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世界は早くも8Kテレビへ? VRオーディオ本格化。「CES 2019」で見たもの

世界最大規模のコンシューマエレクトロニクス&テクノロジー関連展示会「CES 2019」が米国ラスベガスで1月8日~11日(現地時間)に開催され、世界中から4,500社以上の企業が参加。今年も様々な新技術や新製品などが登場した。

CES 2019

今回は24の製品カテゴリーにわたる技術が展示され、5G、人工知能(AI)、仮想・拡張現実(VR/AR)、スマートホーム、スマートシティ、スポーツ、機械知能(MI)などの分野が注目された。

AV機器関連で最も注目された話題の一つは8K。日本では12月1日よりNHKの8K衛星放送(NHK BS8K)が始まり、シャープが8Kチューナー内蔵テレビを販売しているなど先行している一方、まだ8K放送が始まっていない欧米や中国、韓国メーカーも積極的に8Kテレビを展示。「次のトレンドをいち早くとり入れる先進性」を競う展示会ならではのアピール合戦という側面もあるが、「コンテンツがまだそろわないから」と様子見するのではなく、積極的に次の市場を狙っていく姿勢が見える。

主催者のConsumer Technology Association(CTA/全米民生技術協会)によるトレンド解説「Tech Trends」では、NHKが8K放送を開始したことも言及

米国でもシェアの高いSamsungや、有機ELと液晶の両方で8Kを展開するLG、米国で春に価格を発表するソニー、既に8Kテレビ発売で先行しているシャープだけでなく、東芝テレビ事業を継承するハイセンスは中国で「8K ULED」を'19年に発売予定、そのほかにも、中国TCLやSkyworth(スカイワース)、Haier(ハイアール)、トルコのVESTELなど、数多くのメーカーが8Kテレビを展示していた。

Samsungの量子ドット液晶QLED 8Kテレビ
LGの有機EL
ソニーは液晶「Z9G」が8K対応
ハイセンスの8K ULEDテレビ
TCLはQLEDで8K
SKYWORTHの8K有機EL
Haier
VESTEL

CESでは8Kテレビ製品化に際して、各社が映像処理エンジンの性能強化をアピールする傾向も顕著。ソニー「X1 Ultimate」は8K映像の対応を見越して昨年の4Kテレビから搭載されているほか、Samsungは「Quantum Processor 8K」、LGは「α9 Gen 2」を搭載する点などをアピール。コンテンツが少ない中で、AIなどを活用したアップスケーリングの性能が問われることから、処理能力を大幅に高めた映像エンジンが画質を左右するとの考えで共通しているようだ。

なお、パナソニックは今回8Kテレビを展示しておらず、テレビはメイン会場ではなく別のプライベートブースで欧州向けを中心に展示。朝日新聞の報道でパナソニックの津賀一宏社長が「8Kにあまり意味はない」との発言があったことは、8Kに期待を寄せる業界関係者にとって少なからず影響はあったという。

パナソニックは欧州で夏に発売する4K有機ELテレビ「GZ2000」を発表

ただ、多くの家庭で8K放送が手軽に楽しめる時代が今すぐに来るというわけではないものの、オリンピックのTOPスポンサーであるパナソニックは8K撮影のカメラの開発を続けているほか、既報の通り、8Kテレビの普及を目指す「8Kアソシエーション」の設立メンバーでもある。同社が今後8Kテレビを出さないというよりは、現時点では先の製品について明言しない姿勢にも見える。

かつてのCESにおける「画面サイズ&解像度競争」では、とにかく最大/最多を競うだけで「発売するかわからないがとりあえず展示した」製品も多かった。今回の各社の新製品はいずれも日本での発売時期は明確ではないものの、グローバルでは2019年発売予定のモデルも多く、今後のコンテンツの拡大も見込んで市場へ参戦しているようだ。

「8Kテレビが自宅に今すぐ必要か」と問われると意見は分かれると思うが、8K自体の需要についてはゼロか1かでは割り切れない部分もある。例えばVRコンテンツは画面が広い分4Kでは物足りないのが現状だし、大画面で見るパブリックビューイングにも8Kは欠かせなくなってくるだろう。また、コンテンツを伝送するための5G通信がいつ本格化するかなど、周辺環境の変化に応じて各社の姿勢も今後変わってくるだろう。

