トピック

逆襲のGoogleとクルマの存在感。HDR画質はもっと良くなる? 「CES 2018」振り返り

 米国ラスベガスで1月9日~12日(現地時間)に開催された、世界最大規模のコンシューマエレクトロニクス展示会「CES 2018」。51年目となる今回は、出展数が3,900以上で、展示スペースの面積は過去最大となった。関連するツイートは86万を超えたという。

 5GやAI、自動運転など様々なテーマが注目された。家電やPC、スマートフォン、自動車などのジャンルに加え、ヘルスケアやスポーツ、スキンケアなどの分野に至るまで、センサーやスマートフォン、アプリなどを駆使して新たなビジネスが提案されていた。

異例の雨と停電。今年の注目は?

 砂漠の中にあるラスベガスではめったに雨が降らないが、今年のCESが開幕した現地時間9日は、珍しく本格的な雨模様。屋根がある場所にも雨水が入ってきたり、何日も地面がぬかるんだ場所があるなど、雨が降ることをほとんど想定していない土地であることを思い知らされた。

雨に見舞われた会場

 さらに、翌日にはメイン会場であるLas Vegas Convention Centerで停電が発生。展示ブースが真っ暗になるなど、異例の事態となった。公式発表によれば「大雨後の結露で変圧器がフラッシュオーバーを起こした」とのこと。幸い2時間程度で復旧はしたが、会場から退出を余儀なくされた来場者が入口周辺に溢れ、その日の予定を大きく狂わされた関係者も多かった。




プレスルームは真っ暗ではなかったものの、復旧するまで時間を要した

 CESの開幕前に行なわれたプレスカンファレンスは、各社が今後のビジョンや製品の予告を示す重要なイベント。大手メーカーではLGを皮切りに、パナソニック、Samsung、ソニーが現地時間の8日に会見を行なった。

 AIを軸に、独自のプラットフォームを示した点で共通していたのはLGとSamsung。LGは「ThinQ」、Samsungは「SmartThings」という枠組みで、それぞれ自社の家電やスマートフォンなど様々な機器を連携し、“シンプルな操作で快適に生活できる”未来を示していた。同様のビジョンは以前からよく見かけるものだが、今回の両社会見にはゲストにGoogleとAmazonのAIアシスタント担当者が来場。具体的な連携の詳細はこれから進むようだが、LGやSamsungらが全く独自路線で進むというよりは、GoogleアシスタントやAmazon Alexaとも密接な、より現実的な仕組み作りを目指しているようだ。

LG会見
Samsung会見

 BtoB分野が中心となったパナソニックは、AlexaやGoogleアシスタントの機能を統合した自動車向けインフォテインメントシステムを発表。車の中でも、スマホやスマートスピーカーと同様に話しかけて、車内の温度を調整したり、自分のスケジュール確認や、家のエアコンを操作するといった様々な連携をシームレスに行なえる点をアピール。また、電気自動車のバッテリや、映像技術を活かした次世代のスポーツ観戦向けスタジアムなども紹介した。

パナソニック会見

 より具体的な製品や技術が中心だったのはソニー。自社製品をつなげて新しいプラットフォームを作るのではなく、Googleアシスタントなど既存の仕組みとシームレスにつながることを付加価値としつつ、独自の製品を作っていく方針を示した。注力分野としては、収益の柱であるイメージセンサーの車載への展開を本格化するなど、現在の好調な業績をもたらしている路線で続けていくようだ。既に大きなプラットフォームとなっているPlayStationビジネスや、映画/音楽といったコンテンツも、これまでと同様にハードウェアとの両輪で進めていくことを印象付けた。一方で、海外でも人気の高いaiboのような独自の“AI×ロボティクス”を推進することで、攻めの姿勢を見せている。

ソニー会見

至る所にGoogle。冷蔵庫にAKGスピーカー内蔵!?

 米国では、日本よりも早くスマートスピーカーが受け入れられ、昨年のCESでもAlexaやGoogle Homeを多くの展示会場で見かけたが、既に米国で普及が進んでいたAlexaの方が、Google関連より多く展示されていたのが実態だった。

 今回のCESでは、開幕に合わせてGoogleが画面付きのスマートスピーカー「スマートディスプレイ」を発表。また、JBLやソニーなどがヘッドフォンのGoogleアシスタント対応モデルを披露した。また、車載向けにもAndroid AutoがGoogleアシスタントに対応し、米国では1月上旬ごろから順次導入するという。Google自らブースを出展し、スマートスピーカーや車載製品などのデモを行なったほか、他社ブースにもスタッフを送り込んでGoogleアシスタント対応製品のデモを行なうなど、ここぞとばかりに攻勢をかけていた。

JBLのスマートディスプレイ「LINK VIEW」

 会場内だけでなく、CESの中心的な交通手段であるモノレールの車体をはじめ、市内の様々な場所に「Hey Google」の文字を見かけた。まさに“Googleの逆襲”が始まったといえる。

