プレイバック2015

Atmos対応より重要? 「CX-A5100」のデジタル音声処理に感じる次世代の音 by 本田雅一

 一連の筆者の中でも、もっとも遅く原稿を入れるという、実にごめんなさいな状況の本田です。しかし、そのおかげで他の筆者が“自分自身のこの1年”をふり返っていることが判ったので、少し気軽に今回のコラムを書いている。

 “取材して気に入ったものは自分でも買わねばならんよなぁ”と言い訳をしながら買い物とをすることが、AV Watch執筆陣のお得意のネタとなっているが、筆者も今年はかなり高額な自爆を繰り返した。

 すでに連載の中でも、OPPO Digital JAPANの「BDP-105DJP JAPAN LIMITED」とヤマハ「CX-A5100」の導入ネタを掲載したが、このあたり、とりわけ後者について少し掘り下げることにしたい。

'15年CX-A5100の導入などでシアター環境を一新

 多くの人は「本田さんもやっとイマーシブ・オーディオ(Dolby AtmosやDTS:X)に対応したんだねぇ」と言われるのだが、僕のイマーシブ・オーディオの導入欲というのは、実はそんなにない。

 確かにAtmos化された既存作品のブルーレイを観ると「すんごくイイ!」と感じるものが多い。ゼロ・グラビティやシカゴなどがその例だ。とりわけシカゴなどは、ゾクゾクするほど生々しさが向上しており、音場を埋める音の密度も段違いだ。

 ところがだ。

 シカゴのAtmos版を、イマーシブ・オーディオ非対応のシステムで聴いても、実のところ音質はずっと良くなっている。つまり、Atmos化に際して高音質になるようリマスター、リミックスされている面もあるということだ。

 もちろん、何か大きなきっかけがあれば、次のシステムはイマーシブ・オーディオ対応にしたい。そしてその“何か大きなきっかけ”が、CX-A5100の発売だった。

CX-A5100

 筆者は年に2回、評価のために大多数のAVアンプをまとめて試聴しているため、毎年、徐々に改善される音質や洗練される機能を感じ続けてきた。自分自身が導入した直前のAVアンプは7年半前に導入したパイオニアのSC-LX90という製品だった。しかし、その後は各メーカーともハイエンドAVアンプの開発に消極的になってしまったため、ついぞ買い換えることなく時間だけが過ぎていた。

 製品評価を生業としているので、新たな技術が市場導入されるたび、AVアンプの入れ替えは検討してきた。音の品位そのもので言えば、LX90を上回る製品もないわけではない。

 それでも買い換えまでには至らなかったのは、音の品位というよりも“質感”の部分でLX90を置き換えるだけの思い切りを得られなかったからだった。SC-LX90が持つ地に根を張るようなしっかりした低域の安定感と、その低域から積み上げられる揺るぎない音場は、最新のDACや最新DSPでの音場処理が加えられた最新モデルであってもなかなか得られなかった。

 CX-A5100は、そのモデル名からも判るとおり同社AVプリアンプ「CX-A5000」の後継製品である。ミドルクラスAVアンプ「AVENTAGE」シリーズ向けに設計された筐体を流用し、サイドパネルにアルミ押し出し材を使うなどの改良は施されているものの、ハイエンド然としたかつてのハイエンドモデルに比べると物足りなさがあった。実際、前モデルの際には、セパレート型の良さを感じさせつつも、音質面で突き抜けた印象がなかった。

 ところが、CX-A5100はデザインこそ共通で採用DACなどのスペックでも似ているものの、その音質はすばらしく向上している。ハイエンドAVアンプの後を引き継げるモデルを見つけられず、悶々として悩んでいるホームシアターユーザー(自分自身のことでもあるが)は、この音質の良さだけでも買い換えの理由になると思う。

 AVアンプとしての音の良さ、64bit DSP処理による、まったく情報量低下を感じさせない音場補正やスピーカー配置補正などに比べれば、正直言ってイマーシブ・オーディオ対応は“オマケ”でしかない。

 とはいえ、セパレート型のCX-A5100は、誰もが簡単に導入できる製品ではない。別途パワーアンプが必要になるため、置き場所にも困るという人が少なくないと思うからだ。しかし、CX-A5100の長所は、いずれもっと下位のモデルや他社の製品にも展開されるものだと思う。

 CX-A5100の長所は、分離された4系統の電源を真ん中に置き、主要回路を四隅に分離して相互輻射によるノイズを軽減するなど、徹底したS/N対策というアナログ的要素もあるが、64bit演算精度での音場補正やDSP処理がかなり効いている。

 これは連載の中でも言及したが、通常は何の処理もせずにストレートに聴かせた方が高鮮度で印象の良い2チャンネルステレオの音楽ソースも、音場補正をかけた方が良いと思えるほど、CX-A5100のデジタル音声処理は優れている。もちろん、マルチチャンネル(サラウンド)の音声なら、その効果はなおさらのことだ。

 以前からハイエンド領域やプロ向けの領域では、デジタル処理による補正をかけた方が良い例というのはいくつもあったのだが、そのためのプロセッサが高価だったり、高精度の補正データを得るための測定が難しかったり、さまざまな理由で“そこそこ”の音場補正になっていたが、やっと“ダイレクトに再生するより補正した方がずっといい”AVアンプが普通に買える価格の製品に入って来た意味は大きい。

 いつのタイミングかは明言できないが、いずれは中価格帯、低価格帯にまで降りてくることだろう。ヤマハ以外のメーカーからも、同様のソリューション提案が出てくることを期待したい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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