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NHKの伸縮ディスプレイがフルカラーに進化。「技研公開2024」

5月30日から6月2日まで行なわれる「技研公開2024」

NHKは、放送にまつわる最新の研究成果を一般公開する「技研公開2024」を、5月30日〜6月2日に東京・世田谷にあるNHK放送技術研究所で開催する。28日には開催に先駆けてメディア向け説明会が行なわれ、伸縮可能なフルカラーディスプレイや好みに応じて3D/2D表示を切り替えられる3次元ディスプレイなどが披露された。

開催時間は10時~17時で入場自由、事前予約不要。なお終了30分前に来場するよう呼びかけられている。会場所在地は東京都世田谷区砧1-10-11。

単色からフルカラーになった伸縮ディスプレイ

柔軟なゴム基板を使っているため、折り曲げたり、畳んだりできる

フルカラー伸縮ディスプレイは、柔軟なゴム基板上に液体金属を使った伸縮配線とLEDを使ったもの。

従来の金属配線は、基板が変形すると電気抵抗の上昇や断線が起こるため、伸縮ディスプレイには適用できなかったという。そこで金属配線の材料に液体金属を採用することで、伸縮させても断線することなく、電気抵抗も低く維持できる伸縮配線を開発した。

2023年の技研公開でも柔軟に変形できるディスプレイが展示されていたが、昨年のものは緑や白などの単色表示のみ可能だった。それに対し、今年の展示ではフルカラー表示が可能になった。

ミニLEDを使った伸縮ディスプレイ
マイクロLEDを使った伸縮ディスプレイ

会場には約2mmのミニLEDを採用したものと、約20μmのマイクロLEDを使ったものの2種類を展示。これら2種類は画素数や画素ピッチ、画面サイズに違いがあり、ミニLED版は画素数が20×20ドット、画素ピッチが5mm、画面サイズが100×100mm。

マイクロLED版は画素数が32×32ドット、画素ピッチが2mm、画面サイズが64×64mmでより高精細な表示ができる。また画素ピッチが細かくなっているため、より細かな配線処理がなされている。

説明員によれば「テレビの場合、画素ピッチは0.3mmくらいまで小さくしたい。現状ミニLEDで5mm、マイクロLEDで2mmなので、10倍近い高精細化は進めていきたいと思っている」とのこと。

NHK技研は2025年頃に高精細化・高画質化を進めたプロトタイプを試作し、2030年までの実用化を目指すとしている。

今井亨NHK放送技術研究所長は「将来、たとえば自動運転の時代になれば、車の中がエンタメ空間になります。エンタメ空間となった車内にディスプレイを埋め込もうとすると、湾曲するディスプレイのほうが埋め込みやすくなりますので、そういった成果に向けた研究となっています」と説明する。

「まだ解像度的には、かなり粗いものですが、これが将来密度が高くなっていくことを目指して研究を続けてまいります」

伸縮ディスプレイは車載やドーム型としての活用が想定されている

2D/3D表示を切り替えられる3次元ディスプレイ

2D/3D表示が切り替えられる3次元ディスプレイ

電気的に切り替え可能な光源アレー(3D映像を再生するために等間隔で配置された多数の光源)を用いたディスプレイで、3D表示と2D表示、そのふたつを合わせた3D/2D同時表示ができるディスプレイのデモ体験も行なわれていた。

バックライトとコンテンツ表示用液晶パネルの間に光線制御用の液晶パネルが追加されている

このディスプレイでは、光線制御用液晶パネルに光源アレー画像を表示することで3D表示を実現。この液晶パネルを白一色の面光源として使うことで、2D表示を可能にしている。

展示されている3次元ディスプレイの分解図

3D/2D同時表示の場合は、被写体は3Dで立体的に表示しつつ、上下に表示する字幕やテロップなどは2D表示して読みやすくするといったことが可能。

また、3D表示時には本体に備えた視点位置推定用カメラでユーザーの視点位置を推定し、その位置に応じた要素画像を生成して、視域の広い3D表示を可能としている。

デモ体験は熱帯魚が映った映像を、3Dや2D、3D/2D同時表示に任意に切り替えて視聴することができた。

この技術は、2027年頃までに高解像度化など自然な3D映像表示技術の研究開発に取り組み、2030年頃までの実用化を目指すという。

次世代地上波放送の伝送技術も展示

NHK技研は、2024年度末の地上放送高度化方式の標準規格化を目指しており、それに向けた次世代地上放送の伝送技術に関する展示も行なわれている。

「LDMを用いた効率的で強じんな地上放送サービス」は、LDM(Layered Division Multiplexing/階層分割多重)と映像の空間スケーラブル符号化を活用することで、電波をより効率化に活用するもの。

