小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第633回:天井から音が降る、パナソニック「SC-LT205」を試す

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第633回:天井から音が降る、パナソニック「SC-LT205」を試す

NFC/Bluetooth対応。よくできた新発想スピーカー

天井が空いてる!

 一般家庭において天井というのは、ほとんど活用されていないエリアである。大抵は照明があるだけで、寝ているとき以外はしげしげと眺めることもないし、見上げたところでどうなるものでもない。しかし考えてみれば天井は、床面積と同じぶんの面積が存在するわけで、何かうまいこと活用できたら相当に有効なのではないかと思う。

 昨年暮れに、NECライティングのスピーカー付きのシーリングライト“CrossFeel”をレビューしたが、なかなか面白い体験であった。記事の反応も良かったようである。ただ、既にうちにはシーリングライトぐらいあるよというご家庭がほとんどだろうし、新築や引っ越しのタイミングでなければ、なかなか数万円出してライトごと買い直すということはないだろう。だが、スピーカーを天井に上げるという発想は、日本の家屋では大きな可能性を秘めているように思う。

 そこに目を付けた、のかどうかはわからないが、パナソニックが天井に装着するNFC/Bluetooth対応スピーカーを10月11日より発売する。天井とライトの間に挟み込む格好で取り付けるスピーカーだ。価格はNFC対応モデル「SC-LT200」が3万円前後、Bluetooth送信機が付属する「SC-LT205」が35,000円前後となっている。

 現在付いているシーリングライトがそのまま使えるので、価格も値頃感があるのがポイントだ。Bluetoothスピーカーがちょっとしたブームになりつつある昨今、天井から音が降るというこの仕掛け、一体どういうものなのだろうか。さっそく試してみよう。

取り付けはやや面倒……

 まず製品ラインナップだが、イントロでも少しご紹介した通り、2タイプある。一つはNFC対応モデル「SC-LT200」。NFCはご存じのように近接型の通信規格だが、NFC自体が音楽を伝送できるわけではない。音楽を飛ばすのはBluetoothなのだが、そのペアリングの手続きをNFCでやる、というのが今の主流だ。

SC-LT200に同梱するNFCタグ

 ただ、スピーカーは天井に取り付けてあるので、いちいちペアリングするのにイスに上って天井にスマホをペタンとくっつけるのはどう考えても不便である。だからNFC対応の「SC-LT200」には、NFC対応機器をタッチするための「NFCタグ」が付属している。これを部屋の壁とかに貼っておいて、そこにスマホをタッチするだけでペアリング完了、というわけだ。頻繁に再生機器が変わる可能性がある場合には、便利だろう。

 一方でNFC対応機器とはいっても、現時点ではAndroid機器ぐらいしかないので、それ以外の使い方、例えばテレビの音を天井のスピーカーで鳴らしたいと言ったニーズには応えられない。そもそもテレビにNFC機能が付いていない。

 そこでもう一つのタイプ「SC-LT205」は、NFCタグの代わりにBluetoothの音声送信機が付属している。今回はこちらの「SC-LT205」のほうをお借りしている。Bluetoothの音声送信機があれば、アナログ音声をBluetoothに変換して、天井のスピーカー部まで飛ばすことができる。テレビなどの音声を飛ばすなら、こちらのほうがいいだろう。

天井取り付け型スピーカー「SC-LT205」
こちらが天井に向く面。回転防止のクッションが貼られている
付属のBluetooth音声送信機

 実際のスピーカー部は、直径440mmの円盤状だ。ここにL/Rそれぞれ2ペアのスピーカーが内蔵されている。スピーカーはR同士、L同士が対角に配置されているため、スピーカーの振動を打ち消しあって吸収するという。天井に取り付けることで、上の階への振動が気になるという点をクリアする技術だ。したがって1ペアのLRは、90度の角度を付けて4方向から聴けることになる。特に方向性を持たせず音を撒くという配置としては、現実的であろう。

側面にロゴ。この脇の編み目内にステータスLEDがある
外側からはスピーカーの位置は確認できない

 ただ、内部のユニットは製品を分解しないと見る事ができない。円盤の高さは38mmしかないので、スピーカーの口径は3cm×10cmの楕円形になっているようだ。スピーカーのインピーダンスは6Ωで、アンプは5W+5Wとなっている。それほど大音量でガンガンならすようなものでもないので、これぐらいで十分という事だろう。全体の重量は2.5kgとなっている。

