10倍、2D時が29.8mm~357.6mm(同)の光学12倍ズームレンズとなっている。左右レンズのスペックは同一で、2D時は左側のレンズのみが使われる。開放F値は1.8~3.4で、ワイド端ではまずまず明るいレンズだ。

 なおアクティブ手ぶれ補正を入れると少し画角が狭くなるが、不便を感じるほどの違いはない。ほぼ無視できる違いと言っていいだろう。静止画モードもあるが、3D写真の撮影機能はない。

 撮像素子は1/4型の裏面照射CMOS Exmor Rが2枚。総画素数420万画素で、有効画素数は3D時が199万画素、2Dが265万画素となっている。おそらく2Dと3Dの画角の違いは、この有効画素数の差に起因するものと思われる。3D撮影時はハイビジョン解像度ギリギリだが、3Dモード時には静止画撮影ができない。また3D写真撮影機能もない。3Dは動画に最適化するということなのだろう。


【各モードの画角】
方式ワイド端テレ端
3Dモード
34.4mm

344mm
2Dモード
29.8mm

357.6mm
静止画
27.4mm

328.8mm

マニュアル調整ダイヤルも装備
 レンズ脇には、マニュアル調整リングがある。センターボタンの長押しでフォーカス、明るさ、絞りなどいろいろな役割に変更できるリングだが、今回は新たに「3D奥行き調整」というパラメータが操作できる。左右の視差を調整するものだ。

 マイクは新開発のマイクカプセルを使用し、サラウンド収録ができるタイプのものだが、レンズ下とともに底部にもマイクを設けている。従来機だと鏡筒部の天板にサラウンドマイクを配置する例が多かったが、筆者が記憶する限り、底部にマイクを配置したのは初めてではないかと思う。

底部にマイクを仕込むという大胆設計
 単純に上部には入れるスペースがないということなのかもしれないが、この配置のメリットは、撮影者の鼻息が入らないということだ。従来機ではサラウンド収録すると、背後から撮影者の鼻息がフンカフンカ聞こえてくるのがイケてなかったが、これなら大丈夫だろう。三脚にセットした際に背面の音が十分に集音できるのかといった懸念もあったが、実際に撮影してみても特に問題は感じなかった。

 液晶モニタは、3.5型123万ドットのエクストラファイン液晶で、視差バリア方式による裸眼立体視が可能になっている。視差バリア方式では大幅に解像度が落ちるというのが常識であったが、本機の場合は解像度の落ちは気にならない。元々十分に画素数が高いということだろう。輝度も多少落ちるが、半分になるというほどではない。ここはなりゆきではなく、うまくバックライト量を調整しているのだろう。バックライトの輝度を上げれば、天気のいい昼間でも十分な明るさが確保できる。

 またこの春モデルからの特徴として、液晶モニタの両サイドにステレオスピーカーが配備されている。アンプもS-Masterを搭載するなど、再生音にも気を使っている。撮影した3D映像の最初の鑑賞はカメラ本体になると思われるが、その際にもそこそこの定位でしっかり音が聞こえるというのは、特にこのカメラの場合は大事なポイントになるだろう。

 液晶内側には、メモリースティックPROデュオ/PRO-HGデュオとSD/SDHC/SDXCに対応したメモリーカードスロットが1つ、内蔵メモリは64GB。そのほか電源ボタン、再生切り換え、ディスプレイの2D/3D切り換えボタンがある。


裸眼立体視可能な3.5型液晶モニタ液晶内側にメモリーカードスロット。SDXCにも対応

 背面に回ってみよう。面積に余裕があるせいか、従来のハンディカムとはだいぶ違った作りになっている。一番目に付くところに2Dと3Dの切り換えスライドスイッチ、動画と静止画モードの切り換えボタンがある。端子類は背面に綺麗に並んでおり、外部マイク、イヤホン、HDMIミニ、アナログAV端子がある。グリップ部にはスライドカバーの中にUSB端子とACアダプタの端子がある。

背面はかなり余裕があるフタを開けると2組ずつ端子がグリップ部にUSBと電源端子

■ 幅広い画角で3D撮影が可能

  ではさっそく撮影である。まず画質モードであるが、3Dモードでは左右ともフルHD/60iの映像を1ストリームにして28Mbpsで記録するのみで、画質モードなどはない。ファイルフォーマットとしては、未だ1080/60pもAVCHD規格として認証されていないことから独自規格となっている。ただBlu-rayのMPEG-4 MVCフォーマットには準拠しているので、将来的には他社とのすり合わせのあと、何らかの標準規格にまとめられる可能性は高いだろう。

 一方2Dでは、これまでどおりの画質モードがある。フレームレートは60i以外にも60pと24pをサポートしている。さらにSDモードにも切り換えできる。現在もSDモードを残しているのは、ソニーのハンディカムぐらいで、そういう意味では希少な機能である。


