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REGZAは終わらない。村沢社長に聞く東芝テレビのゆくえと成長への自信

東芝映像ソリューション 村沢圧司 社長

「東芝のテレビ事業が中国ハイセンスに買収される」。

 11月14日に発表されたこのニュースに驚いた人も多いだろう。東芝は、テレビ事業を担当していた子会社、東芝映像ソリューションの株式の95%を中国ハイセンスに譲渡。2018年2月28日に譲渡完了予定で、譲渡額は129億円だ。このニュースを見て、「レグザ終わった……」といった感想も見られた。

 日本を代表するメーカーのひとつとして、確固たるポジションを築いていた東芝のテレビ。その事業譲渡のインパクトは確かに大きい。ただし、株式譲渡後も東芝映像ソリューションは、TOSHIBA・レグザ(REGZA)ブランド映像商品の自社開発・販売・修理を継続し、「今まで以上に強化していく」とコメントしている。

 新体制となる東芝映像ソリューションで、なにが変わるのだろうか? そして変わらないものとはなにか? 東芝映像ソリューションの村沢圧司社長に聞いた。

「REGZAは変わらない」。新生東芝映像ソリューションは研究部門を統合

 今回の株式譲渡により、各国の政府許認可の手続きの後、東芝映像ソリューション株式会社は、2018年3月1日から株主構成比率東芝5%、Hisense Electric 95%の新体制に代わる。つまり、ハイセンス(Hisense)が親会社になる。

 となれば、東芝REGZAブランドのテレビ事業にも大きな影響がありそうだ。「これからはハイセンスが作ったテレビが、TOSHIBAテレビになってしまう? 」と見えるかもしれない。

 だが、村沢社長は「REGZAや東芝映像ソリューションの開発、販売体制は全く変わらない」という。

「事業組織や販売体制は現在と変わらず、歴代レグザを開発してきた研究部門や設計開発部門の技術者により、高画質モデルの開発、商品力を強化する」

 特に村沢社長が強調したのがサポートや修理についてだ。

「不安に思っている方もいらっしゃると思います。ですが、これまで販売したREGZA、そしてこれから発売するREGZAにおける修理体制やサポート体制も、変わりません」

東芝映像ソリューションの事業組織や開発、販売体制は変わらない

 一方、“変わる”部分もある。それは、これまで東芝本体の研究部門として運営されていた「AV技術開発部門」、および「クラウド技術開発部門」が、東芝映像ソリューションに移管されること。

 AV技術開発部門は、映像技術や半導体などの技術研究を行なっているチームで、REGZAを象徴する「レグザエンジン PRO」などの映像エンジンの設計や、超解像などの映像技術にも深くかかわっている部門だ。もうひとつの、クラウド技術開発部門は、ホームネットワーク/IoTや音声認識技術などを手がけてきたチームで、クラウドサービスや音声認識技術などは、歴代のREGZAに応用されてきた。

 つまり、新東芝映像ソリューションは研究部門と設計開発部門が一体化される。そのため、「最先端の映像技術を駆使した製品を、より早く市場投入できる」。これが、村沢社長がいう開発体制の強化だ。

新生東芝映像ソリューションには、研究部門も統合

 実際、東芝映像ソリューションの人員も現在の700名弱から、新体制では800名弱と増員されることとなる。

「映像エンジンや画質設計を担当していた人員、さらに2~3年の“少し先”の研究をしていた人員も我々の開発センターの中で一緒にやっていくことになる。クラウド技術の開発部門も“組み込む”ことになります。CTOの元に、全ての部門が集約されますので、意思決定と実行のスピードが格段に上がります。今後のテレビやテレビに代わる製品の研究を自社の中に取り込んだ。ここは大きなポイントになります」(村沢社長)

 なお、今回の事業譲渡はテレビだけでなく、東芝映像ソリューション全体のこと。サイネージ向けソリューションや、放送/業務向けの映像制作機器なども、ハイセンス傘下の東芝映像ソリューションで運営する。

 気になるのはテレビ以外の製品について。例えばレコーダなどは日本国内市場向けのものなので、ハイセンスがその技術を海外応用するには魅力に乏しそうで、今後に不安を感じるが、村沢社長は「今までどおりです。テレビを中心に、テレビを快適に楽しむための機器を、これまで以上に強化します」と明言する。

ハイセンス資本のメリットはコスト競争力とテレビが“コア”