CESメインホールに復活したシャープ。8Kテレビのほか、開発中のコンシューマー向け8Kカメラも展示していた

8Kテレビでコンテンツを観るためには、周辺機器の対応も注目。8K映像を1本のケーブルで伝送する方法としてHDMI 2.1規格のテスト仕様策定も進んでおり、各社製品の互換性などが確認された上で、順次発売されることが見込まれる。

HDMIブースでも8Kホームシアターに注目
アストロデザインがHDMI 2.1機器開発向けに信号発生器やプロトコルアナライザーなどを展示
AV関連以外の記者も多く注目していたのは、LGの巻き取れる有機ELテレビ

本格普及も近い? 360度/VRオーディオが各社から

オーディオ関連で今回の大きなトピックといえるのが、“360度オーディオ”や“VRオーディオ”などと呼ばれる「ヘッドフォンでもスピーカーのような広い音場で聴ける」再生技術。記事でもレポートしたソニーの新たな音楽体験「360 Reality Audio」や、JVCケンウッドが展開している「EXOFIELD」のアップデート、Creative Labsが開発している「Super X-Fi」技術は、来場者に大きなインパクトを与えたデモとなっていた。

ソニーブースで人気だった「360 Reality Audio」の体験コーナー

これまでも様々なバーチャルサラウンド技術や、ヘッドフォンでも頭の外に音が定位するような製品はいくつも登場しているが、それらとの大きな違いは、「リスナー個人の聴こえ方を個別に測定した上で適用していること」。人の頭や耳の形が違うため、同じスピーカーからの音源でも実際の聴こえ方は様々だが、従来の方式は「できるだけ多くの人が実感できるように」作られた製品であり、どうしても想定通りの聴こえ方にならない人は出てくる。

各社の技術も開発中のため、誰でも必ず合うものかはわからないが、面白いのはデモを体験した人は必ずと言っていいほどヘッドフォンを耳から外して「スピーカーから鳴っているのでは?」と疑ってしまうくらい、ヘッドフォンから聴いている感覚がしないという点だ。

今回のデモでは、測定に専用のマイクを装着して、そのデータをパソコンで解析して最適化したデータを映画や音楽などの音声に適用するというのが基本的な方法として共通している。ただ、今後の方向性や活用法などは各社によって違いがあるのも興味深い。

ソニーは、「360 Reality Audio」において、制作ツールを音楽クリエイターらが使えるようにして、スマートフォンなどでストリーミングで聴けるような仕組みを想定。オープンフォーマットのMPEG-H 3D Audioをもとにした形式により、対応サービスと機器を増やすことを目指している。また、耳の形を測定する方法として、スマホで写真を撮影して、そのデータを元に解析する方法の開発を進めている。ヘッドフォンだけでなくサウンドバーなどへの搭載も想定しており、1台のスピーカーで再現する試作機もデモしていた。

マイクを備えた測定機器を装着して解析
音声の定位が視覚的に分かる
1台のスピーカーで「360 Reality Audio」を体験できるという試作機も

商用サービス提供で先行しているJVCケンウッドの「EXOFIELD」。こちらは、どんな音源かは問わず、最終的に聴く環境で最適化するというのが基本的な考え方。今回のデモでマルチチャンネル対応を発表したが、既にステレオ音源でのサービスは実現している。今後はヘッドフォンなどに測定機能も内蔵した形で提供することを想定。「写真で撮影するより、実際の音で解析するほうが正確」との考えに基づいており、例えば一般的なマイク付きBluetoothヘッドフォンで測定可能にすることも想定しているという。

EXOFIELDのデモ

Creativeの「Super X-Fi」技術は、USBヘッドフォンアンプ「SXFI AMP」に搭載されており、日本でも1月下旬より発売。スマホなどの音楽を個人の耳に最適化して聴ける仕組みが間もなく利用できるようになる。耳の形の測定は、スマホアプリで撮影してAIエンジンに認識させ、その特徴を3次元空間の音響マッピングと合成するもの。