現在は周波数を分け合って使用している2K放送と4K放送を、2K放送を軸に、4K放送に必要な差分をレイヤーとして組み合わせることで、通常時は現在よりも効率的な4K放送を実現。受信電波が弱まった場合も、2K放送を視聴できる強じんさも兼ね備えるという。

またカーナビなどの移動受信向けに、より途切れにくい移動受信サービスを実験した動画も放映。現在は車で地デジ放送を視聴中、高架下など電波環境が悪い場所に入ると映像・音声がともに途切れてしまうが、次世代地上放送では、移動受信用の補完用音声をより高耐性な階層で伝送することで、映像が途切れてしまっても、音声だけは途切れにくく、番組の内容を把握できるサービスが想定されている。

展示動画では、実験試験局からの電波を車で移動しながら受信。その際、補完音声の効果が顕著に現れたという高架下での受信様子が確認できた。

送信設備の省電力化では、送信信号(OFDM信号)のピーク電力を低減する信号処理を行なうことで、電力増幅器を効率的に使用。送信設備を省電力化する検討を進めていることなどが紹介されている。

“理想的なHMDに必要なスペック”の検証実験も

「ARグラス型ニュース提示システム」のデモブース。会場ではHMDが使われていた

そのほか、会場ではARなどイマーシブメディアに関する展示も多く行なわれており、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着したユーザーの周辺にニュース記事をまとめて表示し、指でタップすると内容を読める「ARグラス型ニュース提示システム」や“理想的なHMDに求められるスペック”を実験した「周辺視野の知覚感度特性」の展示、懐かしの造形教育番組「できるかな」をモチーフにHMDや迫力ある大画面の4K映像、22.2chの音響で楽しめるデモ体験なども行なわれている。

“理想的なHMDに必要なスペック”を検証した「周辺視野の知覚感度特性」

このうち「周辺視野の知覚感度特性」は、「実世界と同じように見える理想的なHMDに必要な視野角や解像度」を実験で調べたもの。4Kディスプレイを20枚、直径5mの円周状に配置、中心に座ったユーザーの顔の向きを検出して、視野周辺の映像を非表示にしたり、ぼかしたりすることで、必要なスペックを検証したという。

会場では4Kディスプレイ20枚を円周状に配置したデモブースを用意
デモでは、中心に座った人の顔の向きにあわせて視野周辺の映像が非表示になったり、ぼけたりする

その結果、“理想的なHMD”に必要となる水平の表示視野は約240度と判明。また120度より外側は解像度を視野1度あたり4画素(4ppd)まで減らせることがわかったという。会場では、実際に4Kディスプレイが20枚並べられたブースが用意されており、実験の模様を体験できる。

NHK技研は、2027年頃までに時間的な解像度や色に対する周辺視野の知覚感度特性について測定を進め、理想的なHMDの設計に資するスペックを明らかにするとしている。

テーマは「技術で拓くメディアのシンカ」。入場自由、事前予約も不要

NHK放送技術研究所長の今井亨氏

今年のテーマは「技術で拓くメディアのシンカ」。3年前に発表した「Future Vision 2030-2040」を、メディア環境や技術動向を考慮してアップデートし、そこで示した「イマーシブメディア」「ユニバーサルサービス」「フロンティアサイエンス」の3つの重点領域や直近の課題解決に貢献し、メディアを支える研究成果などを、29項目の展示で紹介する。

なお今井NHK放送技術研究所長によれば、テーマの「シンカ」には、「メディアのバリュー、放送メディアのバリューを高めるという“真価”、技術をディープに深める“深化”、この先にの将来に向けた新たなメディアを創造する、アドバンスという意味の“進化”」の3つの漢字を当てているとのこと。