 Bluetoothスピーカーとしてのスペックは、Bluetooth Ver 3.0、出力はClass2となっている。対応プロファイルはA2DP(SCMS-T対応)とSPPで、音声コーデックはaptX、SBCに対応する。

 では取り付けである。今回は仕事部屋にもなっている和室の天井に取り付けてみた。以前の“CrossFeel”は、本当のシーリングライトだったので、通常のライトの取り付け同様、天井の引っ掛けシーリングに取り付けるだけだったが、本機はその間に設置するため、引っ掛けシーリングからぶら下がるのではなく、天井に直接木ねじで固定する必要がある。どっちみちシーリングは電源を取るために利用するのだが、これ、うまいことシーリングを延長するような格好で作れないものだろうか。

付属の取り付け金具
天井のシーリングを真ん中にして金具を固定

 しょうがないので、天井に穴をあけて取り付け金具を固定する。金具取り付け用の木ねじは付属しないので、自分で適当なものを買ってこないといけない。本体の固定は、この金具に本体止め用のネジを取り付けることになる。

本体止め用のネジの頭をここに入れて、ぐるっと回す構造

 本体裏側は、ネジの頭を通してグルッと回す構造になっている。そうは言っても、天井にへばりついているネジと本体のネジを通す穴を、下から何も見ずにはめ込むことなど不可能なので、本体下の真ん中にあるフタを開け、そこから覗いて作業することになる。

 このフタもまた2箇所でネジ止めされており、いちいちドライバーで外す必要がある。こういうところも、工具なしで開けられるようにできなかったのだろうか。

 金具と本体を取り付けたあとは、シーリングから電源を取るために本体ソケットを取り付ける。中央のフタを元通りネジ留めすると、あとは一般的な丸形シーリングと同じ形になっているので、そこにライトを取り付けて設置完了となる。

底部のフタを開けて取り付け。電源もここから取る
これで蓋を閉じれば設置完了
本体の底部は普通の丸形シーリングになっている
ライトまで取り付けてみたところ

リモコンが便利

 ではさっそくペアリングである。せっかくaptX対応なので、これで接続してみたかったが、あいにくうちにはaptX対応の再生機がなかったので、SBCでテストした。

 最近のaptX事情を簡単に調べてみたが、受け側、すなわちBluetoothヘッドホンやスピーカー側ではaptX対応のものが増えている。音質の良さや低遅延ということが認識され、一種のトレンド化が始まっているように見える。

 その一方で、送り側のほうは対応機器が少ない。シャープ、富士通、HTCといったメーカーのスマートフォンが対応している程度だ。PC用USBアダプタは、ロジテックとグリーンハウスなどから発売されているが、ロジテック製の「LBT-UAN04」というモデルはドライバで苦労しているという事例が多く、ネットの評判は必ずしも良くないようだ。今Windowsもバージョン混在の過渡期ということもあるだろうが、もう少し積極的に展開して欲しいと思う。

コントロールはすべてリモコンで行なう

 本機にはリモコンが付属している。赤外線ではないので、おそらくこれもBluetoothだろう。中央のペアリングボタンを2秒以上押し続けると、ペアリングモードに入るので、再生側の機器とペアリングを行なう。

 ペアリングモードに入っているかどうかは、本体のメーカーロゴがあるあたりにLEDがあり、そこが緑に点滅するかどうかで確認できる。ただ、ライトの淵が大きく出っ張っているとLEDが見えないので、ライトのサイズ次第では目視確認は難しくなるだろう。

 ペアリングが完了すると、多くのBluetoothスピーカーは電子音などで知らせるものが多いが、本機は無音なので、ステータスはスマートフォンなど再生側の機器で確認するしかない。

 音量はリモコンで操作できるほか、もちろん再生機側のボリュームでも調整できる。また照明の電源もこのリモコンでON/OFFできる。壁の照明スイッチは、元電源スイッチの役割を果たすので、照明とスピーカーを同時に電源断することになる。スピーカーのペアリング状態をいったんリセットしたいときも、壁の電源を切るだけで済む。

比較的素直な音質

 ではさっそく音を聴いてみる。小型のフルレンジスピーカーが2セット入っているだけでサブウーファーがないので、低域はあまり期待していなかったが、やはり低域の伸びは今ひとつだ。

