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【新製品レビュー】
人気のカナル型イヤフォンがリニューアル
カナルの枠を越える低音。ソニー「MDR-EX500SL」


10月10日発売

標準価格:オープンプライス

店頭予想価格:1万円前後


 カナル型(耳栓型)イヤフォンが高音質なイヤフォンの代名詞となって久しい。最近は3,000円程度のモデルも豊富にラインナップされているが、こだわり派に人気の価格帯と言えば1万円程度のラインになるだろう。上を見ればキリが無いが、付属イヤフォンからの買い替えとして「高価ではあるが、買えないことはない」ラインがここだ。

 そんな価格帯の代表格と言えば、2006年5月から発売されているソニーの「MDR-EX90SL」が挙げられるだろう。標準価格は12,390円だが、実売は1万円を切っている。通勤電車の中で、シルバーヘアライン仕上げのイヤフォンをしている人を見かける事も多い。

 だが、「MDR-EX90SL」は構造的に、決して“標準的なカナル型イヤフォン”ではない。筐体を直接耳穴に入れるカナル型では、搭載するユニットの大口径化に限界があるが、その問題をクリアーするためにユニットに対して角度を持たせたイヤーピース(アングルドイヤーピース)を採用している。

MDR-EX90SL 左がMDR-EX90SL、右が後継モデルのMDR-EX500SL

 簡単に言えば、ユニットを耳穴に対して平行に配置している限り、耳穴に蓋をするような形になってしまうため、ユニットを耳穴に挿入できなくなる。そこで、イヤーピース部のみを耳穴に合わせた角度を持たせた上で先に延ばし、耳穴に入れてしまおうという仕組みだ。

 この構造を採用したことで、9mm径や11mm径が多かったイヤフォンでは珍しい、13.5mmという大口径ユニットの搭載を実現。特に低域の再生能力を高めることに成功した。

MDR-EX700SL

 その後、2007年10月に同じEXモニターシリーズの最上位モデルである「MDR-EX700SL」(36,750円)が登場。同モデルでは「角度を持たせる配置」を進化させ、ユニットが耳穴に対して真横になるデザインが採用された。横向きにすることで耳穴にぶつからず、イヤーピースをさらに奥まで挿入できるというわけだ。このアイデアにより、さらに大型ユニットが搭載可能となり、サイズは16mm径となった。

 ヘッドフォンを比較対象にしたくなるような、凄まじい低音を聴かせてくれる「MDR-EX700SL」だが、36,750円という価格はおいそれと手が出るものではない。そんな中、10月10日から発売が開始されるのが、同じ“横向き配置”(密閉型バーティカル・イン・ザ・イヤー方式)を採用した下位機種の「MDR-EX500SL」だ。「EX90SL」の後継機種であり、価格はオープンプライスだが、実売は1万円前後と同ラインだ。

 最上位モデルの方式を受け継ぎながら、手の届く価格を実現した注目モデル。「EX90SL」との比較をメインに、その音を体験してみたい。


■ 質感はちょっとチープに

MDR-EX500SL

 搭載ユニットサイズは「EX700SL」が16mm径だったのに対し、13.5mmで「EX90SL」と同じだ。しかし、形状はEX700SLと同じ密閉型バーティカル・イン・ザ・イヤー方式を採用している。また、ユニットの振動版もEX700SLと同様の、厚さ0.1μm以下の2種類の高分子材料を数百層積層したマルチレイヤー振動板に変更。不要振動を抑え、クリアで解像度の高い音質を実現するという。

 最大入力は200mW、インピーダンスは16Ω、音圧感度は106dB/mWと、スペックシート的には「EX90SL」とまったく同じ。再生周波数帯域も5Hz~25kHzで変わっていない。

 ユニットが横向きになったことで、デザイン的にはシンプルになった。「EX90SL」はブラックとシルバーのツートンカラー1色のみだが、「EX500SL」ではホワイトとブラックのカラーバリエーションが出来た。今回はホワイトモデルをお借りしている。

構造図

 「EX90SL」は、ヘアライン仕上げのアルミをハウジングに使っており、イヤフォンの中でも高級感のあるモデルだ。「EX500SL」でもアルミは使われているが、表の円形部分など一部で、裏側や周囲はプラスチック。ホワイトモデルであることも影響しているが、手にした時の高級感は「EX90SL」よりも落ちる。

デザインはシンプルになった EX90SLとEX500SLのデザイン比較。質感はちょっとチープになった。EX500SLのハウジング裏側にはスリット形状のポートがある。EX90SLのポートは大きく、音漏れにも影響している

コードのタッチノイズは減った

 コードはEX90SLとほぼ同じ太さ。タッチノイズはあるが、指でコードをこすった時の音はEX90SLよりも低くなり、あまり気にならない。長さは60cmでU型。コード長アジャスター付で、90cmの延長コードも付属する。

