小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第710回:いつのまにかエアコンが凄い事に。LEDとスピーカー内蔵、パナソニック「NXシリーズ」

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第710回:いつのまにかエアコンが凄い事に。LEDとスピーカー内蔵、パナソニック「NXシリーズ」

いろんなところから音が出る

 2012年頃から、照明器具とスピーカーの融合が徐々に始まっている。NECライティングのスピーカー内蔵LEDシーリングライト「CrossFeel」をはじめ、パナソニックのNFC/Bluetooth対応スピーカー「SC-LT205」は天井とシーリングライトの間に取り付けるスピーカーだった。最近では、ソニーのスピーカー内蔵LED電球「LSPX-100E26J」なども注目を集めている。

 こうした製品が登場しはじめた技術的要因は色々あるが、それよりも音楽を“意識せずに家庭で使いたい”というニーズが高まってきたことの方が大きい。つまりオーディオ的に聴くというよりも、リラックスしたり、雰囲気をよくするために、BGMとして流すという使い方が好まれるようになった。いわゆる空間の演出という点では、ムーディな照明と音楽は欠かせない要素という事だろう。

 そんな流れの中、今年4月から販売を開始したパナソニックのルームエアコン「NXシリーズ」は、エアコンなのにLEDライトとスピーカーを内蔵した意欲作である。エアコンをお借りして取り付け工事までしてレビューするわけにもいかないので、今回はパナソニックのデモルームにお邪魔してこのNXシリーズを体験する事にした。お話しを伺ったのは、同社コミュニケーショングループ広報チームの北川 雅章さんである。

パナソニック株式会社 コミュニケーショングループ広報チームの北川 雅章さん

 なお、モデルとしてNXシリーズには、100V対応で10畳用の「CS-NX285C」と、200V対応で14畳用の「CS-NX405C2」がある。いずれもオープンプライス。店頭予想価格は10畳用が24万円前後、14畳用が26万円前後だ。

大きな室内機の秘密

 まず注目のボディだが、従来のエアコン室内機の常識から大きく外れたスタイルが目を引く。これまでエアコンの室内機は、部屋の中に出っ張らない薄型が好まれてきたところだが、NXシリーズは壁からかなり出っ張っている。壁に沿うのではなく、“天井のほうに沿う”という考え方だ。

壁からかなり出っ張った独特のフォルム
天井に沿うスタイルなので、正面から見ると縦方向に薄く見える

 この形状は昨年10月に発売のハイエンドモデル、HXシリーズとXシリーズから採用されている。NXは、Xシリーズの機能を踏襲しながら、さらにLED照明とスピーカーを内蔵したモデルと言える。ではなぜこのような形状になったのだろうか?

北川氏(以下敬称略):基本的には風の吹き出し口にあるフラップ、これを大きくしたかったんですね。最近はエアコンを暖房として使うというスタイルが普及してきましたが、他の暖房器具に比べると足もとが暖かくないという意見がありました。

 温風を多く絞り込んで足もとに吹き付けるためには、フラップがの奥行き幅が大きくないとダメなんですね。この羽根をうまく収納するためには、従来の“薄い”方向ではなく、“平たい”方向にデザインをまとめる必要があったわけです。

かなり大きい2つのフラップ
フラップを上げたところ
下げたところ

 この大きいフラップの威力は絶大だ。試しに冷房モードで風の流れを確認してみたが、フラップが上向いている場合、頭の上から顔のあたりにはまったく風を感じない。だがそこから少し上の天井付近では、かなりの風量の風が吹いている。この大きいフラップで、冷気を体に直接当てることなく、天井から冷気を降らせる「天井シャワー気流」を実現している。

頭の近くではまったく風は来ず
天井付近はかなりの風量

 さらに、センサーを使って人の居場所を検知し、さらにその人が動いているか、休んでいるかに応じて、より冷やした方がいいだろうと思われる人にだけ冷気を送るといった事もできる。部屋全体ではなく、一種の「エリア空調」という概念を取り入れることで、結果的には無駄なところまでまんべんなく冷やさないエコ運転を実現している。一部屋につき3人ぐらいなら、それぞれに適切な風が送り込まれるという。

人の居場所を検知して的確に温度を下げてくる

 一方で、エアコンにスピーカーを内蔵するというのは、これまで聞いたことがない。そもそもエアコンの動作音自体が音楽にとって邪魔という事もある。一体どういう経緯で、エアコンにスピーカーやライトを付ける事になったのだろうか。

北川:そもそもの発端は“睡眠”です。我々は松下電工の時代からもう20年ぐらい、睡眠の研究をずっと続けていて、睡眠には光が関係しているということがわかってきています。

 これまでもベッドシーリングライトといった、快眠のための機器を作ってきました。さらにもう一点は、寝る前にいかにリラックスするかが重要なんです。これらの条件は、エアコンを使って整えられるんじゃないか、という事なんですね。

 昨年10月のXシリーズからこの筐体形状になり、スピーカーやLEDライトを入れるスペースもなんとかできました。

 さらに、この筐体は効率の良い大きな熱交換器や、ファンも大型のものが入れられますので、大きなファンをゆっくり回すことで静音化にも成功しています。

 NXの内蔵スピーカーはBluetoothでペアリングするので、スマートフォンから見ればただのBluetoothスピーカーである。1W+1Wのステレオスピーカーが、せり出した突端に下向きに付けられている。実際にスピーカーで音楽を流してみた。

室内機突端の下向きにステレオスピーカーが

 ボリュームはエアコンのリモコンと、スマホ側のボリュームで調整できる。音質モードなどはなく、シンプルだ。低域はほとんど出ないが、ボーカル帯域から上にかけてはよく出ており、明瞭だ。音量もリスニングには十分だが、製品の性質上、それほど大音量で鳴らすものでもないだろう。個人的には、テレビ音声にも向いてるんじゃないかと思った。

