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紙より薄い有機ELフィルム、音が出る「巻き取り有機EL」。NHK技研公開
2022年5月24日 19:29
5月26日~29日に開催される「技研公開2022」を前に、マスコミ向けプレビューが行なわれた。展示のうち、ここでは大型フレキシブルディスプレイや曲率可変型ディスプレイ、紙よりも薄い有機ELフィルムを紹介する。
NHK放送技術研究所の最新の研究開発成果を一般に公開する技研公開。'22年はオンライン開催に加え、3年ぶりに実際に展示を体験できるリアル開催も復活する。入場は無料だが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日時指定予約制で入場者数を制限しての実施となる。
今年は「技術が紡ぐ未来のメディア」がテーマ。2030〜40年ごろの多様な視聴スタイルとコンテンツ制作環境を想定し、「イマーシブメディア」「ユニバーサルサービス」「フロンティアサイエンス」の3分野から、16件の研究開発成果が紹介される。
なお、これらの展示は26日10時頃にオープン予定のオンライン展示でも閲覧でき、研究員による動画解説も視聴可能。会期中に行なわれる講演、ラボトークの収録動画なども後日掲載されるほか、会期終了後も当面の間は閲覧できる。
“巻き取れる有機EL”で音の再生が可能に
「よりリアルに世界を体感」をテーマとするイマーシブメディア分野では、NHKとシャープが共同開発した30型4Kの「4Kフレキシブル有機ELディスプレイ」の活用事例を展示。同ディスプレイを4枚つなげた8Kディスプレイが展示された。
8K表示の画質も改善。従来は暗部に合わせて画面全体を調整していたため、輝度ムラはほぼ解消できるものの特に暗部の階調性が乏しくなることがあったという。これに対し、今年はパネル境界近傍を補償する方式を採用し、境界から離れるほど補償量を減らしたことで、輝度ムラは多少残るものの、階調性を確保したとのこと。
また、ディスプレイ背面には、富士フイルムの開発した「電気音響変換フィルム」も貼り付けられた。このフィルムが伸縮することでフレキシブルディスプレイが振動し、音が放射される。ディスプレイ、変換フィルムともに巻き取りができ、音響機器の小型・軽量化ができるという。
【お詫びと訂正】記事初出時、「富士フイルムと共同開発した」と記載しておりましたが、正しくは「富士フイルムの開発した」になります。お詫びして訂正します。(5月27日14時)
実際の展示ではサカナクションのライブ映像が流されており、全体的に暗い映像ながら階調は確保。サウンドも低域などは弱めだが、ボーカルはしっかりと聴き取ることができ、市販されているテレビと遜色ない程度のクオリティが確保されていた。
同じブースでは、別の活用例として、フレキシブル有機ELディスプレイを縦向きで3枚つなげた「曲率可変型ディスプレイ」も展示された。昨年の技研公開ではフレキシブルディスプレイを湾曲させた「没入型VRディスプレイ」が展示されていたが、今年の展示では曲率が変更可能となった。
画面サイズは51.3型で解像度は6,480×3,840ドット。家族など複数人で楽しむ場合は一般的なテレビのようにディスプレイを広げて視聴でき、ゲームや旅行映像などを楽しむ場合は、視聴者の頭部を包み込むように曲げて設置することで、約180度の視野角をカバーし、没入感ある映像を楽しめる。オンライン会議にも最適という。
展示では、映像・音声に合わせて振動する椅子(いす型触覚デバイス)も組み合わせており、より臨場感の高い映像を視聴できた。
厚さ0.07mmで「お札よりも薄い」有機ELフィルム
「基礎研究により未来のメディアを創造」するというフロンティアサイエンス分野では、厚さ0.07mmで「お札や紙よりも薄い」という有機ELフィルムが展示された。上述のフレキシブルディスプレイは厚さ0.5mmのため、それよりもさらに薄型化が図られている。
一般的な有機ELでは、電子注入層に不可欠なアルカリ金属が大気中の水分によって簡単に劣化してしまうため、ガラスなどの水分を通さない素材や硬いバリア膜で水分の侵入を防いでいる。しかし、この構造では薄く、柔らかく、好みの形状に変形できるディスプレイの実現は困難だった。
そこでNHK放送技術研究所では、水分に強い独自材料を開発し電子注入層に使用。アルカリ金属を使わないため、水分が入ってきてしまう薄く柔らかいフィルム状でも長期間、発光部が劣化しない有機ELを実現した。
今回の展示では映像の表示などはなく、赤、緑、青の原色が映されているだけだったが、将来的には新生児のおでこに貼り付けて脈拍などのバイタルサイン表示、糸状にして服に編み込むといった用途が想定されるとのこと。