 もう1つ、大きく変わったのがイヤーピースだ。「EX90SL」は通常のシリコンタイプだが、「EX500SL」では硬さの異なる2種類のシリコンを組み合わせたハイブリッドシリコン仕様になった。具体的にはノズルはめ込む内側の部分が硬いシリコンになっており、形状がゆがんで内部を通る音に悪影響が出るのを防いでいる。耳穴と触れる外側のシリコンはやわらかく、装着感を損ねない工夫が施されている。サイズはS/M/Lの3種類が付属する。

ハイブリッドタイプのシリコンイヤーピース。緑色の部分が硬く、白い部分は柔らかい。音道をつぶさない工夫だ EX90SLのイヤーピースは普通のシリコンタイプだ


■ 装着感が大幅向上。音漏れは大幅低減

 では装着してみよう。大きなユニット部分が耳穴の手前の空間にスッポリと収まる「EX90SL」の装着感も悪くはないが、「EX500SL」はユニットが邪魔をしないため、グッと耳穴の一段奥まで押し込むことができる。「EX90SL」も指で強く押せば同じような深さまで押し込めないこともないが、ユニットが耳に強く当たって痛みを感じるし、しばらく放っておくとユニット側に引っ張られるようにイヤーピースの深度は元に戻ってしまう。

 また、ユニットとイヤーピースの角度が固定されているため、ユニットに引っ張られる形でイヤーピースの付け根が耳穴から若干浮いてしまう。人によって耳の形状は異なるので隙間ができない人もいるだろうが、個人的にはその隙間から低音が漏れたり、外部の音が聞こえたりしてしまう。

MDR-EX90SLを耳の模型に挿入したところ。ユニット部分が邪魔をしている MDR-EX500SLではユニットが横向きになっているため、イヤーピースをより奥に挿入できる 2モデルを上から比較したところ

 「EX500SL」はユニットという“つっかえ”が無いため、ある意味で普通のカナル型イヤフォンのように完全に密着する深度まで押し込める。横向きにしたとは言え、押し込んでいけばいつかはユニットが耳に干渉するのだろうが、そこまで深く押し込める人はいないだろう。

 イヤーピースが密着するため、装着感安定性は向上。ユニットが耳に当たる事も無いので装着感も良くなった。普通のカナル型と比べて優れたポイントがあるわけではないので「大型ユニットを採用しながらカナル型の装着感を実現した」とも言えるだろう。

  耳穴により深く装着できるという事は、密閉されることで低音を漏らさず聴けることや、音漏れの低減にも繋がるはず。まずは音漏れをチェックしてみた。

 iPhone 3Gで同音量でドライブしながらEX90SLとEX500SLを付け替え、静かな部屋の中で第三者に音漏れの量を聴いてもらった。すると、じっくりと比較するまでもなく、EX90SLからEX500SLに付け替えた途端に「音漏れがかなり減った」と言う。

 アコースティックギターとパーカッションのリズムが心地よいキマグレンの「LIFE」を再生しながら比較したが、漏れる音にも違いがあり、EX90SLはパーカッションのシャンシャンという高域がかなり多く漏れ、耳につく。EX500SLでは高域から中域まで、漏れる音全体が低く、高域はマスキングされたようにこもり、気にならない。EX90SLで周囲を気にしながらボリュームを上げていたというユーザーには嬉しい改善ポイントだろう。


■ イヤフォンの枠を越える低音

イヤーピースを外したところ

 耳穴との密閉が向上したことは、再生音にも大きく影響する。EX90SLとの最大の違いは中低音にあり、特に中域のボリューム感はユニットサイズが同口径とは思えないほど違う。徳永英明「セカンド・ラブ」ではヴォーカルが肉厚になり、マイクのそばに顔を寄せたように音像がグッと前に出る。アコースティックギター/ベースの響きも実に豊かで、ヴォーカルとセットで胸に圧迫感を感じるほどの張り出しが強い。

 EX90SLに付け替えると真ん中の音がスカスカに感じられ、イヤフォンを耳穴に押し込みたくなる。小さいライヴハウスでかぶりつきで聴いていたのが、広いコンサートホールに移動したような違いだ。この違いは密閉型ヘッドフォンと開放型ヘッドフォンの差と似ている。

 音楽の美味しい所である中音を豊かに再生すると言う意味では、文句無しでEX500SLに軍配が上がる。だが、中音がせり出したカマボコ型の再生音であるとも言え、「どちらがフラットな再生音か?」と問われると、主張しがちな中域を適度に落としたEX90SLの方がどちらかというとフラットだ。

