ニュース
どこでも引き篭もれるパナソニックの「WEAR SPACE」が面白い
2018年6月28日 07:00
パナソニックが開発中の“身に着けることで心理的なパーソナル空間を作り出せる”というウェアラブルデバイス「WEAR SPACE」。この試作機をIoTハードウェアを企画・開発するShiftallの事業説明会において体験した。
WEAR SPACEは、パナソニック アプライアンス社デザインセンターの「FUTURE LIFE FACTORY」が手掛けており、視野角を調整するパーティションとノイズキャンセル機能を備えたヘッドフォンにより、視野と聴覚を制限。身に着けることで周囲との境界を作り出し、目の前のことに集中できるようにする、というウェアラブルデバイスだ。
音楽を聴くなどの付加機能を追加するのではなく、今ある環境から“隔離する”ためにテクノロジーを使う、というユニークなデバイス。オープンなオフィスやカフェで働く場合でも、個人で集中できる「パーソナル空間」を作り出すときに使うことを想定しているという。
このWEAR SPACEの開発から量産までに関わるのがShiftall。Shiftallは、IoTベンチャーのCerevo子会社として設立されたが、4月にパナソニックが買収。もともとCerevoが開発に協力していたが、Shiftallがパナソニック子会社となったこともあり、製品の企画はパナソニック、開発や量産はShiftallが担当するという分担になっている。
WEAR SPACEは、後頭部を覆うような樹脂製のベルトとノイズキャンセルヘッドフォンから構成され、バッテリを内蔵しているため、頭に装着するだけで利用可能。試作機では対応していないが、Bluetoothヘッドフォン的に使うことも想定しているという。
実際に装着してみると、視野が前方向だけになるほか、ノイズキャンセルの効果が高く、空間にひとり取り残されているような感覚になる。立食の懇親会場で装着したので、周りは相当のボリュームで話しているのだが、その内容はほとんど耳に入ってこない。
知り合いが、筆者が着けている姿について「スタートレック風」とか言っていたような気がするのだが、かなり遠くで誰かが話しているように聞こえるので、“自分事”では無いように思える。ノイズキャンセルヘッドフォンの効果は理解しているつもりだったが、視野を限定しただけで、空間に孤立しているような感覚が出てくるのが興味深い。
集中して作業したいプログラマなどからのニーズは高そうだと感じたが、米国で開催された「SXSW」でも、そうした意見が多かったとのこと。また見た目からも「話しかけるな」感が出るので、周囲の人も話しかけずらそうだ。
最近は周囲の音を聞きながら、コミュニケーションやサービス利用が行なえる「ヒアラブル」デバイスが注目を集めている。その代表格ともいえる「Xperia Ear Duo」の開発者インタビュー時には、「話しかけてもいい」「話しかけやすい」デザインを目指したと聞いて、「なるほど」と思ったのだが、WEAR SPACEはその真逆といえるアプローチだ。周囲から隔離するためのデバイス、という考え方も面白い。
ファッション性や装着感も追求したとのことで、ヘッドバンドの側圧だけで支える形状ながら圧迫感がほとんどない。視野角も限定されているのだが、“制限されている”という感覚はあまりなかった。デザインについては、「装着して外を歩いたが、渋谷あたりでは、それほど視線を感じなかった」とのこと。そもそも視野が限定されるので、視線を感じないのかもしれないが……。
とてもユニークなWEAR SPACEだが、まだ製品化が決定しているわけではない。パナソニック アプライアンス社の商品としては、数量やニーズが見えておらず、すぐに量産化というのは難しいと考えているという。そこでクラウドファンディングを使って、まずはある程度の小規模からスタートし、需要やニーズを見極めたいとのことだ。
発売時期は未定だが、早期の製品化が目標。価格も未定だが、「いまはベースになるノイズキャンセルヘッドフォンが3万円ぐらい。どのレベルのノイズキャンセルが必要かなども含めて検討しているが、3万円を大きく超えないようにはしたい」としている。
また、パナソニックがロフトワークらと運営する渋谷のインキュベーション施設「100BANCH」で開発した行灯型照明器具「Lanterna」も紹介。こちらも試作機の開発をShiftallが担当している。
16インチのフルHD液晶を4面に配置し、照明とインフォメーションディスプレイを兼用できるというもの。レストランに設置して、材料となる野菜の収穫風景などを紹介したり、メニューを表示するなど様々な応用を想定しているという。
内部のLEDがバックライトを兼ねており、色や明るさの変更も可能。4K映像を4分割して表示するため、専用の映像素材が必要だが、素材の作成はそれほど難しくないとのこと。
なお、Shiftallはパナソニックブランド製品だけでなく、自社ブランド製品も開発中。いずれも2018年中の発表を予定しており、「来年のCESには成果をお見せできるはず」(Shiftall 岩佐 琢磨CEO)とした。