小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第669回:自転車乗りには結構楽しい! GARMIN「VIRB-J ELITE」
第669回:自転車乗りには結構楽しい! GARMIN「VIRB-J ELITE」
動画と心拍数も記録。サイクルコンピュータ的カメラ
(2014/7/2 10:00)
住み分けが始まった
もはや世の中にある程度定着したと言っていいアクションカメラ。世界市場全体のトータルとしてはGo Proの天下はまだまだ続きそうだが、後発メーカーはGoPro対抗というところは止めて、シマノの釣り向けアクションカメラ「CM-1000」など、それぞれの得意分野を生かしてニッチなニーズに応えようという方向性が出てきたように思う。
今回ご紹介する米GARMIN製のアクションカメラ「VIRB-J ELITE」も、そういう商品だ。GARMINは一般的にはポータブルカーナビで知られるメーカーだが、アウトドア用品、特にサイクルコンピュータでも人気が高く、上位モデルにはナビ付きの機種もある。「VIRB-J ELITE」の価格は40,800円。
VIRB-J ELITEは、アクションカメラ、ウエラブルカメラというジャンルではあるが、同社のサイクルコンピュータ用のセンサーから、自転車に関するデータを集めることができるという、ユニークな特徴がある。今回は同社サイクルコンピュータ「Edge810J」もお借りして、アクセサリを組み合わせて使ってみたい。
アウトドアスポーツ専門メーカーが作るアクションカメラ、その実力を調べてみよう。
さすがのヘヴィデューティ仕様
GARMIN VIRB-Jには2モデルある。黒はGPSのないノーマルバージョン、白はGPSの付いたVIRB-J ELITEだ。今回はELITEのほうをお借りしている。
ボディはアクションカムとしては結構大型だが、持っただけで剛性の高さがわかる。重量は177gと、結構重めだ。側面に大きなスライドスイッチがあり、これがいわゆるRECボタンである。電源OFFの状態からでも、このスイッチをガシッと入れると、録画が開始される。グローブをした手でも操作できるよう、デカくて頑丈なスイッチだ。本体のみでIPX7の防水機能がある。
また、ガーミンのサイクルコンピュータと連携して、サイクルコンピュータから録画操作などの制御も可能になっている。
レンズは焦点距離のスペックが公開されておらず、具体的な数値は不明だが、画角はかなり広い。恐らく160度ぐらいではないかと思われる。
撮像素子は1/2.3型、1,600万画素のCMOSセンサーで、最大1,920×1,080/30Pの動画撮影が可能。静止画は最大4,664×3,496ドットとなる。
液晶モニタは、1.4型/205×148ドットの反射型液晶。映像の確認としては解像度や階調が足りないが、明るい日中でもきちんと確認できる。このあたりの作りはサイクルコンピュータでのノウハウが活かされており、普通のカメラメーカーにはない発想だ。
設定は右右側の4つのボタンで行なう。電源ボタンがモード切り換えと兼用、あとは上下と決定(OK)ボタンという作りだ。静止画のシャッターはOKボタンと兼用である。
背面の蓋を開けると、Micro HDMI端子とミニUSB端子がある。最近この手の機器ではmicro USBの採用が多く、ミニUSBはちょっと珍しい部類に入る。
裏蓋も頑丈な金具で密封されている。バッテリは2,000mAhとかなり大きめで、連続録画時間はおよそ3時間。バッテリーの下にmicroSDカードスロットがある。最大64GBまで対応している。
マウント用のツールは、ヘルメット装着用のものが同梱されているが、別売で自転車装着用のパーツもある。自転車用のヘルメットはエヴァンゲリオンの頭みたいに穴だらけで凸凹しているので、いわゆる貼り付け型のマウントは取り付けられない事がある。今回は別売のアクセサリを使って自転車に直接装着することにした。
カメラを固定する台座が、割と良くできている。カメラの後ろの凹みをフックに引っ掛けて、前の方を上から押すとロックされる。取り外すときは、前の方にある2つの解除レバーをつまめば、簡単に外すことができる。ちなみにサイクルコンピュータのほうも、本体を90度ねじれば簡単に着脱できる。
例えば自転車に乗っていて、ちょっとコンビニやトイレに寄るときなど、カメラのような貴重品はなるべく取り外しておきたいのだが、着脱が面倒で困ることも多い。簡単に着脱できるマウントの工夫は、さすが経験が長いメーカーというだけのことはある。
