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AIのAdobe Senseiで効率的に動画編集。Premiere Pro CCなど機能強化

 アドビシステムズは、米国ラスベガスで4月7日に開幕する「NAB Show 2018」に合わせて、「Adobe Creative Cloud(Adobe CC)」ビデオ/オーディオ製品のアップデートを発表。Premiere Pro CCやAfter Effects CCなどの最新版を日本時間の4日より提供開始する。

Premiere Pro CC

 Adobe CCの利用料金は、各ソフト月額2,180円。Photoshop CCやillustrator CCも含む20種類以上のソフトやツールが利用できるコンプリートプランは月額4,980円。20GBのクラウドストレージ(グループ向けは100GB)を利用できる。また、月額1,980円でPhotoshop CCやLightroom CCなど写真関連ソフトと1TBのクラウドストレージが使える「Creative Cloud フォトプラン」なども用意する。

 Premiere Pro CCの主なアップデートとして、特定シーンの色調を他のシーンに合わせられるカラーマッチや、H.264デコード/エンコードの高速化に対応。また、AIのAdobe Senseiを活用し、音量を調整する自動ダッキング機能を効率的に適用できるようになった。

Premiere Pro CC

 After Effects CCは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で視聴できる360度映像などのイマーシブ環境に対応。また、パペットツールの強化なども行なっている。

 AuditionはPremiere Proのプロジェクトをネイティブでサポート。また、Auditionのトラックパネルで調整結果をすばやく確認できるようになった。

NAB 2018で発表された主なアップデート内容

Premiere Pro CCアップデート内容

 2つのシーンを並べて色調やエフェクトなどを合わせられる比較表示モードを用意。他のシーンと比較するショット比較と、1つのコマで作業の前後を比較するフレーム比較の2種類が利用できる。

 この比較表示を使って色調を他のシーンに合わせられるカラーマッチにも対応。肌の色や風景などを別のシーンと同じになるように調整でき、顔検出を利用して自動適用することも可能。また、自動調整した後に、手動で細かく追い込める。カラーマッチ機能は、AIのAdobe Senseiのフレームワークを活用した技術。

カラーマッチの適用

 同じくAdobe Senseiを活用する機能として、インタビュー中のBGM音量を自動調整する自動ダッキング機能をPremiere Proにも搭載。人が話している間はBGMの音量を落とし、話が終わると再びBGM音量を上げるという編集を自動で適用できるもので、あらかじめ音量低減やフェードの量などを設定してキーフレームを生成し、編集対象となるシーン(人が話しているところ)だけに適用可能。従来は個別にフェーダーやマウスなどで行なっていた作業が、Adobe Senseiの技術を使って自動化できるようになったという。

自動ダッキング

 音量の下げ幅を後から変更したい場合などにも、再度キーフレームを生成すれば、該当箇所へまとめて適用できる。

 なお、自動ダッキングは既にAuditionにも搭載されている。Premiere Proにも採用した理由は、本来はMAで行なう音の作業を内製化したり、とりあえず編集段階で簡単に調整できるようにするためだという。

 テロップを効率良く作成できる「エッセンシャルグラフィックスパネル」は、Adobe Stockにあるテンプレートが利用可能。数多くのテンプレートから「お気に入り」に目印を付けられるようになり、簡単に呼び出せるようになった。また、同パネルに「スマートリプレイス機能」も追加され、テロップの内容やフォントを一括で変更可能。

 ビデオエフェクトには、iPhoneで撮影した映像素材などに利用できる機能を強化。従来バージョンのユーザーから「iPhoneで長回ししたインタビューで映像と音がズレる」との問題が指摘されており、これはiPhoneのカメラはフレームレートが映像の途中で変わる可変フレームレートを採用していることによるものだという。

 新バージョンでは、MPEGソース設定の可変フレームレートモードで「オーディオ同期を保持」を選択すると、画と音のズレを防げるという。そのほか、プロからの要望があった、タイムコード表示機能の改善も行ない、縦長や横長など柔軟性のある表示を可能にした。