テレビやレコーダに匹敵する大型リモコンを採用
スピーカー音量やライトの明るさも上下キーでコントロール

 なお音楽プレーヤーを接続しなくても、標準で3曲が内蔵されており、面倒な場合はそれを薄く流すという使い方もできる。楽曲は、クラシック(室内楽)、ジャズ、ピアノ系イージーリスニングの3曲だ。

 一方LEDライトは、室内機上部にバー状に取り付けられており、天井を間接的に照らすようになっている。色は暖色と白色の2色が選べ、調光は6段階。マックスでもシーリングライトのような明るさではなく、手元足元の不便がない程度にふんわりと照らす。

白色の明かり
暖色の明かり
エアコン室内機の上面。LEDライトはバー状になっている

スマートフォンでさらに拡張

 現時点でNXシリーズは、リモコン+スマホで、“音楽も鳴らせる珍しいエアコン”というだけに留まっている。もちろん専用スマホアプリを使って、外からエアコンのON・OFFができるというポイントもあるが、6月下旬に大幅アップデートが予定されている「おやすみナビ」を使うと、さらに快適なエアコンのコントロールが可能になる。

 現在スマホの目覚ましアプリでは、枕元にスマホを置いておくことで体の動きを検知し、レム睡眠とノンレム睡眠のログを記録してくれるものが増えているのをご存じだろうか。眠りが浅い時と深いときを見極めて、眠りが浅いタイミングで起こしてくれるというものだ。

 「おやすみナビ」も似たような睡眠ログの記録や、目覚まし機能を提供するが、6月下旬のアップデートからは、エアコンを自動で制御する「体動連携モード」が使える。これは寝ている時の体の動き(体動)に合わせて、エアコンの温度を追従させるモードである。

睡眠ログの記録と管理を行なう「おやすみナビ」
日によって、睡眠中の寝返りの状況は大きく異なる
安眠のマスコット、ネムロウ
寝ているユーザーの寝返りをスマホが検知し、エアコンの動作に反映させる

 例えば、寝返りを頻繁に打つときは室温を下げて、寝苦しくて目が覚めてしまうことを防止する。各個人の睡眠時の体の動きは、その日の気温や体調、疲労度、飲酒などの条件によって、毎日変わる。寝ている時の体の動きに合わせて温度調整をしてくれるのが、体動連携モードの強みだ。

 これまでは好みに合わせて4つの温度カーブや、1時間毎のカスタマイズ設定を選択できるだけだったが、これに体動連携モードが加わる事で、よりきめ細かい温度コントロールを、しかも寝ている間に勝手にやってくれる。

北川:これはやはり睡眠のログをスマートフォンで取れるようになったことと、家電自体がネットに繋がるようになったことが大きいですね。これまでは測定するだけというものは沢山ありましたが、我々はその結果をお客様に何らかのメリットのある形でフィードバックしたいとずっと考えていました。NXシリーズはそれができた最初の機器なんじゃないかと思います。

 スマートフォンでセンシングした体の動きは、いったんパナソニックのクラウドに送られる。そこで解析された情報が、家庭に設置した無線ゲートウェイに戻ってきて、そこからさらに特定小電力通信を使って、専用無線アダプターに送信され、エアコンを制御するという仕組みだ。

コントロールの親機となる無線ゲートウェイ
エアコン下部に取り付けられた無線アダプタ

 したがってスマホからのコントロールには、無線ゲートウェイと無線アダプターが別途必要になる。なぜWi-Fiを使わないかというと、1階から2階など離れた場所でも確実に動作させるためだという。さらに無線ゲートウェイは、1基で複数台の機器をコントロールできるので、1つ購入するだけで済む。

 なお「おやすみナビ」は、6月下旬からパナソニック製のエアコンを持っていない人にも解禁される。快眠と体動連携の可能性を、多くの人に知って欲しいという思いからだ。

総論

 最初にNXシリーズのニュースを知ったとき、そんなところにスピーカーを付けてどうするんだというツッコミの気持ちが先行していた。多くの方もそうだろう。だが実際にお話を聞いてみると、すべては快眠のために付けられた仕掛けであることがわかった。

 通常のXシリーズに比べると、NXシリーズは2万円ほど高い。もちろん、エアコンもライトもスピーカーも、別々に用意すれば事は足りる。だが、寝室はモノを置かずシンプルにまとめたいという人にとっては、全てがオールインワンになっているメリットは大きい。これ1台で快眠環境が一度に揃うという手軽さもある。

 パナソニックのハイエンドシリーズは、お掃除ロボットの充実もポイントだ。運転が終わったあと、自動的に毎回フィルターの清掃や熱交換器の乾燥をやってくれるので、本当にお掃除いらずである。年に一度、業者にエアコンの掃除を頼んで、毎回毎回泥水みたいな汚れが取れるのに辟易としている人もいるのではないだろうか。そういうメンテナンスコストを毎年払い続けることを考えれば、多少値は張っても、お掃除ロボ付きエアコンは検討の余地がある。

 この夏、気象庁から、東日本の気温は平均並みか高いという見込みが出ている。そもそも平均からして熱いのだから、今年の夏も厳しそうだ。NXシリーズ本来の実力は、体動連携モードが動き出す6月以降に発揮ということになるだろうが、安定したコンディションのためには夏場の快眠は欠かせない。おやすみタイマーでエアコンが切れてから汗まみれで起き、もう一回エアコン強にぶっ込んで朝には凍り付くような、ITとはほど遠い毎日は、終わりにしようではないか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。