CreativeのSuper X-Fiを搭載した「SXFI AMP」
ヘッドフォンで聴いているのに、スピーカーから音が出ているような不思議な体験ができた

CESのデモでは、マルチチャンネルのスピーカーを使って映画や音楽などのコンテンツを体験した。面白かったのは古いモノラル音源や、YouTubeの低ビットレートな音声なども広い音場で聴けた点。“オリジナル”にこだわるのとは少し方向性は違うものの、新しい音源だけにこだわらず手軽に楽しめるのは、多くの人にとって便利なものになりそうだ。

音楽制作の観点では、ゼンハイザーのマイク付きイヤフォン「AMBEO AR One」も興味深い製品。同社はVR音声制作に積極的で、1本のマイクで本格的な立体音響が録れるAmbisonics方式のマイク「AMBEO VR MIC」や、バイノーラル録音ができるマイク付きイヤフォン「AMBEO Smart Surround」をこれまで製品化してきた。今回の「AMBEO AR One」は、他社のARグラスと組み合わせて、AR空間上のオブジェクトを手で動かして音楽制作ができるという仕組み。楽器やパソコン、iPadなどを使うのとも違う、新たな制作方法を提案するもので、これを活かした新世代のアーティストやクリエイターが今後注目される時代が来るかもしれない。

ゼンハイザー「AMBEO AR One」を使った音楽制作イメージ
アナログレコード関連の製品も盛況。パナソニックからはTechnicsのDJターンテーブル「SL-1200MK7」が登場
幅広いユーザーを想定したというTechnicsの「SL-1500C」も

AIピアノ、自動ビールサーバー、ヘルスケアなど様々

CESは既に“家電ショー”ではなく、自動運転やAI、5G、ヘルスケアなどテクノロジーが関わる多くのジャンルが数多く集結している。

出展する4,500社以上のうち、1,200社以上がスタートアップ企業。かつては、メイン会場であるラスベガスコンベンションセンター(LVCC)のサウスホールは欧米や日本のオーディオメーカーが数多く出展している印象だったが、徐々に様変わりして、様々なジャンルが入り乱れた、一言では説明しづらい状況となっている。スタートアップ企業が数多く集結する会場のSands Expoは、見回っていると、段々どこにいるのか分からなくなってくるカオスな場所でもある。

Sands Expo。ヘルスケアやスマートホーム、スポーツテックなど様々なジャンルが混在
P&Gからは、AI技術を採用した電子歯ブラシ「Oral-B Genius X」が2019年に登場するという

そうした中、今回も日本からは様々な企業が出展。パナソニックの“引き篭もれる”ウェアラブルデバイス「WEAR SPACE」の開発/販売で知られるShiftallがCESで発表したのは「ビールの自動補充サービス」。スマホアプリと専用冷蔵庫を組み合わせることで、庫内のビール残数や利用者の飲むペースを自動で判断し、好きなビールを最適なタイミングでご自宅やオフィスへ届けるというもので、国内外のクラフトビールなど多数の銘柄を揃える予定とのこと。

Shiftallによる「ビールの自動補充サービス」の冷蔵庫

ヤマハは、自動運転車や産業用無人ヘリコプターなどに加え、AI活用でピアノが上達するという「AIピアノ」をデモ。電子ピアノで曲を演奏するときに、多少間違えてもAIが正しい音に自動で補正してくれるというもので、初心者の意欲を削がないようにしつつ、演奏結果から間違えやすいポイントを後で教えてくれる心配りがなされている。ピアノ以外の楽器も将来的には検討していくとのこと。

ヤマハの「AIピアノ」展示
AIピアノのデモ。AIをオフにすると間違った音もそのまま出るが、オンにすると直してくれる
スタートアップを含む多くの企業が参加した開幕前イベント「CES Unveiled」
FUNAIはキッチン用のAndroid TVを展示
TOTOはトイレの状況を管理できるシステムを紹介。空港でどの個室のペーパーが切れた、どこのトイレが混んでいるといったことがすぐわかるという

今回のCESも、限られたカテゴリや製品が主役というわけではなく、オーディオ&ビジュアルも、PCも、自動車も、家電/ヘルスケアも、それぞれトピックがあった。業界によって勢いの差はあるものの、どんな視点で参加するかによって感じ方も大きく変わるイベントだったと実感した。

次回の「CES 2020」は、2020年1月7日~10日に行なわれる。

「CES 2020」は、2020年1月7日~10日開催