 ハイセンス傘下の新体制のメリットとして村沢社長が語るのは「スケールメリットを生かしたコスト競争力の強化」だ。

 ハイセンスはテレビメーカーとして世界3位。年間1,800万台規模の供給能力を有している。一方東芝は近年、海外市場から撤退したこともあり、かつて全世界で1,000万台を超えていた販売規模は大幅に減少している。直近の実績は70万台で、「生産規模はハイセンスの約1/30」という。

 液晶パネルや部品の調達では、“規模の経済”が効いてくる。つまり、ハイセンスの資本力を生かして、大量調達や生産、リソースを共有した開発の効率化などで、コストダウンも見込めるわけだ。

「物を作るという観点からは、彼らの調達力、コストを作る力、工場のパワーをうまく融合できる可能性が高いと考えていますし、そうしていかなければいけない。新しい資本の枠組みの中では、それができる大きなチャンスだと考えています」

 なお、現時点では政府許認可等の手続き中ということもあり、事業の詳細については双方でやりとりを行なっている状態ではないという。「ただし、2018年後半にはある程度の成果を出し、2019年度には大きな成果にしていきたい」(村沢社長)という。

 とはいえ、東芝の名称は継承するもの、親会社が変わるということについての影響はどうみているのか? また社内の反応はどうなのだろうか?

 村沢社長は、「社員それぞれに、思いがあり、人生があり、生活があり、私が一言でいうのは難しい」としながらも、「社員の反応は、『やっと決まったか』というものが多いと感じています。決してネガティブなものではなく、冷静に受け止められている」という。

 また、企画担当者や社内からは、「ようやく戦える」という声も聞かれた。

 というのも、経営再建が最優先事項となり、稼ぎ頭のフラッシュメモリすら売りに出される東芝において、コア事業から外れた映像事業では、新規の投資等が難しく、「動きずらい」という状態だったようだ。「不安がないわけではないが、体制が決まり、動ける」という意味で、冷静に受け入れている、ということなのだろう。

 また、村沢社長は従来との違いを、「新体制ではコア事業がテレビ」と表現する。

「ハイセンスは、白物家電などいろいろ手掛けていますが、軸がテレビの会社。テレビで成長していくことが、事業のコアです。今後我々が新しい技術を開発する、マーケティング施策を組む、そうした時にも東芝の中よりも、新しい枠組みのほうがやりやすい環境になると捉えています。ですから、我々は持っている技術をさらに高め、新しい商品を拡充し、それをマーケティングして販売していく。当たり前のことですが、当たり前のことを前向きにできる体制が整ったと考えています」

 ハイセンスとの具体的な話はこれから、とのことだが、東芝の映像技術やクラウド関連技術のグローバル展開も想定されている。海外向けテレビ向けの映像エンジンなどでも、東芝の技術を使うなどの応用が考えられているようだ。

「研究部門も含め我々の技術や開発力が期待されていると感じていますし、グローバルに再び我々の技術を広げていくチャレンジだとも考えています」

 なお、今回の取り組みは基本的には日本のテレビ事業に関わるもの。東芝では、'14年以降海外でのテレビ事業をブランド貸与型のビジネスに切り替えており、欧州ではトルコのVESTELが、北米では台湾Compalが、中国を除くアジアでは中国Skyworthが東芝(TOSHIBA)ブランドのテレビを展開している。このブランドライセンス契約の管理も、引き続き東芝映像ソリューションが行なうが、当面大きな変更は見込んでいない。「今後の話し合いの中で変わっていく可能性はあるが、当面はこのまま」(村沢社長)とする。

 気になるのは、日本における東芝とハイセンスのブランド展開。近年は、ハイセンスジャパンがシェアを伸ばしている。低価格帯だけでなく、HDR対応の4Kテレビなども投入し、東芝REGZAの“競合”だ。

 ハイセンス傘下で日本でテレビ事業を展開する会社が2社になるわけで、“住み分けが”気になるところだが、その答えは意外なものだった。

「特にハイセンスジャパンさんとの住み分けは考えていません。日本における展開については、ハイセンスジャパンさんと、まだ一切話していません。全くの別ブランドで、別法人の別オペレーションです。我々は2Kからハイエンドまで、REGZAをフルラインナップで展開していく考えです」