 その証拠に、同じ楽曲でもEX90SLの方が左に位置するアコースティックギターとセンターのヴォーカルの分離が良く、音場も広い。EX500SLでは徳永英明のヴォーカルに隠れていたピアノの動きもよく見える。音楽の熱っぽさのようなものは減ってしまうが、見通しは良く、モニタースピーカーのように分析的に音楽を楽しめる。このあたりは好みの問題だろう。

 「EX700SL」でも驚かされたが、低域はそれに近いところまで沈み込む。純粋に低い音が出るだけでなく、低音再生時でもユニットが暴れず、他の帯域に悪影響を与えていないところに関心した。

 例えば、チタンハウジングのキラめくような高域が個人的に気に入っている、オーディオテクニカのカナル型「ATH-CK7」(オープン/実売1万円程度)。ユニット11cm系のイヤフォンだが、T.M.Revolution「resonance」のような、うねるようなエレクトリックベースが連続する楽曲でボリュームを上げると、低音が出ることは出るのだが、ユニットの大振幅に音楽全体が飲み込まれてしまう。ヴォーカルのサ行など突き抜ける高域の一部分はかろうじて分離するが、中域以下の音がダンゴのようにくっつき、ウォンウォンと唸っているだけに聞こえてしまう。

 EX500SLではユニットの大きさを活かし、低域が余裕をもって再生されていることがわかる。同程度のボリュームでも低域のグルーヴはしっかりと音場の下を支え、その上にヴォーカルがしっかりと分離して聞こえる。唸りに聞こえていた低域も表情を持ち、低音1つ1つの重なりがわかるようになる。

ヘッドフォンアンプを使うと、低域の質感がより向上した

 iPhone 3Gの内蔵アンプでは心もとなく感じ、ヘッドフォンアンプ(Dr.DAC2)も引っ張り出してきた。アンプドライブ能力が向上すると、低域の分解能も面白いほどアップする。ケニー・バロン・トリオの「Fragile」。ルーファス・リードのベースから発せられる「ゴーン」という地鳴りのような低音に圧倒されると同時に、音の芯がしっかりと存在し、適度に締まりがある。使用開始1週間程度だが、エージングが進めばまだまだイケそうだ。

 不思議なもので、この状態では音量を上げてもうるさく感じない。低域の分解能が不足していると音楽というより「うるさい音」と感じるようになる。フロア型のオーディオスピーカーの大音量がうるさく感じないのに対し、ミニコンポやカーステレオの大音量が不快に感じる事が多いのと似ている。

 「EX700SL」の比類なき低音は魅力だが、個人的には35,000円を超える高級イヤフォンとしては低域にバランスが寄り過ぎており、ロックやポップスは最高だが、女性ヴォーカルのソロやバラードなど、静かな音楽は好みに合わないと感じている。レビューの際にも「もう少し中低域を控えめにしてバランスが良くなれば理想的なのだが……」と感じたが、まさにその理想を「EX500SL」が実現している。価格として3分の1以下になるわけだが、個人的な好みは断然「EX500SL」だ。

 そういった意味で、「EX500SL」は幅広い音楽を魅力的に再生できるモデルであり、多くのユーザーにオススメできるだろう。EX90SLの装着感や大人しめな中域に不満があるというユーザーなら、乗り換える価値は十分にある。逆にフラットな再生音にこだわる人は、購入前に慎重な比較をオススメする。

 また、通常のカナル型イヤフォンで満足しているというユーザーにも試聴してみて欲しい。小口径ユニットで質の良い低域を出すのは難しいが、カナル型イヤフォンでは密閉度を高めることでボンボンという「低音風の中音」を出して、言葉は悪いが“お茶を濁す”ことはできる。だが、“大口径ユニットでしか出せない低音”は確かに存在する。バランスドアーマチュアユニットも盛況だが、“低域の量感”というダイナミック型ドライバの魅力を再確認できるモデルと言えそうだ。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200808/08-0825/
□製品情報
http://www.ecat.sony.co.jp/headphone/product.cfm?PD=32241&KM=MDR-EX500SL
□関連記事
【2007年9月14日】【新プ】ソニーの最高級インナーイヤフォンの実力は?
16mmユニット搭載EXモニター。ソニー「MDR-EX700SL」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070914/np022.htm
【2007年9月3日】ソニー、カナル型イヤフォン「EXモニター」最上位モデル
-業界最大16mm径ユニット搭載。36,750円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070903/sony2.htm
【2006年4月28日】【新プ】7gの“モニター音質”イヤフォン
ソニー 「MDR-EX90SL」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060428/npp85.htm
【2006年4月3日】ソニー、モニター音質を実現した耳栓型イヤフォン
-12,390円。「MDR-CD900ST」の技術を投入
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060403/sony.htm

(2008年9月26日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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