【各モードのサンプル】
方式フォーマット画質モード解像度ビットレートサンプル
3DMPEG-4 MVC1,920×1,08028Mbps
00040.MTS
(37.1MB)
2DAVCHDFX1,920×1,08024Mbps
00041.MTS
(32.3MB)
FH17Mbps
00043.MTS
(22.2MB)
HQ1,440×1,0809Mbps
00044.MTS
(16.6MB)
LP5Mbps
00047.MTS
(8.43MB)
SDMPEG-2HQ720×4809Mbps
M2U00001M.MPG
(12.4MB)
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なお今回掲載している3Dのサンプル映像はTD10本体を使って切り出したもので、データ的には左右の映像が編み込まれているが、パソコン上での再生では左側の映像のみが2Dとして表示されるはずである。また掲載の静止画も、3D映像から本機を使って静止画に切り出したものだ。

3Dレンズの自動調整機能を装備

 本機には3Dレンズの自動調整機能があり、左右のレンズの上下位置をキャリブレーションする機能を搭載している。小まめに調整する必要はないが、本体に強い衝撃が加わったときなどは微妙にレンズ位置がずれることがあるので、調整が必要だということである。使い始めの最初に、一度調整しておくといいだろう。テレ端である程度輝度や色味などがはっきりした被写体を撮影しておき、OKボタンを押すと、数回にわたってズームアウトしながら、上下角を調整するようだ。

 3D撮影に関しては、光学10倍ズームが使えるが、被写体との距離が近すぎない限り、ズーム全域でちゃんと破綻せずに3D撮影ができる。メーカー推奨の最短距離は、ワイド端時に80cmだ。しかも特に視差を調整する必要もなく撮影できるので、現時点ではもっとも制約なく3D撮影が行なえる機種と言えるだろう。

 そもそも3D撮影モードでは、調整するにしても視差調整ぐらいしかなく、多くの機能はフルオートとなる。調整できるのはカメラの明るさとフォーカスぐらいしかない。3D感を持った撮影においては、あまり被写界深度が浅いと奥の情報に立体感がなくなるため、前後の関係がわかりにくくなるという問題がある。おそらくこのあたりが破綻しないように、フルオートのみに囲い込んでいるのだろう。

 3D撮影時にも、顔認識によるフォーカスと露出調整は動作している。ただ3D画面上は、顔の枠が2Dで出現すると立体視が変になるため、枠の表示は行なわない。

【動画サンプル】

00004.MTS(43.5MB)

00001.MTS(33.6MB)

00002.MTS(37.5MB)
ズーム全域で破綻なく3D映像になる顔認識による追従も2Dと変わらない手振れ補正のサンプル
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
視差については、画面右のリセットマークでいつでも標準値に戻すことができる

 視差の調整は、マニュアル調整ダイヤルにアサインして行なうのが一番便利だ。調整中は特に表示を2Dに戻すこともなく、そのまま3D立体視しながら確認が行なえる。3Dのままだと変化量が直感的にわかりにくいが、コンシューマではこちらのほうが馴染みやすいだろう。なお液晶画面の右側にリセットマークが現われるので、いつでも標準値にリセットすることができる。

 3D撮影の画質については、液晶の3D表示が綺麗なこと、映像そのものも発色良く撮れることから、かなり満足できる出来だ。やはり3Dの立体感が撮影時にちゃんと確認できるというのは大きい。3D当たり前の時代になっていくためには、これぐらい普通に裸眼で3Dが見られるようになる必要があるのだろう。

 ただレンズ性能としては、背景に明るい部分がある場合など、フリンジによる色ズレを感じるところがあった。またレンズフードが付けられないため、カメラを上に向けるとフレアが入りやすい。業務用モデルのほうはレンズフードがあるようだが、ハレ切り用の庇が欲しいところである。


発色も綺麗で張りのある映像空抜けの絵も無理がない明るい光の抜けではフリンジによる色ズレを感じるケースも


■ 新しいGUIと保存の難点

若干改良されたメインメニュー

 この春モデル共通で、GUIが多少新しくなっている。昨年夏にNEX-VG10が出て、その時にだいぶ変わったのだが、その路線を拡張したようなGUIになった。再生と編集機能がメインメニューにカテゴライズされ、明るさ・色合いといった操作はカメラ・マイク機能の中に統合された。

 カメラ・マイク機能が撮影時に最も多くアクセスする部分かと思われるが、現在撮影中の画面を暗く落とした上にメニューがオーバーレイされる。左がスクロールのための上下キーだが、以前は上下ボタンの真ん中に、ドラッグスクロール用のエリアがあった。あれはわかりにくかったのか、今回はなくなっている。