モノレールにもHey Google

 出展者側の対応を見ると、決して「Googleアシスタント vs Amazon Alexa」で陣営が分かれるのではなく、多くの製品に「Google Assistant Built-in」と「Alexa Enabled」両方のロゴが表示されている通り、“どちらにも対応するのが当たり前”となりつつあるのが現状のようだ。

JVCがGoogleアシスタント対応のカーAVをデモ

 スマートスピーカーではないが、今回のCESで衝撃的だったことの一つは、Samsungが手掛けるディスプレイ付き冷蔵庫「Family Hub」の次世代モデルに「AKG」のスピーカーが内蔵されていたこと。AKGがスピーカーというだけでも新しいが、それが冷蔵庫に搭載されているのは驚きだ。Family Hubは様々な音楽/ラジオ配信サービスが利用でき、AKGのスピーカーを搭載したことで、「深い低域とリッチな中域」のサウンドを冷蔵庫でも楽しめるという。

Family Hub新モデル
スピーカーにAKGロゴ

 '16年にSamsungがHarmanを買収し、AKGやJBLなどオーディオ事業もSamsungグループとなった。'17年のIFAでは、SamsungのスマートフォンなどとともにAKGのハイエンドヘッドフォンなども展示されていたが、着々と自社ブランドへの取り込みは進んでいるようだ。

HDR10+とDolby Visionの今後はどうなる?

 多くの4KテレビでHDR対応が進む中、次のトピックとなりそうなのがHDRの進化。'17年9月のIFA 2017でも注目されたが、LGやソニーなどが順次対応を開始している「Dolby Vision」に対し、パナソニックやSamsung、20世紀FOXなどが共同で推進する「HDR10+」対応モデルも、より具体的な製品が見えてきた。

 新しいHDR10+の特徴や、Dolby Visionとの違いなどについては、既に本田雅一氏西川善司氏が詳しく解説している。

HDR10+

 なお、LGブースにはDolby Visionロゴの横に「HLG Pro」や「HDR10 Pro」という見慣れない文字もあった。同社によれば「シーンごとに動的なトーンマッピングを行なう」とのことで、Dolby Visionなどと考え方は大きく変わらないようだ。LGはテクニカラーと共同でAdvanced HDRという形式にも対応予定としている。

LGはHLG ProやHDR10 Proという規格(?)も

 各社の映像を体験すると、いずれもHDRの明るさを保ちつつ、自然な階調感も良い画質を実現しているのが分かるが、まだデモ用に作られたコンテンツも多く、現時点でどちらの方式が優れているとは言い切れない。今の段階では「各方式が真っ向から対決して生き残りを賭ける」というよりは「同じHDRという土俵の中で、より高い画質を実現するための様々な挑戦が始まった」くらいの認識でいいのかもしれない。今後の日本での発表を楽しみにしたい。

スポーツやヘルスケア、おもちゃにもテクノロジー

 会場の一つSands Expoは、世界中のスタートアップ企業でにぎわうエリア。スマートホーム、ウェアラブル、ヘルス&ウェルネス、フィットネス&テクノロジー、ファミリー&キッズテックといったコーナーが設けられている。

Sands Expo

 こうした中で、注目されたジャンルの一つが「スポーツ」。これまでもヘルスケアの一環として、スマートウォッチなどのウェアラブル端末の展示は多かったが、今回は放送局のTurnerのスポーツ部門によるコーナー「CES Sports Zone」も登場。センサーなどのテクノロジーを駆使して競技のパフォーマンスを向上する製品/サービスの展示や、スポーツとビジネスの可能性を探るトークセッションなども行なわれた。

COROSスマートサイクリングヘルメット「OMNI」。骨伝導スピーカーを備え、耳を塞がずに通話などができる
ウェアラブルIoT製品などを手掛けるミツフジの、着衣型センサーを使った「hamon」。ボクサーの村田諒太選手も愛用
センサー搭載スポーツウェアやスマートフォンアプリなどを手掛けるSensoria
ゴルフのシミュレータで、フォームもチェックできるコーナーも人気だった
プロバスケットボールNBAの元スターであるシャキール・オニール、ケニー・スミス、チャールズ・バークレーの3人が登場する米TNTの番組「Inside the NBA」の“CES出張版”がTurnerブースで
スマートホームのエリアにTOTOが出展。日本で1980年に誕生したウォシュレットは、米国では1986年に発売。中国やオセアニア、欧州にも広がり、全世界の販売台数は4,000万台を突破したという
Cerevoが製品化したソードアート・オンラインの片手剣「1/1 エリュシデータ」デモ
DJIのスマホ用ジンバルの新機種「Osmo Mobile 2」

 次回の「CES 2019」は、米国時間の2019年1月8日~11日に開催される。

中林暁