本機にはGPSやジャイロセンサーが内蔵されており、走行ログからルートや速度などを割り出すことができる。それ以外にも別売のアクセサリとペアリングして、そのデータも動画と一緒に格納することができる。
今回は、別途お借りしているサイクルコンピュータのセンサーをペアリングすることにした。この手のウエラブルセンサーの多くは、「ANT+」という通信規格に対応している。これはGARMIN傘下のDynastream Innovationsが開発したもので、当然GARMINの製品はすべてANT+対応だ。もちろん、サードパーティ製品もたくさんある。
ケイデンスセンサーは、センサーを自転車の車体に取り付け、ペダルに磁石を装着。ペダルがセンサーの近くを通過する事を検知して、ペダルの回転数を計測する。さらに、ホイールのスポークにも磁石を取り付け、同じくセンサーの近くを通過させ、スピードを計測。こうすることで、より正確な走行距離や、ペダリングの推移、心拍数と組み合わせて自分に最適なギヤ比率などがわかる。
ところが筆者の自転車は車輪の径が小さいので、ペダル側の磁石がセンサー位置まで物理的に届かなかった。一般的な26~27インチならば問題ないのだが、今回はケイデンスセンサーはあきらめ、心拍計をペアリングしてみた。
印象がいい絵づくり
では早速撮影して見よう。最近の関東地方は降ったりやんだりの天気で、路面が濡れており、十分なスピードが出せなかったが、カメラの性能を把握するには差し支えないだろう。
録画フォーマットはMP4で、画質モードは以下のようになっている。
モード | 解像度 | fps | bps | サンプル動画 |
1080p | 1,920×1,080 | 30fps | 約20Mbps | 1080p.mp4(25MB) |
トールHD | 1,280×960 | 48fps | 約19Mbps | tall.mp4(23MB) |
ファストHD | 1,280×720 | 60fps | 約18Mbps | fast.mp4(22MB) |
エコノミーHD | 1,280×720 | 30fps | 約9Mbps | eco.mp4(11MB) |
スローHD | 1,280×720 | 60fps | - | slowhd.mp4(11MB) |
スーパースロー | 848×480 | 120fps | - | superslow.mp4(6MB) |
タイムラプス | 1,920×1,080 | - | 約20Mbps | - |
画質的にはコントラストが高く、黒もよく絞まっている。30fpsでビットレートが20Mbpsなので、画質的にはまずまずだと言える。解像感もあるが、道路のテクスチャーが苦手なようで、途中からボヤッと誤魔化している感じがある。
マイクはボディ後ろ側にあるため、前方からの風切り音はそれほど大きくは入らない。こういう考え方も、あまりカメラメーカーにはない発想だ。
1080pモードでは、4タイプのレンズ画角が選択できる。ワイドからウルトラズームまで、4段階のズームモードがある。
ワイドが基本で、ズーム2では2倍、ウルトラズームでは4倍のズームになるとマニュアルには書いてあるが、比較するととてもそんな倍率になっているとは思えない。多少はズームしているようだが、こんなにちょっとしか違わないのでは、使い分ける意味は薄い。ファームウェアでこれから修正されるのかもしれない。
舗装された綺麗な路面を走る場合はあまり揺れが発生しないので、手ぶれ補正なしでもそれほど困らない。本機は手ぶれ補正機能も付いているが、同時に「レンズ補正」機能もONになる。手ぶれ補正を使いたくない場合は、レンズ補正だけONにすることもできる。またレンズ補正が入ると、画角が自動的にウルトラズームに設定される。
こちらは敢えて悪路でテストしてみたが、撮像素子の画像読み出し速度が遅く、絵がプルンプルンする現象は、手ぶれ補正では吸収できていない。おそらくこれもズーム機能がちゃんと動いていないので、うまく動作していないのかもしれない。現時点ではロードバイクには向くだろうが、より悪路を走るモトクロスのようなタイプの撮影には向かないだろう。
一方静止画は、広角ゆえに歪みはあるもの、精細感があるなかなかいい絵が撮れる。遠景のディテールはそれほどでもないが、手前の解像感はアクションカムとしてはかなりがんばっている。