グループアイコンと項目の間が近すぎて紛らわしい

 その隣の列のアイコンが、機能のグループを表わしており、アイコンをタッチするとそのメニューにジャンプする。だが残念ながらこのアイコンとすぐ右側の調整項目の間が近すぎるため、アイコンと各調整項目が一列で一対一対応しているように見えてしまって、紛らわしいことこの上ない。指の太い欧米人は、この隙間の無さでアイコンだけを押すのは難しいだろう。何もここで欧米人の心配までする必要はないかもしれないが、見た目の理解という意味でも、もう少しアイコンと調整項目の間を空けるべきであろう。

 再生時のGUIもだいぶ変わった。まず撮影日時別にグループわけされて、サムネイルが並ぶようになった。このグループをタップすると、中味のサムネイルが展開するようなアニメーションが加えられている。今回は朝晩しか撮影していないが、長期的に使っていくと横にどんどんサムネイルが拡張していく格好になるのだろう。複数のサムネイルをコラージュしてその日のイベントを表わすという方法は、わかりやすい。

 背面の2D/3D切り換えスイッチにより、どちらのモードで再生するかが分かれる。3Dの背景は青、2Dの背景はグレーだ。3Dモード時には3D撮影のクリップしか出てこないが、2Dモード時には3D撮影したクリップも2Dで再生が可能なため、表示されるクリップ数は増えることになる。


サムネイルのグループで撮影イベントが見分けられるグループを選択すると、撮影したクリップのサムネイルが並ぶ

 HDMI経由の再生では、3D対応テレビであれば、視聴することは可能である。また以前から力を入れているハイライト再生は、3D撮影したクリップでも実行できる。ワイプが2Dなので、カットの繋がりによっては多少立体感を認識するまで時間がかかることもあるが、おおむね3Dでもうまく動作するようだ。このハイライト再生を動画として別保存できるが、その場合はSDの2Dとなる。

 カメラ本体では、MPEG-4 MVCの3Dクリップの分割はできるが、結合ができないために、カット編集して一つのコンテンツに仕上げるということはできない。また分割作業をしても、その場でフィジカルな分割クリップができるわけではなく、メモリーカードへのコピーなどを行なったときにはじめてファイルとして分離されるようだ。

 一方付属のPicture Motion Browser(PMB)も、現状3Dの状態をキープしてという条件では、ファイルの分割ぐらいしかできないようだ。今回はTD10対応のPMBが間に合わなかったため、実際の対応状況は確認できていない。

 JVCのGS-TD1はMPEG-4 MVCモードと、サイドバイサイドでの撮影モードがあった。サイドバイサイドでは通常のAVCHDフォーマットと同じなので、コンテンツとして編集したりPCの3Dモニタで表示させたりといったことが比較的容易だった。しかしTD10はMPEG-4 MVCでしか撮れないので、今のところTD10のユーザー以外が3D映像を見ることができない。

 保存に関しても、かなり問題は山積している。ファイルフォーマットはBlu-rayのMPEG-4 MVCフォーマット準拠だが、現時点ではオーサリングができるわけではないので、Blu-rayへ保存できるということではない。将来的にはできるようになるかもしれないが……。

 現時点で3Dでの再生が保証されている保存方法は、HD10にダイレクトにHDDを繋いでファイルを転送する「ダイレクトコピー機能」を使うことである。これはカメラデータをそのままバックアップする機能で、再生するときはまたカメラに接続して、カメラ経由でファイルを再生することになる。


■ 総論

 3D撮影が可能なカムコーダも、今回のTD10の発売で、ようやく発表されていたものすべてが出そろうことになる。現時点で本機は、広い画角、10倍ズーム可能、解像度の落ちない裸眼立体視液晶と、理想の3Dカメラの条件をクリアしている。特にズーム全域で破綻のない、さらに視度調整しても左右がどんどん狭くなるといった現象が起きないという点で、3D撮影に対するハードルを大幅に下げている。

 画質としては、Gレンズ採用というわりにはフリンジが目立ったりする部分もあるが、カメラ2台分のコストやサイズ的なものを考えると、これ以上はなかなか難しいのだろう。センサーとしては、明るい方のラティチュードが狭い感じはするものの、今のソニーのカメラとしては標準的な発色である。

 当面の問題は、そんなにみんな3Dのテレビを持ってるのかということと、MPEG-4 MVCフォーマットの3Dデータの保存をどうするかということである。コンシューマなら見るのはせいぜい家族だけだが、業務用機のHXR-NX3D1Jも事情は同じなわけで、カメラがないと誰も見られないのでは結構困ることになる。

 ファイルフォーマットとしてはこれで行くにしても、せめてドライバを工夫して2ストリームに分けてコピーできるような仕掛けがないと、現在のほとんどの3D対応編集ソフトでも扱えないという現状のままだ。おそらく次は夏もしくは秋に新Blu-rayレコーダで、このファイルのサポート機能を乗せてくるというのが一つのシナリオとして考えられるが、すべての歯車が揃うには結構時間がかかるし、お金もかかりそうだ。

 やはり一般庶民には、PCでなんとかできる環境が整ってから、ということになるだろうか。

(2011年 4月 27日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]