ニュース
デノン、初のUSB DAC兼ポータブルアンプ「DA-10」詳細。入力音楽を32bit化&時間軸方向にも拡張
(2014/7/19 18:28)
東京・中野にあるAV機器の専門店フジヤエービックのデジタルスタイルショップが主催する「ポータブルオーディオ研究会(ポタ研) 2014夏」が、7月19日の土曜日に中野サンプラザで開催。その中で、デノンが18日に発表した、同社初のUSB DAC搭載ポータブルヘッドフォンアンプ「DA-10」の発表会が開催された。
既報の通り、DA-10は10月に発売が予定されており、価格はオープンプライス。店頭予想価格は42,000円前後となっている。発表会では、開発者がこだわりのポイントを解説した。
入力端子としてUSB DAC用のUSB(マイクロB)、iPhone/iPod接続用のUSB(USB A)、アナログ音声(ステレオミニ)の3系統を装備。DACは、DSDが最高5.6MHz、PCM 192kHz/32bit対応の「PCM1795」を搭載。USB DAC利用時にはDSD 5.6MHz(ASIO/DoP)で、PCM 192kHz/24bitまでサポートする。PCはWASAPIに、MacはCore Audioに対応する。iPhone/iPod接続は48kHz/24bitまで。
最大の特徴は、独自のデータ補完アルゴリズムを用いて、データをハイビット(32bit)/ハイサンプリング化して処理することでハイレゾ音源をさらに原音に近づけるという「Advanced AL32 Processing」を搭載している事。「ハイレゾ音源をマスター音源のさらに向こう、収録現場のオリジナルサウンドへと近づける」としている。ただし、AL32 ProcessingはDSD信号には対応しない。
この「Advanced AL32 Processing」は、デノンが世界初のCDプレーヤー「DCD2000」を発売してから約30年が経過した2013年に、培ってきた技術の集大成として発売したフラッグシップディスクプレーヤー「DCD-SX1」にも搭載されているもの。
特徴は、ビット拡張と時間軸での拡張を両方行なう事。具体的には、16bit、24bitなどのデータが入力されると、それを32bitまで拡張し、ダイナミックレンジを拡大。時間軸は44.1kHzでは16倍、96kHzでは8倍、192kHzでは4倍まで拡張して処理を行なう。その際に、独自のデータ補完アルゴリズムも用いて、「よりアナログに近い音が出せる」(開発担当の出口昌利氏)とする。
また、「Advanced AL32 Processing」は、フィルタ効果も担当。「DA-10」にはDACとして「PCM1795」が採用されているが、このDACにデフォルトで搭載されているフィルタをあえて使わず、Advanced AL32 Processingにローパスフィルタの効果も持たせている。
ポータブル機器にもAdvanced AL32 Processingを導入した理由について出口氏は、「そもそもDA-10の企画は、Advanced AL32 Processingを搭載する事からスタートしました。今まで我々はALPHA Processingありきで音を追求してきたので、デノンのハイファイオーディオ機器の1つであるDA-10でも、それは変わりません」と説明。この思想が貫かれているため、Advanced AL32 Processing処理をON/OFFする機能は無く、常にONになっている。
効果の一例として出口氏は、「無音の状態から音が立ち上がる時のSNが、非常に滑らかになります。ビット拡張をしないと、音が一段階アップした時の音量差が大きくなる。ビット拡張をする事で、階調が滑らかに、音が立ち上がりで、より自然な音が再現できます」とアピールした。
なお、「PCM1795」は電流出力型の4ch対応DACだが、その4ch出力を差動出力で使っている。DACから電流出力した信号をI/V変換し、ローパスフィルタを経て、ポストフィルタで差動合成している。電圧増幅段には、ハイスピードかつローノイズなオペアンプを使い、出力バッファにはフルディスクリート回路を採用している。
フルディスクリート回路とした理由は、「DACやオペアンプのデバイスの音に頼ることなく、デノンのサウンドフィロソフィーに則した音を作りたいと考えたため」だという。
マスタークロックをDACの近くに配置した事にも意味があり、「一番品位の良いクロックを供給する事で、DACが最高のポテンシャルで動作させられる」という。クロックは44.1kHz系、48kHz系それぞれに、個別に用意。「1つのクロックで両方に対応すると、掛け算割り算をする必要があり、時間軸上のゆらぎ(ジッタ)が発生してしまう」(出口氏)のを防ぐためだ。
出力は前面のヘッドフォンと背面のLINEでいずれもステレオミニジャックを採用。単体DACとして使うために、出力電圧を2Vに固定し、ラインアウトとして利用する事も可能。対応ヘッドフォンインピーダンスは8~600Ω。
出口氏は開発時に苦労した点として、高ゲインのアンプや、Advanced AL32 Processingの重い処理を担当するFPGAも搭載しているため、消費電力が大きくなってしまう事を挙げる。そこで、電源の容量大きくしたり、使わない時にはアナログ回路などをOFFにするなどの工夫をして、再生時間はiPod接続時で7時間、AUX接続時で24時間を実現した。
外形寸法は63×136×27mm(幅×奥行き×高さ)、重量は240g。デザイン面では、丸みを帯びた形状や、ヘアライン仕上げのアルミを使った天板や底板などが特徴。ボリュームノブにはアルミ無垢材が使われている。
どちらかと言えば、黒くて、四角張った製品の多いポータブルアンプ市場において、「DA-10」のデザインは新鮮味がある。一足先に発売されている、据置型のUSB DAC兼ヘッドフォンアンプ「DA-300USB」と同じ、女性のデザイナーがデザインを担当しており、黒い筐体をシルバーが囲むという色の使い方も共通している。デザインの方針は“ユニセックス”とのこと。
なお、「DA-10」の話題からは離れるが、「DA-300USB」との組み合わせを想定した、コンパクトなアンプの開発も検討されているという。
登壇したオーディオライターの野村ケンジ氏は、音の傾向について、「試作機を一聴したところ、デノンのパワーアンプ、AVアンプのイメージとは少し雰囲気が違う。出音が細かくて、抑揚が丁寧、パワーで聴かせるタイプではないと感じた。細かい階調が出ているので、それを阻害しないオペアンプと組み合わせて欲しいとリクエストしました。今後さらにチューニングが進み、上手く完成すると、生演奏ならば生演奏の、打ち込みの楽曲であれば打ち込みの、原音に忠実で丁寧な描写のアンプになると期待している」と印象を語った。