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どこでも引き篭もれるパナソニック「WEAR SPACE」製品化へ。2.8万円~
2018年10月2日 13:45
パナソニックは、視界を制限するバリアとヘッドフォンで、集中力を高めるウェアラブルデバイス「WEAR SPACE Project」の製品化プロジェクトを開始する。GREEN FUNDINGでクラウドファンディングを開始し、価格は28,000円(税込)~。期限は12月11日までで、目標金額は1,500万円。リターン(製品のお届け)時期は2019年8月を予定している。
WEAR SPACEは、パナソニック アプライアンス社デザインセンターの「FUTURE LIFE FACTORY」(FLF)が手掛けており、視野角を調整するファブリック素材のパーティションとノイズキャンセル機能を備えたヘッドフォンにより、視野と聴覚を制限。身に着けることで、オープン空間に居ながらも周囲との境界を作り出し、目の前のことに集中できる。
オープンなオフィスでは、コミュニケーションを活発にする一方で、他人の会話や雑音、人の動きなど集中を妨げる要素もある。そうした環境下でも集中して作業できるデバイスが「WEAR SPACE」となる。周囲が騒がしくても、“引き篭もれる”デバイスといえる。
パーテションでは水平視野を6割カットし、人の動きなどの影響を防ぐ。視野角は、一般的には210度程度とされており、その6割をカットするため、80度から90度程度の視界を維持するよう設計しているという。対応サイズは頭囲54cm~62cm。
アクティブノイズキャンセリングにより騒音を低減。アプリも準備中で、3段階で変更可能になる予定。状況に合わせてノイズキャンセリング量をコントロールできる。
Bluetoothを搭載し、音楽のワイヤレス再生にも対応。ドライバ径は40mm以上で、Bluetoothヘッドフォンとしても利用できる。Bluetooth Ver.4.1/4.2に準拠予定で、対応プロファイルはA2DP、コーデックはSBCとAACに対応する。バッテリはリチウムイオンでUSB経由で充電。連続利用時間は約20時間、音楽再生時間は約12時間程度。
“空間を着る”をコンセプトに圧迫感が少ない装着感を目指しており、重量は約330g。装着時に集中していることが周囲に伝わるため、「話しかけづらい」というのも特徴。
企画はFLFだが、WEAR SPACEの開発から量産、販売までは、Shiftallが担当する。ベースとなるヘッドフォンは、試作機ではパナソニック製だが、製品版でそのままパナソニックのものを使うかどうかなどは未定。
コアターゲットは、ソフトウェアエンジニア、Webデザイナー、デスクワーカーなど。高品位なコンピュータや周辺機器に投資を惜しまない層を想定。スポーツ前の集中や図書館での利用といった応用も想定しているという。
装着してみると、視野が前方向に限定されるため、確かに周囲の人の動きなどは感じにくくなる。また、ヘッドフォン部もノイズキャンセルを使わなくてもかなり遮音性能が高く、周囲に取り残される感覚がある。ただし、ヘッドフォン部分やノイズキャンセルの効果などは今後調整中とのこと。
音質については試せなかったが、装着感、フィット感は良好。重量は330g、とスペック上は少し重く見えたものの、装着してみると重量バランスが良いためか、少し動いた時などでも違和感なし。
なお、「集中を高める」というWEAR SPACEのコンセプトだが、現時点で装着して集中力が高まるという実証的なデータはなく、SXSWでのアンケートやテスト利用者の声から判断しているとのこと。こうしたデータ検証なども、クラウドファンディング期間中の検討課題としている。
市場性は「わからない」
WEAR SPACEを主導する「FUTURE LIFE FACTORY」(FLF)は、パナソニックのデザイナー7名から構成されるチーム。FLFを統括する、パナソニック アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄氏は、FLFの目的を「事業部にとらわれない先行領域先行開発」と説明した。
例えば、炊飯器の新製品をデザインするとなると、従来モデルとの差分でスペックやコストが算出され、毎年リニューアルする、といった流れになる。パナソニックを支える家電製品はほとんどそうして作られるが、WEAR SPACEのような新たな提案型製品は、「そこにある体験からデザインする」必要があるという。
そのため、事業部との紐づきをほどき、「ゼロから考えて製品づくりをする」チームとしてFLFを編成。WEAR SPACEが新たな体験をデザインした製品であると強調した。
製品を企画したFUTURE LIFE FACTORY 姜花瑛氏は、WEAR SPACEの企画意図や目指す体験などを紹介。これまでSXSWなど海外イベントでの展示のほか、利き酒体験の「YUMMY SAKE」では、味覚に集中するデバイスとしてWEAR SPACEを紹介。また、発達障害(ADHD)当事者によるフリーペーパー「TENTONTO」と連携した体験会でも、注意が散漫にならないなどの評価を得たという。
クラウドファンディングを達成できても、数量的にはパナソニック製品のような数万台という規模にはならないが、「新しい事業機会を素早く検証する」ことがWEAR SPACE Projectの目的の一つ、としており、パナソニックから新規製品を生み出す新たなスキームを構築していきたいとし、「商品化にこだわっている」(姜氏)と語った。
パナソニックブランドを使わなかった理由については、「スピードを優先した」とのことで、通常は2年程度かかる新規製品投入を、Shiftallと組むことで半分程度まで短縮できる見込みという。2019年8月のお届けも、「バッファ(余裕)を見ている」(Shiftall岩佐琢磨社長)とのこと。
WEAR SPACEの市場性については、「正直わかりません。だからこそクラウドファンディングで、まずは500台は売ってみる。売れなければその先に市場はない。その市場規模を見極める。それができる体制になった、ということが、意義がある」(Shiftall岩佐社長)とした。