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日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2007」を5月24日から27日まで実施する。入場は無料。公開に先立って22日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。 NHK放送研究所の研究活動の成果を視聴者に公開・説明するイベントとして、毎年公開されているもの。2007年は、スーパーハイビジョンシステムの具体的な放送に一歩近付いた展示や、「さらに先の放送」として開発が進められる立体テレビの紹介などが行なわれている。
ここではスーパーハイビジョン関連の展示をレポートする。
■ 現実的な姿としてのスーパーハイビジョン 技研公開の目玉として、毎年ブラッシュアップされているスーパーハイビジョンシステム。解像度7,680×4,320ドット、フレームレート60Hzの映像に、22.2chのサラウンドを加えた高臨場感システムは、例年通り体験デモも開催。今年は初の空撮が取り入れられたほか、引退した名馬ディープインパクトのラストレースもデモとして使われており、競馬場に迷い込んだような体験ができる。
2025年を目処に家庭向け本放送を予定しているスーパーハイビジョンだが、今年の展示の特徴は、MPEG-4 AVC/H.264を用いたリアルタイムエンコード/デコードシステムの開発や、圧縮したデータを21GHz帯の広帯域衛星伝送路を使って実際に送信/受信してみるなど、研究がより具体的な段階に入っていることを印象付けるものになっている。 従来のスーパーハイビジョンは、非圧縮伝送のため、7,680×4,320ドットで24Gbpsという膨大なデータ量となっていた。伝送方法として予定されている衛星放送の21GHz帯でも500Mbpsの転送能力しかないため、データを圧縮する必要があった。 そこで、MPEG-4 AVC/H.264(Main Profile)を採用。スーパーハイビジョン信号を16分割(画面を8分割×時間を2分割した30Hz)し、16台の符号化ユニット(FPGA)で圧縮。ユニットを同期して信号を処理するように制御しており、復号化も同様の方法でリアルタイムに処理できる。この結果、24Gbpsの1/100~1/200となる100~400Mbps程度までビットレートの低減が可能。デモでは128Mbpsの動画が表示されていた。
さらに、そのデータを擬似衛星伝送するデモも実施。21GHz帯を利用し、衛星を模した模型のアンテナから、家庭用の衛星アンテナへ送信していた。伝送ビットレートは500Mbpsだが、100Mbps台まで圧縮したことで、スーパーハイビジョンでも複数の放送局による放送の目処が立ったほか、今後は圧縮率を高めることで、より多くのチャンネルの伝送を可能にしたいという。また、2007年度に打ち上げ予定の超高速インターネット衛星「WINDS」を使い、伝送実験も行なう予定だ。
なお、7,680×4,320ドットの映像を撮影するカメラには、これまで800万画素(3,840×2,160ドット)の撮像素子を4枚、画素ずらしで使用していたが、カメラの小型化を阻む原因の1つだった。そこで、新たにスーパーハイビジョンがそのまま撮影できる約3,300万画素のCMOSセンサを開発。サイズは2.5インチ。現在はモノクロのみの撮影に対応しているが、最終的には3板式システムの開発を予定。3色分解プリズムに接合することでカラー化を実現したいという。
■ スーパーハイビジョンを家庭で表示するために
スーパーハイビジョンを表示するためのディスプレイ研究も進んでいる。NHKは家庭での視聴用として100インチ程度のテレビを想定し、7,680×4,320ドットがそのまま表示できる超高精細PDPの開発を、パイオニアなどと共同で進めている。 100インチで7,680×4,320ドット解像度を持たせるためには、0.3mmの画素ピッチが必要。そこで、0.3mmピッチで6.5インチのパネルを2006年に試作した。しかし、PDPはガス放電で発生した紫外線で蛍光体を光らせているため、高精細化するためには、セルの微細化による励起粒子の生成効率の低下や、セル壁面での損失などによる輝度の低下などが問題になっている。
そこで、新たに放電セル構造を改善。発光効率を昨年の1.5倍に高めたという。さらに、大型化を目指した基礎検討として、画素ピッチは0.36mmと若干大きくなるが、16インチのPDPも開発。安定動作を実現したという。 100インチという大型サイズでは消費電力も問題になるが、省電力技術も開発。市販のPDPでは電極保護膜に酸化マグネシウムが使われているが、これを酸化ストロンチウムカルシウムに変更。試作機の画素ピッチは0.66mmだが、従来のものと比べると駆動電圧は130Vと、30%低減したという。これは世界最小電圧とのこと。これらの技術を活用し、大画面で超高精細でありながら輝度が高く、なおかつ消費電力も少ないPDPの開発を目指している。
■ コントラスト比 100万:1のフロントプロジェクタ
フロントプロジェクタの高画質化にも注力している。地下のデモルームでは、スーパーハイビジョンの投写を想定し、コントラスト比 約100万:1を実現したというプロジェクタを展示している。 日本ビクターと共同で開発されているもので、2台のプロジェクタを繋げたようなフォルムが特徴。後ろ側のプロジェクタは通常のRGB表示のプロジェクタだが、投写レンズにあたる部分にリレーレンズを搭載。投写された映像が、そのまま前側のプロジェクタの背面に入力されるようになっており、前方のプロジェクタ内の輝度用素子に映像を一旦通してから投写レンズで投写するシステムになっている。 このシステムには、通常の映像信号に特殊な処理をほどこし、RGBの変調信号と、輝度変調信号(白黒映像)を取り出している。背面のプロジェクタにはRGBの信号のみを入力。前方プロジェクタの輝度用素子には輝度変調信号(白黒)のみが表示され、その素子をRGBの映像が通ることで、黒表示の投写光が2段階で減衰。黒浮きをほとんど無くすことに成功しており、強烈なコントラスト比が体感できる。
コンシューマ向けのプロジェクタでも導入して欲しい技術だが、実用化イメージとしてはプラネタリウムなど、業務用途が先になるようだ。今後はRGBと輝度変調信号に変換する信号処理方法や、輝度用素子の解像度改善などを進めるという。
□NHKのホームページ
(2007年5月22日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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