年末商戦への影響は「間違いなくある」

 新体制で「成長」を強調する村沢社長だが、一番の商戦期である年末商戦を前に、事業譲渡に関する悪影響は「間違いなくある」という。

「事業譲渡の発表の1週間前にも『撤退』と報じられていましたし、今年には何度かそうした報道がされていました。今回の発表が単発で効いているというより、ボディブローのように効いてきています。よく報道を読んでいる方や詳しく調べている方は、そうはいってもREGZAは大丈夫だよね、と思っていただいているかもしれない。しかし、『REGZAは終わってしまう』『中国ブランドになってしまう』と感じている方もいるかもしれず、販売にも影響が出ると思います。ですが、そうした声にも、まずお伝えしたいのは、『REGZAは変わらない』ということ。どんどん発信していかなければいけないと感じています。しっかりと、REGZAの良さ、価値をお伝えしていきたい」

 ただし、無理に価格を落としてシェアを取る、という考えはないという。

「慌てふためいて対応してもしようがない。商品には自信をもっています。価値をわかっていただける方にきちんとお伝えし、お届けし、ブランドを棄損しないことがいまは一番重要。REGZAというブランドを大事にしています。ただ、私も含め、REGZAというと、まずフラッグシップの「Z(Zシリーズ)」が頭に浮かびます。Z810Xや有機ELのX910を売りたい。ですが、年末年始は、M(スタンダード機のM510Xシリーズ)が売れますし、そこではMシリーズの良さをしっかりとお伝えし、買っていただけるような仕掛けを作っています。秘策はありません。ある意味普通のこと、『REGZAは良い』ということ、そして『大丈夫です。REGZAは変わりません』とお伝えしていきます」

市場拡大と新BS放送を追い風に成長を。3月に新REGZAも

 一方、2018年以降の成長には自信を見せる。村沢社長は「成長戦略を描けるようになった。ここで一番いいものをお届けしていきたい」と語る。その自信には、前述のように開発体制の統合、そしてスケールメリットを生かしたコスト競争力の強化もあるが、端的に言えば、その自信の最も大きな理由は「市場が拡大するから」だ。

 日本の市場環境は、2020年に向けて国内テレビ需要の復活が見込まれる時期にあたる。回復の理由は、地デジバブル期(2008-2011ごろ)需要の買い替えが迫ること、東京五輪などの大規模スポーツイベントが2018-2020年まで続々と予定されていること、そして2018年の4K BS放送開始だ。

2018年以降の市場拡大を追い風に
高度BS放送の立ち上げと大画面化傾向

 こうした環境変化にあわせてテレビの4K化、そして大画面化の加速が見込まれる。「この一大需要期に、競争力ある製品をいかに投入していけるか」。それが新生東芝映像ソリューションの課題であり、村沢社長は「なんとか間に合った」と表現する。

「マーケットが伸びるタイミングが近づいており、いいタイミングで、開発力、コスト競争力を高める体制ができる。ただし、そのために開発もコスト削減も急いで取り組まなければいけない。18年度は移行期と捉えていますが、後半には新体制での効果を出していきたい。勝負は19年度。市場が伸びる時期に、商品力、コスト競争力を高めていく」

 市場拡大という状況に対して、商品レベルでは、どう対応していくのか。村沢社長が期待をかけるのは、2018年末にスタート予定の新BS放送。そして8Kや有機ELも市場ニーズにあわせて積極的に取り組む姿勢だという。

「2018年は12月の高度BS放送で、基幹放送が変わるメモリアルイヤー。そこに対応したテレビを、できるだけ早く出したい。それは大きなテーマで、旗振り役になりたい。また、8KやOLED(有機EL)など、あらゆるデバイスやニーズに対応する準備は整っています。すごい映像エンジンも仕込んでいます。ただ、何もかもやるのではなく、ニーズを見ながら製品化する。こんなにすごいよという自慢ではなく、買いやすい商品を出したい」

 村沢社長は「もうひとつやりたいことが……」と語るのは小型テレビ。

「子供部屋はもうスマホやタブレットでいいのではないか? 需要は落ちる一方なのでは? と言われているが、その小型で何かできないか。『これいいね』っていうのを開発しようと思っている。また、2020年以降の商品に対する投資も考えている。直近ではサイネージのビジネス。日本では世界的にサイネージが遅れており、ここは伸ばす余地がある。ホームIoTや、スマートスピーカーも発表しましたがBtoBでも映像を絡めて様々な可能性を探っています」

 2018年3月に発足予定の新生東芝映像ソリューション。村沢社長は、「繰り返しになりますが、REGZAは大丈夫です。新体制の発表とともに、3月には新しいREGZAも紹介できると思います。これからのREGZAにも期待してください」と、東芝テレビの新展開を予告した。