 中高域の特性はなめらかで、変なクセはない。リモコンには音質モードとして4つのボタンがある。デフォルトは「フラット」だが、低域を足すと思われる「ヘビー」に切り換えると、確かに低域の出は良くなるが、同時に高域も出てくるので、全体的にドンシャリ傾向となる。「ソフト」は高域が抑えられるが、同時に明瞭度も失われ、中域がもっさりする感じがある。「クリア」は明瞭度をメインにした音で、音楽鑑賞というよりは、テレビ音声を聞き取りやすくするためのモードと言えそうだ。

 音場としては、スピーカーの真下に入ると上から鳴っている感が強く、広がりはあまり感じられない。逆にスピーカーから離れて部屋の端へ移動すると、部屋全体にナチュラルな音の広がりが感じられる。さらに天井から鳴っているというよりも、スピーカーの実際の位置から1mぐらい下で鳴っているように感じられ、BGMとしてなかなか楽しめる音場となる。壁際のソファあたりが、ベストポジションと言えそうだ。

 振動を防止するためにスピーカーを対角に設置しているわけだが、確かにビビりなどの振動は感じられない。ある程度の音量を出しつつ、すぐ上の部屋に移動してみたが、天井経由の音はほとんど伝わっていなかった。床に耳を当てれば少し聞こえる程度で、上下の部屋の問題はほとんどないと言っていいだろう。

 本機に付属するBluetoothの音声送信機を使って、テレビのヘッドホン端子の音を飛ばしてみよう。リモコンでペアリングモードにしたのち、音声送信機の横のボタンを5秒間押すと、ペアリングされる。

音声送信機の入力と電源供給部
ケーブルはACアダプタ(USB給電)と、ステレオミニ、ミニ-RCAケーブルが付属
横のボタンを5秒押すとペアリング

 本機は元々明瞭感の高い音なので、テレビの音なら「フラット」のままでも十分わかりやすい。おそらく、多くのテレビ付属スピーカーよりも明瞭度は高いだろう。音声送信機もaptXとSBCに対応している。スピーカー間でどのコーデックと繋がるのかは確認のしようがないが、音の遅延は感じられなかったところを見ると、aptX接続だろう。

 ただ、画面の向きとは違う方向から音が来るため、その点では結構違和感がある。また、スピーカーのLRの向きが外観からはわからないので、画面に対して左右の方向が合っているのかも確認できない。基本的には指向性はないという考え方ではあるものの、設置についてもそのあたりの解説があると良かった。

総論

 以前、某メーカーのテレビ用バースピーカーの取材をしていた時に、家庭の主婦がもっとも嫌うのがスピーカーだというデータを見せていただいたことがある。邪魔だしデカいし真っ黒だしケーブルはうねうねして掃除しずらいし、という事だそうである。

 天井を有効活用するという点だけでなく、このような不満を解消する意味でも、スピーカーを吊るというのは有効な手段である。この製品のように、シーリングに取り付けるタイプは、ライトでスピーカーの存在自体も隠すことができるため、インテリア的にもスッキリする。

 ただ、リスニング位置によっては、いかにも天井から鳴ってますというのがバレバレになるため、違和感を感じるケースもある。シーリングの位置は基本的に動かせないため、ベストなリスニングポジションで聴くためには、家具のレイアウトを変えないといけないかもしれない。

 真剣に音楽を聴くタイプのスピーカーではないが、クセがないので軽くBGMとして流しておくといった使い方にはぴったりだ。家事をしながらradikoでFMを聴くというのも、どこにいても明瞭に聴き取れるので、楽しいだろう。

 現状の音質でも満足度は高いが、欲を言えばもう少し口径の大きなフルレンジか、サブウーファがあったらどうなっただろう、という興味は尽きない。あるいはソフトウェアによる音像補正機能、音像定位の高さ方向を変える技術や、立体音像化といった技術が入ると、さらに面白かっただろう。

 今は1万円しないスピーカーでも結構いいものがあるので、Bluetoothスピーカーとしては割高かもしれない。ただ、埋込み型ではなく、天井に目立たないように手軽に後付できるスピーカーの選択肢は少ないので、ある意味この分野ではNECとパナソニックの独占市場のようになっている。

 競争がなければ改良も進んでいかないので、ぜひ強力なオーディオメーカーの参入を期待したいところである。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。