可変フレームレートモードで「オーディオ同期を保持」を選択可能に
タイムコード表示も改善

 360度映像などのイマーシブ環境も強化し、新たにWindows MRにも対応した。VRエフェクトでは、360度空間の中に平面を表示する「VR平面として投影」機能のクオリティを向上。現行バージョンでは、文字などの直線部分にジャギーが発生していたのを抑えるという。

VR空間に平面を投影

 H.264映像のエンコードを高速化するため、IntelのQuick Sync Videoに対応。さらに、MacにおいてはHEVC/H.265もハードウェアエンコードによる高速化に対応し、Skylake世代(2015年8月~)のIntel製CPUで利用できる。ただし、Rec.2020やHDR、8K、メイン10プロファイルの映像は高速処理に未対応となっている。また、H.264はBlu-ray形式や、Level 1.0~2.2、5.2は非対応。

 最新のデジタルシネマカメラへの対応を強化。キヤノン「C200」のCanon RAW Lightや、RED「Weapon 8K」のIPP2、ソニー「Venice」のX-OCNもサポートしている。

シネマカメラの対応を強化
Premiere Pro CCの主な機能強化

After Effects CCアップデート内容

 1月に25周年を迎えたAfter Effectsは、'17年に公開された「ブレードランナー2049」や、4月公開「パシフィック・リム: アップライジング」、「レディ・プレイヤー1」などにも使用されている。

After Effects CC

 新バージョンでは、Premiere Proに続き、After EffectsでもHMDのイマーシブ環境をサポート。ただし、現状はWindows版のみで、Mac版は非対応となっている。

 また、テロップ用のエッセンシャルグラフィックスパネルを強化。従来は選択できるのが文字などに限られていたが、今回のバージョンでは多くのパラメータを扱えるようになった。さらに、モーショングラフィックステンプレートは、開いた後にユーザーが編集することも可能になった。

エッセンシャルグラフィックスパネル

 数値データをもとに動的なグラフィックなどを作成できる「データ駆動型アニメーション」は、従来のJSON形式に加え、CSVやTSVなどの一般的なデータも読み込んで扱えるようになった。CSVで数値が「1」の場合テロップが「Monday」と表示され、「2」にすると「Tuesday」に変わるように、入力された数値によってアニメーションを変えられる。CSVなどへの対応は、日本からの要望に応えたものだという。

CSVデータなどを読み込んでグラフなどのアニメーションを作れる

 Character Animator機能などに使われている「パペットツール」も進化。より細かい動きを付けられるようにするため、特定の場所にピンを置ける機能のほか、「旗が風になびく」動きを付ける時などに、意図に沿った動きを付けられる「メッシュの回転の調整」などにより、細かくリアリティのあるアニメーションを作れるようになった。また、「旗の中心にあるロゴがなるべく歪まないように風になびかせる」ことなどができるスターチツールも用意。数値をもとにした動きだけでなく、有機的な表現が可能になったという。

旗がたなびくアニメーションも自然に
After Effects CCの主な機能強化

4K映像からスマホ動画まで効率的に

 12月からは日本で新4K8K衛星放送が始まるなど高精細映像が進化する一方で、アマチュアがソーシャルメディア向けに作ったスマホ動画が多く視聴されるなど、映像制作を取り巻く環境は二極化が進んでいる。

 アドビシステムズ マーケティング本部の古田正剛氏は、どちらのニーズにも「より多くのコンテンツを、より短い時間で」作る必要がある点が共通していることを指摘。今回のAdobe CCアップデートでは、プロ向けの高品質映像ニーズだけでなく、iPhoneで撮るケースにも対応した(前述した可変フレームレートモードでのオーディオ同期)機能強化も行なったことを強調した。

アドビシステムズ マーケティング本部の古田正剛氏

 また、Netflixなど映像配信サービスが普及/多様化することで、映像制作側は1つのコンテンツにおいてプラットフォームごとに様々なバージョンを用意することが必要になっている。例えばNHK「ニュースウオッチ9」は、Instagram向けに正方形の動画も用意し、その動画内のテロップは正方形の画面に合わせたサイズで作られているという。このようなコンテンツを効率的に作るための一例として、エッセンシャルグラフィックスパネルでテロップを簡単に作りやすくしたことをアピールした。