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NHK、ゴム基板で伸縮できるLEDディスプレイ。「技研公開2023」

NHK放送技術研究所で「技研公開2023」が行なわれる

NHKは、放送にまつわる最新の研究成果を一般公開する「技研公開2023」を、6月1日から4日まで東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所にて開催する。入場は無料。開幕に先駆け、5月30日にマスコミ向けの先行公開が行なわれた。ここでは、ディスプレイ関連技術などを紹介する。

ゴム基板を使うことで伸縮できるLEDディスプレイ

イマーシブコンテンツ体験に向けたディスプレイ技術として、柔軟なゴム基板を使い、伸縮が可能なLEDディスプレイが展示された。将来的なドーム型ディスプレイ実現に向けた技術で、各画素を伸縮配線で接続することで、ディスプレイを自由に伸縮させることができる。

ディスプレイが伸縮する様子
マイクロLEDを使ったディスプレイも展示
ウェアラブルデバイスとしての活用例

会場では約0.8mmのLEDを16×16ドットで配置したものと、約0.02mmのマイクロLEDを32×32ドットで配置したものの2種類を展示。空気で膨らむゴムの上にディスプレイが配置され、そこに文字や世界地図を表示するデモが行なわれていた。また腕に装着するウェアラブルデバイスとしての活用例も紹介されている。

NHK「技研公開2023」伸縮ディスプレイ
有毒なカドミウムを含まない量子ドット材料

有毒なカドミウムを含まず、硫化銀インジウムガリウムや、セレン化亜鉛化合物を使った量子ドット材料も展示。材料組成と素子構造を改善することで、BT.2020の包含率88%の高色純度を実現した。

高色純度量子ドットを使った有機ELディスプレイの展示

会場では、この高色純度量子ドットを使った有機ELディスプレイとして、インクジェット印刷方式を使った64×64ドットのディスプレイが展示されている。

これらの技術は今後、2025年頃にディスプレイの高精細化・高画質化を進めたプロトタイプを試作し、2030年までの実用化が目指されている。

超微小な磁石で光の偏光方向を制御する高密度MOSLM

同じくディスプレイ技術としては、自然な3次元映像を再現するホログラフィックディスプレイも展示されている。3Dメガネなどをかけずに、自然な3次元映像を再現するホログラフィックディスプレイの視域拡大に向け、超微小な磁石で光の偏光方向を制御する磁気光学式空間光変調器(MOSLM)を開発した。

ホログラフィックディスプレイでは、視域は画素ピッチに依存するため、従来の低密度な空間光変調器(SLM)では狭い範囲でしか像を視ることができなかった。

今回開発されたものは、世界最小画素サイズ(1μm×4μm)の電流誘起磁壁移動を利用したMOSLMで、画素数は10K×5Kドットを誇るもの。これを使うことで水平視域30度の3次元画像表示が可能になった。

既存のホログラフィックディスプレイとは異なり、電流パルスで磁石の向きを反転させることで、表示する像を書き換えることもできる。

このMOSLMは高密度化に適した構造のため、狭ピッチ化を進めることで、さらなる視域拡大も期待できるとのこと。今後は2025年頃までに高い回折効果と高速な動画像表示ができる高密度SLMの要素技術開発に取り組み、2030年頃までに再生像の高品質化とカラー動画表示を実現するという。

番組映像自動要約システムの展示

そのほか映像関連技術では、画像解析AIを使った番組映像自動要約システムも展示されていた。特にネット世代の若年層には、5分以下のショート動画が好まれる傾向があるといい、そういった「ネット配信向けショート動画」の制作支援を目的としたシステムで、たとえば1時間の番組を1分~5分に自動的に要約できる。

このシステムの画像解析AIは、「要約動画で使われるべき重要シーン」の構図やカメラワークの特徴を学習しており、このAIを使って映像を抽出することで、実際に制作者が編集したものに近いショート動画が生成できるという。制作者の意図を反映しやすいよう、簡単な操作で動画の構成を変更できる機能も実装されている。

この画像解析AIと、音声認識技術を組み合わせた「ニュース番組自動要約システム」は、すでにニュースの制作現場で稼働中。NHK金沢放送局やNHK熊本放送局などの地域放送局では、このシステムで生成した番組の要約動画が、公式Twitterに投稿されている。また番組映像自動要約システムは、ニュース以外の番組にも対応している。

ちなみに担当者によれば、AIによる自動要約にかかる時間は、1時間番組の場合、ニュース以外のジャンルでは30分程度、ニュースでは45分程度とのこと。ニュース番組では正確な情報を届ける必要があるため、アナウンサーの声を音声分析したうえで、内容にマッチする映像をAIが選び出すため、そのほかのジャンルより処理に時間がかかるとのこと。

次世代ライブエンタメやテレビ放送70年を振り返る展示も

次世代のライブエンターテインメントのコンセプト展示

そのほか会場では、次世代のライブエンターテインメントのコンセプトとして、正面のスクリーンだけでなく、床面にも映像を投写して、より迫力ある環境でコンテンツを楽しめる展示やテレビ視聴をより楽しいものとするべく、研究を進めている「共にテレビ視聴するコミュニケーションロボット」のWebアプリ版の展示、番組やイベントと連携したVRコンテンツの例として海中で魚の写真を撮影するVRコンテンツなどが展示されている。

このうち、次世代のライブエンタメと位置づける展示では、男女2人組のロックバンド「GLIM SPANKY」のパフォーマンスを上映。事前に3次元モデル撮影された映像となっており、アーティストにより近い視点の「アーティストモード」や、ステージ全体を俯瞰する「ドローンモード」など、複数の視点が用意されているため、インタラクティブな体験が可能。場内にはラインアレイスピーカーや22.2chのサラウンド環境が構築されており、選んだ視聴スタイルによってサウンドも変わる仕組みとなっている。

テレビ視聴ロボット
ハードウェアロボットと同じ動きをするWebアプリ版が開発された
潜水カメラマンと一緒に海中で魚の写真を撮影できるVRコンテンツも展示

会場地下1階では、テレビ放送70周年を記念した展示も実施。アイコノスコープカメラや1969年のCT-31PU型カラーテレビ、アルペン競技用移動カメラとして使われたバードカム、HD高画質ながらSD取材機並みのコンパクトボディを実現したソニー「HDW-750」などが展示されていた。

テレビ放送70周年を記念した展示も行なわれている