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ソニーのネットワークウォークマンが。4月末のBCNのランキングでフラッシュメモリカテゴリでiPod shuffleを抜いてトップとなった。さらに、決算会見でも回復について言及されるなど、ようやく「ポータブルオーディオのソニー」の復活の声も聞こえはじめた。 ネットワークウォークマンシリーズの大きな差別化ポイントとしてアピールされているのが、「スタミナ再生」だ。スタミナ再生のコア技術となるのが、「バーチャルモバイルエンジン(VME)」と呼ぶ独自のLSI技術で、全てのネットワークウォークマンに、このVMEを内蔵したLSIを搭載している。 VMEを最初に搭載したのは、2003年2月に発売されたネットワークウォークマン「NW-MS70D」。ATRAC3plusに初めて対応したほか、最高で33時間というスタミナ再生を謳った製品だったが、VMEの開発自体は2000年よりスタートしていたという。
このVMEを開発したのは、ソニーの半導体事業カンパニー「ソニーセミコンダクタソリューションズネットワークカンパニー」。今回このVMEとVME搭載LSIについて、ソニーセミコンダクタソリューションズネットワークカンパニー SoC事業本部 システムアーキテクチャー開発部門プロセッサIP開発部 プロセッサー・エンジン開発担当部長の妹尾克徳氏と、SoC事業本部 第2LSI設計部門 3部6課係長の山崎守氏に伺った。 VMEのコンセプトをまとめ、開発を主導したのは妹尾氏。山崎氏は低消費電力LSIの開発を担当した。 ■ ソフトウェアで「動的に変身する半導体」
バーチャルモバイルエンジンの最大の特徴は、ダイナミックリコンフィギュラブル(動的再構成)回路技術を採用したこと。特定の機能をハードウェアで実現するのではなく、予め用意したいくつかの必要な回路ユニットの構成と動作設定をソフトウェアによって動作中に変えながら、その場に応じた機能をハードウェアとソフトウェアの両面から実現するというものだ。 VMEの場合、コーデックによっても異なるが、1秒間で1,000回以上の構成変更を動的に行ないながら、オーディオデコードなどの処理を実現している。このようなリコンフィギュラブル回路は、大型の通信機器などでは採用例があるものの、民生用LSIとしてはネットワークウォークマンが初の搭載製品となる。 リコンフィギュラブルLSIを民生機器で初めて実現できた理由については、「汎用性を捨て、ポータブルオーディオ/ビデオの低消費電力化、長時間再生という明確なターゲットを設定したため(妹尾氏)」という。 ■ 「スタミナ」が最大の差別化要因 VMEの採用による最大のメリットは「スタミナ再生」。従来の汎用DSPと比較して約1/4程度の低消費電力化が可能。しかも、現在のデジタルオーディオ製品の多くは1チップないしは2チップの主要DSPとフラッシュメモリなど、きわめて少ない部品で構成されるため、メインチップの低消費電力化がダイレクトに効き、セット製品(市場に出回る最終製品)においても3倍程度のバッテリ駆動時間の向上が見込めるという。 例えば、フラッシュメモリを搭載したネットワークウォークマン最新機種「NW-E507」は、約50時間(ATRAC3 105kbps)の連続再生時間を実現。HDDの「NW-HD5」も約40時間(ATRAC3plus 48kbps)/約30時間(MP3 128kbps)の連続再生が可能など、他社製品より大幅な長時間再生を可能としている。iPod shuffleやiPodの12時間(AAC 128kbps)と比較すれば、そのスタミナの違いがわかるだろう。
例えばiPodではSigmatelの専用DSPチップを利用しているが、「他社製品でもVMEを採用すれば、もちろん再生時間は大幅に向上するはず(山崎氏)」という。ただ、ソニー以外のメーカーへの外販の可能性については、「開発スタート以来、セットのチームに提案しながらセットの競争力を高めることを目指してきた。しかし、将来的な検討は続けていく」としている。 VMEによる低消費電力化の要因は、回路規模の削減のほか、動作クロックを大幅に抑えたことにある。動作周波数は22.58MHzと、汎用のオーディオデコーダチップから大幅に低減。動作電圧は1.2Vで、消費電力は4mW(ATRAC3再生時)まで抑えられている。なお、ATRAC3plus再生時では5.8mW、MP3では7.8mW程度という。VME搭載LSIの製造プロセスは0.18μm。 なお、VMEは、ネットワークウォークマンのみならず、ポータブルCDプレーヤーやMDプレーヤーなど、ソニーの現行ポータブルオーディオ製品の大部分で採用されている。さらに、プレイステーションポータブル(PSP)でも採用しており、VME搭載LSIのトータル出荷個数は1,000万個を超えたという。 ■ 製品設計の省力化と容易な機能追加も可能に また、スタミナ以外にも機能の追加や、最終製品の差別化が容易というメリットもある。従来のハードウェアLSIであれば、モデルごとに機能の差別化を図るために専用回路を起こす必要があった。そのため、コスト高や開発効率の低下につながっていた。 しかし、VMEではソフトウェアの変更で機能追加や強化が行なえるため、製品ごとにLSIを設計し直す必要が無く、ソフトウェア変更でセット製品の差別化が可能。VME搭載チップにはポータブルCDやHi-MD、ネットワークウォークマンなどの製品系列ごとに数製品が用意されているが、その種類は非常に少ない。
たとえば、ネットワークウォークマン製品用のLSIは2003年発売の「NW-MS70D」から、最新の製品まで全ての製品で同じVME内蔵LSI「CXR704060」を利用しているという。この約2年でネットワークウォークマンではMP3対応などのさまざまな強化が図られてきたわけだが、実はベースとなるLSIは共通というわけだ。共通のプラットフォームとなることで、開発期間の低減が図れるのも大きなメリットといえる。 また、コーデックの追加のほか、音響効果などのエフェクト機能などさまざまな機能追加も行なえる。現在、ネットワークウォークマンの対応コーデックは、ATRAC3plus/ATRAC3とMP3だが、AACについても「LSI側の機能を考えれば十分対応可能(山崎氏)」という。 ただし、ポータブルビデオプレーヤーへの転用については、「オーディオ/ビデオのデコード処理よりも、液晶のバックライトなどの他の要因の消費電力が大きいため、VMEの効果はポータブルオーディオ製品ほど大きくない」という。しかし、PSPなどでもすでに実装されており、「ビデオデコードでもVMEのスタミナ性能は生かせる(山崎氏)」としている。 □ソニーのホームページ (2005年5月10日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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