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NHK、TV/スマホ/PCでも動作する視聴アプリ。民放/メーカーと技術検証へ

スマホ/PCにおける視聴アプリの動作デモ

NHKは30日、テレビだけでなくスマホ/PCでも同じように動作する、新しい「視聴アプリケーション技術」のプロトタイプを披露した。視聴アプリは、ChromeなどのWebブラウザで利用可能。メタデータを活用することで、放送中の番組や配信中の番組を、デバイスの違いによらず簡単に視聴できるようになる。基本的機能から段階的に社会実装されることを想定し、今後は民放やテレビメーカーなどと協力し、新しい放送サービスの実現に向けた技術検証を進める方針。

デモ展示は、6月1日から一般公開される展示会「技研公開2023」に先立って行なわれた、プレス向け見学会で披露されたもの。

開発を手掛けたNHK放送技術研究所は、人の個性や生活環境の違いによらず、すべての視聴者に、適切な方法とタイミングで必要な情報・コンテンツを届ける“人を中心としたメディア”(Webベース放送メディア)の実現を目指している。

技研では、Webベース放送メディアを「『人』『環境』『コンテンツ』それぞれを表すデータをWeb標準技術で連携させることで、視聴者の嗜好や状況に応じてアプリケーションや配信元を制御する新しいコンセプトの技術プラットフォーム」としており、今回披露した視聴アプリケーション技術は、それを実現するための要素技術の1つとなっている。

会場では、テレビ、パソコン、スマートフォンの3デバイスで、アプリが同じように動作する様子を披露。視聴アプリを使うことで、テレビやスマホといったデバイスの違いや、チューナーの有無といった受信環境を意識することなく、利用者が見たい番組へと簡単に接続・視聴できるソリューションを提案していた。

具体的には、デモのGUI画面上で、NHKのほか、民放キー局で現在放送中の番組や過去番組をサムネイルで表示。

テレビでの動作例としては、サムネイルの左上に“放送中”と表示している番組を選ぶと、テレビのチューナーで受信した映像に画面が遷移。それ以外の過去番組を選ぶと、ネットで配信している該当番組の画面へ切り替わる。

NHK技研が開発した視聴アプリ(テレビでの動作例)

また、チューナーを持たないスマホやPCで“放送中”の番組を選んだ場合は、リアルタイム配信中の画面へ切り替わる。

従来はNHKの常時配信/見逃しを利用するには「NHKプラス」、民放の常時配信/見逃しを利用するには「TVer」といったように、アプリを個別に起動する必要があったが、新しい視聴アプリでは、それらを統合した将来のサービスの姿を前提に開発しており、工数が少なく今まで以上にシンプルな形での、放送と配信のシームレスな連携を目指す。

スマホ画面でも、テレビと同じインターフェースを実現

デバイスや受信環境に合ったコンテンツの取得先を、自動で決定するために用いられているのが、コンテンツ発見技術。

「どんな番組なのか?」を知るための詳細情報(タイトル/シリーズ/ジャンル/出演者)と、「その番組がいつどこで見られるのか?」という提供情報(放送チャンネル/放送地域/配信URL/配信時間/放送時刻)を組み合わせたコンテンツ発見メタデータを、コンテンツ発見サーバで一括管理することで、放送と多様なネットサービスとの連携が可能になるという。

メタデータは、標準的な記述形式(Schema.org)での運用を予定。コンテンツ発見サーバーは、放送局やテレビメーカーなどが参画するIPTVフォーラムにおいて、標準化に向けた共同技術検証を進めているという

会場スタッフによれば、「デモはあくまでプロトタイプ。現在よりも、放送番組の常時配信や放送法などの整備がもっと進んだ将来での利用を想定して開発したもの」だという。

なお、今回開発した視聴アプリはHTML/JavaScriptといったWeb標準技術がベースとなっているが、近い将来、同アプリのサービスが始まった場合でも、現在発売中のスマートテレビなどでは利用できないとのこと。「チューナーの動作など、テレビのミドルウェアに手を入れる必要があるため」とのことだった。

データ連携・処理技術や低遅延な動画配信技術も

会場では、Webベース放送メディアを実現するために必要なデータ連携・処理技術、および動画配信技術も展示していた。

データ連携・処理技術としては、コンテンツに含まれる知識(ナレッジ)情報を活用することで連携された番組をたどって興味・関心を広げることができる「ナレッジグラフ」、視聴データや行動データ、学習データなどの様々なパーソナルデータをユーザー自身が管理・活用できるようにするための「パーソナルデータストア」を提案。

個人データをユーザー自身が管理・活用できるようにするための「パーソナルデータストア」

さらに番組の信頼性を担保するべく、コンテンツに来歴情報(誰が撮影/編集/配信しているのかなど)を付与する仕組みも披露した。

書き換えの出来ない、来歴情報付与の仕組みを導入

また配信技術では、全国各地で制作したライブ番組や収録番組を、番組毎にクラウド上でストリーム生成。

視聴者の好みや視聴場所に応じて組み合わせて配信し、多様なリニア配信チャンネルを効率的に提供するストリーム生成・配信技術のほか、“配信サーバー”が視聴端末側の通信状況を監視し、最適な品質で提供することで途切れず、低遅延に配信できる最新のWeb技術(WebTransport)の活用事例を展示していた。

リニア配信チャンネルを効率的に提供するストリーム生成・配信技術
途切れず、低遅延に配信できるWebTransport技術の活用事例