本機はカメラ画像以外にも、内外センサーで検知した情報を表示させることができる。あいにく走っているときにしか数字が動かないものも多く、動作中の様子がお見せできないのだが、スピードや高度、加速度、方向、経過時間といった表示にも切り替え可能だ。
Wi-Fiも搭載しており、コントロールアプリ「VIRB」から設定や撮影開始、あるいは撮影アングル画角などができる。カメラ側のWi-FiをONにすると、カメラ側では設定画面が出てこなくなるので、あとはコントロールアプリ側から全ての設定を行なうことになる。
UIとしては、アプリのほうが設定変更はスピーディなので、お勧めだ。ただし、録画を停止した直後は書き込み処理が忙しいのか、設定変更を受け付けないことがあった。また、アプリの設定には「スーパースロー」モードが出てこないなど、細かいところの詰めがもう少しといったところである。
戻ってから意外な発見がある
撮影が完了すると、動画ファイル以外にも、連動させたセンサーやGPSのデータなど、複数の情報が手に入る。これは本機単体では利用できないので、PCに取り込んで活用することになる。
GARMINでは、データ管理と映像管理・編集用ツールとして、VIRB Editというアプリを無償公開している。このソフトを使ってVIRB-Jからクリップを読み込むと、一緒に各種データも取り込まれる。
地図はGoogleもしくはBingのデータが利用でき、走行ルートを表示する。そのほか、いろんなデザインで各種データを画面の上にオーバーレイして見る事ができる。例えば走行の方角、スピード、高度、心拍数などだ。本来ならばケイデンスのデータもここに載るはずだ。
こうして自分の走りを見ながらデータを眺めると、色々発見がある。へーここは海抜より低いんだとか、キツイ坂なのに案外心拍数上がらないなとか、あの坂道こんなにスピード出てるんだとか、現場を走っているときには見られないデータを、画像付きでゆっくり確認することができる。
いつも走っているコースでも結構発見があるので、知らない道を遠出するときはもっと楽しいだろう。そう考えると、映像はあくまでもデータを確認するためのオマケで、すごい絵をとってどうこうというタイプの製品でもないようにも思う。
面白いのは、タイムラプス撮影でもキチンと各種の情報を取ってるところだ。長距離のサイクリングでは、さすがにとても全編通して見る気にはなれないが、タイムラプスなら2~3時間の走行も数分で見られるので、ざっと全コースの状況を確認する事ができる。定期的に記録を残しておいても、タイムラプスなら大した容量にはならないので、保存という意味でもお勧めだ。
総論
最近はスマートフォンのアプリでサイクリング用のものも充実してきているので、個人的にはサイクルコンピュータまでは必要ないかと思っている。もちろん、電池の持ちや丈夫さ、防水対策などを考えると、サイクルコンピュータにもメリットはある。
しかしああいうものは大学の自転車部や、1人ツールドフランス状態でストイックに自分と戦うガチなオジサンが使うもので、途中で止まってジュース買って飲んじゃうような適当自転車乗りには、まあiPhoneアプリぐらいでも十分だろう。
一方GARMIN VIRB-Jは、アクションカメラというよりも、動画に各種データを一緒に管理できるシステムとして、サイクルコンピュータプラスαの面白さを提供してくれる。人に見せるというよりも、自分でニヤニヤ楽しむためのカメラだ。
将来的にはおそらく、サイクルコンピュータにカメラが載るというイメージになるのだろう。各種ウエラブルセンサーと連携していけば、より細かく走りのステータスがわかるようになる。
ただ使う側の立場としては、こういった昔からある専用機ソリューションと、スマホを中心に展開する最近のデジタルフィットネスの分野とが、微妙に噛み合ってないというか、連携できそうにないところが気になるところだ。
ユーザーとしては、特に相互が機器認証などしなくても、走行時間と位置データがだいたい同じなら同じ走行だろうと判断して、1つの動画の上にいろいろな情報が合わせ込めるようになると、メリットは大きい。
そんな機種間やメーカー間を超えて1本にまとめられるクラウドサービスを始めたところが、Internet of Things(モノのインターネット)の覇権を握れるのではないだろうか。
GARMIN 「VIRB-J ELITE」 |
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